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2020/11/4 20:15

「喜劇 愛妻物語」公開と同時に離婚危機!? 妻が3日家出する大喧嘩をしてしまう映画監督の日常とは?

「足立 紳 後ろ向きで進む」第7回

 

結婚18年。妻には殴られ罵られ、ふたりの子どもたちに翻弄され、他人の成功に嫉妬する日々——それでも、夫として父として男として生きていかねばならない!

 

『百円の恋』で日本アカデミー賞最優秀脚本賞、『喜劇 愛妻物語』(全国公開中)で東京国際映画祭最優秀脚本賞を受賞。いま、監督・脚本家として大注目の足立 紳の哀しくもおかしい日常。

 

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9月30日

今日は妻と映画を2本観に行くので朝4時に起きて連ドラの脚本執筆。朝4時と言っても通常より1時間ほど早いだけだ。相変わらず右腕及び右肩甲骨痛し。

 

11時から渋谷で「ブックスマート」を観た。痛い本筋と笑い。ジョン・ヒューズ風な青春映画。子どもたちのキャラクターが妙にリアルで面白かった。俳優のオリヴィア・ワイルドが監督なのだが、最近見た「mid90s」もジョナ・ヒルの監督作で、俳優さんというのはなぜにこうも演出が上手いのだろう。その後、恵比寿ガーデンシネマに徒歩でむかったのだが、私が歩きスマホをしていて妻を見失い、20分ほど時間をロスした(私がいないことに妻は気づかずかなり先まで歩き進めていたらしい。いかに私のことが目に入っていないかだ)。

 

日頃から私の歩きスマホを嫌悪していた妻は激怒。だが道中適当に入った明治通り沿いのカオマンガイ屋が美味しくて、なおかつパクチーお代わり無料で機嫌は少し持ち直した。その後ガーデンシネマ に上映10分前に到着。残席わずかで最前列の1番端にて「マーティン・エデン」鑑賞。前半から中盤までなぜか80年代くらいの日本のアイドル映画のような雰囲気を感じながらこちらも面白かった。が、鑑賞後首が痛くなった。最近色んな所が痛くなる。

 

10月1日

午前中、連ドラの脚本執筆。右腕及び右肩甲骨痛し。書きながら気分が悪くなるほどにチョコレートを大量に食べ過ぎたので、なかったことにするためにサウナへ。サウナに行ったところでチョコのせいであげた血糖値やら何やらが下がるわけもないのは百も承知だが。

 

夜、近所の劇場にお芝居を観に行く。コンプソンズの「WATCH THE WATCHMEN」。コンプソンズは2回目だが、さらけ芸&笑いと社会批判を織り交ぜたお芝居は面白かった。客席は一席ずつ空いているのだが、空席に「庵野秀明様ご招待席」とか「益子直美様ご招待席」とか書いてあり、最初は信じてしまい、庵野監督の横で観るのは緊張するなあとウロウロと席を探していたが、「王 貞治様」などもありようやく冗談と分かった。

 

10月3日

息子の運動会。コロナの影響で今年は2学年ずつ3ブロックに分けて、1ブロック1時間15分で全員入れ替え制の声援禁止で応援は拍手のみだが、声援はけっこうあった。我が子が走っていれば自然に声も出てしまうだろう。2年生の息子は昨年に続いて女子たちと走った。足が速くないからだ。

 

数日前から「女子と走るのに本気出せねーよ!」「オレ、ガチで足が痛いから全力疾走は無理だぜ!」などと言い訳ばかりしていた。何かをやる前に言い訳から入るところは本当に私にそっくりで、妻は苦虫を噛みつぶしたような顔をしていた。見に行くと案の定スタートラインで身体にまったく力が入っておらず、ダラーっとした姿でニヤニヤしていた。女の子たちの中でも圧倒的にチビだ。だが、本気を出せているのか出せていないのか分からないような走りながらも2位になったことが望外の喜びだったようで、「俺、本気じゃないのに2位だよ!」と学友たちにでかい声でしつこく何度も何度も言っていた。もちろん相手にされない。グレーゾーンの息子はその辺の空気がまったく読めないのだ。そういう姿を見ていると切なくなる。

 

当然、2年生男子に世の中にはそういう人もいるなどという認識などできないからひたすらうざがられる。いや、大人でも「あいつ、空気読めないから」の一言で切って捨てる人が大半だ。そこに私のようにパソコンが使えない、地図が読めない、運転免許がないなどのオプションがつけばあっという間にクズ扱いだ。何か好きなことを見つけて生きてくれたらと思うが、今のところ「荒野行動」くらいか。

 

10月5日

朝6時出発で大阪までドラマの打ち合わせに行く。夜までびっちりと打ち合わせて20時くらいの新幹線で帰る。疲れたのでご褒美に2800円くらいの神戸牛のステーキ駅弁を買った。当然レシートはいらないと言う。ポケットとかにねじ込んでいると、後に98%の確率で妻にバレるのだ。駅弁は850円までと決められているが、駅弁は基本的に高いからそんな値段のものはどこにも売っていない。罰は当たらないだろう。3万円の弁当にしなかっただけでも感謝して欲しいくらいだ。買う勇気はないけれど。

 

10月6日

東映試写室にて「アンダードック」初号鑑賞。大画面の中での俳優さんたちの熱演と最高の音響環境にしびれながら鑑賞。試写後、みんなニコニコしていた。作品に満足している証拠だ。その後、数人のスタッフと飲みに行ったが、満足した作品の初号のあとのお酒は、ほとんど飲めない私でも美味しく感じる。頭の悪い会話をたくさんして最高の気分だった。こういう時間を過ごすのはものすごく久しぶりだ。「アンダードッグ」は11月27日より公開。2021年1月1日よりAbema TVにて配信です。

 

10月10日

午前中、息子の学校公開。コロナの影響で時間ごとの交代制。うちは1時間目の授業が割り振られた。コロナ休校以来、初めての学校公開である。教室に入ると、息子は最前席のど真ん中で、机と一体化するような姿勢でダラ~っと突っ伏している。授業中、心は常にどこかにぶっ飛び気味なので、先生にお願いして一番前の席にしてもらったのだが、あまり効果はなさそうだ。

 

見たのは国語の時間で先生が音読をしており、他の子たちは教科書を広げて目で追っているのだが、息子は教科書すら広げていない。思いっきり灯台下暗しだ。

 

先生が音読されていたのはアーノルド・ローベルの「おてがみ」という話で、『今まで一度も手紙をもらったことのなかったガマ君にカエル君が手紙を出す』というお話なのだが、「この話を読んでどう思ったかノートに書きましょう」と言われ、積極的な子はどんどん挙手し「カエル君は優しい」「二人は親友だ」などと発言する。当然息子は一切発言なしで時折何が可笑しいのかニヤついていた。

 

ただ、ノートには何かをようやく書き始め、担任の優しいお姉さんのような先生が「足立君、いい感想書いてるじゃん。発表してよ」と振ってくれた。が、息子は恥ずかしがって突っ伏す。すると先生が息子のノートを取り「じゃあ先生が代わりに読むね。足立君は『どうしてガマ君は一度も手紙を貰った事がないのかな』と書いています」と読み上げてくれた。何も考えていないように見えて、何か考えているのだなとうれしくなったし、足立君、足立君と呼ばれているのが、なぜか自分を呼ばれているような気になってきて、私までうれしくなった。

 

午後から私の監督作でいつも助監督をしてくれる松倉氏が奥さんともうすぐ2歳になる息子を連れて遊びに来る。生まれてから一度も髪を切っていないというロン毛の息子がとてもブスかわいい。途中から「嘘八百」のシナリオを一緒に書かせてもらった今井雅子さんのご夫婦とそのご友人で映画電車オタクの地上げ屋さんも来て大いに飲んだ。こういう家飲みも本当に久しぶりだ。

 

10月13日

早朝、妻と散歩。最近は散歩がおっくうになり、週に2回くらいになってきている。数日前に辻村深月さんの「朝が来る」を読んだのだが、この小説を映画化した作品が間もなく公開される。一読、シナリオにするのはものすごく難しそうだと思った。

 

一体どうシナリオ化されるのだろうかということと、内容のことで妻と意見が合わずに散歩中にケンカになる。私は小説にやや違和感を覚える箇所があり、そのことを言うと、妻が「それはあんたの映画を観て、「あんな男はクソだ、不快」とか「あんなキレ妻、生理的に受け付けない」という感情移入できないと言うだけの感想を書いている人と同じだ!」とキレてきたのだ。そういう事ではない、と何度も説明したがどうしても二人とも感情的になって話が本筋からそれていき、最後はお互いの人格を否定し合うまでに。理解しあうのは難しい。

 

「あんたの感じたその違和感とやらを日記にさらしてみろ。そして世間と意見を交わしてみろ。そんな度胸もないくせに。私にばっかりピント外れの評論ぶちかますな」と言われた。確かにこれに限らず自分の意見を世間に問う勇気はない。勉強不足で無知蒙昧の大人に世の中は不寛容だからだ。ただし、自作で問うているとは思っている。

 

夜、横浜シネマリンにていまおかしんじ監督の「れいこいるか」鑑賞。ラスト近くのラブシーンがとても良かった。横浜在住の大崎 章監督とも久しぶりに会って中華屋さんで軽く飲んで帰った。大崎さんは相変わらず元気だった。

 

10月16日

午前中、連ドラの脚本執筆。右腕及び右肩甲骨激痛に変わる。寝ている間に鉛のゴルフボールを肩甲骨の裏に埋め込まれたみたいな違和感がある。夕方、息子を格闘技教室に迎えに行く。私はまったく気づかなかったが、どうやら上級生にイジメられている雰囲気を妻が察知し、「お前もたまには間近で子どもの様子を見て来い」と言われたためだ。

 

久々に見に行くと妻の言う通り息子は上級生から執拗にいじられていた。当たり前だが自分の息子が思いっきりコケにされている姿を見るのは辛いものがあった。そして息子もそんなことはないかのように明るく振舞う。辞めてもいいぞ、他に教室はあるからと言うと「カンフーマスターになりたいからやめない」(カンフーは習っていないが)と言う。よくよく話すとコケにされていることをあまり自覚していないようだ。

 

格闘技は私と一緒にジャッキー・チェンやブルース・リーの映画を観ていて、唯一息子からやりたいと言い出したものだし、どうにか楽しい環境で続けられたらと願う。にしても自分からやりたいと言ったし、辞めないという割には家での努力は一切しない。

 

10月17日

熊本のⅮenkikanという映画館にて「喜劇 愛妻物語」のトークイベント。熊本は母の実家があったため、小中学生のころは夏休みになると一か月近く滞在していた。

 

Ⅾenkikanにもまだ電気館だったころに従兄と一緒に何度も行ったことがあり、「フルメタル・ジャケット」や「エルム街の悪夢3/惨劇の館」など観た。前作「14の夜」のときもトークイベントをさせていただいたし思い出深い映画館だ。

 

上映後に劇場に入った瞬間に、お客さんの反応は良かったんだなということが雰囲気で分かった。私は「喜劇 愛妻物語」を万人が楽しめる艶笑話のつもりで作ったのだが、公開後は思いのほか賛否両論だ。この夫婦はダメだ。やってることが犯罪だ。子どもの前での喧嘩は虐待だ、セックスの求め方が気色悪いなどという感想もとても多い。

 

今日は質疑応答も盛り上がり、お客さんと直接対話できるということはやはりとても幸福な時間なのだなと実感した。

 

夜、21時くらいに帰宅すると、妻とママ友が酒瓶に囲まれてひっくり返って爆睡していた。子ども4人はゲームしたり、YouTubeを見ていたり、マンガ読んでいたりかなり伸び伸びくつろいでいた。平和な風景だなあと思いつつ、妻が起きる前にそそくさとマッサージに行った。

↑これでもかと顔をくっつけて、一つのiPadを見ている男児達。基本的に身動きしない。虫かごのなかのヤモリ数匹は家の中を脱走。その中で爆睡していた自分を呪う(by妻)

 

10月18日

最悪な日になった。

 

朝から息子と妻はダンス教室に行き、私は近くの喫茶店で仕事。12時半に妻・息子と待ち合わせして、原宿駅の織田フィールドでやっている娘の陸上クラブの練習に向かう。いつもは一人で往復している娘だが、ものすごい反抗期ながらも、かまちょアピールするので、今日は久しぶりに天気も良かったので3人で娘の練習を遊びがてらに見に行き、帰りに夕飯でも食べて帰宅しようという、平和家族やろうぜという日にしたのだ。

 

早めに原宿に到着したため、8年ぶりに明治神宮へ(息子が妻の腹に居た時、あまりに仕事がなかった為、清正井に来た時以来だ)。厳かな空気に身が清められてひたすら祈る。

 

↑夫と同じフォルムで息子も祈っていた。何かにつけ、すぐに本気の神頼みするところは本当に瓜二つで腹立たしい(by妻)

 

織田フィールドに到着すると、フィールドの前あたりで同じ袴をきた女子高校生が50人位舞の練習をしていた(幹部に男子が二人いた気がする)。この子たちは夏くらいからよく見かけるが、部活なのだろうか? 不思議なダンスだ。

 

それを見てテンションのあがった息子が「お姫様だっこグルグルして!」と何度もせがむので仕方なくやるが、年を取って三半規管が異常にダメになってしまった私は10回回転すると吐きそうになる。妻も交代でやったが、同じような感じだ。

 

あと30分で娘の練習も終わる時間になったころから息子と妻で戦いごっこが始まった。私は携帯をいじっていたのだが、なんだか楽しそうだし、私だけのけ者の気分になったのでその闘いごっこに乱入。すると妻と息子が組んで私を攻撃してきた。妻のけっこう痛いパンチなどは笑って受けてやっていたのだが、調子に乗って放ってきたミドルキックは思いのほか痛く、二発目のキックの足を掴んだら、バランスを崩し妻が倒れてしまい、運悪く後頭部をデコボコのコンクリートにぶつけた。「ゴッ」と鈍い音と共に妻は「あっ」と低い声を発しそのまま頭を抱えて動かなくなった。ヤバいとは思ったが、周囲がわりと驚きの視線を向けてきていたので、「なんでもありませんよ、大丈夫ですよ~」とアピールするために、息子に「今だやれ!」と言うと、息子は妻に乗りかかって笑いながらパンチ。

 

「イテェんだよ!」と妻は完ギレして息子を突き飛ばす。突き飛ばされた息子はキョトン。いつの間にか練習の終わっていた娘は少し離れたところから不機嫌極まりない表情で我々を見ている。踊っていた女子高校生たちや遊んでいた家族連れの方たちもざわざわしてこっちを見ているのがわかる。

 

私は視線に耐えられず、いそいそと「起きて向こうのベンチで休みなよ」と言うが、妻は横になったままだ。息子は本気で心配しだすし、娘は不機嫌だし、最悪だと思っていると、妻が「お前、後頭部触ってみろ」と尋常じゃない低い声を発す。触るとかなりでかいタンコブができていてギョッとしたところに娘が近づいてきて「ねえ、いい加減にしてよ。恥ずかしいから私先帰る」と言うと、妻が「勝手に帰れ、こっちはお前のオヤジに殺されそうになってそれどころじゃねえんだよ!」と怒鳴ると、「殺されてないじゃん、何言ってんの」と吐き捨てて帰ってしまった。

 

私はとにかくこの場から去りたいのと、これは病院に行ったほうがいいと思うのと、これで今晩の外食はないなと思うのと色んな感情が混ざり合ってどうすればいいのかわからなくなった。

 

妻はその後、公衆トイレに入ってなかなか出てこなくなり、息子に見に行かせると、ハンカチで冷やしながら恐ろしい形相で出てきて、「一人で病院行く。お前とはいたくない」と私に言い、息子には「人の足を取るとか危ないことしちゃダメだよ。一歩間違えば死ぬからね。ママが死んだら警察の人にパパが殺したって言うんだよ」と先に蹴ってきたくせに言う。そして一人で負のオーラを背負いまくり行ってしまった。

 

息子と家に戻ると娘はゲームをしていた。一応妻に「病院どうだった?」とLINEすると、「DV野郎のいる家には帰りたくない」とだけ返信が来て、この日は帰ってこなかった。

 

10月19日

朝お迎えに来たM君に息子が「昨日パパとママがケンカしてママが血だらけになったんだぜ! だからママ今日いねえの!」とはしゃいで報告。M君が「まじかよ! すげーじゃん!」とめちゃくちゃうれしそうに言った。今日は妻が私も関係している仕事の打ち合わせに行くのだが(私は行けない)、まあ約束をすっぽかすことはないだろうと思いつつも昨日のあの怒りっぷりを見ると万が一ぶっちぎるということも考えられて心配だった。が、その仕事のグループLINEに別の人から報告があり、やはり妻は打ち合わせには行ったようだ。死んでなくてとりあえずホッとする。

 

夜になっても妻は帰ってこないので、ホッとしつつも、こちらも沸々と怒りが湧いてきて、娘息子を引き連れ近所のステーキ屋に行った。ここはちょっとお高めなので子どもの誕生日とか、何かの腹いせとかにしか行かないのだが、今日は腹いせだ。和牛サーロイン250gと牛のたたき(L)を私は怒りに任せて腹に流し込み、娘は300gのステーキをバクバク食い、息子はハンバーグ300gを食べた。ここの肉はいつ食べてもうまい! 元気が出た!「ママに言うなよ」と一応念押しすると、もう子どもたちはすっかり理解しており、「言うわけないじゃん。怒り狂うでしょ」と言った。

 

そして、今晩も妻は帰宅せず。ムカつきながらもまさか本気で離婚を考えているのか? と思うと少々不安になる。「愛妻物語」なんてタイトルの映画を作ったくせに公開と同時に離婚など恥ずかしすぎる。いやもしかしたら逆にウケるか? などとくだらない思考に脳内を支配されながら、「コブラ会」を再生していたから内容がまったく頭に入ってこなかった。こういうときはもう何度も見て、細部まで頭に叩き込まれている「アウトレイジ」シリーズを流しておくに限る。

 

10月20日

本日も妻、帰宅せず。もしかしたら浮気かもしれぬとも思ってきてしまう。最近妻は加圧トレーニングなどにも通い始めたのだが、それは誰かのためなのか、もしくはそのトレーニングの先生と何かなってしまったのか? そんな8流エロドラマのようなこともあり得るかもしれないと思った。なので、一応、謝罪のLINEを送ったが、既読になる気配はなし。

 

10月21日

今日は妻と一緒にやっている高校の授業がある。日月火と帰ってこなかったが、もし今日、高校の授業まですっぽかしたらどうなるのか? 万が一を考えながら高校に向かうと、校門の前で妻が不機嫌極まりない顔をして立っていた。私は思わず頬がゆるんでしまい、「やっぱり来たんだ」とニタニタして言うと、妻は「気持ち悪い顔。虫唾が走るわ」と言った。その言い方に機嫌は完全に直っているのがわかる。なので「今日は軽く一杯行ける時間あるかな~」と言うと(授業後はたいてい飲みに行くのだ)「あるわけねーだろ、人殺し。喋りかけんな」と言うので、「ま、終わった後の気分でまた考えようか」と聞こえないふりをして流す。

 

今日から生徒たちは原稿用紙50~60枚程度の中編の脚本へ挑戦だ。まずは書きたいネタを数行のストーリーにするところから始めて、一人一人と面談をしながら進めていく。自分の家族の事や恋愛の事などプライベートをさらけ出しまくってくる彼らの話はメチャクチャ面白い。書きとおす技術があるかないかだけの違いだ。

↑一生懸命、講師然とふるまう様子。生徒さんにはきっと正体がバレつつあると思うが(by妻)

 

充実感のある授業を終え、「今日はいい授業だったねえ。お互いのねぎらいと仲直りに一杯飲んで行こうぜ」「絶対ヤダ!」などと話しながら歩いていると、「大下容子ワイド!スクランブル」のスタッフから街頭インタビューを受ける。「いつもサウナで見ています!」と言いたかったが、言えなかった。水道悪徳業者トラブルのことを知っているかと聞かれ、妻が「えー、なにそれー! ひどいー!」などともの凄くわざとらしいリアクションをして恥ずかしかった。絶対放送されないだろう。こういうことを私はすぐに口に出さなければ気が済まない性分なので、やんわりと妻を咎めると、当たり前だが不機嫌になり、やはり軽く一杯飲みには行けなかった。それにしても私はこういう街角インタビューのようなものに良く話しかけられる。インタビューではないが、以前銭湯でチコちゃんにも出たことがある。あまりこういうところで運は使いたくない。

 

10月22日

午前中、連ドラの脚本執筆。右腕及び右肩甲骨激痛し、その後サウナ。昨日取材された「大下容子ワイド!スクランブル」に映ったかどうか確認したかったが、12時になってもそのコーナーにならないので、帰宅。放映されたのかどうかものすごく気になるが、確認のしようはない。どうして録画しなかったのか悔まれる。

 

夕方、今日は息子の療育の日のため、学校終わったら超ダッシュで帰って来いよと朝言ったのに、なかなか帰ってこない。しびれを切らして迎えに出ると、通学路の途中にある八百屋でそこの店主と立ち話をしていた。この八百屋の親父さんは話好きな上に、余計で失礼な話も多く、例えば何か野菜を買いに行くと「あー今年のそれはまずい。出来よくない」などと言ったりするし、野菜のウンチクも長い。近所でもちょっとした名物おじさんだ。近所広しといえどもこの親父と話が合うのはうちの息子以外いないと思われ、よくここに立ち寄っている。

 

「何してんだ早く行くぞ!」と息子の首根っこ捕まえて八百屋から引きずりだしたところ、なんか臭い。そして息子自体が全体的に湿っているような気がするも自転車の荷台に乗せたところ、担任の先生から着信。今日は地域授業で朝からどこかの公園に行ったらしいのだが、沼の鯉だか亀だかが気になって気づいたら沼に入っていたとのこと。

 

電話を切ったあと息子に「沼入ったの?」と聞くと息子はドヤ顔で「沼入ったの学年で俺だけだから!」と誇らしげに言ったあと、「すごい? すごい? ねえすごい?」と百回くらい聞いてきたので、「すごい、すごい」と二回くらい返事をした。小2だと進んで沼に入る子はいないだろうに。

 

10月24日

娘の運動会。息子同様に「今年は足を折って運動不足だから、多分勝てない」と数日前から言い訳をしていた。息子と違って娘は足が速い。小学生のころは最終組で同学年の足の速い男子たちと走っても5年生まで1位だった。6年では2位になってしまったが。

 

中学になると、別の小学校からガーナ人の父を持つかなり運動能力の高い子が来て、その子とライバルらしいのだ。

 

今日は東京国際映画祭のチケット発売日であり、どうしても「ノマドランド」が見たく、スマホと運動会を交互に見ていた。「ノマドランド」は瞬殺だったが、何とかゲットした。

 

普段娘は100や200の短距離が得意なのだが、なぜか800m走に出た。600mまでは2位のポジションをキープしていたのだが、ラスト1周で体力が尽き、顎も出てかなり苦しそうな走りっぷりで見ている私まで苦しくなった。結果そのライバルの子にも他の子にも負けてしまい、なおかつ運動会後にこの夏折った部分を痛がるので病院に連れて行ったところ、再び2週間の運動禁止を言われてしまった。

 

私は落ち込んだが、娘はたいして落ち込んでいなかった。「ね、だから私負けたんだよ。痛かったもん」と言った。その諦めの良さにまた腹がたった。

 

 

【妻の1枚】

 

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【プロフィール】

足立 紳(あだち・しん)

1972年鳥取県生まれ。日本映画学校卒業後、相米慎二監督に師事。助監督、演劇活動を経てシナリオを書き始め、第1回「松田優作賞」受賞作「百円の恋」が2014年映画化される。同作にて、第17回シナリオ作家協会「菊島隆三賞」、第39回日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞。ほか脚本担当作品として第38回創作テレビドラマ大賞受賞作品「佐知とマユ」(第4回「市川森一脚本賞」受賞)「嘘八百」「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」「こどもしょくどう」など多数。『14の夜』で映画監督デビューも果たす。監督、原作、脚本を手がける『喜劇 愛妻物語』が公開中。著書に『喜劇 愛妻物語』『14の夜』『弱虫日記』などがある。最新刊は『それでも俺は、妻としたい』。

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