最近、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で自宅で過ごす時間が長くなり、「断捨離をした」とか「片付けをした」という人が増えているそうです。でも、ただ“モノを捨てる”だけで満足していませんか? この「断捨離」を片付けの思想として提唱し、著書やセミナー、テレビ・雑誌などのメディアを通じて広く一般化させた“生みの親”が、やましたひでこさん。現在も、日本国内はもちろん世界で活躍し、“片付けられない人たち”にそのメソッドを伝えています。
この連載では、ひとりのヨガ講師から断捨離の伝道師となるまでに、どんな出会いや偶然があったのか、その中で、ただ捨てるだけではない本当の意味での「断捨離」をどう伝えてきたのかを語っていただいてきました。第3回は、著書『新・片づけ術「断捨離」』を出版し一般的にブレイクしてからの話を伺います。
第3回 断捨離は空間理論
———私たちとモノとの関係———
———著書『新・片づけ術「断捨離」』を出版し、2010年の「新語・流行語大賞」にノミネートされる など、世の中に「断捨離」が急速に広まっていきましたよね。その周囲の反応を、どうとらえていましたか?
「私自身は、流行語やブームになったことに、実はあまり興味は持てませんでした。なぜなら、私にとって断捨離は日常だったから。もちろんこの考え方をたくさんの方に知っていただけたという喜びもありましたが、言葉が先走りしてブームになってしまったことに対しては、正直うれしいよりも、心外だと思ったこともあったんです」
———それは意外でした。ただ、やましたさんにとって日常だった断捨離が、真意を置き去りにして言葉だけが先行して伝わってしまうというのは、たしかに怖いことですよね。
「あらためて『断捨離』の言葉の響き、漢字の力強さ、聴覚と視覚に訴えるインパクトを実感しました。でも、世の中から求められているのは、断捨離の本質的な部分よりも、木で例えるなら“実”だったんですよ」
———“実”ですか?
「これまで、累計数百万部とたくさんの書籍を発売し、多くの方に手に取っていただきましたが、私の中では木の“根”と“幹”になる部分の本はもう出版したから、『これで満足!』という気持ちでもあったんです(笑)。でも、世の中から求められるのは、その先にある“実”の部分ばかり。『何をどうやって捨てたらいいですか?』『服のたたみ方を教えてください』っていう、ノウハウやマニュアルばかりだったんです。
捨て方だって、自治体のルールに沿って捨てればいいだけなんだけど(笑)。私としては、断捨離の考え方や礎は、もう提供したからわかってもらえるだろうと思っていたんだけど、世の中はそうではなかった。自分で考えたり、感じようとしないで、『これをこうしてください』というノウハウを求めていたんだということに気がつき、驚きました」
———なるほど。自分も、直感的にわかりやすいものを求めて、満足しがちかもしれません。
「それはもう、断捨離というのはキツいものですよ(笑)。自分の核になる部分と向き合わなければならないので、逃げられない。“実”を求めて、なんとなくやった気になってしまっている人は、自分への問いかけがまだ不十分かもしれませんね。現実と真剣に向き合うのが断捨離なので」
———前回の緊急提言で教えていただいたことにもつながりますね。
「断捨離=捨てる、で終わっている人も多いので、『要・適・快』と『不要・不適・不快』(※)のところまで理解してもらえるように、セミナーを行ったりメールマガジンやブログで情報を発信したり、本を出版した後も活動を続けていきました。その中で、自分の会社を断捨離してお手伝いしてくれる方も出てきて。マーケティングなんて私には未知の世界だったけれど、いろんな方に支えられて、振り返れば“たまたま”の出会いが今にもつながっていると感じますね」
※『要・適・快』は、「これは私にとって、必要か(要)・ふさわしいか(適)・心地よいか(快)?」と自分に問いながら必要なものを見定めていくこと。『不要・不適・不快』は、今の自分にとって「あれば便利だけどなくても困らない(不要)モノ・今の自分には合わない(不適)モノ・長く使っているけれど違和感を感じる(不快)モノ」を手放していくこと。
断捨離は、世界へ
———この連載の第1回でおっしゃっていた、“たまたま”の出会いがつながっていくんですね。
「その出会いがあったからこそ、日本だけでなく、最近では翻訳された書籍が世界中で発売されています。今、一番注目度が高まっているのは、中国ですね。2019年の中国ネット流行語にもランクインしました」
———どうして中国なのですか?
「日本人の場合、断捨離の捨てる部分で立ち止まって悩んでしまう人が多いのですが、中国の場合は“爆買い”を恥じている人が多くなってきていて、『いかに買わずに済むか』という観点から断捨離が注目されているんです。中国でも講演させてもらったのですが、断捨離の考え方も理解してもらえて、世界にも伝わるんだと実感しましたね」
———面白いですね。ブームという一過性のものではなく、世界中にメソッドが浸透していっている感じがします。
「いろいろな地域で講演をしながら、断捨離を始めた方とお話しする機会も増えたのですが、断捨離を実践し始めた人たちが最初に何を思うかというと、『断捨離をわかっていなかったことを理解した』と。そう言うんです。すごい気づきだと思いませんか? あぁ私が登ってきた断捨離という山は丘だったんだ、という思いです(笑)」
———俯瞰できるようになるのは大事なことですね。
「物事をじっくり観察する『蛇の目』と、遠くから俯瞰する『龍の目』の両方が必要なんです。世の中には俯瞰しっぱなしで、現実逃避して空から降りてこなくなっちゃった人もいますが(笑)、私たちが暮らしているのは日常なのだから、蛇の目は必要です。でもたまには物事を俯瞰してみないと、自分がどういう状況か分からなくなってしまうから、適度な高さも大事。龍の目と蛇の目を自在に行き来できるようになってくると、断捨離に必要な空間理論が理解できるようになるんです」
財布も部屋も人間関係も“俯瞰”し、“空間”で捉えること
———生きてきた中で“高さ”や“空間”という発想がなかったので、俯瞰することを意識するといろいろな問題が解決できるのでは、と期待が高まります。
「『モノ』『こと』『人』すべての関係は、俯瞰したらすぐに解決できます。その中で、どれが一番簡単にできるかというと、感情がない『モノ』です。モノとの関係から始めれば良いのです。でも私に届く相談は、『モノが捨てられません。これは私の生育環境が影響しているのでしょうか?』なんて違う関係との問題とセットにしてしまうんです。事実だけ見たらわかるはず、それはあなたに“モノを捨てていない事実”があるだけですよ、と。原因探しと問題解決は、違うんですよ」
———なるほど。その通りですね。
「とりあえず買って、とりあえず残しておく、というのが得意な人が多いんですよね。これは無意識・無自覚で買っているんです。でも捨てるとなったらそれができない。そうすると、モノはどんどん溜まっていく一方で、生命のメカニズムにも逆らっていることになりますよね。だからみんな行き詰まって、空間も人間関係もグダグダな中で生活してしまうことになるんです」
———まるでモノに支配されているようですね。
「それはモノとの関係が腐っているのと同じ。きれいに収納したのを自慢している人がいるけど、それは違いますよね。収納という空間、クローゼットという空間、部屋という空間、家という空間、その力を機能的に発揮できる最適な量でなければいけません。こういう空間で考えていくと、部屋の中だけじゃなく、財布の中の断捨離、職場環境の断捨離、夫婦関係や友人関係の断捨離、体の空間で考えればダイエットだってできるようになります。断捨離=モノを捨ててスッキリ何もない状態が良いのではなく、その空間が最適に機能していて、うっとりできる状態が断捨離なのです」
———まさに「要・適・快」の極みですね。
「モノを排除することに縛られてしまっている人もいますけど、断捨離は自由自在。その場、その場の空間で最適化を追求します。どんな空間にも機能があるんです。その空有感が機能不全だったら? 自分自身まで機能しなくなってしまいます。断捨離は空間理論だから、どんな切り口からでも解き明かせるんですよ」
———断捨離は片付けだけではなく、すべてのことに当てはめて考えられるわけですね。
第3回の断捨離に関するキーワード
・現実と真剣に向き合うのが断捨離
・物事をじっくり観察する『蛇の目』と、遠くから俯瞰する『龍の目』の両方が必要
・断捨離は捨てるで終わらない。機能する空間をつくり自身が心地よく過ごせる空間をつくること
今回はモノとの関係性についてうかがったので、次回は、ちょっとステップアップして、断捨離を「人」との関係、人間関係にあてはめて教えていただきます。昨今増加してきた、“コロナ離婚”をはじめ、人間関係における『要・適・快』の考え方をじっくりうかがっていきましょう。
やましたひでこさんの「断捨離」に関する過去のコラムはこちら
https://at-living.press/tag/yamashitahideko-danshari/
【プロフィール】
クラターコンサルタント / やましたひでこ
東京都出身、早稲田大学卒業。学生時代に出合ったヨガの行法哲学「断行・捨行・離行」に着想を得た「断捨離」を、日常の「片づけ」に落とし込んで応用提唱し、誰もが実践可能な「自己探訪メソッド」を構築した。断捨離を、人生を有機的に機能させる「行動哲学」と位置付け、空間を新陳代謝させながら新たな思考と行動を促すその提案は、年齢、性別、職業を問わず圧倒的な支持を得ている。また『新・片づけ術「断捨離」』(マガジンハウス)をはじめとするシリーズ書籍は、中国、台湾でもベストセラーを記録し、国内外累計400万部を超え、ヨーロッパ各国の言語でも翻訳されている。
・やましたひでこオフィシャルサイト「断捨離」
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