【西田宗千佳連載】メタが「AIグラス」に賭ける理由

ink_pen 2025/11/4
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【西田宗千佳連載】メタが「AIグラス」に賭ける理由
西田宗千佳
にしだむねちか
西田宗千佳

モバイル機器、PC、家電などに精通するフリージャーナリスト。取材記事を雑誌や新聞などに寄稿するほか、テレビ番組などの監修も手がける。ツイッターアカウントは@mnishi41。

Vol.155-1

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はメタのスマートグラスについて触れる。過去何度か登場しては普及せずに消えたスマートグラスが多いなか、メタの取る普及への戦略は何か。

 

今月の注目アイテム

メタ

Meta Ray-Ban Display

799ドル(約12万3000円※。日本での発売は未定)

※1ドル=約154円で換算(2025年10月31日現在)

↑右レンズには透過型の高解像度ディスプレイを内蔵し、メッセージを読んだりすることも可能。1200万画素のカメラを搭載し、写真や動画の撮影もできる。リストバンドでの操作が行え、ジェスチャーや手の動きを感知する。

ディスプレイ内蔵ですぐに確認できる

メタは新しいスマートグラス「Meta Ray-Ban Display」(以下MRD)を、アメリカ市場で発売した。

発表は同社の開発者会議「メタ・コネクト2025」で行われた。同社は2023年秋より、アメリカ市場を中心に「Ray-Ban Meta」というスマートグラスを販売している。日本で売られていないので知名度は低いが、この製品は、かなりのヒット商品となっている。2025年2月までに200万台以上を出荷し、今も勢いは衰えていない。

Ray-Ban Metaはマイクとカメラ、スピーカーを備えており、外見はレイバンのサングラスそのもの。カメラで主観視点の映像を自然に撮影できることがヒットの要因だ。

好調な販売を記録しているRay-Ban Metaだが、マーク・ザッカーバーグCEOによれば、これまでに購入者が感じる最大の不満は「撮影した写真や動画をすぐに見れないこと」だったという。

そこでMRDにはディスプレイを内蔵した。デザインはRay-Ban Metaのまま、右目だけにカラーディプレイを組み込んだ。解像度は600×600ドット・視野20度くらいの小さな領域だが、そこに画質の高いカラー映像を表示できる。撮影した写真を見られるのはもちろん、スマホの通知や音楽再生なども確認できる。

カメラをフックにしたAIグラスは重要

それに加え、メタはこれらの製品を、正式に「AIグラス」と呼ぶようになったのも大きい。マイクとカメラが「メガネの位置にある」ことは、AIを使う上で非常に重要な要素だからだ。

Ray-Ban Metaはスマホ上で動くアプリと連動する。スマホアプリではメタが開発したAIが動作しており、画像や音声でAIと連携する。命令は音声でやりとりし、指示の一部は画像から得る。例えば「目の前にあるものはなに?」「(ホテルの部屋の前で)部屋番号を覚えておいて」といった形でAIに仕事をしてもらう……という形になっている。

MRDでディスプレイがつくとさらに便利になる。通訳機能やネット検索などの情報が、文字で目の前に見えるからだ。

これらのAI機能はスマホで処理され、表示や音声だけがAIグラスに反映される。だから、できることはスマホ上のAIアプリと大差ない。

しかし、いちいちスマホを取り出し、その画面を見ながら操作するのは面倒なものだ。スマホのカメラを対象に向けるなら、さらに手間がかかる。

しかし、AIグラスを介して操作する場合、スマホはカバンやポケットの中にしまっておけばいいわけで非常に都合がいい。

メタはスマホを持っていない。AIで新しいビジネスを構築したい立場でもあり、そこでは「カメラをフックにして売れるAIグラス」は、非常に重要な戦略商品なのである。 では、メタはこれまでやってきたVRデバイスやメタバース事業をやめてしまうのか……というとそうではない。また、他社もスマートグラスに積極的に関わろうとしている。この辺の戦略判断はどのようなものなのか? その点は次回以降で解説していこう。


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