バルミューダが2020年の11月に発売したホバー式クリーナー「BALMUDA The Cleaner」(バルミューダ ザ・クリーナー 直販価格税込5万9400円)は、独自の「ホバーテクノロジー」による浮いているような操作感と360°全方向に動かせる自在な動きで注目を浴びました。
さらに今年4月にはダイソンが同様のコンセプトの製品を日本でも発売し、再度話題に上っています。そこで今回、「BALMUDA The Cleaner」開発のキーマンであるプロダクトデザインチームの比嘉一真さんに改めて開発の現場で起こっていたことを、プロダクトマーケティングチームの原賀健史さんに今後の方針をうかがいました。
「掃除機の開発に向いている」と言われてその気になった
――まずは、「BALMUDA The Cleaner」開発の最初のきっかけを教えて下さい。
比嘉 最初は代表の寺尾からの発案でした。ランチのときに会社の近くの蕎麦店に連れて行かれて、「掃除機をやるから。(開発は)比嘉、行けるんじゃないか? 向いていると思うよ」といきなり言われました。驚きましたが、「向いている」と言われてやる気になりましたね(笑)。
――根幹技術のホバーテクノロジーは、すぐに思いついたんでしょうか?
比嘉 そうですね。早い段階で原案はできています。とはいえ、私自身は、生まれて何十年も使っている掃除機の固定概念があって、その範囲以上のものが考えられませんでした。しかし、寺尾が「掃除はもっと自由であるべきじゃないかな。いまの掃除機はひたすら前後にしか動かせないけど、掃除機の原点であるほうきは前後左右自由に動かせる。手元に重心があるわけでもない」と、新製品の基本的な概念、進むべき方向性を示してくれました。それをヒントに、その日のうちに何枚かラフデザインを書き上げて翌日に寺尾のところに持っていき、「試作まで進めていいですか?」と聞いたらOKを頂いたんです。
――おお、行動が早い!
比嘉 勢いが大事ですから(笑)。
初期段階で浮遊感のある操作は実現していた
比嘉 実は、「前後左右に自由に動かすには軸はセンターがマスト」とは最初から考えていました。従来の掃除機は軸が後ろにあり、自走式ローラーヘッドによって引っ張られて前に進みますが、前に進む動作のときにゴミはあまり吸い込まず、後ろに引く時にゴミを吸い込みます。しかし、ローラーヘッドの前への推進力は、後ろに引く動作の時に負荷になり、腕への負担が強くなるんです。
――確かに、前に進む力に逆らう形になりますね。
比嘉 ええ。そこで、当初から「逆向きに回転する自走式ブラシをもう1本搭載すれば、前後に引っ張り合う力が打ち消し合い、力をかけなくてもスーッと動くのではないか?」という仮説を立てていたんです。その仮説を検証するために、市販の掃除機を2台買ってきて、2つのヘッドをつなげて試作してみたんです。すると思った通り、ホバークラフトのように浮いたような感覚になって、軽い力で前後左右、自由自在に動かすことができたんです。