Female(女性)とTechnology(テクノロジー)を掛け合わせた「FemTech(フェムテック)」。病や生理現象などを含む、女性特有の生きづらさをテクノロジーで解決するサービスやアイテムのことを指し、いま注目を集めつつあります。
女性を取り巻く現状や、それを解決しようと広がる最新のフェムテック事情、さらにおすすめのアイテムとは? フェムテック商品のオンラインショップと、さまざまな有識者によるコラムを掲載しているウェブメディア「ランドリーボックス」の代表を務める西本美沙さんに教えていただきました。
声を上げにくい“女性の問題”とは?
「フェムテック」という造語ができたのは2012年のこと。ドイツの月経管理アプリ「Clue」を開発したデンマーク人が作ったのがはじまりです。実は、以前から日本国内でも、生理の不快感を軽減する生理用品をはじめとするテックグッズは開発されつつあったのですが、表立って取り上げられることは少なかったといいます。でもいま、とある調査データ(※)によると、2020年4月の時点で、海外ではおよそ300社が、国内では50社がフェムテック関連の開発に乗り出しているそう。
「以前は、そもそもそういう不快感は我慢すべきという固定観念もありましたし、そのような問題は口にしてはならないという雰囲気もありましたよね。それが少しずつ変化し、生理の不快感や性交痛をはじめとする女性特有の課題を発信してもいいんだ、という認識が広がっていきました。そこには、#metooなど女性の権利を訴える運動も影響しています。その流れに乗って、これまでにあったプロダクトが表に出てきた部分もあります」(ランドリーボックス代表・西本美沙さん、以下同)
※参考=fermata https://note.com/hellofermata/n/n88871bbae3e4
誰にも相談できない悩みごとを解決するために
西本さんがランドリーボックスを立ち上げたのは、2019年2月のことでした。それ以前は会社員として働きながら、ライフワークの一環として「ランドリーガール」という性に関するメディアを運営していました。
「さまざまな性の問題について発信していくうちに、個人的な相談ごとが多数寄せられるようになりました。もっとも多かったのは、性交の問題。セックスレスの悩みや、意思をパートナーに伝えられないという相談、嫌悪感がある、痛みがあるなどの具体的な問題もありました。質問に答えていくなかでわかったのは、その問題以前に、私自身もそうでしたがあまりにも自分の体のことを知らない方が多い、という現実でした。自分の性器がどうなっているかよくわからないという方、触ったことのない方……、日本人特有の性質なのかもしれませんが、相手を思いやるあまり、自分のことは後回しにしてしまうんですよね。
生理についても、日本では“痛くても当たり前のことだから我慢するものだ”と教えられてきた背景があります。でも、海外ではピルを飲んでいる方も多いので、生理痛の改善ができていたり経血量も少なく済んでいたりと、きちんと問題を解決する方向に動いているのです。
日本ではかかりつけ医を持っていない方もとても多く、信頼している産婦人科があるという方は少ないので、悩みごとがあっても病院にかかりづらいという側面もあります。産婦人科でいやな思いをしたのがトラウマになっている、という話もよく聞きます。お腹に引かれるカーテンが怖いと言う方もいますが、わたしはカーテンなしで診察してほしいとお願いするんですよ。何をされているのかわからないままなのは怖いですし、医師とコミュニケーションを取りながら診察していただける方が、わたしは楽なんです。そういう経緯から、まずは自分の体を知り、自分が幸せになるためには我慢せずに生きる手段を提案できたらと、フェムテックアイテムや情報を扱うウェブサイトを立ち上げました」
痛みも不快感も我慢しない!
「生理」に関するフェムテックアイテム
それでは、西本さんが扱うアイテムをご紹介していただきながら、話を進めましょう。まずは、ほとんどの女性が抱える、生理についての問題です。
「海外では、メーカーがユーザーに自社サイトを通じて直接販売するD2C(Direct to Consumer)を使って、生理用品を販売する事例も増えてきています。しかし実は、日本では生理用品は簡単に商品化できない法律で定められた基準があり、ベンチャー企業や個人での開発がなかなか難しいのです。生理ナプキンだけでいうと、海外に比べるととても質がいいのは事実です。ただ、だからといって今使っている生理用品にみなさんが満足しているかというと、そうではないんですね。ムレやかゆみなどの不快感がありながら、“仕方のないもの”として毎月我慢して乗り越えている人が多いのです。国内にある主要な生理用品としては、ナプキン以外ではタンポンがありますが、タンポンの国内使用率はおよそ2割にとどまっています」
タンポンが普及していかない理由は、“教えてもらっていないから”だと西本さんは指摘します。
「ナプキンの使い方は小学校で習いますし、剥がして当てるだけなので不安がないですよね。一方、タンポンは使い方が難しく、膣内に挿入をすることから恐怖心を持つ人も多いのです。スポーツをするからなどの理由がないと、なかなか踏み込めません。教えてもらえる機会もなく、うまくできなかったり、やってみたけど痛かった、という声もたくさん聞きます。つまり、生理用品を選ぶ選択肢を知る機会がないんです。選択肢を知らないから不快感があっても我慢するしかない、というのが、多くの方が抱えている問題だと思います」
ところが最近、少しずつその問題について発信する方が増え、月経困難症やPMS対策としてピルの活用や、新しい生理用品として月経カップ、吸収型サニタリーショーツなどが注目を集めはじめています。2020年夏、クラウドファンディングで総額1億円以上の支援金を集めた吸収型サニタリーショーツのニュースも飛び込んできました。
左:ムーンパンツ「吸収型サニタリーショーツ普通の日用」4800円+税
右:modibodi「吸収型サニタリーショーツ軽い日用」3800円+税
下:THINX「吸収型サニタリーショーツ普通の日用」5100円+税
「吸収型のサニタリーショーツは、いわばショーツと生理用ナプキンが一体型になったものです。ショーツのデリケートゾーンにあたる部分に、特殊な加工をした生地が重ねられており、“普通の日用”だとだいたいタンポン2本分くらいの吸収力がありますから、日中は変えなくてもいられる日もあります。なんといっても吸収力がすごいので不快感も少なく、ナプキンの擦れによるかぶれやかゆみの問題の軽減や、繰り返し使えることから、ナプキンのゴミを減らすことにもつながります」
もうひとつ注目を集めているのが、月経カップ。
左:フルムーンガール「月経カップ」6000円+税~8000円+税
中:メルーナ「月経カップリング型クラシック」3600円+税
右:スクーンカップ「月経カップ」4972円+税
さまざまな折り方がありますが、写真のようにカップを折りたたんだ状態で膣内に挿入し、無感覚ゾーンでカップを広げて使用します。特に交換のサインが出るわけではないので、はじめは交換のタイミングや経血の捨て方に戸惑うこともあるそうですが、3か月も使えば、どの程度自分の体から血が出ているのかわかるようになり、毎月の生理の状態や体調の確認にもつながるそう。
経血を捨てるときは、指でカップをそっと押して空気を含ませるようにして膣内から取り出し、そのまま経血だけをトイレに流してカップを戻します。
「わたしがこれを使いはじめたのは6年ほど前なのですが、当時はほとんど使っている方がいなかったので、扱い方がわからなくて大変でした。今ではメディアをはじめ、たくさんの方がブログなどで発信していますし、一度慣れてしまえばとても楽なんです。
生理用品って、コレとひとつに決める必要はないんです。量が多いときや外出先での替えを考えるとナプキンが安心の日もあったり、少ない経血量のときは吸収型サニタリーショーツだけでもいいし、家に一日いたり、交換頻度が少なくて済む日は月経カップ、というふうに自分の体調やその日の予定に合わせて選択できるようになることが、不快感を減らすことにつながっていきます」
スマホと連動して“膣トレ”できる!
「尿もれ」に関するフェムテックアイテム
エルビー「トレーナー 骨盤底筋トレーニングデバイス」
2万7000円+税
産後に膣の筋力が戻らない人や、加齢とともに筋肉が衰えていき、尿もれしてしまう人には、スマートフォンと連動した“膣トレ”のデバイスがおすすめ。
「尿もれなどの原因となる膣の緩みは、骨盤底筋の衰えによって起こります。こちらは楕円形の部分を膣に挿入すると、膣圧を感知するセンサーと連動し、スマートフォンに骨盤底筋のトレーニング度合いが表示される仕組みです。トレーニングメニューをこなすと、どのくらいレベルが上がったのかも教えてくれます。
これまでにも膣トレのアイテムはありましたが、どのくらい鍛えられているかよくわからず、モチベーションにつながりにくかったんです。自分の状態を知ることでトレーニングすべきかどうかも判断できますし、体のケアにきちんと向き合えるようになります。
ちなみに国内外では、更年期の相談サービスも出てきています。年齢が上がってくると精神的にも肉体的にも変化がありますから、心配ごとがあったら相談できるかかりつけ医を持っておくのも大切です」
“性交痛”の軽減はパートナーとも相談を。
「セクシャルウェルネス」に関するフェムテックアイテム
OHNUT「性交痛軽減リング 3個セット」
8000円+税
性交に関する問題は、パートナーに相談しづらかったり、言えずに我慢していたりする人も多いといいます。信頼している相手のはずなのに、自分を真にわかってもらえずにいたら、関係も揺らいでしまいます。
「膣の形は人それぞれですし、誰もが心地よく性交できるわけではありません。特に30代後半を過ぎてくると女性ホルモンが減少し、膣壁が薄くなって乾燥しやすくなり、性交で痛みを感じるようになる方もいらっしゃると思います。こちらのリングは男性器の根本に装着し、挿入を浅くするアイテムです。まずは、自身の悩みや痛みをパートナーに開示することから始まりますが、このようなグッズをきっかけに、互いの体について話し合えるかもしれません」
痛くないマンモグラフィー、ウェアラブル搾乳機……進化する世界のフェムテック
フェムテックを取り入れたアイテムは、ほかにも、女性特有の疾患の検診や不妊治療、出産育児など、さまざまなシーンに向けて開発が進んでいます。
「たとえばマンモグラフィーは、乳がんを発見するのにとても有効なのですが、痛みや不快感が伴います。そこで今、痛みのない乳がん検査の開発が進んでおり、今後に期待したいですね。また、出産や育児の負担は軽減できるようにし、特に母親だけに負担が行かないことも大切ですよね。米国の『willow』など、ブラジャーに収まるサイズのウェアラブルな搾乳機を使えば、場所を選ばず搾乳できるほか、搾乳量をアプリでチェックすることも可能です。そのほか、『Milkstork』など出張先などで搾乳した母乳を保冷し、翌日自宅に送り届けてくれるサービスもあります。不快なことを軽減するだけでなく、女性がさらに社会で活躍できる世の中になっていくといいですよね」
体の悩みは千差万別で、それはもちろん性別に関わらず、すべての人にあるもの。さまざまな価値観が認められるようになってきた今だからこそ、無理をせず自分を大切にできるような生き方を選び取れたらいいですよね。
西本さんの運営する「ランドリーボックス」では、オンラインショップだけでなく、さまざまな人が当事者として発信しているコラムを連載していますので、悩みの解決にアクセスしてみてはいかがでしょうか。
【プロフィール】
「ランドリーボックス」代表 / 西本美沙
PR会社を経て、ドワンゴにて広報・PR業務に従事する。会社員の傍ら始めたブログをきっかけに、女性の体や性を取り巻く環境に対する関心が高まり、ウェブメディア「ランドリーガール」を開設。2019年2月にランドリーボックス株式会社を設立、ライフスタイルプラットフォーム「ランドリーボックス」を開始。
ランドリーボックス https://laundrybox.jp/