【西田宗千佳連載】カラーになったKindle、狙いは「カラーのコミック」

ink_pen 2025/9/4
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【西田宗千佳連載】カラーになったKindle、狙いは「カラーのコミック」
西田宗千佳
にしだむねちか
西田宗千佳

モバイル機器、PC、家電などに精通するフリージャーナリスト。取材記事を雑誌や新聞などに寄稿するほか、テレビ番組などの監修も手がける。ツイッターアカウントは@mnishi41。

Vol.153-1

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はAmazonの電子ペーパー端末「Kindle」のカラー化について考察。これまで向かないとされた電子ペーパーをカラー化する狙いとは何か。

 

今月の注目アイテム

Amazon

Kindle Colorsoft

3万9980円

↑16GBのストレージ、素早いページめくり、色調調節ライトや白黒を反転させる「ページの色」機能などを搭載。32GBのストレージと画面の明るさ自動調整機能を備えるシグニチャーエディション(4万4980円)も発売されている。

読書などに適した電子ペーパーがカラー化

Amazonは7月末より、同社の電子書籍端末「Kindle」のカラー版となる「Kindle Colorsoft」を国内発売した。同製品はアメリカでは2024年末より発売しているもので、日本での発売は半年ほど遅れている。

最大の特徴は「カラー表示」が可能になったことだ。Kindleはタブレットとは異なり、ディスプレイに電子ペーパー技術を採用している。書き換え速度は遅く、発色にも限界があるものの、消費電力が低く、反射光で見る紙の質感に近い。そのため、長時間画面を見続ける「読書」には向いている。動画再生などには向かないのでタブレットとしてはあまり使われないが、電子書籍専用の端末には向いた技術と言える。

電子ペーパー技術は、その特質上カラーの製品を作りづらいのも欠点だった。現在はカラー版が登場しているものの、発色は浅く、液晶や有機ELには及ばない。

今回発売された「Colorsoft」も、電子ペーパーの欠点はそのままだ。カラーは4096色までの表示で、液晶などに比べると相当に見劣りする。解像度もカラー部分は150ppiで、モノクロ部分(300ppi)の半分しかない。

「ならば液晶などを使ったタブレットの方が良いのでは……」

そういう意見が出てくるのもわかる。だがそれでも、電子ペーパーの見やすさは十分なメリットだ。発色の問題はありつつも、ページ送りの速度などは改善が進み、モノクロは従来通りの見やすさのままで、カラーの要素を組み込んだ製品、というのが現状である。

コミックのカラー化が開発を推し進めた

Kindleのカラー化は以前よりユーザーからの要求が大きかったものだ。実際、他社商品にはカラーの電子ペーパーを用いた製品がすでにあった。そのなかで、これまでAmazonがカラー化に応じて来なかったのは、コストと品質の問題が大きいだろう。

現状でも、カラーの電子ペーパーには品質上の留意点が多い。過去の製品は書き換え速度や前ページの「残像」問題など、いくつもの課題があった。無理やりにカラー化を推し進めると消費者の満足度が下がるため、カラーのニーズにはFireタブレットで対応する……というのが従来の方針であったのだろう。

ではなぜその方針を変えたのか。同社は「いまKindleのカラー化に対応しなければユーザーニーズを失う」という判断をし、カラー化に取り組んだと思われる。

そう判断したのにはいくつかの理由がある。「表紙やマーカーなど、読みやすさを担保する要素をカラーで強化する」という目的もあるだろうが、もうひとつのより大きな原因は、電子コミック市場で急速に進むカラー化だ。

電子書籍の市場はコミックがリードしており、そこでは特にカラーのニーズが大きい。過去の作品でも、カラー化して販売するものが増えてきた。Kindleでもカラーコミックの販売数量が増えているので、そこへ対応する必要がある……というのがAmazonの狙いであるようだ。

カラー版電子ペーパーの仕組み、そしてなぜコミックのカラー化が重要になったかなどは、次回以降で解説する。


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