在宅時間が長かった影響で家の心地よさを再確認し、すっかりインドア派になった人も多いでしょう。それでもとくに新緑がまぶしいこの季節は、外の空気を吸ってリフレッシュしたくなります。自宅のベランダを活用して、思い思いの時間を過ごす “ベランピング” であれば、インドア派も気軽に外気浴を楽しめます。快適なベランダ作りのポイントを、インテリアコーディネーターの山賀史子さんに教えていただきました。
今さら聞けない「ベランピング」って何?
そもそも「ベランピング」とは、どのような活動なのでしょうか?
「『ベランピング』という言葉は、10年ほど前より使われ始めました。もとは、豪華で魅力的な空間・贅沢な滞在という意味合いの『グラマラス(豪華な)』と『キャンピング』を組み合わせた造語『グランピング』がありました。『グランピング』とは、テント設営やバーベキューの準備をしなくても気軽にキャンプを楽しむことです。その活動を自宅のベランダでも行うようになり、派生したのが『ベランピング』です。
そもそも自宅でキャンプ気分を味わえるように、ベランダでアウトドアを楽しむことを『ベランピング』と呼んでいましたが、最近ではベランダを非日常的な空間や自分らしい空間にアレンジし、リラックスするために活用する傾向にあります。
コロナ禍で在宅勤務時間が増えたり、在宅ワークへと働き方にも変化があったりしたことで、自宅にいながら外の空気を取り込めるベランダを部屋の延長として活用するベランピングがあらためて見直されました」(インテリアコーディネーター山賀史子さん、以下同)
また、ベランピングの広まりの背景として、洗濯機機能の変化も大きな要因と考えられるそう。
「最近では乾燥機能付きの洗濯機が主流となってきており、乾燥機付洗濯機に買い替える人も増えています。ベランダに洗濯物を干すスペースを設けなくてよいため、空いたベランダのスペースをどう活用するか考えるようになったわけです。
ベランダで外の空気を吸って太陽の光を浴びるだけでも精神的に安定する効果がありますが、椅子やテーブル、クッションなど、お手持ちの家具やインテリア雑貨をベランダに運び出し使用することで、さらにリラックスした時間を過ごせるようになります」
今すぐマネしたい! ベランピングのアイデア
ベランピングを取り入れている人は、どのように楽しんでいるのでしょうか?
・在宅ワークの息抜きに
「リビングで長時間夫婦で仕事をしているとき、休憩時間が一緒とも限りません。そんなとき、ベランダにちょっとした椅子を置けば、少しだけ場所を移動してほっとひと休憩できるスペースとなります。相手に気づかうことなく、自分のペースでゆっくりと休憩を取ることができます」
・家事の合間にリフレッシュ
「終わりの見えない家事に、気持ちが滅入ってしまうこともありますよね。そんなときはベランダでコーヒーブレイク。気になっていたお店のスウィーツを用意するなど、ささやかな自分へのご褒美もおともにしてみてはいかがでしょう。青空を見ながら一息つくだけで、気分も変わります」
・幼児の日光浴に
「小さなお子さんがいると、外出するにしても、おむつやミルクに着替えと、何かと荷物が増えてしまいます。ベランダであれば荷物を持ち運ぶ必要がなく、いつでも外気浴・日光浴ができます。ただし、ベランダには足場になるようなものを置かないようにし、お子さんからはけっして目を離さないようご注意ください」
・ガーデニングでハーブや野菜を育てる
「ベランダで簡単に栽培できる食用の葉物野菜やハーブを育ててみてはいかがでしょうか。おすすめは、虫が寄ってこないバジルやローズマリー。採れたてはおいしいですし、植物を育てる楽しみも味わえます。何より、グリーンがあることで、ベランダが癒し空間になります」
・食事を楽しむ
「ホイル焼きやホットサンドなど簡単な料理を作ってそのままベランダで食べるるのもおすすめです。いつもと違った空間で食事をするだけで、特別な時間に。青空の下でいただくごはんは格別です」
・スマホやタブレットで映画・音楽鑑賞
「Bluetoothを利用したワイヤレススピーカーやイヤホンなど、最近では屋外で気軽にエンターテインメントを楽しむことができますよね。外の景色を眺めまながら音楽や動画を楽しむことにより、よりリフレッシュできます。近隣のご迷惑にならないよう、音量には注意してくださいね。工夫次第でさまざまな楽しみ方ができるので、ぜひライフスタイルに合わせたベランダでの過ごし方を見つけてみてください」
事前確認すべきベランピングの注意点
ベランピングを楽しむために、近隣にお住まいの方や災害時のことを考慮することが大切です。住まいの建物の規約を確認し、快適なベランピングを行いましょう。
「第一にベランダはあくまでも共用部であるということです。いざというときには避難経路になるので、すぐに動かすことのできない大きな植物や荷物を置くことは厳禁なのです」
・避難はしご(避難ハッチ)
避難時にははしごを下ろすため、上に重たいモノを乗せてはいけません。
・避難用隔壁パネル
避難時には隔てられているパネルを自力で蹴破り避難器具まで移動する必要があります。通行の妨げにならないよう、パネルの前に物を置かない、立てかけないなどの注意が必要です。
この2つは代表的な防災設備です。日頃から意識しておきましょう。
「また、近隣住民とのトラブルになってしまっては、せっかくの楽しいベランピングが台無しです。音楽を聴く際は音量に注意しましょう。また、消防法で規制がされているため、火を使用することはないようにしてください。電気を使用した焼肉などでも煙が出る場合があります。煙や食べ物の臭いは十分に気を配りましょう。また話し声なども意外と響くので注意が必要です。
近年では台風被害も大きくなってきています。台風の際には、ベランダの植物や家具類は部屋にしまうようにしましょう。
テーブルや椅子を置くこともマンションの規約に反する場合があるため、お住まいのマンション規約を確認しましょう。可能な範囲でベランピングを楽しんでください」
プロが教えるベランダを心地よくするインテリア 7選
続いて、ベランダを快適に過ごす工夫について教えていただきました。
「『ベランピング』と言うからには……と、いかにもアウトドアなテイストにまとめる必要はありません。お部屋の延長として室内のインテリアとの調和を持たせましょう。アイテム選びは、ベランダだけではなく室内でも使えるものがおすすめです」
まずはお手持ちのアイテムを活用するところからスタートしてみましょう。
1.荷重の小さな観葉植物を置く
「空間にグリーンがあるとぐっと心地のいい場所になります。ベランダの限られたスペースに置くので、移動しやすいサイズの鉢がおすすめです。また、インテリアとのつながりを持たせる素材や質感の鉢を選ぶのがポイント。木製や陶器鉢は個体差があり、一点ものの表情を楽しめるのも魅力の一つです。
鉢数が多いときには折りたたみやスタッキングタイプの鉢スタンドを活用し、ボリューム感のある植物を下段に置き、スタンドがぐらつかないように安定させます。つるんとした味気のない屋外用樹脂製の鉢は、木製や藤など自然素材のカゴや鉢カバーに入れて鉢をドレスアップさせると、より心地いいインテリアに仕上がります」
2.バルコニーにウッドタイルを敷く
「一般的なベランダにありがちな味気ないモルタルの床ですが、その上にウッドタイルを敷くと、ぬくもりを感じられ、室内とのつながりが生まれます。カーテンや窓を開ければリビングが広く、開放的に感じられるようになります。尚、台風など強風のときにも飛ばされないように置き敷きのものはタイルを連結するタイプものを選んでください。
バルコニーをすべてウッドタイルで敷き詰めるには専門の方に施工していただく必要がありますが、椅子を置く一角のみウッドタイルを敷くだけなら手軽ですし、雰囲気も出ていいと思います。お掃除もラクですしね。その際には、床面にある『避難用はしご』を塞がないように気をつけてください。
より簡単に床材を取り入れたいのであればコルクタイルが一押しです。表面の感触もよく、質感は滑りにくいため、犬や猫の足裏や爪の変形を防ぎます」
3.パーソナルチェアや小さめの折りたたみテーブルを置く
「パーソナルチェアを用意しましょう。室内外ともに使えて、持ち運びしやすいものがおすすめです。まずはお手持ちの椅子を一度ベランダに出し座ってみて感覚を味わってみるのもいいですね。アウトドア好きの方ですと、キャンプ用の椅子を使っている場合も多いです。 また、テーブルは持ち運びの面でも、収納の観点からも、折りたたみのテーブルが便利です。テーブルと椅子があればベランダでも在宅ワークをすることができます。新しいアイデアが浮かぶかもしれません」
4.毛布やひざ掛けを用意する
「暖かくなってきたとはいえ、肌寒い日もあります。風よけや日焼け対策としても、毛布やひざ掛けがあると何かと便利なものです。ファブリックがあると、アウトドアリビングな雰囲気が増します。快適なベランピングの必需品です。
ハーフケットと呼ばれるシングルサイズの毛布やブランケットを半分ほどのサイズにしたものがおすすめです。膝にかけるだけでなく肩にかけたり、と手軽に持ち運び移動して使えるのが魅力。ブランケットに比べてかさばらない防寒アイテムとして、室内室外の両方使いしやすいサイズは自宅で洗える素材を選ぶとすぐにお手入れができ、清潔さをキープできます。
夏は通気性や吸湿性が高い、さらっとしたガーゼやコットン生地素材が良いでしょう。冬は保温性のあるふわふわした感触のボアタイプは、肌触り良く見た目にも暖かみを感じられます。シーンや季節に合わせ柔軟に使いやすい表裏で素材の違うリバーシブルタイプもあります。
シンプルなインテリアが好みであれば、色無地柄で織の網目模様や袖フリンジなどのディテールにこだわるのもオシャレです。挿し色として好みの色柄を選んでインテリアやファッションのアクセントとして気軽に楽しむことも良いですね」
5.クッションとラグを用意する
「クッションは空間に対して占める面積の割合が小さいため、アクセントカラーを取り入れやすいインテリアアイテムです。付けカバーの柄や素材で季節感を出せて、手軽に自分好みのベランダ空間を演出できます。
床に置けば座布団のように座を作ることができるので、椅子を置くスペースがない場合にもおすすめです。
ラグを敷けば、足裏を保護しながら場を彩ります。ラグの下にホットカーペット用の断熱シートを敷くとクッション性が増し、ベランダ床の冷たさを緩和してくれます。複数のラグを重ねるときは、同素材で色柄を2〜3色に絞り重ねます。室内にあるアクセントカラーを取り入れると室内外の統一感が生まれます。
ラグを手すりにかけると、近隣からの視線を遮り、装飾性のあるプライベート空間を演出します。
価格は上がりますが、インテリアに深みを加えるにはギャッベやキリムなどのイランの遊牧民が織ったウールの敷物がおすすめ。平織のキリムはギャッベよりも厚みが薄いので、敷物だけでなく装飾や日用品のかけカバー、ブランケットのように使用することも。手織りの個性的な柄を重ねれば、ビンテージなインテリアにぴったりの敷物です」
【関連記事】キリム、ギャッベ、トライバルとは? ハンドメイドラグを取り入れた部屋作り
6.小物を入れるためのカゴを置く
「ひざ掛けや上着など、ちょっとしたものをさっと入れられるカゴを置いておくと、インテリアのアクセントになるうえに、必要なアイテムを厳選して持ち出せて便利です。片付けもラクですから、ベランピングのアクションを起こしやすくなります。
樹脂製のプラスチックカゴはメンテナンスしやすいですが、よりリラックスした空間作りには天然素材の藤や竹かごがおすすめ。サステナブルなライフスタイルに似合うバスケットは、手作りならではの暖かみがあります。ハンドル付きのものは移動しやすく軽いのもポイント。アウトドアピクニックなど、外出の際にも活用できます」
7.ライトを用意する
「夜風の気持ち良い季節になってきました。夜空を眺めながらお酒を飲んだり、月明かりの下でパートナーや訪ねてきた友人と会話を楽しんだりするのも素敵です。ライトの明かりを灯せば、幻想的な雰囲気を演出してくれます。最近ではキャンドルの形をしたLEDライトやガーランドタイプのLEDライトなどもあり、火を使わなくてもよいアイテムもたくさん出回っています。タイマーで消灯するものなどの機能が備わったものも便利です。また、精油をライトの熱で温め、香りを拡散させるアロマランプもおすすめです」
ベランダをくつろぎの空間にするおすすめアイテム 5選
山賀さんのおすすめのベランピングアイテムを紹介します。
・一枚あるだけで唯一無二の空間にするギャッべ
inie japan「ギャッべ」
3万5000円〜(税込)
しっかりとした重厚感のあるギャッベはクッション性が高いので、ベランダでも安心して使えます。一枚一枚が手作業で作られており、一つとして同じ柄はありません。お気に入りの一枚と出会えるのがうれしいですね。
「厚みのある撥水性を兼ね備えたウール素材で作られるギャッベは、3世代(約100年)使用可能といわれるほどの耐久性があります。伝統的な柄を織り交ぜ織り子さんの感性で織られたギャベは一枚一枚に願いが込められたオリジナル。自分好みの唯一無二のデザインを楽しむことができます」
・屋外で使っても安心! 耐久性のあるパーソナルチェア
METROCS「アカプルコチェア コッパー【数量限定】」
6万6000円(税込)
メキシコのリゾート地で60年代に流行した椅子をリデザインして作られたこちらのパーソナルチェアは、経年変化に強く柔軟性のあるポリ塩化ビニル素材のPVCコードを使用しています。柔らかな素材が体にフィット。「ベランピング」に最適な椅子です。
「屋外で使用しても経年変化に強い素材で一本一本のコードに弾力性があり、ゆったりと身体を包み込むデザイン。細いコードで作られたチェアは圧迫感がなく室内に置いても視線が抜け、見た目にも軽くスペースの限られた一人暮らしや賃貸マンションのパーソナルチェアにおすすめの一脚です」
・自由自在に持ち運べるLED照明
ACTUS「ROSENDAHL SOFT SPOT SOLAR H25cm」
2万900円(税込)
取ってが付いていて、ベランダから室内にさっと持ち運べるデザインがベランピングに最適。USBポートでの充電が可能なので、簡単に充電することができます。さらに、ソーラー式充電もできるため、夕暮れどきには自動で点灯してくれます。
「デンマークの老舗デザインブランドローゼンダールが展開するポータブルLEDソーラーランプ。北欧らしい丸みを帯びた灯りと黒いアイアンの組み合わせは、どことなく伝統的な日本の行燈を思わせる日本人の感覚になじみやすい、また今の暮らしに合うモダンデザインです」
・肌触りが秀逸なオーガニックコットンのブランケット
cocococo「Organic Cotton Fur ブランケット」
1万6000円(税込)
軽くて柔らかいオーガニックコットンのブランケット。カラーはやさしいベージュで、どんなインテリアにも馴染みます。ひざ掛けに、肩からの羽織にとそっと身体を包んでくれます。
「とにかく肌触りが良く、天然素材のため静電気も起きない。しっとり柔らかいブランケット。フワフワとした温もりのある軽さは上質そのもの。表側の軽くてしっとりなヤク混ネル生地と裏はオーガニックコットンファーの異なる素材を気分によって楽しむことができます」
・素足で履いても心地よいバブーシュ
IDEE「バブーシュ L ホワイト」
3850円(税込)
ベランダで過ごす時間には、簡単に履けて素足のように楽チンな履物があると心地よさがアップします。羊皮を使ったこちらのモロッコバブーシュはしっとりとした質感が特徴で、やわらかな感触がやみつきに。さまざまなシチュエーションで愛用していただけるとてもシンプルなデザイン。経年変化を楽しめ、長く愛用していただけるアイテムです。
「優しく素足に馴染むモロッコのバブーシュは、軽くて足元からリラックスできるおすすめのアイテムです。ベランダで汚れたら布で拭き取っていただき、ときどき陰干しするだけで長く履いていただけます。ホワイトはどんなインテリアにも馴染みやすく、清潔感があります」
自宅にいながら気軽に外気に触れ、気分転換できるベランピング。スペースを有効活用できるため、自宅が広く感じられるようになるのも魅力ですし、何より非日常の時間を楽しめます。まずは椅子とブランケットを手に、ベランダに出てみませんか?
プロフィール
インテリアコーディネーター / 山賀史子
学生時代のカナダでのホームステイを機に、ライフスタイルに合わせた生活空間づくりに関心を持つようになりインテリアを学ぶ。現在では「家族の暮らしを豊かにするインテリアの提案する」という想いを持って新築住宅や賃貸物件、オフィスのコーディネートなど数多く手がける。子育て経験のある主婦の目線を活かしその人の暮らしに寄り添った提案をしている。
HP