アメリカ発のアウトドアブランド「MERRELL(メレル)」は、大自然の中から都市生活までサポートするフットウェアを軸に展開し、世界中で愛され続けて、今年40周年の節目を迎えました。そこで今回は、PRを担当している田中さんを訪ね、ブランドの設立から現在までのストーリーを伺いつつ、メレルが目指す次なるステップについてお話いただくことに。ロングセラーの名作モデルや気鋭のニューモデルは履き心地がいいと好評ですが、その理由を探ってみようと思います。
オーダーメイドブーツがすべてのきっかけ
ーーメレルブランドが今年で40周年を迎えたということは、ブランド設立は1981年ですね。
田中 はい。アメリカ・ユタ州バーナルという、アウトドアが身近にある地域で育った創業者ランディ・メレルは、カウボーイブーツをハンドメイドで製作していました。70年代からオーダーメイドのハイキングブーツを作るようになり、口コミで大人気に。それは、当時としても大変高価な1足500ドルで、完成まで約半年待ち。それでもオーダーが絶えなかったのは、ランディ・メレルが作るブーツが足にフィットする抜群の履き心地だったからです。当時のハイキングブーツは、メンズのラスト(木型)をレディースと兼用していたり、靴底が硬かったりして、足に合わず疲れやすいなど現代と比べて「履き心地」における課題が多かったので、メレルの作るオーダーメイドのブーツは画期的で話題になったんですよ。1981年には、アウトドア好きから絶大な支持を得ていたアメリカの雑誌「バッグパッカーマガジン」で、“北米で最も機能的で快適な靴”と特集されるほどでした。
ーーそれでブランドとしてメレルが始動したわけですか?
田中 いえ、ランディ・メレルの元に、とある2人が加わりメレルが始動します。その2人とは、スキーブランドに勤めていたクラーク・マティスとジョン・シュバイツァー。彼らは独立してアウトドアブーツを製作しようとしていたのです。そんな時、ランディ・メレルが作るブーツの噂を耳にし、2人からアプローチをして、「メレル ブーツ カンパニー」を一緒に設立しました。それが1981年で、ブランドの始まりでした。2人の商才が加わり、それまでランディ・メレルが手作業で作っていたブーツの量産化に成功していきます。
ーーなるほど。その後は、どのようにブランドが成長していったんですか?
田中 1983年に、現在も人気のモデル「ウィルダネス」が誕生し、85年にハイキングブーツの「イーグル」、88年にロッククライミングシューズの「フラッシュダンス」を発表して、さまざまなカテゴリーのフットウェアを世に送り出しました。そして1997年に、10以上のブランドを擁する老舗のグローバルシューズカンパニーのウルヴァリン・ワールドワイド社(WWW社)の傘下に加入したのです。それが大きな転換点となりました。
ーー大きな転換点とは、どのような動きがあったのですか?
田中 一番大きな出来事としては、98年に、今も人気の「ジャングル モック」が誕生したことです。しかし、その誕生は偶然の産物といえるものでした。
ーーあの「ジャングル モック」が偶然の産物だったなんて意外ですね。
田中 当時WWW社で、新製品の開発に向けたミーティングが行われている最中に停電が起きたんですよ。でも、復旧に時間が掛かっても、薄暗がりのなかで話し合いを続けたそうです。そんななか、メレルのマルチアウトドアシューズ 「45ディグリー ジャングル ランナー」(※) の話題に差し掛かったところで、デスクの上にあったWWW社の他ブランドのレザースリッポンを偶然手に取ったのをきっかけに、「このアッパーとジャングルランナーのアウトソールを組み合わせたら……」というアイデアが生まれ、「ジャングル モック」が誕生したんです。
※:45ディグリーとは、山の傾斜45度にも対応するという意味
ーーそこからメレルをモックシューズの先駆者に成り上げた「アフタースポーツシューズ」という概念が確立し、後にタウンユースでも使われるようになっていったのですね。
田中 ライフスタイルシューズとして受け入れられたのは、当時のトレンドと生活者によって確立された、という側面もあると思います。90年代半ば、スポーツメーカーによるアウトドアラインなども人気で、中でもタウンファッションにアウトドアアイテムを取り入れるのがトレンドでした。そのような潮流に背中を押されて、「ジャングル モック」にも注目が集まるようになったのです。ブランドとしては「アフタースポーツシューズ」として「ジャングル モック」を売り出しましたが、その唯一無二の履き心地や信頼性の高いアウトドアスペックが、街でもアウトドアフィールドでも活用できると認められ、メレルはアウトドアとタウンの両軸を担うブランドポジションを確立していったのです。
ーー「ジャングル モック」はロングセラーが納得できる履き心地です。
田中 ジャングル モックはどんなシチュエーションで履いても不安がありません。様々な観点から「コンフォート」が成立している一足だからこそ、ロングセラーになったと思います。
40年目の「メレル」の挑戦
ーーメレルには、他にもたくさんのロングセラーモデルがありますよね。
田中 2007年に登場したハイキングシューズの「モアブ」は、発売からグローバル全体の累計販売数で2500万足を越えるメガヒットを記録しています。人の足型は左右で違う形状のため、2500万足、つまり5000万パターンの足型にフィットしてきたという史実があり、まさに「メレルの遺伝子」とも言えるハイキングシューズです。
その大きな反響の理由となったのが、「モアブ」が持つ抜群のフィット感と履き心地であり、すべてはその「ラスト(木型)」によって実現しています。創業者の一人であるクラーク・マティスは、そのラストを「メレルマジック」と呼び、“万人に合うラスト”と表現しています。現代では新たな機能や先進的なテクノロジーがシューズにも数多く採用されていますが、ラストの構造こそがシューズの心臓部であり、その唯一無二の構造こそがメレルの特徴なのです。
ーーラストにメレルの魅力が詰まっているということですね。「モアブ」も数々なモデルが登場していますよね?
田中 「スニーカーライクな履き心地を提供できるアウトドアブーツ」をコンセプトにしているのが「モアブ」です。リリース直後から好評で、キング・オブ・ハイキングシューズと呼ばれているほどの人気。デビューから10年後の2017年に、より革新的にアップデートした「モアブ 2」がリリースされました。そして今年、革新的な技術と洗練されたデザインを落とし込みアップデートした「モアブ スピード ゴアテックス」をローンチしました。
ーー「モアブ スピード ゴアテックス」! そのシューズ気になりますね。どのように進化しているのですか?
田中 近年のアウトドアシューズカテゴリーでは、何よりも「汎用性」が求められています。そんななか特に人気が出ているのが、日常でもスニーカーとして使えて、アウトドアアクティビティでも安心して履けるトレイルランニングシューズです。メレルでもトレイルランニングシューズは多数展開していますが、市場に対し新たな一手として斬新なコンセプトを打ち出すには、ブランドが培ってきた技術と知見を活かしつつ、先進的なテクノロジーを活用することが重要視され、「モアブ」のラストを使った新商品開発に白羽の矢が立ちました。そこで生まれたのが「モアブ スピード ゴアテックス」だったんです。
このシューズは「ダイバーストレイルシューズ」という新たなカテゴリーのポジショニングを銘打ち、ハイキングシューズの安定性とトレイルランニングシューズの軽量性、さらに洗練されたデザイン性を兼ね備えることで、“山と街をつなぐ”を新基準で実現するハイブリッドシューズとして登場しました。
ーー街で履けるデザイン性に加えて、ハイキングシューズとトレイルランニングシューズの機能のいいとこ取りをしている、と。
田中 そうなんです。ゴアテックスを採用しているので防水透湿性に優れていますし、ヴィブラム社が新開発したトラクションを最大25%も向上させる「トラクションラグ」を日本国内で初めて搭載したモデルでもあります。余談ですけど、ヴィブラム社とメレルはソールを共同開発するほど強いパートナーシップで結ばれており、メレルが使っているヴィブラムソールは、メレル専用に開発されているものが多いんです。また、サステナブルな取り組みとして、廃材を再利用するプロセスも採用しています。
「メレル ジャパン カプセル」にも注目!
ーー昨年から「メレル ジャパン カプセル」も展開していて、ブランドの裾野が広がっているように感じます。
田中 このコレクションは、「メレル」を知ってもらうきっかけになればいいと思っています。2019年にメレルのクリエイティブディレクターが一人で来日し、日本の若い世代が魅せる、アウトドアウェアを使った洗練されたスタイルにインスピレーションを受けたことで、企画・開発に至りました。
実際にはハイパフォーマンスウェアのカテゴリーに参入する余地もありましたが、私たちとしてはまずそこではなく、もう少しライトなアウトドアファン層にアプローチしようと試みたのが当コレクションです。
【2021S/Sコレクションのルックはこちらから(画像をタップすると拡大画像が表示されます)】
ーー確かに他社ブランドなどで、かっこいいけど、タウンユースとしてはオーバースペックで高価なアウトドアウェアもありますよね。
田中 それと、デザイナーが来日した際に感じたこととして、日本人はスタイル全体にブラックやネイビー、グレーといったベーシックな色遣いを好む傾向が高い、だからこそシルエットやサイズ選びに長けており、洗練されたスタイルをつくるのが上手だ、というポイントがありました。このような背景からもベーシックで汎用性の高いカラーやパターンを基軸として採用し、そこにメレルが培っていきたアウトドアスペックを搭載したのが、「メレル ジャパン カプセル」の特徴です。
また、実際の東京の気候が考慮されているのもポイントです。例えば、一般的なアウトドアウェアにおいて「ミッドレイヤー」に採用するレベルの保温性を、当コレクションではアウターに落とし込んでリリースしています。少し心許ないように感じるかもしれませんが、東京の冬では十分なスペックであると言えます。
ーーこの「ミッドウェイト シンセティック インサレーテッド パーカー」は、大都市での冬も寒くなさそうです。
田中 メレルはアウトドアの入り口、つまりアウトドアへのきっかけを作ることを大切にしていて、ブランドのフィロソフィーに「Let’s Get Outside」という言葉があります。いわゆる、自然を楽しもう! ということですね。メレルは、外遊びを楽しむためにプロダクトを作っていますし、アパレルもそのポジションであるべきだと感じています。メレルを知ってもらうきっかけになってもらえればいいですね。
ーー最後に、40周年である今年の注目すべき動きを教えてください。
田中 今年の夏に40周年のセレブレーション期間を設けていて、アニバーサリーモデルもスタンバイしています。下半期には「FUTURE40」と冠して、次の40年に向けて動き出す、新しいメレルを順次紹介していく予定です。また、これまでほとんど展開してこなかったコラボレーションについても、今年以降、グローバル主体で他ブランドやデザイナーとタッグを組んでいくので、それも楽しみにしていただきたいです!
40周年の「メレル」は見逃せない!
メレルは、素材や機能はもちろんですが、何よりも40年もの間アウトドアフィールドで培ってきた技術と知見を活かした靴作りや、ラストなどその構造に自信を持つからこそ、あの抜群の履き心地が実現しているわけですね。
撮影/我妻慶一
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