家電
2018/7/4 18:56

パナソニックがデザインの拠点を京都に移した理由

パナソニック株式会社は2018年4月から、同社の家電デザイン拠点を京都に集結したオフィス「Panasonic Design Kyoto」を始動。6月27日に行われた同オフィスの見学会に、GetNavi編集部も参加してきました。

 

↑京都府京都市に開設された「Panasonic Design Kyoto」。9階建ての4階~9階にオフィスがある「縦構造」となっています

 

 

同デザインセンターは今年100周年を迎えたパナソニックが、家電デザイントータルでの連携を強化するために開設したもの。元々同社は滋賀県草津市に白物家電(生活家電)の、大阪府門真市に黒物家電(家庭用オーディオ・ビジュアル機器)のデザインオフィスを持っていましたが、そのふたつを融合したのが「Panasonic Design Kyoto」ということになります。

 

パナソニック アプライアンス社デザインセンター所長の臼井重雄さんは、新オフィスを構える場所として京都を選んだ理由を次のように語ります。

 

「IoTなど住空間の中で家電が横につながる状況のなかで、家電デザインの最適地として選んだのが京都。それは単に(草津市と門真市の)地理的な中間地点というだけではなく、今後パナソニックブランドを世界に発信していくときに、日本の中でもグローバルな発信力のある京都という街にデザイナーが身を置き、ここでデザインすることが、高いクオリティのデザインにつながると考えました」

 

↑アプライアンス社デザインセンター所長の臼井重雄さん。1990年に松下電器産業に入社。2007年から2016年までパナソニックデザインセンター中国拠点に勤務。同センターの所長を勤めたあと、2017年にアプライアンス社デザインセンター所長に就任

 

 

今回の新しいデザイン拠点設立にあたり、同社はデザイン体制そのものの改革にも着手。従来のプロダクトデザイナーだけでなく、現在の新しい価値、広義なデザインに対応できる人材を積極的に招いているそうです。

 

そのひとつが「デザインストラテジスト」の登用。ロンドンにあるクリエイティブコンサルティング会社「シーモアパウエル」のシニアデザインストラテジストで、多数のグローバル企業のデザインストラテジー立案などに携わってきた池田武央さんを、クリエイティブ・ディレクターとして招聘しました。

 

ほかにもCMFデザイン(色や素材のデザイン)のスペシャリストやデザインエンジニア、デザインのインサイトリサーチャーの専門家など、プロダクトデザインをさらに加速させるミッションを持つスペシャリストを集め、デザインの多様化を進めています。

 

写真は8階の「HUB」と呼ばれるフロア。社外とも様々なミーティングやプレゼンテーションなどが行われます。縦構造のフロアは「ドリップ・コンセプト」を導入。9階「GARDEN」8階「HUB」の上層階で幅広い外部からの情報をインプットし、7階6階の中層階でそれらの情報をもとにデザインしているとのこと。さらに5階4階の下層階でプロトタイピングやデザインの検討を行い、コーヒーがドリップされるように絞り込まれ、抽出された商品やサービスとしてアウトプットされます。

 

 

 

京都の伝統工芸との共創プロジェクト「Kyoto KADEN Lab.」も第2期に突入

パナソニックでは2015年11月から、京都の伝統産業の次世代リーダー集団「GO ON」とともに、日本の感性とものづくりの原点を探り、新たな家電デザインを探求する「Kyoto KADEN Lab.(京都家電ラボ)」プロジェクトを展開。第1期では「Electronics Meets Crafts:」をコンセプトに、「人の記憶や五感に響く未来の家電」のプロトタイプ10点を開発。「ミラノサローネ2017」で「ベストストーリーテリング賞」を受賞するなど、海外でも高い評価を受けました。ちなみに「ミラノサローネ」でも展示された、京都の手作り茶筒の老舗・開化堂とのコラボ作品「響筒」の発売が決定。2019年春を目処に、現在開発が進められています。

 

「創業者・松下幸之助は、『伝統工芸は日本のものづくりの原点である』と語っていて、その言葉は我々の心に深く刻み込まれている。『GO ON』さんは伝統を継承しながら素材やものづくりを新しい価値に変換させ、グローバルな市場に向けて発信されている集団。彼らの真摯なものづくりの姿勢と高い技術、イノベーターとしての姿勢に、我々が求めるヒントがあるのではないか、ということでコラボレーションさせていただいています」(パナソニック アプライアンス社デザインセンター 岡部健作さん)

 

↑アプライアンス社デザインセンターの岡部健作さん。「Kyoto KADEN Lab.」第1期メンバー。現在同社で掃除機のデザインを担当

 

現在はさらに第2期として、「Electronics Meets Crafts: Engraving Phenomena」をコンセプトに、新たに5点のプロトタイプを開発。 「Engraving Phenomena」とは「心に深く刻まれた現象・体験」とも訳され、「真っ赤に燃える赤い火」や「吹き抜けるそよ風」など、はるか昔から人の営みの中に刻み込まれた美しさや心地よさを指すのだそうです。

 

「第1期の活動を通して『世界で通用する日本らしい高価値なデザインを発信し、日本のものづくりの本質価値と五感に響く体験価値を掛け合わせたものが具現化できました。それを受けて今回は、『心を揺さぶる価値とは何か』を、さらに若いメンバーが深掘りし、新たな価値探求を実践してくれています」( 岡部さん)

 

見学会ではそうした新たな価値探求の結晶とも言えるプロトタイプ5点もお披露目。第1期のプロトタイプ作品とはまた違う、現代アート的とも言える作品のプレゼンテーションが行われました。

 

 

↑作品名「Kasa」

刺激を与えると消える照明。手に持つ人は明かりが消えないよう、自然と手が動かないよう集中します。家電を「壊れにくくする」のでなく、大事に使うことで結果的に壊れにくくなるという、人と物との新たな関係性から未来を考えるプロトタイプ作品です。

 

↑作品名「Soyo gu」

竹かごの技法で編んだ竹のソフトカバーを用いた大型の送風扇。ゆっくりと回る大型ファンによる風が吹き抜け、カバーの竹ひごがやさしくそよぎます。「そよ風」という心地良い体験を「風の触感」「静けさ」「そよぐ草花の様子」という3要素に分解し、テクノロジーと竹工芸のコラボレーションで再度編み上げました。

 

↑作品名「Oto no kotowari」

音楽を視覚化するスピーカーのプロトタイプ。LEDの光が天面に張られた水を透過して三日月のように壁に投影。スピーカーの振動が水に伝わることで壁に投影された光が細かく振動し、波打ちます。音程やリズムによって刻々と変化する波紋はいつまでも見飽きません。配信サービスの普及で音楽が聴き流されることが多くなった生活のなかで、「暮らしのなかの音のひとつひとつに意識を向ける」ことが豊かな体験につながることを提示します。

 

 

 

「GO ON」メンバーと「Panasonic Design Kyoto」スタッフとのクロスセッションも行われた

見学会の後半では「GO ON」からの4人を交えたクロスセッションも開催。セッション中には「GO ON」メンバーで西陣織・細尾の細尾真孝さんが「Kyoto KADEN Lab.」の第2期について次のように述懐しました。

 

「第1期では『家電と伝統工芸をイーブンにくっつけたらどういうものが出てくるか』というアプローチでやった。量産化の問題はとりあえず置いて。そこでできたのが『テクノロジーを隠す“ヒドゥン・テクノロジー”コンセプトの作品でした。第2期ではそこを踏まえ、僕たちはなるべく手を動かさず、伝統工芸の思想、哲学、価値観をどう家電にインストールするか、また量産可能なものにできるか、という挑戦をした。本当にギリギリまで手を出したいのを我慢して、僕らは量産可能な価値をどう提供できるか、逆にパナソニックさんはそれをどう形に落とし込むか、ということを考えました」

 

クロスセッション参加者。左の4人がGO ONメンバーで、左から西陣織・細尾 細尾真孝さん、中川木工芸 中川周士さん、朝日焼 松林佑典さん、竹工芸・公長齋小菅 小菅達之さん。右の4人はアプライアンス社デザインセンターのメンバーで、左から臼井重雄さん、池田武央さん、岡部健作さん、「Kyoto KADEN Lab.」第2期メンバーの杉山勇樹さん。一番右は司会の長谷川錦哉さん。

 

 

一方、アプライアンス社デザインセンター所長の臼井さんは「Panasonic Design Kyoto」開設の意義を、こう語ります。

 

「このセンターには150人のデザイナーがいますが、その全員がリセットしないと改革はできない。私は9年間、上海のパナソニックデザインセンターにいましたが、そこで中国が一気に成長してきたのを目の当たりにしました。その後日本に帰ってくると、日本があまりに変わっていないことに驚いて、『これは中国に絶対やられる』と思った。

 

そのときに『GO ON』さんとのプロジェクトを見て、日本がグローバルに打って出るひとつのトリガーになるという確信を持ちました。工芸も家電も作るものは違うけど、『いいものをお客さんに届けたい。豊かな生活に貢献したい』というスピリッツは一緒。でもその一番大事な根っこを家電のデザイナーは忘れていたところがあるのではないか。過去の成功事例というのも、市場や経済が成長していったところに乗っかってたまたま成長してきたところもあるので、果たして本当に自分たちの力で成長したのかなという疑問もあった。だからこういう活動のなかで、もう一度ものづくりの原点に還りたいと考えました。

 

今年はパナソニックが100年。次の100年のためにもう一度再スタートする、“トランジションズ(遷移)”として考えるいい機会になったと思います」

 

さらにクロスセッションにはデザインステラジストの池田武央さんも参加、大企業がストラテジー(戦略)を考える意義の説明がありました。

 

 

「日本って先進国なのにものづくりをやめないんです。ものづくりが好きで、いいものを作ることに対して絶対的な崇高感を持っている。でも同時に日本には、マスプロダクションのなかで中国やインドなどに負けない競争力を維持するという大きな課題があります。

 

僕はデザインを含め、新しい価値を作るために必要なプロセスは『気づいて』『考えて』『作って』『伝える』の4つだと思っています。過去11年間、何十社という企業と何百というプロジェクトをやらせてもらいましたが、各自テーマは違うにせよ、プロセスはその4つだけ。その4つをやらないと高い成果は出ません。『従来のものをよりよくする』という文脈では『作る』をひたすら頑張るのもいい。ただ、『気づいて』『考えて』作ったものを魅力的に『伝える』までやらないと、競争力は出ない。戦略(ストラテジー)はわかりやすく言うとその『考える』部分を行う職能。特に海外のデザインコンサルは、インサイトリサーチャーやデザインストラテジスト、ストーリーテラーなど、気づいて考えて伝える人がチームとして整っています。

 

一方日本のものづくりの組織は『作る』だけ多く、『作る』専門家が限られた時間で『気づく』『考える』もやっている部分が多い。そのがんばりは素晴らしいですけど、サッカーでもみんながストライカーだとおかしくて、それぞれの専門性を統合してチームとして機能すると、高いアウトプットが出る。なので、そういうインサイトリサーチャーやデザインストラテジスト、ストーリーテラーを社内に置いて、そういう専門家たちが、プロダクトデザイナーとチームになってクリエイトすることが、これからの先進国の日本に求められていることだと考えます。そうした意味でストラテジストとしてインハウス部門に入ることにはかなりやりがいを感じています」

 

 

「今後は、その評価がお客様にしっかり根づいた『パナソニックデザイン』を構築していきたい」と語る臼井さん。時代の要求に応えるべく、新オフィスおよび新体制によって、大胆な変革を目指す「パナソニックデザイン」のこれからの展開が楽しみです。