なんと80%の人が、一生のうちに“腰痛”を経験すると言われています。「痛い!」「重い……」「だるい……」。このように腰につらい痛みが出たら、いったいどのように対処すればいいでしょうか?
今回、そんな悩みに答えてくれるのは、プロトレーナーの稲田信幸さんです。トップアスリートを25年間支えてきたノウハウと実績をもとに、腰痛の対処法について解説してもらいました。
プロトレーナー / 稲田信幸さん
トレーナー歴25年。「I TRANERS conditioning & care」代表。鍼師、灸師、あん摩マッサージ指圧師。アビスパ福岡、コンサドーレ札幌、静岡FC(現・藤枝MYFC)など、Jクラブでの経験も豊富。現在は名門大学サッカー部(関東大学リーグ所属)のチーフトレーナーも務める。一般からアスリートまでの個人コンディショニングケアも受け付けている。
つらい腰痛……患部は冷やすか温めるか?
―――長年、稲田さんはサッカーの現場を中心にプロのフィジカルトレーナーとして活動されていますが、サッカー選手のなかにも「腰痛」で悩む方は多いのでしょうか?
稲田「この仕事を始めて25年になりますが、一般の方と同じように、実はサッカー選手も腰痛に悩まされる人は多いですね。腰を痛めた選手からよく聞かれるのが、『これって冷やしたほうがいいですか? それとも、温めればいいですか?』という質問。怪我といつも付き合っているサッカー選手さえも頭を悩ませる問題なんです」
―――それはどうやって見分けるのですか?
稲田「ヒントは、慢性的な痛みか、急性的な痛みかどうかを見極めることです」
――たとえば、「ぎっくり腰」になったらどうすればいいのでしょう?
稲田「慢性的な痛みの場合は『温める』、急性的な痛みは『冷やす』のがいいとされています。ぎっくり腰というのは通称で、病院では突然痛みが起こる「急性腰痛症」と診断されます。つまり、ぎっくり腰は腰のねん挫なので、「冷やしたほうがいい」というのが正解です」
――なるほど。
稲田「実際、私の周りにも『ぎっくり腰になって、あまりにも痛すぎたから温めたんだけれど、少し時間が経ってからひどい痛みが出てきた』と大変ツライ思いをした患者さんがいました。腰の痛みは、温泉に入ればなんでも治ると思ったら大間違いですよ」
―――では、腰の「しびれ」が出てきたら、その直後に冷やしたらダメということですか?
稲田「その通りです。冷やしたらもっと痛みが出てきます。温泉の効用でもよく「神経痛」と書かれているように、神経のしびれの場合は慢性的なので、温めてあげると痛みが和らぎます。
このように、まずは腰痛になったら、病状に応じて適切な処理が行うことが必要です。とくに急性の場合、応急処置はとくに大事になります。腰痛に限らず、急性の怪我による痛みや損傷を最小限に抑える対処法として、スポーツの現場でよく使われているのが『RICE(ライス)処置』というものです。これはぎっくり腰になったときでも効果があります」
ぎっくり腰になったら「RICE処置」で手当てを行う
―――RICE処置とはなんでしょうか?
稲田「RICE処置とは、スポーツでよく起きる打撲やねん挫など外傷を負ったときの代表的な応急処置方法なんです。Rest(安静)、Icing(冷却)、Compression(圧迫)、Elevation(挙上)の4つの頭文字をとったもの。
Restは、損傷部位の腫脹や血管・神経損傷を防ぐのが目的で、患部を『安静』に保ちます。Icingは、2次性の低酸素障害による細胞壊死と腫脹を抑えるが目的で、患部を氷で『冷却』します。15~20分冷却したら外して、また痛みが出てきたら冷やす。これを繰り返します。『まだ腰が熱いな!』と感じたら、炎症を起こしている合図です。通常は48時間から72時間で痛みが治まりますが、動かしていないのに痛みがある場合、痛みが消えるまで行いましょう」
―――氷ではなく、シップや「冷えピタ」のようなものはダメですか?
稲田「シップや冷えピタは深部の冷却効果はないので、氷がいいでしょう。Compressionは、患部の内出血や腫脹を抑えるため、コルセットやサポーターなどで腫脹部位を中心に腫れのない部分まで軽い圧迫を加えます。強い圧迫は循環障害をきたすので、やり過ぎにはくれぐれも注意してください。最後のElevationは、腫脹の軽減と早期消退を図るのが目的で、患部を『拳上』します。拳上とは『持ち上げる』という意味です。
まだ腰が熱いな、と感じたら、炎症を起こしている合図です。通常は48時間から72時間で痛みが治まりますが、動かしていないのに痛みがある場合、72時間までしっかりこのRICE処置を行ってください」
痛みが治まってきたらサポーターを装着しストレッチで筋肉をほぐす
―――痛みが取れてきたら、そのあとはなにをすればいいのでしょうか?
稲田「痛みが取れてきたら、次はリハビリです。安静にしていると、お尻や腰の筋肉が硬くなりますので、腰回りを柔らかくさせるストレッチ運動はオススメです。いきなり激しい動きをして痛みが出たら大変ですので、最初は腰用のサポーターバンドを使いながら、骨盤を立てた状態でゆっくりと大きく息を吸ってストレッチを行ってください」
―――ストレッチを行う際に注意すべきポイントはありますか。
稲田「常に『大きく息を吸いながら行う』というのがポイントです」
―――それはなぜですか?
稲田「最近、老若男女問わず、呼吸の浅い人たちが増えていて、トレーナーや医療業界でも“呼吸”は注目トピックスとして挙げられているのですが、呼吸が浅いと自律神経系のバランスが崩れ、筋肉が緊張します。反対に、深呼吸するとアルファ波が出てリラックス効果につながります。呼吸は睡眠とも密接の関係にあって、呼吸が深ければいい睡眠が取れるそうです。筋肉が緊張すると怪我をしやくなりますので、腰痛予防のためにも、ぜひ『深い呼吸』を心がけた生活してみてください」
プロトレーナー・稲田さん流
スキマ時間にできる腰痛予防&改善ストレッチ
腰痛に悩んでいるビジネスパーソンのために、プロトレーナーの稲田さんから腰痛予防&腰痛改善のエクササイズを2種類紹介していただきました。どちらも、イスに座って5分くらいでできる簡単なものなので、仕事の休憩時間などを使ってぜひ試してみてください。
1. お尻まわりの筋肉をほぐす
お尻が硬くなると腰痛を引き起こすことになるので、お尻まわりの筋肉を柔らかくするエクササイズを紹介します。やり方は、背筋を伸ばしてイスに座り、4の字に足を組みます。背筋を伸ばした状態で、ゆっくりと息を吐きながら前にお辞儀をしていきます。
・目安=10回×3セット
①背筋を伸ばしてイスに座り、4の字に足を組む。ストレッチを行う際は必ず「背筋を伸ばす」ことがポイント。
②ゆっくりと息を吐きながら、前傾させていきます。
2.「腹圧」を鍛える
腹筋が衰えると腰痛の原因になるので、体幹トレーニングのひとつでもある「腹圧」を鍛えるエクササイズを紹介します。やり方は、まず骨盤を立てて椅子に座り、両手で腰をおさえます。胸を張った状態を維持し、息を吐きながらお腹を膨らませていきます。
・目安=10回×3セット
①骨盤を立てて椅子に座り、両手で腰をおさえます。最初から最後まで「目線」はずっと前を向いて行うこと。
②胸を張った状態を維持し、息を吐きながらお腹を膨らましていきます。お腹を膨らます際、「ゆっくりと息を吐く」のがポイント。
編集部が選んだ、医療器具由来の「腰サポーター」3選
最後に、痛む腰をサポートしストレッチを行う際などでも補助してくれるサポーターをピックアップ。サポーターといっても、医療器具の延長にある頑丈なコルセットタイプから、ライトなバンドタイプまで様々。ここでは、ヨーロッパの医療先進国で長年、医療器具を開発・製造してきた実績をもつグローバルメーカーによる、急性・重度のぎっくり腰にも対応したプレミアムモデルを紹介します。
・ワイヤーで適度に締め付け腰を固定しながら動きも妨げない
1847年に創業した、フランスの老舗健康衣料メーカー「THUASNE(チュアンヌ)」。医療用も製造販売しており、本国を中心にヨーロッパでは薬局でも取り扱われています。この「ロンバスタブ」は、背面の左右を強化パネルで安定させ、幅広のベルトで腰回りから背中までをがっちり包み込む構造。強力に腰部を固定しながらも、人体の解析に基づいたデザインで動きを妨げません。
・背部に配した4本の支柱が効果的に腰をサポート
メディ
Lumbamed basic
4万3716円
1951年にドイツのバイロイトで、ファッションストッキングのメーカーとして創業した「medi(メディ)」。そのニッティング技術を活かし、弾性ストッキングなどの総合医療用具メーカーとして世界中に製品を供給しています。このサポーターは、伸縮性、通気性に優れ、肌当たりのよいニット素材で腰全体を包み込みながら、背部の4本の支柱によって腰を支えます。
・背部のシリコンパッドが腰をキャッチしマッサージ
「BAUERFEIND(バウアーファインド)」は、1929年にドイツ・チューリンゲン州に医療用コンプレッションストッキングのメーカーとして創業、世界初の量産化にも成功したパイオニアです。このサポーターは、ニットによる適度な圧迫で高い腹圧をかけることができ、身体を内側から支えながら、腰の負担を軽減します。
インタビュー・文/小須田泰二 撮影/我妻慶一