第5回 実際にゲームをプレイしてみよう<3>手に汗握る最大の山場!「戦闘」の方法とコツ
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「戦闘」はどうやって行うの?
さて、「ノルマンディーの戦い」の各フェイズのうち、フェイズ2(連合軍)と、フェイズ4(ドイツ軍)という両軍それぞれの「移動フェイズ」の後に、フェイズ3(連合軍)、フェイズ5(ドイツ軍)という、両軍それぞれの「戦闘フェイズ」を迎えます。
「連合軍戦闘フェイズ」では、米英連合軍のユニット(部隊コマ)がドイツ軍のユニットを攻撃できます。逆に、「ドイツ軍戦闘フェイズ」ではドイツ軍のユニットが連合軍のユニットを攻撃できます。
《ターンを構成する手順》
1.連合軍上陸フェイズ
2.連合軍移動フェイズ
3.連合軍戦闘フェイズ
4.ドイツ軍移動フェイズ
5.ドイツ軍戦闘フェイズ
6.両軍補給フェイズ
この「戦闘フェイズ」では、それぞれを実行する側の判断でユニット同士の戦闘を行います。つまり、戦闘を行わせないユニットがあってもいいわけです。ちなみに、決められた手順で戦闘を行って戦闘結果を判定することを「戦闘を解決する」と言います。ボードゲームならではの言いまわしです。
戦闘の場合も、将棋のように交互に1つの戦闘だけを行うのでなく、1回の攻撃フェイズで、それを実施する側が攻撃できる場所が複数あれば、それらすべてを攻撃することができます。ただし、1つのユニットが1回の戦闘フェイズに攻撃や防御を行えるのは、1回だけです。
今回例として取り上げている「歴史群像」8月号付録ボードゲーム「ノルマンディーの戦い」では、自軍のユニットに隣り合うヘクスにいる敵ユニットに対してのみ、攻撃を実行できます。
ひとつのユニットが小部隊(兵士数十人や戦車数台、大砲数門など)を表す、より戦術色の強いゲームでは、戦車ユニットや大砲ユニットに固有の射程距離が定められ、数ヘクス先の敵ユニットを射撃できる場合もあります。
「ノルマンディーの戦い」では、個々の戦闘の結果は、攻撃側のユニット(部隊コマ)に記された戦闘力と、防御側のユニットに記された戦闘力を元に、サイコロを振って判定します。
攻撃側は、複数のユニットが1つの戦闘に参加できますが、防御側は常に、攻撃側に目標とされたヘクスにいるユニットだけが戦闘に参加できます。
双方の戦闘力の数値(攻撃側が複数のユニットを1つの攻撃に参加させる場合は、攻撃参加ユニットの戦闘力の値を合計した数値)は、「戦力比」という簡単な比率に変換します。
例えば、攻撃側ユニットの戦闘力が7で、防御側ユニットの戦闘力が3なら、戦力比は「2対1」となります(6対3として計算され、攻撃側の端数1は切り捨てます)。
そして、その比率をマップに印刷された「戦闘結果表」に当てはめます。
その際、森や湿地、都市、河の対岸など、防御に有利な地形のヘクスに防御側ユニットがいるなら、「地形効果表」という表(これもマップに印刷されています)を参照して、戦力比を1列または2列、攻撃側が不利になる方向にずらします。
使用する「戦力比」の欄が確定したら、まず攻撃側が、次に防御側が、サイコロを1回振ります。
もし、その戦闘の攻撃側が連合軍で、連合軍プレイヤーが戦闘支援のために航空ユニットを投入していれば、連合軍のサイの目に2を加算することができます。ノルマンディーの戦いでは、連合軍が制空権(戦闘機の数と性能で戦場の上空を支配する力)を握っていたので、ドイツ軍は航空ユニットを持っていませんが、連合軍も3個しか航空ユニットを持っていないので、それらをどこで使うかをよく考える必要があります。
そして、攻撃側のサイの目から防御側のサイの目を引いた数字を、戦闘結果表に当てはめます。つまり、先に確定した戦力比と、サイの目の差の値が交差する場所に記されているのが、この戦闘の結果です。
この入門講座の第1回で簡単に説明しましたが、戦闘の解決でサイコロを振るのは、単にゲームをおもしろくするための工夫ではありません。サイコロという不確定要素には、司令官の役割を担うプレイヤーにはコントロールできない、さまざまな要素による状況の変動という意味が込められています。
例えば、ある戦闘で攻撃側のサイの目が小さく、防御側のサイの目が大きかった場合、その戦闘では攻撃ユニットの師団長が何らかの判断ミスを犯し、防御側ユニットの兵士が待ち伏せに成功した、というシチュエーションを再現していると解釈できます。
このように、歴史ボードゲームの戦闘解決の手順では、想像力を働かせることで、実際の戦闘がどんな風に戦われたのかを、マップ上でイメージすることができるのです。
損害の蓄積と戦闘結果への影響
さて、先ほどの、戦闘結果の判定の仕方についての話にもどりましょう。「戦闘結果表」で、「戦力比」とサイの目の差の値が交差するところが戦闘結果となるといいましたが、「戦闘結果表」をご覧ください。戦闘結果は、数字または「R」と「A」、およびその組み合わせで示されています。
これらには、(1)数字だけのもの、(2)「R」、(3)「数字+R」、(4)「A+数字」の4種類があります。(1)から(3)までは攻撃側が勝ったか優勢で終わったことを示します。詳しくは上掲の「戦闘結果表」中の「結果」の欄を見て頂きたいのですが、上記(1)と(3)の場合の数字は防御側が被った損害の値、Rは防御側ユニットが2ヘクス退却させられることを示しています。
一方、上記(4)の「A+数字」は、攻撃側のサイの目よりも、防御側のサイの目の方が大きい場合にだけ生じうる結果で、これは攻撃を行った側が、その数字と同数の損害を被ったことを示しています。
一般的な歴史ボードゲームでは、個々のユニットそれぞれに損害が適用される方式を採っている場合も多いのですが、この「ノルマンディーの戦い」では、戦闘結果の損害の数値は個別のユニットではなく、それが所属する軍全体に対して適用されます。
つまり、ゲームマップのお互いの手元に近いところにある、連合軍とドイツ軍のそれぞれに用意された「損害記録トラック」というメーターのようなマス目の上で「損害マーカー」を動かして、軍ごとの損害の蓄積を管理します。
なぜ、このようなシステムになっているかというと、それによって軍全体の「士気(モラル)」の低下を再現できるからです。
歴史上の戦いでは、自軍の損害が一定レベル以上になると、司令官も前線兵士も戦闘継続の意欲を失い、退却しやすくなるという事例が数多く発生していました。このゲームでも、自軍の損害数が「損害記録トラック」の上限に達するまでは、自軍ユニットに対して発生した数字の戦闘結果を吸収(いわゆる「死守」)できますが、いったん上限に達したら、以後はすべての数字の戦闘結果を、退却で適用しないといけなくなります。
いわば、コップに少しずつ注がれた液体があふれるような感じで、軍全体の士気が下がり、それまで頑張っていた前線部隊があちこちで退却するようになるわけです。
さて、「戦闘結果表」で「R」の結果が出た場合、防御側はユニット(部隊コマ)の退却を行います。具体的には、2ヘクスの退却を行わなくてはなりません。
また、自軍の損害数が上記した自軍の「損害記録トラック」の上限に達してしまった後は、戦闘結果で出た損害の値をこれ以上「損害記録トラック」に反映できなくなるため、戦闘に参加したユニットはその損害の数だけ退却しなくてはなりません。
戦闘に勝った側は、相手側のユニットがいたヘクスに「戦闘後前進」という形で前進することができます。これは、敵の守っていた陣地を奪うようなもので、こうして少しずつ、敵陣に食い込んで、戦況が有利になるように前進していきます。
以上が「戦闘」の解決の方法です。なかなか言葉だけでは理解しにくいかもしれませんが、実際にやっていくうちに慣れていきますので、まずはとにかくプレイをしてみてください。
さて、次回はいよいよ最終回「実際にゲームをプレイしてみよう <4>忘れてはいけない「補給」、そして勝敗の判定方法とは?」です。ここでは「ノルマンディーの戦い」で勝つために重要な要素となる、補給(兵站)と増援部隊、そして勝敗を判定する方法について解説します。
また、最終回では、2人用ゲームとしてデザインされた「ノルマンディーの戦い」を、1人でプレイする方法についても詳しく説明します。歴史ボードゲームの醍醐味は、実は2人用ゲームを1人でプレイすることで、より深く味わえる場合があります。それはどういうことなのか? ぜひご期待ください。
【第6回はコチラ】
解説:山崎雅弘(やまざき・まさひろ)
また、1989年からオリジナルの歴史ボードゲーム(
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