もうすぐ終わる平成は、自然災害の多い時代でした。西日本豪雨や北海道胆振東部地震など、今年も多くの自然災害が発生しています。日本各地が被災し、ボランティア活動や寄付をしたという話もよく耳にするようになりました。
今年5月、イギリス王室に嫁いだメーガン妃も慈善活動に積極的ということもあり、ここ最近、“善意の活動”があらためて注目されています。とはいえ、チャリティ精神が文化として根付いている欧米から比較すると、まだまだ発展途上の日本。何かしたいけれど、どんなことに取り組めばいいのかわからない……。そんなモヤモヤを抱えている人も少なくないのではないでしょうか?
そこで今回は、「公益財団法人プラン・インターナショナル・ジャパン」の広報マーケティング部 部長、大谷美保さんに、“チャリティ”に関する素朴な疑問から、取り組み方などについて教えていただきました。
「チャリティ」と「ボランティア」ってどう違う?
慈善活動の基礎知識
慈善活動と聞くと、「チャリティ」「ボランティア」「寄付」といったワードが思い浮かびます。でも、チャリティとボランティアって何が違うんだろう……? 実はそんな疑問をお持ちの人も、多いのではないでしょうか。今さら人には聞きづらい、基礎知識をまずはここでおさらいしておきましょう。
・慈善活動とは
英語で「Philanthropy(フィランソロピー)」の意味。基本的な意味は、人類への愛にもとづいて、人々の幸福や健康などを改善することを目的とした、利他的活動や奉仕的活動などを指します。つまり、チャリティや寄付といった活動も慈善活動のひとつということになります。
・チャリティとは
「慈善や慈愛、その精神や行動、社会的な救済活動」といった意味合いがあります。世界各地にチャリティの活動や組織があり、途上国の貧困解決や紛争地域の難民救済、障がい者や高齢者などに対する社会福祉、災害・事故などの犠牲者や遺族に対する支援活動など、多様な活動が行なわれています。つまりは、社会的な救済活動そのものを意味します。
・ボランティアとは
「自発的に社会活動や慈善活動に無償で参加すること」です。一般的なボランティアの理念として、自ら行動すること、活動を共にする仲間と支え合い、協力し合うこと、見返りを求めないこと、よりよい社会の実現を目指すこと、ということが挙げられます。
・寄付とは
「公のことや事業のために金銭や品物を贈ること」です。コンビニなどのレジ横に置かれた募金箱にお金を入れるも、「寄付」活動のひとつ。日本人のほとんどに経験があると言われています。
「チャリティの基本精神は、まず関心を持ち、知り、理解する姿勢を取ることが第一歩。途上国で起こっていることなど、社会のさまざまな出来事や課題を、他人ごととして見過ごすのではなく“自分ごと化”することです。そして、自分にできることが何であるかを考え、アクションを起こすことで、社会を改善していくことが重要だと考えています」(大谷さん、以下同)
スポーツを通じた寄付からクラウドファンディングまで
チャリティ活動のいろいろ
チャリティ活動には子どもや障がい者、医療、被災者を支援するものから、自然や動物、人権を守るものなど、さまざまな種類があります。そのバリエーションは数えきれないほど。活動内容や方法は時代とともに進化していて、最近ではSNSを活用した活動も増えています。ここでは、近年話題の活動や注目を浴びている活動など、その内容を解説します。
【寄付による活動】
・現金による寄付
現金を寄付することで活動を支援する、寄付形態の中でもっともオーソドックスな方法。寄付には1回のみの「単発寄付」や、毎月継続的な寄付をする「継続寄付」など、団体によってさまざまな方法があるので、自分にあったタイミングや金額を選ぶことができます。
「私どもの団体では、1日あたり約100円、月額3000円の寄付が、途上国の子どもたちの教育を受けるチャンスや、就業と自立のサポート、幼い命が健康に育つ環境づくりにつながります。寄付をすると寄付金控除の適用を受けることもできます」
プラン・インターナショナルの継続寄付「プラン・スポンサーシップ」
https://www.plan-international.jp/join/
・ポイント寄付
クレジットカードやポイントカードのポイントを寄付し、社会貢献する活動です。現金よりも心理的に寄付しやすかったり、不要なポイントを有効活用できたり、といったメリットが。
「カードのポイントを利用して寄付するスタイルは、気軽に社会貢献ができるので、初心者の方にもおすすめです。私どもの団体でも、Tポイントで寄付ができる『Yahoo!ネット募金』があります」
Yahoo!ネット募金
https://donation.yahoo.co.jp/detail/300024/
・カタログギフトによる寄付
結婚式の引き出物などで定番のカタログギフト。カタログの中から家電や食品など、好みのものを選んで注文するというシステムですが、実は“寄付”もあることを知っていましたか?
「カタログギフトのなかに、寄付受付団体として掲載されている例もあります。カタログギフトは利用したことがある、という人は多いのですが、寄付の掲載があるということは、まだ認知度が低いかもしれませんね」
・ショッピング
フェアトレード商品や寄付つき商品など、“物の購入”によって救済する活動。
「フェアトレードとは、直訳すると『公平・公正な貿易』。開発途上国で作られた食品や製品を適正な価格で継続的に取引することで、生産者の生活改善と自立を支える貿易の仕組みです。また最近は、商品を購入することで、売上の一部が社会貢献活動などへの寄付に当てられる、チャリティTシャツなどの寄付つき商品を販売する企業も増えています」
・チャリティスポーツ
スポーツを通じて社会課題の解決を目指すチャリティスポーツ。スポーツ選手やチームが行うチャリティ活動が近年増えていて、チャリティマラソンなどもその代表的な活動のひとつです。
「世界ではとても盛んな活動です。日本でも、近年最大のチャリティスポーツ事業ともいえる『東京マラソン』でチャリティ枠が増え、有効に活用されています。私たちプラン・インターナショナルも、寄付先団体のひとつに選ばれています」
東京マラソンチャリティ“Run with Heart”
https://www.runwithheart.jp/
・クラウドファンディング
クラウドファンディングとは、“こんなモノやサービスを作りたい”といったアイデアなどを持つ人が、インターネットを通して呼びかけ、共感を得た人から資金を集めるという方法。
「SNSやクラウドファンディングを使った資金調達は今も進化中で、注目されています。誰かのチャレンジを応援する従来のプロジェクト型に加え、誕生日を祝うといったハッピーな気持ちを寄付に変えるファンドレイズも。また、ハッシュタグをつけた拡散の数に応じて企業がマッチング寄付をするなど、LINEやfacebookを活用した仕組みも増えています」
・遺贈
遺贈(いぞう)とは、遺言によって特定の人や団体に財産を無償で譲る、寄付すること。自分の財産を社会に還元したい、という思いから、近年遺贈を希望する人が徐々に増えてきているそうです。
「一部の先進国では、高齢者の増加と死亡者数の増加にともない、遺贈が増えています。日本でも40歳以上の2割に遺贈の意思があるとの調査結果があり、今後見込まれる増加に向け、対応強化に動いている団体も多いようです。私どもの団体をはじめ、特定の公益法人への遺贈、または寄付された相続財産は、非課税扱いになります」
プラン・インターナショナルの遺贈や相続財産の寄付
https://www.plan-international.jp/join/bequest/
【そのほかの活動】
・自主上映会
映画上映を通じて支援の輪を広げる活動。団体が準備した映画を各地で協力者に上映してもらいます。参加する側にとっては、気軽に足を運びやすいというメリットも。課題と団体の活動意義を知り、上映会を通じて社会貢献活動をします。
「私どもの団体も『Girl Rising 〜私が決める、私の未来〜』という映画の上映会の開催をお願いしています。映画をご覧になった方々は、困難に立ち向かう女の子たちからパワーをもらいつつ、世界の女の子についての理解を深めてくださっています」
『Girl Rising 〜私が決める、私の未来〜』
https://www.plan-international.jp/girl/special/grmovies/
・情報発信
InstagramやfacebookなどのSNSやブログなど、メディアを通じて情報を拡散する活動。
「情報を発信するだけでチャリティ活動になるの? なんて思われる方も多いと思いますが、いずれかの団体の活動に共感し、寄付のみならず、情報の拡散をすることは、とても重要な貢献です。フォロワー数が多ければ多いほど情報が浸透しやすいので、著名人の方などは大きな影響力があります」
・ふるさと納税
ふるさと納税とは、ふるさとや応援したい自治体に寄付をする制度のこと。メディアで特集されることも多く、今話題の寄付制度です。
「今人気のふるさと納税も、社会への救済活動の一例です。物の購入だけでなく、純粋な地域活動への寄付もあります」
総務省「ふるさと納税」ポータルサイト
http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/080430_2_kojin.html
・ヘアドネーション
小児がんや脱毛症、事故などで頭髪を失った子どものために、寄付された髪の毛でウィッグを作り、無償で提供する活動です。
「最近『ヘアドネーションした!』なんていう女性の声を耳にすることが増え、メジャーな活動になりつつあります。活動に協力している美容院だと、カットや発送がよりスムーズだと思います」
この機会に、今回解説してくださっているプラン・インターナショナルの活動についてもお話を伺いました。
「上記のもの以外にも、たくさんの慈善団体が存在しますが、私ども『プラン・インターナショナル』は、子どもの権利を推進し、貧困や差別のない社会を実現するために世界70カ国以上で活動している国際NGOです。組織の創立は1937年、日本では1983年から活動しており、現在は約6万人の方々からの継続的なご寄付で支えられています。すべての子どもたちの権利が守られるよう、とりわけ女の子や女性への支援に力を入れていますが、市民社会、政府機関や国際機関と連携しながら、世界を持続的に、前向きに変えていきたいと思っています」
“慈善活動”と聞くと、少しハードル高く捉えがちですが、毎日の生活に組み込める手軽な活動はたくさんあります。大切なのは誰かの力になりたいという“善意の気持ち”。まずは小さなことから始めてみましょう。
「『寄付=現金の寄付』ではありません。寄付にもさまざまな種類があります。まずは寄付つきの商品を購入するというのもおすすめです。また、自分や家族のお祝い事の際など、何かの記念として“寄付をする”というのも素敵だと思います。他人への寄付は、自分のために消費する以上に幸福感を感じるという調査結果もあります。現金を寄付する場合は、少ない金額からスタートしてみてはどうでしょうか。私どもの団体も1000円からの寄付(クレジットカードの場合)が可能です。1000円ならばランチ1回分程度の金額。そのお金で誰かの生活が変わっていくと考えると大きな意味があると思いませんか?」
プラン・インターナショナルの1000円からできる寄付『ガールズ・プロジェクト』
https://www.plan-international.jp/join/girls/
自発的な寄付が当たり前な欧米のチャリティ文化
古くから“寄付”をする文化が根付いている欧米では、ビル・ゲイツやマーク・ザッカーバーグなど、著名人や富豪による多額の寄付活動が日常的に行われています。その額は数兆円と、まさに桁違い。背景にはキリスト教による宗教的な価値観が影響しているといわれています。
各国のチャリティ文化は、それぞれの国の歴史が大きく関わっている、と大谷さんはいいます。
「欧米ではNGOやNPOの立ち位置が確立されています。長期的な活動が多いのも特徴です。自治体や学校、芸術分野など、幅広い団体への寄付が認められていて、慈善活動によって税金が免除になるなど、節税対策に直結しているんです。しかし税制だけでなく、欧米のチャリティ精神は、はるか昔、キリスト教の背景が大きく影響しているといわれています。『困った人に救いの手を差しのべる』というキリスト教の教えが、他者への自発的な献身性につながっているのでしょう。また、貧困が構造的に生まれているアメリカに比べると、日本は困窮に対する共感の心が乏しい、という側面もあるかもしれません。しかし近年は貧困についての報道が国内でも増え、私たち団体の寄付者の中にも、支援先を国内に変更する方々も少なくありません。東日本大震災以降は、日本国内での寄付金も増加傾向にあります」
災害が多発していることもあり、近年慈善活動が盛んになりつつある日本ですが、チャリティ先進国である欧米から比較すると、まだまだその文化は発展途上。価値観の違いは、若者の就職活動においても現れているようです。
「欧米では就職活動の際に、学生は人気のある一流企業に勤めるか、NGOやNPO団体に就職するかを悩むといいます。優秀な人材は自ら進んでNGO、NPOに就職する傾向があり、就職先の選択肢として定着しているんです。それは民間の組織や団体に、企業と同等の社会的なステータスがあるということ。それほどNGOやNPOに対する信頼が厚く、専門性を備えたプロフェッショナルである、ということです。現在の日本ではまだ考えられないことですが、社会への関心が高まっているのは事実。それはとてもよい傾向だと思います」
メディアを有効活用! SNSを利用した活動とは?
最近は、国内はもちろん、世界的にSNSを活用した活動が増えています。プラン・インターナショナルでは、モデルの森星さんが活動を支えているそうですが、著名人が活動することには大きな意味があるといいます。
「チャリティ活動のひとつとして“情報拡散”も大切なように、情報化社会の今、メディアの影響力はとても大きいです。社会の出来事に関心を持ち、知り、自分ごと化し、その情報を拡散する。それだけで立派な活動だと思います。私はソーシャルメディアの役割に大いに期待しています。発信力のある方や著名人の場合は情報がより一層社会に浸透しやすくなるので、大きな力を持ちます。森さんはインスタグラムのフォロワー数がとても多いので、彼女を通じて私どもの存在を知ったという方もたくさんいらっしゃいますし、そういったSNSのパワーは今後も大いに活用していきたいと思っています」
悪質な詐欺に注意! 失敗しない寄付の方法
慈善活動が盛んになっている一方、その善意を悪用した募金詐欺や寄付金詐欺などの事件が増えています。寄付したお金がきちんと支援につながらないのは悲しいですよね。心ない人に騙されないためにも、寄付の仕方や注意すべきことを、しっかり学んでおきましょう。
「寄付をする際は、まず寄付先の基本情報をウェブサイトなどでしっかり調べて、信頼性を確認しましょう。活動実績や団体のメンバー、認定や公益を持っているか、会計報告をしているかなどをチェックし、さらに寄付の使途や団体の経費率、成果の報告方法も確認しておくと、なお安心です。イベントに足を運ぶというのも、団体の活動を直接知るいい機会だと思います。現金を使うのはちょっと抵抗がある……という場合は、古着や本など、物資を寄付するというのもひとつの手段。私は寄付とは一過性のものではなく、継続的な支援によってこそ根深い貧困の根本解決ができると考えています。各団体でミッションは異なりますが、自分の気持ちにあった団体を慎重に選ぶことが、実際に行動してよかった、と思える道だと思います」
日本の大手企業も貢献している!
今年の7月に発生した西日本豪雨。被害が集中したのは広島や岡山、愛媛の3県で、今もなお、その爪痕が残ります。現地では暮らしの目処が立たず、引き続き厳しい生活を送っている人がたくさんいます。そんな中、大手企業による支援活動もメディアで話題となりました。
災害が発生したのは7月6日から8日にかけてのこと。大和ハウスグループは、翌日9日には本社スタッフが集まり、大和物流のトラックに救援物資を積み込み、大量の救援物資を送ったそうです。物資は飲料水1200本や簡易トイレ1000個、タオル1200枚、バケツ100個など。お客様や近隣の方へ配布したんだとか。さらにグループ役職員から義援金を募り、約3000万円を日本赤十字社など、国内の義援金寄付窓口を通じて寄付したといいます。
こうした一般企業による寄付活動なども近年急激に増えていて、国内の慈善活動への関心の高さが垣間見られます。
こうしてみると、知っているようで知らないことの多い“チャリティ”のこと。誰かの役に立つ、ということは、やはり喜びや幸福感を感じるものです。自分のしたことが世の中をよくする第一歩となることも、素晴らしいと思いませんか? まずは身近活動から少しずつ始めてみましょう!