2022年で創刊40周年を迎えた、押しも押されぬモノ誌の決定版「モノ・マガジン」と、創刊23年目を迎えたピチピチの“新卒世代”「ゲットナビ」、2誌の編集長が1つのモノにおのおのの角度から迫るコラボ連載は、今回で第4回。クルマのバンパーのリサイクル素材を使用したスーツケースにフォーカスします。
第1回 スバル「レガシィ アウトバック」
第2回 アディダス「TOUR360 22」
第3回 ワークマン「キャンプギア」
二つの目で見ればピントが合う!
ゲットナビ×モノ・マガジンの「ヒット」スコープ
– Target 4.エース「プロテカ マックスパスRI」–
エースの「プロテカ マックスパスRI」は、マツダ車のバンパー再生素材を外装部に100%使用した、サステナブルなスーツケース。マツダ株式会社の技術企画部でリサイクル領域を担当する渡辺通成さんと、エース株式会社MD統括部の吉原勇一さんのお2人に話をうかがいました。
樹脂のリサイクルは難しいのだ
時代はすっかりSDGs。あらゆる企業がこれを標榜してサステナブルな取り組みを行っており、マツダとエースは時代に先駆けてリサイクル資源を活用してきた企業です。特に膨大な素材が使われるクルマは、リサイクルの必要性が高い工業製品。そのなかでマツダは、1990年代より継続して「樹脂のリサイクル」という課題に向き合い、大型の樹脂部品であるバンパーのリサイクルに取り組んできました。
「マツダは、この自動車リサイクルの取り組みをより進化させるために、これまで社内で進めてきたバンパーのリサイクルを社外にも拡大する検討を開始しました。そして、使用済みバンパーを再生したポリプロピレン樹脂の新たな使用先を調査する過程で目を付けたのが、スーツケースだったんです」(マツダ・渡辺さん)
渡辺さんがスーツケースに目を付けたポイントは3つ。まず、バンパーと同じ「衝撃に耐える」という性能が必要であること。2つ目は、バンパーと同じポリプロピレン樹脂を使用していること。3つ目が、バンパー1本あたりの質量(約3~4kg)に近いこと。バンパーのリサイクル素材は、スーツケースに活用できるのではないか―――。2018年、渡辺さんは日本国内に製造拠点を持つエースに声をかけました。
エースでも、回収したスーツケースの素材を燃料などにリサイクルする取り組みは行っており、すでに社内でシステムが確立されていました。リサイクル関連における他社との協業は前例がなかったものの、この話を受けてエースの吉原さんは「やってみよう」と思ったといいます。
「実はこの話を頂く少し前のタイミングで、当時の上司からマツダのデザイナー、前田育男さんの著書を勧められて読んでいたんです。その考え方に共感できるものがあったので、ぜひマツダさんと一緒にモノ作りをしたいと思いました」(エース・吉原さん)
珍しいインジェクション成型を採用
工程を追ってみましょう。バンパーのリサイクルはまず、ライトやボルトといった異素材を丁寧に取り外し、シュレッダーのような機械で破砕。次に、その破砕片の塗膜を剥離し、わずかに塗膜が残った破砕片を除去。最後に、ペレット状の再生素材に仕上げるのです。
「バンパーの製造では、できるだけ薄肉にして、素早く型に流し込む必要があるため、粘度が低いサラサラとしたポリプロピレンを使用しています」(マツダ・渡辺さん)
一方、スーツケースの製造には、いくつかの方法があるといいます。「一般的なのが、プラスチックのシートを加熱して軟化させてから、金型とシートの隙間を真空にして密着させる『真空成型』ですが、バンパーの再生素材はサラサラのためこれに適していませんでした。そこで今回は、金型に素材を流し込む『インジェクション成型』を採用。金型もゼロから起こすとなると金額的にも環境的にも膨大なコストがかかるため、2015年の『マックスパスHII』の金型を流用し、様々なテストを経て完成しました」(エース・吉原さん)
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こうして誕生したのが「プロテカ マックスパスRI」。3辺の合計が115cmで、航空機内に持ち込めるギリギリのサイズながら容量は38Lを確保し、取り回しが抜群です。質量は3.5kgで、ちょうどバンパー1本分の素材から1つ作れる計算。内部構造はシンプルですが、インバッグが付属しており、これもポリエステルの再生素材を使用しています。価格は3万9600円(税込)と、比較的抑えられているのも魅力です。
「サステナブルの取り組みなので、あまり高価にして売れなかったら本末転倒ですから……。価格に関しては、マツダさんとエースの両社でかなり企業努力しました(笑)。おかげさまでお客様からの反応も良好です。とはいえ無理をしすぎるのもビジネスとしてサステナブルではありませんので、良い落としどころを見つけて、長く継続していきたいですね」(エース・吉原さん)
サステナブルには共通の志が必要
マツダとエースの両社にとって初の取り組みとなった今回のプロジェクトを経て、両者にその思いを聞きました。
「協業するにあたっては、まず同じ志、ビジョンを持つことが必要だと実感しました。そうでなければ、次々と直面する課題に対して、粘り強く向き合って解決することができなかったでしょう。そして、この取り組みは“一度きりの花火”にしてはならない、とも強く感じています。ビジネスとして持続可能な仕組みにしていきたいです」(マツダ・渡辺さん)
「今回の取り組みは3年以上にわたりましたが、これはスーツケースの開発としては異例の長さ。その間にコロナ禍になり、スーツケースを作ってもお客様に見てもらえるのだろうか……と不安になったこともありましたが、コミュニケーションを取り合いながら製品化することができました。長い間、両者の熱量が冷めず“両想い”でいられたことで、マックスパスRIは誕生したと思います」(エース・吉原さん)
マツダとエース、日本のモノ作りを支える2社の、“両想い”の結晶にぜひ注目あれ!
前田編集長のレポートは→ https://www.monomagazine.com/43066/
撮影/鈴木謙介