Vol.159-1
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はアップルがグーグルの生成AI「Gemini」の技術を「Apple Intelligence」に活用する話題。他社の技術を用いる必要性が生まれた要因は何か。
今月の注目AI
アップル
Apple Intelligence
iPhoneやiPad、Macで利用できる“アシスタント”的なAI。情報はデバイス内で処理されるため、セキュリティ面での安全性が高い。ただしChatGPTやGeminiなどの生成AIと比較して、その立ち遅れが指摘されている。

「Siri」が改善せずAIで立ち遅れる
アップルは同社のAIサービスである「Apple Intelligence」の基盤について、大きな決断を下した。グーグルから同社のAI技術「Gemini」の提供を受け、カスタマイズして搭載することにしたのだ。
発表は1月12日、グーグルから両社の提携という形で発表された。ただし、発表内容は簡潔なもので、技術の詳細が語られたわけではない。また、アップル側からは明確な発表はない。
これはどういうことなのか?
アップルは2024年6月にApple Intelligenceを発表したが、発表した通りの機能はいまだ実現されていない。主な理由は、AIアシスタントである「Siri」の改善が進んでいないためだ。メッセージやアプリの利用履歴、いま行っている作業を画面から把握し、より利用者の意図にあった形で作業を助けてくれる機能の実装が予定されていたのだが、その実現は「2026年まで延期」とされている。現状使用しているAIモデルでは、能力が不足しているためだ。
そのためアップルは、Apple Intelligenceで使うAIモデルの改良に取り組んできた。しかし、アップルが独自開発していたものでは機能提供に時間がかかると判断された。2025年に「改良版Siriの提供を延期する」と発表された段階で、他社からの提供を含めた選択肢の検討が始まっていたと考えられており、その提供元が今回決まったということだろう。
改良版のSiriは段階的に提供され、早ければ第1弾はこの春にもOSのアップデートとともに使えるようになる可能性がある。実際のApple Intelligenceの改良は、おそらく、2026年秋公開の「iOS 27」などの新バージョンOSから実施されていくと見られる。
AI開発に立ちはだかる時間とコスト
アップルがGeminiを採用するといっても、グーグルがスマホに搭載しているGeminiと同じ機能がiPhoneなどに搭載されるわけではない。アップルがカスタマイズしたうえで、OSの中の機能として使われる。そのため、Geminiという名前がアップル製品の中で使われることもないだろう。あくまで「AIモデルのベースとしてGeminiが使われる」に過ぎない。
アップルがこうした選択をしたのは、優秀なAIモデルを自社だけで短期間で作るのが難しいからだろう。より高性能なAIを作ることは可能だが、時間もコストも必要となる。そこで、他社から優秀なAIモデルの提供を受けることで、学習にかかる時間をお金で買ったわけだ。
逆に言えば、アップルはこれ以上、Apple Intelligenceの提供を遅らせることはできなかった。だからこそ、機能提供を最優先に戦略を立てている、ということでもある。
すなわち「アップルがAIで遅れている」ということにほかならないのだが、「スマホ上のAI機能の競争」では他社との勝負がついていない、という話でもある。良い機能を提供できれば、他社との競争には勝てる……という想定なのかもしれない。
では、スマホ上のAIに必要なAIモデルとはどんなものなのか? そして、そこで各社の差はどう生まれるのだろうか? その辺は次回以降で解説する。
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