ライフスタイル
2016/1/9 11:30

【なぜ住みたい街に?】地域イベント潜入でわかった武蔵小杉の底力

成り上がりのメタルシティ、武蔵小杉の地域イベントに潜入

吉祥寺が人気の街というのはよく聞く話だと思います。事実、suumoの「住みたい街ランキング2015」では1位吉祥寺、2位恵比寿、3位横浜という順番。ただ、同ランキングで5位に輝き、なおかつ「穴場だと思う」で3位、「地価が値上がりしそう」で1位、「今払える予算内で住みたい」で1位という有望な街がありました。川崎市の武蔵小杉です。

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武蔵小杉駅の北側線路沿い。南側には「武蔵小杉東急スクエア」のほか、「グランツリー武蔵小杉」など話題の商業施設がズラリ。

 

個人的にですが、ひと昔前の武蔵小杉の印象といえば”工業地域”。それがいまや、買い物に便利な商業施設やタワーマンションが立ち並び、オシャレな街、成功者の住む街といったイメージに(「月曜から夜ふかし」でも話題にされていましたよね)。なぜ一介のメタルシティに“成り上がり“ができたのか、ずっと疑問でした。今回はそのナゾに挑むべく、駅前で開催されたコミュニティイベントに潜入。人気が高くなった理由と、その人気を支える取り組みについてを知り得たので、レポートしていきたいと思います。

 

 

昼にはワークショップが開催

潜入したイベントは、「X’MAS CANDLE NIGHT」。ただ、目当てはクリスマスよりも地元のブルワリーによる“ムサコ産ビール”と、地元で採れた野菜によるオードブル。それらを味わいつつ、「武蔵小杉の地産地消」をテーマに、ブルワリーや農家の人が登壇するトークセッションを観覧するというのが一番の目的です。

 

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会場にはイベントのポスターが。センスあふれるデザインです。

 

キャンドルナイトの本番は夜でしたが、周辺の視察をもくろみ昼から現地イン。すると、夜の本番会場となるカフェの隣のスペースで、キャンドル作りのワークショップが開催されていました。

 

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本番会場となるカフェの入り口。奥にはワークショップなどを開催できるスペースも。

 

主催者はキャンドルナイトと一緒で、様々なカルチャー系のイベントを定期的に行っているようです。この日は近隣に住む女性を中心に、10名程度が参加していました。なかにはおひとり様も。

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地元産のビールとプリンに舌鼓!

キャンドルナイトの会場となる「COSUGI CAFE」にも前もって潜入してみました。都心にありそうなオシャレな雰囲気で居心地は抜群なのですが、印象的だったのは客席フロア中央のコミュニケーションコーナー。

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いくつもの木箱が重ねられ、その上にはグリーンの装飾と季節的なクリスマスの装飾が。木箱は棚になっており、ギャラリー展示や書籍の寄贈など様々な使い方ができるようです。そしてもうひとつのポイントはキッズスペース。十分な広さが確保されていて、ファミリー層にはうれしい魅力だと思いました。

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メニューはフードにスイーツ、ドリンクとかなり充実。そのなかで、気になっていた“ムサコ産ビール”をイベントに先駆けて注文してみました。

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これは同店近くの「ブリマーブルーイング」というブルワリーで造られているもの。「ペールエール(写真左)」、「ポーター(写真右)」、「ゴールデンエール」の3種が用意されており、どれも850円。クラフトビール好きの筆者、実はこのビールは知っていましたが、地元で飲むのは初めて。夜は作り手によるトークセッションもあるということで楽しみです。

 

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そしてもうひとつ、同店イチオシの「プリン(600円)」を注文しました。これも地産地消。地元の養鶏場で産み出されるブランド「モリモリたまご」が使用されています。

 

 

メインのクリスマスキャンドルナイトがスタート!

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そしていよいよ夜。リユースキャンドル作りとクリスマス絵本の読み聞かせが行われ、その後にトークセッションと地産地消の飲食体験が開催されました。

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ふるまわれた料理は地元産の大根、ニンジン、ブロッコリーなどをふんだんに使ったバーニャカウダ、また「モリモリたまご」を使ったブルスケッタも。ドリンクには先述のビールのほか、日本酒、柿のワインも登場しました。

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トークセッションでは、地元の生産者側からみた武蔵小杉の街や住民に対する想いなどが。住民からは「家の近くで新鮮な食材が手に入るのはステキ」、「自分が住む街のことを知られる機会は貴重」、「子どもにも教えていきたい」といった声。一方農家さんやブルワリーからは「地元の人においしいと言われるのが一番うれしく、励みになります」、「農業について発信する場があまりない守りの業界なので、このイベントはとてもありがたい」といったコメントが飛び交いました。

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ブリマーブルーイングの醸造家さんによるトーク。素材や製法の違いが、それぞれどんな味の個性を生むか、個人的に興味津々の内容でした。

 

また、このイベントやカフェを主宰する「コスギコンビビアルプロジェクト」の代表者もトークセッションに参加。実行委員会事務局長である、成田冠(なりたはじめ)さんが登壇し、「武蔵小杉のある川崎市は工場や研究所などが多くあり、また農家も昔から多く居住する、非常にハイクオリティなものづくりの気風がある街。こういった街中に、地元の人が交流できる場所をこれからも作っていきたい」と想いを語っていました。

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成田冠さん。世界的に注目される”ファーム・トゥ・テーブル”という食文化を解説しているシーンです。

 

 

街の活性化の仕掛け人に聞いた武蔵小杉の今昔と人気のワケ

なるほど。武蔵小杉の活性化にはこのプロジェクト実行委員の人たちが絡んでいるに違いない! そう確信した筆者は成田さんに声をかけ、武蔵小杉の今昔や人気のヒミツなどを聞いてみました。

 

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この日使われた野菜の数々。ロマネスコ、サニーレタス、ネギ、里芋などなど。

 

「戦前より工業地域として開発された武蔵小杉周辺には、大手の電機・通信企業の研究所や福利厚生施設が点在していました。しかし平成20年ごろからそれら施設の移転や閉鎖が相次ぎ、その跡地にタワーマンションが建設。連動して都市開発の計画が進行し、商業施設も増えていきました。もともとJRと東急が交わる交通拠点だった駅は、いまや13路線のターミナルで神奈川一です。アクセスの利便性もあって、今の”ムサコ人気”が生まれたといえるでしょう」(成田さん)

 

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武蔵小杉駅の南側の一部。再開発によって近代化したエリアもあれば昔ながらの商店街も残っており、激安で飲める大衆酒場が多いのも魅力のひとつです。

 

都心や横浜といった最先端の街から近くアクセスも至便ながら、適度に離れた立地によって多くの自然があふれ、たくさんの農家が活躍する武蔵小杉。成田さんはそんな”本質的な豊かさ”に、いま世界中からライフスタイルが注目される米国・ポートランドとの共通点を見い出したそう。「ナイキ」や「インテル」といった世界的な大企業と、量より質を追求するハンドメイド重視のマイクロカンパニーが共生する理想的な経済循環。豊かな自然に育まれたクラフトマンシップあふれる食文化と、クリエイティブカルチャーを礼賛する気風。食でいえば、そんなポートランドの根底に流れる”ファーム・トゥ・テーブル”の精神を、武蔵小杉にもっと根付かせ育てていきたい。それが成田さん率いる「コスギコンビビアルプロジェクト」のビジョンなのだとか。これまで行ってきたプロジェクトをいくつか紹介します。

 

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©CreativeOut

武蔵小杉に生まれた巨大な光のタワー「TOWER OF LIGHT」。2015年の春に約1カ月間行われました。約90km離れた場所からも見られたそう。こんなインスタレーションが自分の住む街にあったら誇らしいといえるでしょう。

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©CreativeOut

 

工事現場の仮囲いをピアノの鍵盤に見立てて、手を触れると実際に音が出るという「奏でる壁」。再開発が進む武蔵小杉ならではの発想ではないでしょうか。

 

武蔵小杉には単なるオシャレな街というだけでなく、昔から住んでいた人と新住民とが共存する”新しいコミュニティの形”があると思っていたのですが、今回のイベントでそのイメージは確信へと変わりました。また、そんな街の空気感が、過ごしやすい街というブランドをも作っているのだと思います。新旧の住民が交流を深め、本当の豊かさを手に入れようとする街。この理想的な暮らし方がロールモデルとなり、今後ほかのまちづくりに活かされていくといいのではと思える、感慨深い一日となりました。