ライフスタイル
2023/1/24 20:30

ミニチュア職人は、伝統工芸職人だ! 玉袋筋太郎が特殊造形・美術制作の世界に迫る!!

〜玉袋筋太郎の万事往来
第23回マーブリング・プランニング

 

全日本スナック連盟会長を務める“玉ちゃん”こと玉袋筋太郎が、新旧の日本文化の担い手に話を聞きに行く連載企画。第23回目のゲストは、ミニチュアを使用した特殊撮影を中心に、映像・展示作品などの美術制作を一手に請け負うマーブリンググループから、「マーブリング・プランニング」の美術デザイナー・木場太郎さんと、代表取締役・岩崎敏子さんが登場。日本が誇るミニチュア特撮の技術を目の当たりにして玉ちゃんも感動の嵐!

 

【公式サイト:https://www.marbling-grp.com/

 

(構成・撮影:丸山剛史/執筆:猪口貴裕)

●美術デザイナー・木場太郎さん(左)、代表取締役・岩崎敏子さん(右)

 

古くて傷だらけの建物が重なっていくと、立体感やリアリティが出てくる

玉袋 (取材場所に入るなりセッティングしてあったジオラマを目の当たりにして目を輝かせながら)うわ! すげえ!!

 

木場 ぐちゃぐちゃに置いてるだけに見えると思いますが、撮影現場でカメラを置いてから成立するための飾りなんです。仮に今ここにスマホを固定すると……。

 

玉袋 本当だ! ちゃんと街になってるよ。

 

木場 奥に東京タワーが見えて、あの隙間に人間が立ったら、巨大な何かがいる、みたいな。

 

玉袋 確かにこれ(スマホ)がなかったら、雑に置いてあるなって思ったんだけど、画角が入るとすごいな。実際の街のレイアウトじゃないですもんね。寸分違わず街を再現するっていう形じゃないんだな。

 

木場 街をリアルに再現することもあるんですけど、たとえば『ウルトラマン』シリーズだと、1日に30~40カットを撮る日もあるんです。いちいち時間をかけていたら成立しないから、こんな感じでガチャっとセッティングします。もちろん、いい加減な訳ではなく、いろいろ角度や距離、高さなどを替えたりして、街らしく見せるために考えていますけどね。いちいち計算していると終わらないので、絵を描く感覚と一緒です。

 

玉袋 ウルトラマンマニアはたくさんいると思うけど、ミニチュアマニアも絶対にいる訳でしょう。たとえば『ブレードランナー』(1982)にはTheYukon Hotelが何度も出てくるけど、何回も入れ替えて作ってるじゃないですか。そういうところに俺も注目しちゃうもんな。高校生の時に、『ブレードランナー』のオープニングに出てくるタイレル社本社ビルのミニチュアがPARCOに展示されていて、観に行った思い出があるよ。

 

木場 光ファイバーで点々と光るビルですよね。それで巨大に見せているという。

 

玉袋 そうそう。今はフルCGが普通だと思うけど、やっぱ違うよね。俺はこっちだな。

 

木場 そう言ってもらえると、作っている人間としてはうれしいですね。

 

玉袋 セッティングにはどれぐらい時間がかかるんですか?

 

木場 5~10分ですかね。5、6人でササッとやります。

 

玉袋 お、「玉袋筋太郎」と「GetNavi」の看板も作ってくれてるよ。いちいち、ありがたいね(笑)。これは感動した、俺もスマホで撮っておこう。

木場 ライティングしてもらったら、もっとドラマチックになりますけどね。ライティングってすごく大事なんです。たとえば、このミニチュアの建物の中に、アイランプっていうクリップが付いたタングステンの玉を入れるんです。光が強すぎないようにフィルターやトレーシングペーパーを貼って調整するんですけど。

 

玉袋 LEDの時代になってどうですか?

 

木場 すごく楽です。ガンガン使っています。LEDは何がいいって、電池も使えるところです。もちろんコードも使いますけど、手前でがちゃがちゃ動かす時は電池でやっちゃうんです。タングステンを入れると熱で溶けたりしたんですけど、電池はボルテージが低いので、それがないですし。しかも軽いし、安いしで、いいことづくめですね。

 

玉袋 雨を降らせる時はどうするんですか?

 

木場 どうしてもって時はやりますけど、建物の一部がふやけちゃうんです。だから全体に降らせるのではなくて、ミニチュアの手前に雨を降らせて、芝居をする人間にも雨を降らせて撮ることが多いですね。

 

玉袋 昼間のシーンと夜間のシーンではどっちがやりやすいですか。

 

木場 デイ(昼間)ですね。というのもナイター(夜間)になると、ライトのコードを入れる必要があります。1日1カットならいいけど、何カットも撮る時にコードを入れ替えるのはすごく大変なので、なるべくナイターのシーンは絞り込んで撮ります。

 

――ざっくり建物一つを作るのに、どれぐらいかかるんですか?

 

木場 1週間以上はかかりますね。ここにセッティングしているものを一から作るとなると大変ですよ。だから使いまわしで、中には10年以上使っているものもあります。窓が壊れたら修理して、色が剥がれたら塗り直しての繰り返しです。新しいのもいいんですけど、古くて傷だらけの建物が重なっていくと、立体感やリアリティが出てくるんですよね。それで深みも増していくんです。

 

玉袋 よく見ると、「これは何だ?」ってパーツもあるよね。この屋上に置いてあるパーツなんて、わざわざ一から作った訳じゃないでしょう?

木場 まさに会社の屋上に落っこちていたものを、そのまま屋上に置きました(笑)。

 

玉袋 『2001年宇宙の旅』(1968)なんかも、よく見ると宇宙船内にホームセンターに売っているような普通のダクトみたいなのがあるんだ。ああいうのを見つけるのが俺は好きなんだよね。『エイリアン』(1979)のノストロモ号や『エイリアン2』(1986)の医務室なんかも、日常にあるようなものを使ってるなって思った記憶がある。

 

木場 意外と弁当箱を使ってたりしますね。

 

玉袋 そうそう! 弁当箱でも妙にSFチックでかっこいいんだ。

 

木場 弁当箱をバーッと並べるだけでも、色が塗ってあったら分からないんですよ。

 

玉袋 街を壊したりもするじゃないですか。あれはどうしているんですか?

 

木場 壊す時は、別個にそれ用のものを作るんです。昔ながらのやり方ですと、石膏を水でぐじゃぐじゃに溶かして、壊れやすく作ったものに傷を入れて、そこに火薬を仕込んでもらって、ぶつかると同時にバーン! って破壊するんです。

 

玉袋 一発勝負だ。NGが出せないから大変ですよね。

 

木場 みんな集中してますから、意外とNGは出ないものなんです。

 

――マーブリングさんには、画期的な壊れ方をするビルがあり、それを唯一作れる職人さんがいるとお聞きしました。

 

岩崎 実際の現場で使ったことはないんですが、社内でいろいろな壊れ方を研究しようよという呼びかけがあって。ワイヤーの組み合わせを工夫して、みんなでワイヤーを一気に引くと、各階がバラバラに落ちて行く壊れ方をしたんです。そういう研究を好きな職人がいて、いろいろなバージョンを作っています。

 

『男たちの大和/YAMATO』の大和は当時の設計図を基に制作

玉袋 マーブリングさんの会社設立はいつなんですか?

 

岩崎 1972年に前身の「アースアート」を設立したので、2022年でちょうど50周年でした。

 

――設立当時から調布市国領町にあるんですか?

 

岩崎 世田谷区の砧、狛江市、現在の調布市と転々とはしているんですけど、今の場所になって40年近く経ちます。当時は全然道路も整備されていなくて。

 

玉袋 調布は撮影スタジオが近いから選んだんですかね?

 

木場 それが一番です。もともと円谷プロさんが砧にあって、先代の社長は会社設立前から円谷さんとお仕事をしていたんですよね。砧は東宝(スタジオ)もあるし、調布には日活(調布撮影所)もあるし。この辺は、うちみたいに古くから映像制作に関わっている会社が多いです。

 

――『ウルトラマン』シリーズには、いつごろから関わっているんですか?

 

木場 『ウルトラマンタロウ』や『ウルトラマンレオ』あたりからデザイナーとして入っていた人間がいて、怪獣のデザインもしていました。

 

玉袋 たかが30分の子ども番組って思う人もいるだろうけど、一つの作品にはスーツアクターもいれば、こういう造形を作る人や、背景を描く人もいて、すごい技術が結集しているんだよな。

 

――最近の『ウルトラマン』シリーズは2クールですか?

 

木場 大体そうですね。だから半年分です。撮影はもうちょっと長くかかりますね。全24回あったとしたら8か月ぐらい。ドラマパートと特撮パートは別々に撮りますけど、どうしても特撮パートは時間がかかります。

 

玉袋 マーブリングさんが手がけた、最初に大規模なミニチュアを作った映画は何ですか?

 

岩崎 『夜叉ヶ池』(1979)です。

 

――去年、4Kデジタルリマスター版のBlu-rayが出ましたよね。

 

岩崎 当時としては、ものすごい額の予算を特撮にかけて、何トンもの巨大な鉄の入れ物を作って、そこに水を貯めて、街を流したんです。

 

木場 昔の映画は規模が大きい作品が多かったみたいですね。今は時間も予算も限られてくるので、なかなか規模が大きいのができないんですよね。

 

玉袋 木場さんは、マーブリングさんに入ってどれぐらいですか?

 

木場 約20年です。今50歳なんで、会社と同じ年なんですよ(笑)。

 

玉袋 もともと造形が好きだったから入社したんですか?

 

木場 芸術系の学校は出たんですけど、なんで入っちゃったんでしょうね(笑)。たまたま九州で先代の社長に出会って、東京に出てきた時に、「来ないか?」と誘ってもらって今に至ります。

 

岩崎 彼は美術デザイナーになる前に、『山のあなた〜徳市の恋〜』(2008年)という映画でミニチュアを作ったんですけど、アメリカに「ビジュアルエフェクトソサエティ」っていう裏方の人間たちによる裏方の人間たちのためのアカデミー賞みたいな賞があって、それに日本の作品なのに応募したんです。そしたら、ちゃんとノミネートしてくれたんですよ。サイズの大きいものだったんですが、映像で見ていただくと本当にミニチュアって分からないんですよ。

 

玉袋 子どものころからジオラマなんか作ってたんですか?

 

木場 いや、全然です。むしろ子どものころは見たことがなかったぐらいですね。仕事を通して技術を覚えていったんです。

 

玉袋 ジオラマというと、俺なんか鉄道模型を思い出すけど。

 

木場 うちでも鉄道ジオラマはよく作っていますよ。

 

岩崎 どうしても特撮がフィーチャーされがちなんですけど、いろいろな造形だったり、鉄道ジオラマだったり、何でも幅広くやらせていただいています。展示物だと小田急電鉄さんのロマンスカーミュージアムで、小田急線沿いの街を作っています。

 

玉袋 新しいビルができると、エントランスにミニチュアが置いてあったりするよね。

 

木場 そういうものも制作します。

 

玉袋 そうなんだ。そっちは、さっき見せてもらったミニチュアと違って、縮小して寸分違わず作る訳でしょう。

 

木場 そうです。だから大変ですよ。

 

玉袋 前に取材で森ビルが作った東京都の模型を見させてもらったんだけど、あれもすごかったもんな。

 

岩崎 森ビルさんの模型は今も進行中で、どんどん足されているはずですよ。

 

――映像と、それ以外のお仕事の割合ってどれぐらいなんですか?

 

岩崎 半々ぐらいですね。一時期よりも映像の仕事が少なくなってるんですよね。ミニチュアを使うこと自体が少なくなっていますから。

 

――『男たちの大和/YAMATO』(2005)に出てくる戦艦・大和もマーブリングさんが手がけたんですよね。

 

木場 映画版の大和は私が作ったんですけど8メートルぐらいあります。呉の大和ミュージアム(呉市海事歴史科学館)に置いてある大和もマーブリングが作っていて、こちらは違う者が手がけたんですが、その大和は26.3メートルあるんです。

 

玉袋 もう実際の船を作っているのと一緒だよ(笑)。

 

木場 実際、下は本物の船舶なんです。海から運ばないといけないから、そうしないとダメなんですよね。

 

玉袋 最高だね。ワクワクしちゃうよ。

 

岩崎 大和繋がりで言うと、『SPACE BATTLESHIP ヤマト』(2010)のイベントを赤坂サカスで開催した時に、うちが宇宙戦艦ヤマトを制作して、赤坂サカス前に展示させていただいたんです。

 

玉袋 キムタク(木村拓哉)が古代進を演じた映画だな。

 

――イベントだけのために作ったんですか?

 

木場 そうなんです。それも20メートルぐらいと大きかったです。

 

玉袋 ここのファクトリーじゃ作れないですよね。

 

木場 遠方に倉庫を借りて作りました。もうミニチュアじゃないですよね(笑)。

 

玉袋 何人ぐらいで作ったんですか?

 

木場 この時は10人ぐらいで、3か月はかかったと思います。ただ『男たちの大和/YAMATO』の大和よりは、コストダウンな作り方なんですよ。発泡スチロールがベースだったので、強い衝撃を与えると壊れちゃうんです。

 

玉袋 (当時作成した宇宙戦艦ヤマトの写真を見せてもらって)発泡スチロールには見えないね。ものすごい完成度だよ。マニアで譲ってくれって人もいるでしょう?

 

木場 いますけど、これは大き過ぎて運ぶことができない。確か現場でパーツをくっつけちゃったはずです。だから解体して捨てるしかないんです。

 

玉袋 その儚さもいいよね。花火みたいというか。ちなみに常設で展示しているミニチュアって埃がくっついちゃったりするじゃない。それってどうするんですか?

 

木場 たまにメンテナンスに行って、掃除するんです。大和ミュージアムにも年に一回は行ってます。やっぱり作った人じゃないと、構造が分からないですし、大砲がいっぱいありますから、周りを歩いただけでボキッと折れる可能性もありますしね。

 

玉袋 大和は当時の設計図から作ったんですか?

 

木場 ずっと大和の研究をしてらっしゃる方がいて、その方に資料を借りて、そこから設計図を起こしました。ただ私の作った映画版の大和は大砲のプラモデルを100個ぐらい買って。もちろん主砲は作らないといけないんですけど、細々した大砲はそれで代用しました。大和ミュージアムの大和は、そこからブラッシュアップして一から作っているので、さらにクオリティが高くなっています。

 

玉袋 有名なパイプオルガン職人が趣味でミニチュアの大和を作っていて、見せてもらったことがあるんだけど、緻密に作ってあって感心したんだ。でも、木場さんの作った大和は、ある意味、緻密に見せなきゃいけないんだけど大雑把なところも必要でしょう。

 

木場 そうですね。

 

玉袋 そこのさじ加減がプロなんだよね。

 

木場 映像にした時の見え方で考えますからね。おそらくパイプオルガン職人の方は細部までこだわって完璧に再現しているんでしょうけど、極端な話、僕らの作った大和は見えない部分はいらないんです(笑)。

 

ミニチュア好きの若い世代は増えている

――海外も日本みたいに、今もミニチュア文化ってあるんですか?

 

木場 先ほどお話しに出た『山のあなた〜徳市の恋〜』あたりで、ほぼ消滅していると思います。

 

玉袋 商売あがったりじゃないですか。

 

岩崎 そうなんです!

 

木場 円谷プロ様々ですよ(笑)。ずっと現役で、今も映像でミニチュアをやっているのは、円谷プロと東映さんぐらいだと思います。たまにコマーシャルでミニチュアをやりたいって依頼はありますけどね。

 

玉袋 海外からの発注はあるんですか?

 

岩崎 海外は昔からないですね。

 

玉袋 さっき話に出た『ブレードランナー』や『2001年宇宙の旅』、スピルバーグで言えば『未知との遭遇』(1977)のマザーシップとか、『1941』(1979)の観覧車とかさ、今観ても面白いのはミニチュアだからなんだよね。やっぱCGじゃ面白くないんだよな。

 

岩崎 うちの会社が設立した70年代は、『大地震』(1974)を始め、海外でもたくさんミニチュアを使っているんですよね。

 

玉袋 パニック映画全盛期だからね。『タワーリング・インフェルノ』(1974)や『ポセイドン・アドベンチャー』(1972年)なんかもそうだ。

 

岩崎 最近だとクリストファー・ノーラン監督がミニチュア好きで、『インターステラー』(2014)でもミニチュアを使っていますけどね。

 

玉袋 マーブリングさんは、若い職人は育ってるんですか?

 

木場 徐々にですけど育ってます。ただ数は少ないですね。応募数は多いんですけど、長持ちする人が少ない。しんどい仕事ではありますからね。それでも今はずいぶんよくなってきてるんです。以前は平気で夜通しやって、それが連日みたいなこともあったけど、それを今はなしにして、最後のほうだけ徹夜しようか、みたいな。それにしても、しんどいらしいです。

 

玉袋 そうして苦労して作り上げたミニチュアだから、本番でモニター越しに見た時、「やった!」っていう気持ち良さがある訳でしょう?

 

木場 気持ちいいですね。それが、やりがいですから。

 

――社員数はどれぐらいなんですか?

 

岩崎 今は25、6名ですかね。社員はそのぐらいで、あとはプロジェクトに応じて、外部のスタッフに集まっていただいています。

 

――映像班と、それ以外の班みたいに、セクションは分けているんですか?

 

岩崎 基本は全員どれもこなせるんですけど、最近は社内で精鋭化しようということで、「マーブリング・プランニング」(造形・デザイン・企画・美術進行)、「マーブリングファインアーツ」(模型・木工)で分けています。チーム間で助け合っていますけどね。

 

玉袋 「ここのミニチュアを直せ」みたいな感じで、うるさい監督もいますか?

 

木場 監督が細かいことを言えるレベルじゃないぐらい、現場は慌ただしいんですよ。僕らはそれを邪魔しないように確実に置いていけば、現場が止まることもないんです。コマーシャルだったら、すごくこだわって、ミリ単位でずらしたりもしますけど、一日に何十カットも撮るのに、1個1個のセットを細かく修整できないですからね。

 

玉袋 いわば預けられる訳だね。

 

木場 そうです。ちゃんと考えて、やるべきことをやって違いを見せていく。そうしないと終わらないですから。予算をかけた大作映画なら時間もかけられるでしょうけど、『ウルトラマン』のようなテレビ番組は時間との勝負ですからね。

 

玉袋 期間と予算が決まってる訳だしね。そういう厳しい条件でも、ちゃんと仕事をしているから、子どものころに見た作品でもミニチュアがしっかりと記憶に残っているんだよね。すごい仕事ですよ。

 

岩崎 そうおっしゃっていただけるとうれしいです。『ウルトラマン』だと、どうしてもウルトラマンや巨大怪獣に注目が集まりますけど、特殊撮影のすごさも伝播してほしいという気持ちがあるんです。

 

玉袋 見たら伝わりますよ。確かに子どものころは何気なく見ていても、年を重ねていくと、「お! この技術すげーな」って思う訳じゃない。技術の素晴らしさをお父さんとお母さんが教えなきゃ駄目だな。そうしたらミニチュアを作ってみたいって若者も増えるだろうし。

 

岩崎 だといいんですけどね。

 

木場 今もミニチュア好きの若い人たちは多いんです。求人をかけると、僕らよりも知識がある人たちがいっぱい来ますから。ただ好きなほうがいい場合と、僕みたいに知らないほうが意外に良かったりする時もあるので、どちらがいいとは言えないですが、確実に間口が広がって入りやすくなっていると思います。ただ、なかなか長続きしてくれないから悩んでいます(笑)。それはミニチュアに限らず、この世界で古くからやっている会社さんは、どこもそうみたいです。

 

玉袋 伝統工芸職人として東京都が認めなきゃ駄目だよ。ミニチュア職人は、伝統工芸職人であるってことを発信したほうがいいな。俺もここから発信しますよ。今日、スマホ越しにミニチュアを見せてもらった時の感動は、それぐらいすごかったよ。

 

木場 少数ながらも若い人たちは育っていますけど、この仕事自体の需要が今後もあるかというと怪しいですからね。どうしてもCGのほうに流れていますから。

 

玉袋 同じ風景をCGで作るのと、ミニチュアで作るのでは、どっちがお値段はかかるんですか?

 

木場 クオリティにもよりますが、まだまだCGのほうが全然高いんですよ。だからミニチュアに目を向ける人もいると思います。個人的にはミニチュアとCGを上手くミックスさせていくことが大切だと感じていて、『ウルトラマン』はその辺を上手いことやっていますし、円谷さんはミニチュアを大切にしてくれています。

 

岩崎 ミストウォーカーという会社で、『ファイナルファンタジー』シリーズの生みの親である坂口博信さんが『FANTASIAN』という携帯用の新作ロールプレイングゲームを作られたんですけど、背景グラフィックの多くは弊社が作ったジオラマなんです。

 

木場 ジオラマをCGに取り込んでいるんです。『ALWAYS 三丁目の夕日』(2005)もそれに近いことをやっているんですけど、そこに可能性を感じていますね。

 

――2022年11月1日に開設したばかりのジブリパークにも関わっているんですよね。

 

岩崎 そうなんです。『天空の城ラピュタ』(1986)の飛行艇と、『借りぐらしのアリエッティ』(2010)エリアの「床下の家」でも多くのアイテムを弊社が作りました。

 

玉袋 ジブリパークは空想の世界だけど、本物の造形と両方できるのがすごいよ。

 

岩崎 ジブリパークは2Dから立体に起こすところがデザイナー陣の腕の見せ所なんです。ジブリさんが他の会社さんと違うところは、たとえばディズニーだと設計図が届いて、デザインから色指定まで言われた通りにやらないといけないんです。ジブリさんはアニメの絵を切り取って、もちろん厳しく監修は入りますが、自由にやってくださいというスタンスなので、 それぞれの人たちの特徴が出ますし、作り手たちは楽しいんですよ。

 

玉袋 ジブリパークでマーブリングさんの作品を見て、自分も作ってみたいって憧れる子どももいるだろうしね。国が「クールジャパン」とか安っぽく言ってるよりも、全然こっちのほうがクリエイティブだし、世界に誇れる技術ですよ。

 

――最後に今後の抱負をお聞かせください。

 

岩崎 海外をターゲットにしていきたいと考えています。日本のキャラクターは世界的に人気がありますし、特にジブリさんは海外人気も高くて、中国でもプロジェクトを進めさせていただいているんです。以前、カナダでジブリさんとは別のプロジェクトに携わった時は、現地に行って工房をたくさん見て回って、そこで気に入った職人さんに声をかけて、臨時の工房を作ったんです。そうすると現地受けしやすいニュアンスに変わって、ローカライズされるんですよね。輸出入の手続きもいらないし、メンテナンスも現地の人間が対応できるので、すごく可能性を感じました。あとは映像のサポートです。以前、中国で中国放映用の特撮を撮影したのですが、今後も海外で映像のサポートをやっていきたいですね。

 

 

玉袋筋太郎

生年月日:1967年6月22日
出身地:東京都
1987年に「浅草キッド」として水道橋博士とコンビを結成。
以来、テレビ、ラジオなどのメディアや著書の執筆など幅広く活躍中

一般社団法人全日本スナック連盟会長
スナック玉ちゃん赤坂店オーナー(港区赤坂4-2-3 ディアシティ赤坂地下1階)

<出演・連載>

TBSラジオ「たまむすび」
TOKYO MX「バラいろダンディ」
BS-TBS「町中華で飲ろうぜ」
CS「玉袋筋太郎のレトロパチンコ☆DX」
夕刊フジ「スナック酔虎伝」
KAMINOGE「プロレス変態座談会」