Vol.156-2
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はマイクロソフトとASUSが共同開発したポータブルゲーミングPCの話題。携帯ゲーム機ではなくゲーミングPCを選んだ理由とは何か。
今月の注目アイテム
ASUS・マイクロソフト
ROG Xbox Ally
8万9800円(税込)

ASUSとマイクロソフトが共同開発して発売した「ROG Xbox Ally」シリーズは、いわゆるポータブルゲーミングPCだ。昨今のPC向けプロセッサーの性能向上を受け、“デスクトップPCほどの性能はないが、画面解像度を下げればグラフィック性能を求めるゲームでも遊べる”という建て付けの製品だが、ライバルは数多い。
もともとこの種の製品は、AMDのプロセッサーである「Ryzen」シリーズの内蔵GPU高性能化によって実現された部分がある。
PlayStation 5やXbox Series Xのようなゲーム専用機も、AMDのRyzenをベースとしたプロセッサーを使っている。こちらは使える電力や放熱設計の意味でポータブル機とは一線を画した性能を持っているが、技術的には、一般のノートPC向けやポータブルゲーミングPC向けも同じ系統である。
結果として、ポータブルゲーミングPCが作りやすくなり、じわじわとニーズが上がってきた……という部分が大きい。
そのなかでも、今回発売された製品のうち、上位モデルに当たる「ROG Xbox Ally X」は、性能面で一歩先に出た印象が強い。下位機種のROG Xbox Allyに比べ倍近い性能を持ち、「モンスターハンターワイルズ」のようなグラフィック処理が重いゲームでも楽しめる。
ROG Xbox Ally Xは「Ryzen AI Z2 Extreme」というプロセッサーを使っており、これがCPU・GPUともに最新の世代であるから性能が高い、ということでもある。AMDには「Ryzen AI Max」という、よりGPU性能が高いプロセッサーも存在する。そして、それを使ったゲーミングPCも出てきてはいるが、バッテリー動作を前提とした消費電力の面を考えると、現状ではRyzen AI Z2 Extremeがベストな選択肢だ。
この種の製品では、PCゲームプラットフォーム「Steam」を運営するValveが販売する「Steam Deck」が強い。OSとしてWindowsを搭載していないためそのライセンス料がカットできること、同一仕様の製品を量産することなどから価格が他製品より安い(有機ELを搭載した現行製品で8万4800円〜)ことが理由だろう。
ROG Xbox Ally Xは高性能な分13万9800円と高くなるが、下位モデルのROG Xbox Allyは8万9800円と価格を下げている。理由は、プロセッサーに使われている技術が古いため。「それなら上位機種を」と考えたくなる。確かに筆者としても上位機種がおすすめだ。
だが、ROG Xbox Allyの性能はライバルのSteam Deckとほぼ同じであり、価格差は5000円しかない。Windowsのアプリが確実に動いて、いざというときには普通のPCとしても使えるのでSteam Deckよりこちらを……という戦略なのだろう。
これらのことからおわかりのように、マイクロソフトはSteamを強く意識している。PCの上ではマイクロソフトのストアもSteamも使えて共存している形だが、同社の戦略がゲーム専用機だけでなく、いかに“PCでもXbox”をアピールするか、という状況になっているのは間違いない。
それはどういうことなのか? その点は次回解説する。
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