Vol.154-4
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はGoogleの新たなスマホ「Pixel 10」の話題。AIを用いた機能を大幅に強化したというが、便利に使える点、そして他社スマホとの差を探る。
今月の注目アイテム
Google Pixel 10シリーズ
12万8900円~(Google Storeでの価格)

スマホでAI機能が注目されるようになって、すでに2年ほどが経過している。そのなかでも価値と利用の双方が定着しているのは「カメラ関係」だろう。デジタルズームの画質向上や不要な部分を消す機能(Googleの場合「消しゴムマジック」)は、誰にとっても価値がわかりやすい。
また、翻訳系もわかりやすい。特にスマホ向けでは、オンデバイスAIを使い、会話からの遅れを減らして翻訳するものが増えた。Appleが公開した「ライブ翻訳」もこの1つ。クラウドのAIを使うと翻訳結果が返ってくるまでに時間がかかるが、オンデバイスAIだと時間が短くなる。
Googleの場合、Pixel 10シリーズに搭載した「マイボイス通訳」は、他のスマホにない独自の機能だ。これは「電話での通話時」に限った機能ではあるが、お互いの会話を翻訳するだけでなく、“自分の声色を使い、相手の言語で伝える”ことができる。翻訳と声色の合成双方をオンデバイスAIで行っているわけで、かなりの処理能力が必要だ。
これらの機能について重要な要素は、“オンデバイスAIだと費用がかからない”ということだ。
クラウドAIは一定のコストがかかる。スマホメーカーやアプリメーカーが負担していて消費者に見えづらい部分があるが、「翻訳は月に何分まで」という制約をつけているところも少なくないし、それを超える場合には費用負担がある場合もある。
AIサービスを単独で提供する企業は収益をAI自体から得る必要があり、費用負担が直接消費者に降りかかる。それは当然のことではあるが、消費者目線で見れば、追加費用はないに越したことはない。AIで便利な機能が追加されるといっても、月額負担や追加費用が増えていくことを許容できる人は限られる。
Googleのようなプラットフォーマーの強みは、コストの低いオンデバイスAIに機能を任せつつ、まだ難しい部分をクラウドにやらせる、という判断ができることだ。Pixelというハードウェアからの収益や広告収入でクラウドのコストを圧縮しやすい。
複雑な動画生成や大規模なデータ処理など、クラウドのAIでないとできないことはたくさんある。一方で、個人個人がAIにお願いしたいことは、必ずしもクラウド上のAIに依存する必要はない。現在はクラウドで作るほうが楽だからクラウドを使っている部分も多い。
プライバシーの面でも答えが返ってくるまでの速度(遅延)の点でも、オンデバイスAIには意味がある。利用がさらに増えるなら、コストの面でもクラウドに頼らないほうが良い……という部分が増えていく。
写真や翻訳を超える「AIのキラーアプリ」はまだ見えてきていない。AI検索はそのひとつになりそうだが、こちらはその性質上、クラウドが必須だ。ただ、スマホにおける「次のAIキラーアプリ」は、コストの面でも差別化の面でも、オンデバイスAIを使っていくことになると予想される。
そう考えると、GoogleがPixel向けのプロセッサーで一貫して“AI処理拡大”、“ゲームよりAI”という選択をしているのも、スマホが数年使われ続けることを想定してのもの……と考えられるわけだ。
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