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2015/10/26 7:45

【新しい図書館のカタチ】世田谷区の“本のない図書館”が開館以来、人気に。

4月に開館した「図書館カウンター二子玉川」に続き、10月16日には三軒茶屋にも図書館カウンターがオープン。

このところメディアを騒がせている「TSUTAYA図書館」問題は、図書館の効率性や利便性と公共性のバランスをどう取るべきかという、図書館のあり方を考えさせられるニュースです。そんななか、世田谷区が始めた「図書館カウンター」が“新しい図書館のカタチ”として注目を集めています。今年4月下旬に「二子玉川ライズ」内に、そして10月16日には三軒茶屋「キャロットタワー」隣りにオープンした同施設について取材しました。(運営はともに業務委託で株式会社図書館流通センターが担当)

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毎日会社に通う勤め人にとって、図書館はなかなか利用しにくい場所。最近は夜9時頃まで開館している図書館も多いですが、平日の帰宅前に図書館に寄る人はかなり少ないでしょう。ところが、世田谷区が新設した「図書館カウンター」は、そんな勤め人も非常に利用しやすい場所なのです。

 

 

本はなくてもスマホやパソコンを使って約200万冊の蔵書にアクセスできる

「図書館カウンター」の最大の特徴は館内に蔵書がなく、本やCDなどの貸出と返却などの業務のみを行うことです。資料を借りるには世田谷区の図書館利用カードを作り、スマホや自宅のパソコンから世田谷区立図書館ホームページにアクセスし、希望の資料を検索・予約。予約した資料が図書館カウンターに届くとメールなどで連絡がくるので、連絡日から1週間以内に図書館利用カードを持って借りに行きます。一度に借りられる点数は、本や雑誌が15冊、CDが6点まで。貸出し期間は2週間で、本と雑誌のみ開館時間外でもブックポストに返却できます。

 

 

「図書館カウンター」では館内で本を読んだり、借りる本をじっくり選ぶことはできませんが、その代わりネットを通じて、世田谷区の図書館に所蔵されている約200万冊の本にアクセスすることができます。予約した資料は区内の各図書館から図書館カウンターに配送。施設内には取り置きした資料と返却された資料を置いておくスペースだけあればよく、省スペースかつ少人数で業務を行うことができます。実際、「図書館カウンター二子玉川」の敷地面積はわずか50㎡で、スタッフも1日5~6人をシフトして業務運営しているそうです。

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「働く世代が仕事帰りに寄れる駅チカ」が「図書館カウンター」のコンセプト

 

オンライン上で検索・予約するシステムはすでに多くの自治体の図書館が行っていますが、館内に本をまったく置かない「図書館カウンター」という形態は、全国でもあまり類を見ないものだとか。そこで、平成21年から議会質問のかたちで図書館カウンター設置を提案、同施設の実現に主導的役割を果たした世田谷区区議会議員のひうち優子さんに、図書館カウンター設置を提案したきっかけについて聞きました。

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ひうち優子さん。世田谷区議会議員。東京都生まれで、世田谷区で育つ。慶應義塾大学法学部卒業。平成19年に世田谷区議会議員に初当選。平成27年4月に3期目の当選を果たす。「図書館カウンター」実現の主導的な役割を担ったほか、自転車施策、交通安全施策、教育施策など様々な問題に取り組んでいる。平成24年度には、行政書士試験にも合格。

 

 

「もともと田園都市線の二子玉川駅周辺は、駅から半径1km以内に図書館がなく、最も近くにある玉川台図書館でも歩いて20分以上かかる“図書館空白地帯”だったんです。また、世田谷区のほとんどの図書館は平日の閉館時間が午後7時で、『仕事帰りに利用できない』『図書館が駅の近くにないので利用しにくい』という声が多く寄せられていました。そこで、二子玉川駅周辺の再開発に合わせて、働く世代でも仕事帰りに利用できる図書館を駅の近くにできないか、と提案させていただきました」(ひうち区議)

 

 

駅の近くに図書館を作る上で最大の問題は、用地確保の難しさ。従来型の図書館を作るには、ある程度の広さが必要です。

 

 

「でも、貸出しや返却だけなら、狭いスペースでもできるのではないか。施設に本がなくても、いまの図書館はデータベースと連動して、スムーズに本の貸出しや返却ができます。このような課題を克服していくなかで、『図書館カウンター』という発想が生まれました」(ひうち区議)

 

 

こうして今年4月に開館した「図書館カウンター二子玉川」の反響は予想以上でした。開館後1か月で、図書館共通カードの登録者数が約1600人。他の図書館の月登録者数平均約200人ですから、この数値は驚異的です。また、同カウンターでの本の予約数は月に約1万冊。これは世田谷区内の図書館で5番目の多さだそうです。敷地面積が50㎡ということを考えると、圧倒的な効率の良さです。

 

 

さらに同カウンターで最も利用者が多い時間帯は午後8~9時の閉館前だとか。「これまで図書館を利用しにくかった人が利用できる施設を作る」という目的は、見事に達成されています。ちなみに、二子玉川の図書館カウンターの開館から半年後の10月16日には、早くも2番目の施設となる「図書館カウンター三軒茶屋」が開館しました。敷地面積は130㎡で二子玉川の倍以上あり、本の貸出しもよりスムーズにできそうです。また、行政情報の発信や、区内障害者施設で作られた物販も行っており、開館日から多くの利用者が訪れました。

 

 

「実は三軒茶屋も二子玉川同様、図書館空白地帯だったんです。ちなみに下北沢もそうで、世田谷区でも人気の街のすべてに図書館がなかった。もちろん今後は下北沢での図書館カウンター設置も考えています」(ひうち区議)

 

 

図書館カウンターの成功に他の自治体も関心を示し始めた

 

 

図書の貸出しや返却に特化した施設は、他の区にもいくつか見られます。例えば練馬区では、今年5月に大泉学園北口の商業施設内に図書館受取窓口を設営しています。

 

「図書館カウンター二子玉川」の成功を受け、他の自治体も図書館カウンターに関心を持ち始めている模様。都内だけでなく、大阪や京都など全国の自治体から視察や問い合わせがきています。図書館の蔵書を一度データベース化してしまえば、資料の管理は容易になり、各図書館間の資料の貸し借りもスムーズに行えます。また、オンラインを通じた予約システムは、貸出し手続きを大幅に簡略化できます。そう考えれば、省スペースで効率よく運営できる「図書館カウンター」への流れは、ある意味必然だと言えるでしょう。

 

 

首都圏では“図書館空白地帯”など同じ問題を抱えている自治体も多いですし、一方地方でもネットによる予約と定期的な搬送システムは、広域をカバーする方法として有効だと考えられます。すべての図書館が図書館カウンターに取って代わればいい、というわけではありませんが、世田谷区の「図書館カウンター」は、図書館問題を解決するモデルケースのひとつとなりそうです。

 

 

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図書館カウンター外観。「図書館カウンター二子玉川」(写真)は二子玉川ライズ・テラスマーケットの2階、リボンストリート沿いにある。

 

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図書館カウンター三軒茶屋。キャロットタワーの隣にあり、利便性は抜群だ。二子玉川も三軒茶屋もともに開館時間は午前9時~午後9時。毎月第3木曜日と年末年始が定期の休館日だ。

 

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ブックポスト。入り口左にはブックポストがあり、本と雑誌は開館時間外でもここに投函して返却できる(CDなど視聴覚資料はブックポストで返却不可)。図書館カウンター二子玉川のブックポストの上は逆光で分かりにくいが、デジタルサイネージ(電子看板)があり、図書館カウンターの利用案内のほか、世田谷区のお役立ち情報などを発信している。

 

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カウンター。図書館資料の貸出はカウンターの主に2名のスタッフで行う。受付は、運営を担当する株式会社図書館流通センターのスタッフが担当。貸出も返却もとてもスムーズだ。また、カウンターの後ろには予約を受けて取り置きしている資料が整然と並んでいる。

 

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登録申込書筆記台。図書館共通利用カードを作るには事前に利用登録が必要。カウンターの右側に登録申込書の筆記台があり、申込書が常備されているので、申込書に必要事項を書いて提出する。登録申込書には名前と生年月日、住所、連絡先電話番号を記入。なお、登録の際には免許証や保険証など、住所・氏名を確認できるものが必要だ。

 

 

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利用カード。登録申込書の内容をカウンタースタッフが確認したら、図書館共通利用カードを発行してくれる。このカードは図書館カウンターだけでなく、世田谷区内のすべての図書館で利用可能だ。また、世田谷区在住や世田谷区で働く人でなくても、誰でも利用カードを作ることができる。

 

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検索・予約用端末。本の検索・予約はスマホやパソコンだけでなく、図書館カウンターに設置の専用端末でも行うことができる。使い方がわからないときは、カウンター内のスタッフに尋ねれば丁寧に教えてくれる。また、スタッフに直接問い合わせて、予約することもできる。

 

 

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貸出しお試し図書。図書館カウンターは館内に蔵書がないので、本などを借りるにはまず予約が必要で、図書館利用カードを作った日は本が借りられない。そこで、カードを作った日にすぐ本が借りられるよう、カウンターの返却された本の一部を、貸出しお試し用としてカウンター右の簡易棚に置かれている。棚に並べる本は、午前中は子供用の絵本を多く置くなど工夫している。

 

 

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障害者施設製品物販スペース。図書館カウンター内には、世田谷区の障害者施設で、障害を持つ人たちが作った商品を販売している。一番人気はクッキーで、「かなりおいしい」と評判。また、最近、人気急上昇中なのがマッシュポテトで、100g100円とお買い得だ。「図書館カウンター二子玉川」での売り上げは月に2万円前後で、売り上げは全額障害者施設に還元される。

 

 

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インタビューに答えるひうち議員。世田谷区の図書館の課題や将来の展望について語ってくれました。「今後は地域ごとに特色のある図書館作りも必要。これまでの図書館は画一的で本の種類も似通っていた。漫画に強い図書館や、文学に強い図書館など、いろいろあっていいと思う」とのこと。さらに、将来は電子図書館の導入にも取り組んでいきたいそうだ。