次世代のYouTubeクリエイターを発掘、支援を目的にしたプ
(構成・撮影:丸山剛史/執筆:kitsune)
【Harry I.】
自暴自棄からの復活
――まずは、どのようなチャンネルなのか概要を教えてください。
主に「アウトドア」関連の動画を配信しているチャンネルです。特に、最近流行している「ブッシュクラフト」的なアウトドアの情報を多く発信しています。ひとりキャンプをしている時の情景を編集してアップしたり、キャンプにおけるテクニックや自分で気に入った道具、アイテムのレビュー動画などを総合的に配信していますね。
――ブッシュクラフトとはどういったものなのでしょうか?
要は、なるべく少ない道具で森へ行き、自然にあるものを材料にして行うアウトドアスタイルのことです。もともとは北欧が発祥で、現地の生活の基盤を築く知恵や技術のことでした。日本では、長く山に籠もることは難しいので、森に数日宿泊して、自然に近い環境で過ごすことが、ブッシュクラフトにあたります。キャンプの中でも、いわゆるファミリーキャンプやグランピングといった形と違って、一人で行ってなるべく〝地味〟にやるものなんです(笑)。
――harryさんはいつごろからブッシュクラフトを実践しているんですか?
キャンプ自体は中学生、高校生のころから面白がって挑戦してはいたんですが、本格的には大学生のころからですね。アメリカのオレゴンに短期留学したときに、ホームステイ先のご主人からいろいろと教えてもらったんです。当時はまだブッシュクラフトって言葉は、「サバイバルテクニック」と言っていました(笑)。しかし、帰国して社会人になって、結婚して、キャンプの世界からは一時離れていたんですよ。そのうちに、15、6年前からまたひとりで山に行くようになったんです。大学時代に教わったテクニックが大いに役立って、改めて面白さを感じました。
――キャンプの世界から離れて、もう一度始めようと思ったきっかけは何だったんですか?
30歳のころに自営業を始めたんです。しかし、なかなか辛いことが多く、バブル崩壊の時期も重なって、だんだん事業が厳しくなってきまして。あのころは正直、自暴自棄になっていましたね。それで、死に場所を探すような勢いで山に行ったんです。キャンプという体で行ったのですが、実際には人目につかない森の奥へ奥へと入って、さてどこにしようかと……。
しかし、そうやって自然の中で過ごしていると、新たなアイディアが浮かんできたり、もう少しできるんじゃないかという気分になったり、森に癒されて気持ちが変化してきたんです。さらに、それこそサバイバルではないですが、二晩三晩を森の中で過ごし切ると達成感を感じるんですよね。「よくやったな」と自分で自分を褒めてあげたくなるんです。そうすると、また家に帰ってみるか、となりまして。そこから何度か山に行くようになりました。
ソロキャンプブームで視聴者層に広がりが
――YouTubeに動画投稿し始めたきっかけは?
4年前にアウトドア系のウェブマガジンで記事を書き始めたんです。その時に、ノウハウやテクニックは図解だけだと伝えきれないと思い、短い動画をYouTubeにアップするようになりました。それがきっかけですね。アカウント自体は10年以上前からあったのですが、実際に動画投稿を始めたのはそこから。現在は月に2回程度、動画を上げています。
――再生数が高い動画は何ですか?
2019年にアップした「ロープの結び方」の動画です。キャンプで使うロープの結び方について、問い合わせがよく来ていたので、便利な結び方をいくつかピックアップして動画にまとめました。需要が高かったようです。
■簡単! キャンプで使うロープの結び方
――各動画に英訳がついていますが、どういった意図があるのでしょうか?
最初はつけていなかったんですが、外国の方からのコメントがくるようになったので。海外からの視聴者さんは、アナリティクスでは10%未満ではあるのですが、中には熱烈なファンになって頂いた方もいまして(笑)。そこから、毎回入れるようにしているんです。
――最近「ソロキャンプ」がブームになっていますが、いかがでしょうか?」
家族でテントを立てたり、バーベキューしたりといった一般的なキャンプの認識とは違い、ひとりでキャンプするのが「かっこいい」という雰囲気で、注目が集まっているかと思います。最近はお笑い芸人のヒロシさんがキャンプ動画をアップされていて、バラエティ番組でも頻繁に取り上げられるようになりました。あとアニメの『ゆるキャン』の影響なども大きいと思いますね。僕のチャンネルも視聴者さんがここ半年で一気に増えました。
――どのような層の視聴者が多いですか?
やはり40~50代の男性が圧倒的に多いです。しかし、最近は若い方がどんどん増えています。女性も増加していて、「ソロキャンプに憧れている」というコメントをよくもらうようになりました。視聴者層が大幅に広がっていると思います。
――視聴者の方とは、何かコミュニケーションを取っていますか?
基本的にコメント欄でやりとりしています。他にも、InstagramやFacebookからダイレクトメッセージをいただくこともあります。どんな道具を使っているんですか、といった質問が多いですね。すごい方だと、全部私の道具を真似してキャンプに行っているファンの方がいますよ(笑)。ありがたいです。
――今後、ファンの方に向けてやりたいことはありますか?
「YouTube NextUp 」のクリエイターキャンプで、ライブ配信のやり方などを教えてもらいました。そこでライブ配信をやっているYouTuberの方のご苦労や工夫、注意点なども聞けましたので、キャンプ中の配信などもやってみたいですね。ただ、キャンプ場は限られてしまいますね。電波の問題がありますので(笑)。
BGMの重要性
――動画を作るうえでのこだわりや工夫している点はありますか?
動画ひとつひとつで、何かを伝えたい、メッセージ性を持たせたい、とは考えていますね。また、レビューやテクニックの解説動画では、いかに分かりやすく見せるかを考えています。ただ、キャンプ中の動画に関しては、何かを伝えるのは難しいなとは感じます。感じ方は人それぞれですし、キャンプに行ってまで説教されたくないと思うので(笑)。視聴者の多様性を重んじて、自由に何かを感じて欲しいとは思いますね。
あとは、BGMにこだわっていますね。音楽ひとつで印象はがらりと変わりますので。のんべんだらりと流すのではなく、ポイントで流すようにしています。キャンプというとカントリー調な音楽をイメージしやすいですが、固定観念にとらわれずロックやブルース、ゲーム音楽なんかも使うようにしていますね。また、「YouTube NextUp 」ではメンターの方から「動画に自然の音が入っているので、それを生かすのもいいですよね」といわれたので、今後実践していきたいですね。
――機材はどういったものを使用していますか?
まず、カメラはキヤノンの「EOS RP」です。カメラ単体としては、良い機種がいろいろあるんですが、自撮りでVlog的に撮影しますので、液晶モニターはバリアングルなところが便利なんです。それでいて、モニターでフォーカスや露出も調整できるのが気に入ってますね。マイクは10個くらい試して、「RODE VideoMic Pro+」にしています。きれいに音を拾ってくれますよ。また、「NextUp」の資金で同じくRODEの「Wireless GO」も購入しましたが、自分の声を一定して同じレベルで拾ってくれるので、調節が楽ですね。あとは、アプリで制御できるRGBのビデオライトが役に立ってます。
――「YouTube NextUp 」のクリエイターキャンプはいかがでしたか?
コンテストには初めは気軽な気持ちで応募したのですが、ファイナリストに選ばれてキャンプに参加するうちにだんだん事の重大さを把握していきました(笑)。メンバーの中では私が最年長で、若い方と動画のコラボをしたり、意見を聞いたりして、固くなった頭を柔らかくしてもらえて非常にありがたい体験でしたね。
――どんなことが勉強になりましたか?
クリエイターキャンプでは、メンターさんにいろいろご指導して頂き大変勉強になりましたね。第三者的視点、そして同時にプロの視点で教えて頂き、自分にはない映像の見方を学ぶことができました。また、話し方の講座も参考になりました。どうしても情報を詰め込みがちなのですが、メリハリをつけて話すのが大切なんだと。あとは、プリプロダクションの必要性についてですね。今まで私は行き当たりばったりの撮影が多かったのですが、やはり事前準備をどれだけやるかによって、撮影の効率や動画の尺もかなり変わってくることに気づけました。より「伝える力」が出てくるんだと実感しましたね。
実際にキャンプに行くことで、初めて「学び」が生まれる
――今回、『YouTube NextUp 2020』は「学び」を大きなテーマに掲げていますが、〝学びの大切さ〟についてご自身の経験やお考えは何かありますか?
学びというのは私の中では「経験」だと思います。自然の中で生活していると、マニュアル通りには進まないことがほとんどなんです。天候や突発的な事態、自分の体調や心理的な要因によって同じ場所でも全く違った場所になってしまうことが多々あります。しかし、違ったコンディション、状況での経験を積み重ねていくことによって、不測の事態でも対応できるようになる。本当の意味での「学び」が生きてくると思うんです。さらに、カラダで経験しておくことで、臨機応変に物事に対応できたり、危険を避けることができる。これは、仕事面や人間関係にも生かされることが非常に多いです。ですから、動画を見たあとに、実際にキャンプに行くことで、初めて「学び」が生まれますので、そのきっかけになればいいかなと思いますね。
――最後に、今後チャレンジしたいことや具体的な目標があれば教えてください。
まずは、キャンプのロケーションを広げていきたいと思います。コロナの時期ではありますが、収束が見られれば、海外でのロケーションに挑戦してみたいですね。動画としては、クオリティアップを目指して、より視聴者に臨場感が伝わる動画制作をしていきたいです。4K動画にも対応していきたいです。そして、具体的には登録者数100万人を達成したいですね! 感動や学びの指数として、100万人を目指していきたいです。
――ありがとうございました!