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2020/3/31 19:00

断捨離は“空間のヨガ”!? やましたひでこが説く「モノは出してから入れる」意味

新生活が始まる春。新しい気持ちとともに「断捨離しよう!」と片付けを始める人も多いのではないでしょうか? この「断捨離」を片付けの思想として最初に提唱し、著書やセミナー、テレビ・雑誌などのメディアを通じて広く一般化させた“生みの親”が、やましたひでこさん。現在も、日本国内はもちろん世界で活躍し、“片付けられない人たち”にそのメソッドを伝えています。

 

この連載では、やましたさんの人生を振り返りながら、断捨離の真意をお話いただきます。第1回の前回は、やましたさんが断捨離とどのように出会ったか、またそれを通じ、“偶然の出会い”をどう生かすべきか、について語っていただきました。第2回は、いよいよ「断捨離」のメソッドを確立させた頃のお話。ひとりのヨガ講師から、断捨離の伝道師となるまでに、どのような“偶然”があったのでしょうか。

第1回 断捨離って何? 断捨離したい! という人へ。生みの親・やましたひでこ氏の人生から見えてくる本当の「断捨離」
https://at-living.press/living/16271/

 

第2回 断捨離メソッドの確立
———断捨離は「捨てる」だけではない———

———いよいよ、断捨離のメソッドを確立されたころのお話を聞かせてください。いったいどのようにして確立していったのでしょうか?

 

やました「2000年頃、日本に収納ブームがやってきました。テレビや雑誌を見ていても、部屋の中に突っ張り棒を足して、カラーボックスを足して、収納用品を足して、そこへいろんなものをキッチキチに詰め込んだ上で、カーテンで隠してしまうんですね。収納されている部分は隠されているから、一見、片付いたように見える。でも、収納グッズでせっかくの“空間”が損なわれてしまっていると、ずっと感じていました。どうしてカーテンで隠すのだろう? そこには何が詰まっているの? って」

 

———便利なグッズがたくさんありますし、私も収納することで片付いたような気持ちになっていたので、耳が痛いです。

 

やました「多くの人が、『収めた』という状態を目的にしていたんですよね。それを『片付けた』と勘違いしていたのだと思います。モノは使うのが前提。使う時には出して、使わない時は“楽屋”に準備万端で控えていてもらわないと。でも必要か不必要かの判断もしないまま、詰め込むことばかりしていたんですよね。だから、ヨガの生徒さんから『カラーボックスを使っても上手に片付けられないんです……』って話を聞くたびに、『安っぽいカラーボックスばかり買い足して、空間を埋め尽くしちゃってどうするの!』って言っていました」

 

———その頃から、「断捨離」を伝え始めたんですか?

 

やました「もともと生徒さんには、ヨガのレッスンをしながら、話の中で『断行・捨行・離行』について伝えていました。例えば、『出すことが先』ということとか」

 

———「出すこと」、ですか?

 

やました「“出入り口の原理”というものがあって、つまり『新しい空気(モノ)を入れたかったら吐く、吐き出したから吸える』と、呼吸を例に話していました。吐き出すことも吸い込むことも、両方大切でワンセット。しかも順番がある、と。『出入り口』であって『入り出口』という言葉はないんですよ」

 

———なるほど! 初めて聞きましたが、納得です。

 

やました「生命のメカニズムでもそうなんです。体で例えるなら、食べて食べて、出さなかったらどうなりますか? 死んじゃいますよね? 断捨離とは“空間のヨガ”なので、部屋という空間の中に物を取り込むのもいいけど、出していかないと空間が死んでしまうんです。そういったことを、ヨガのレッスンをしながら説明していきました」

 

———なんだかとっても腑に落ちます。

 

やました「それと、『断行・捨行・離行』って可視化しにくいんですけど、洋服なら可視化できるってことにも気がついたんです。みなさんよく、『着る服がない』って嘆きますよね?」

 

———……はい(笑)

 

やました「物理的には所有しているんです。でも、心の中に着る服はない。着たくない服は山のようにあるのに、なぜ? と思ったら、それは”執着”だったんです。『高いお金を出して買ったのに、今の自分には着こなせない』っていう執着。でも自分を責め続けるってすごく疲れちゃうから、『痩せたら着ます』って、いったん保留にしちゃうんですね。痩せてでも着たいと思えるような服じゃないのに(笑)。つまり、自分の心の粘着度合いが洋服タンスから、見えてくるんですよ。どれくらいの期間、どれだけの量を溜め込んでいるかは、服という証拠品を見ればわかっちゃうんです」

 

———もう、今すぐ家に帰って、洋服タンスを片付けたいです!

 

やました粘着力の強いものが居住空間の中に渦巻いて、不活性なエネルギーで空間を満たしちゃっていると思うと、片付けたくなりませんか? 現実から逃げてはダメ。リアルな世界の状況を変えることができれば、自分の人生も確実に変わってきます」

↑「断捨離」を通じて数多くのメディアで活躍している、やましたひでこさん。背景に見えるのは東京の夜景。リビングルームの外に広がるその景色も、“インテリア“のひとつなのだとか。これまでに何度か引越しを繰り返しているけれど、昔から海が見える部屋を選んでいるそう
↑「断捨離」を通じて数多くのメディアで活躍している、やましたひでこさん。背景に見えるのは東京の夜景。リビングルームの外に広がるその景色も、“インテリア“のひとつなのだとか。これまでに何度か引越しを繰り返しているけれど、昔から海が見える部屋を選んでいるそう

 

生徒6人からスタートした、自宅での「断捨離セミナー」

———どうやって断捨離のメソッドを伝えたのですか?

 

やました「2001年10月、石川県の自宅で最初のセミナーを開催しました。当時は今のようなネットサービスもないので、『誰でも実践可能な整理術、断捨離しませんか?』というような内容ではがきを作って、生徒さんに手渡しで配って、始めたんです」

 

———少人数からのスタートだったんですね。

 

やました「最初は6人から始めて、3回で完了するコースに設定していたんです。まず1回目をやったあと2週間自宅で実践してもらって。また2回目、3回目と講習してその後に実践して、って繰り返していくんですけど、 3回目が終わると生徒さんから『え、もう終わり?』って言われちゃって(笑)。じゃあ3回完了セミナーを3セットやるともっと理解も深まるんじゃないかと、同じものを3セット受けてもらったんです」

 

———同じ内容を3セットですか?

 

やました「はい。9回受講していくと、『前に聞いたはずなのに、全然違う話に聞こえる』って言われるんです。でもそれは、生徒さんのレベルがどんどん高まっていくから。毎回、面白い、面白いって学びながら自分のものにしてもらっていくうちに、生徒さんたちから『友だちにも聞かせてあげたい』『家族にも話して欲しい』『飛騨高山にもきて欲しい』ってどんどん広がって行って。主婦の方を中心に『断捨離セミナー』として全国に伝わっていきました」

 

———SNSが当たり前ではない時代にすごいですね!

 

やました「そうですね。当時はmixiがあったから、セミナーが広がっていくと次第に生徒さんたちが、mixiで『こんなに面白いセミナーに参加した!』って書いてくれるようになったんです。生徒さんが書いてくれているのに、提唱しているその本人が何もしないわけにいかないですよね(笑)、だから誤字脱字はいっぱいでしたけど、とにかくブログを書きまくったんです。書く才能なんてなかったし、書くことも苦手だったのに、書かなきゃしょうがない! って、mixiもブログもやっていたら、いつの間にか楽しくなってきて。次第に、この断捨離メソッドは本にならないとおかしい! 本になって当然! というところまで自分の気持ちも高まりました」

 

自分自身も”手放した”ことで、メソッドが大きく広まった

———そして、書籍が発売になったんですね。

 

やました「実は、私が著者として出版した『新・片づけ術「断捨離」』の前に、監修という形で協力した本があったんです。当時の私は無名。でも全国でセミナーを開催しているし、その内容は広めたいって思っていたんですけど、出版社さんからのご提案で、心理学を専門としている川畑のぶこさんの書籍として、2009年に『モノを捨てればうまくいく 断捨離のすすめ』を販売して、私は監修者としてそのチームに入ることになったんです」

 

———最初はやましたさんが著者としての本ではなかったんですね。

 

やました「正直、私が断捨離をここまで作り上げたのに、どうして? と思いましたよ。でも旦那さんから『断捨離を自分のモノだけにするのではなく、広まった方がうれしいだろう?』って言われて。『そうだな』と納得できたんです」

 

———なるほど。

 

やました断捨離って、断=なだれ込むモノを「断」つ、捨=いらないモノを「捨」てる、「離」=「断」と「捨」を繰り返し、モノへの執着から「離」れるが基本です。自分自身が断捨離メソッドへの執着を手放すことで、世間に広まると感じたんです。前回、“根切り”の話をしましたよね? 植物を成長させるために、過剰な部分を削ぎ落として剪定してあげることで、さらに太い幹にしていくところをイメージしてもらいたいのですが、それと同じで、これまで積み重ねてきたものを選び直して、自分自身を成長させるというのも、断捨離のひとつなんです。そして自ら断捨離したことで、不思議なことに別の出版社さんとトントンと話が進んで、川畑さんの書籍発売の2週間後に、私が著者としての本を出せることも決まったんですよ」

 

———前回のお話、そして出入り口の原理とも繋がりますね。自分の執着から離れたことで、メソッドが広がるきっかけを手に入れたんですね。

 

やました「今思えば、そこも“通るべき道”だったのだと思います。川畑さんのように実績があって、影響力のある方とご一緒できたことにも、感謝していますから」

 

———そうですね。まだまだお話をお伺いしたいのですが、今回はここまでに。次回は、やましたさんが『新・片づけ術「断捨離」』を出版された後のお話や、2010年流行語にノミネートされるまでに広がったお話を伺いたいと思います。

 

↑断捨離とは“空間のヨガ”である、と説くやましたさん。リビングという“空間”を、自分が気に入ったものを配置することで、“うっとりと”快適に過ごせるよう整えています

 

たっぷりとスペースをとって、皿が一枚一枚がよく見えるよう並んだ様子は、まるでギャラリーのよう。本当に気に入った少量のものを常に眺めながら。贅沢な時間といえます。
↑たっぷりとスペースをとって、皿が一枚一枚がよく見えるよう並んだ様子は、まるでギャラリーのよう。本当に気に入った少量のものを常に眺めながら。贅沢な時間といえます

 

第2回の断捨離に関するキーワード

・入れる前に出す。新しいものを手に入れたいなら、まず何かを手放すこと
・執着心は、クローゼットに現れる
・断捨離の基本は、断=なだれ込むモノを「断」つ、捨=いらないモノを「捨」てる、「離」=「断」と「捨」を繰り返し、モノへの執着から「離」れること

 

第3回は、2010年流行語にノミネートされ、現在では世界中に知られるようになった「断捨離』という言葉。ここまで広がる背景には何があったのか、やましたさんの心境の変化とは? どうぞお楽しみに。

やましたひでこさんの「断捨離」に関する過去のコラムはこちら
https://at-living.press/tag/yamashitahideko-danshari/

 

【プロフィール】

クラターコンサルタント / やましたひでこ

東京都出身、早稲田大学卒業。学生時代に出合ったヨガの行法哲学「断行・捨行・離行」に着想を得た「断捨離」を、日常の「片づけ」に落とし込んで応用提唱し、誰もが実践可能な「自己探訪メソッド」を構築した。断捨離を、人生を有機的に機能させる「行動哲学」と位置付け、空間を新陳代謝させながら新たな思考と行動を促すその提案は、年齢、性別、職業を問わず圧倒的な支持を得ている。また『新・片づけ術「断捨離」』(マガジンハウス)をはじめとするシリーズ書籍は、中国、台湾でもベストセラーを記録し、国内外累計400万部を超え、ヨーロッパ各国の言語でも翻訳されている。
・やましたひでこオフィシャルサイト「断捨離」
日々是ごきげん 今からここからスタート http://www.yamashitahideko.com/
・やましたひでこオフィシャルブログ『断捨離』
断捨離で日々是ごきげんに生きる知恵 http://ameblo.jp/danshariblog/
・断捨離オフィシャルFacebookページ http://www.facebook.com/dansharist

※「断捨離」はやましたひでこ個人の登録商標であり、無断商業利用はできません。

 

▼この記事は、GetNaviがプロデュースするライフスタイルウェブマガジン「@Living」から転載したものです▼