クレジットカードやキャッシュレス決済に関する疑問や悩みに、“クレカの鉄人”岩田昭男師範がズバッと答える連載企画。今回は、業務提携を発表した三井住友カードとPayPayの最新事情、そして対するライバル事業者たちの動向を岩田師範が解説します。
目次
【第31回】三井住友カードとPayPayの業務提携で何が変わるのか教えて!
【解説する人】岩田 昭男
クレジットカード分野のオピニオンリーダーとして30年以上取材・研究に従事。近著『0円から始められる! 最強ポイ活大全』(1870円/イカロス出版)が絶賛発売中。
【今月の悩める子羊】北平 克使(きたひら かつみ)
PayPay利用歴6年の39歳会社員。普段の買い物など多くの支払いをPayPayで済ますヘビーユーザーで、PayPayカードを所有している。先日、「三井住友カードとPayPayが包括的な業務提携に合意した」と知り、PayPayのサービスがどう変わるのか、ほかのQRコード決済やクレジットカードにどんな影響を与えるのかなど不安や疑問を解消すべく道場を訪ねた。
(相談者の要望)
○三井住友カードとPayPayの業務提携の詳細が知りたい
○PayPayにどんな変化があるのか教えて
○メガバンク系ポイント経済圏の最新動向は?
三井住友カードとPayPayの提携で、VポイントとPayPayポイントの交換など利便性が向上予定!
師範 PayPayの今後が気になっとるというのはおぬしか?
北平 はい。三井住友カードとPayPayの業務提携のニュースに驚きまして。私はPayPayカードを持っているのですが、今後は三井住友カードも持たないとより多くの特典を享受できないのではないか、など気になることも多いんです。
師範 なるほど。そもそも三井住友カードと、PayPayの親会社でもあるソフトバンクとが「デジタル分野における包括的な業務提携」に関する基本合意を発表したのは今年の5月。ソフトバンクが持つデジタル技術を軸とした各種サービスと、SMBCグループが持つ金融プラットフォームを組み合わせた、より利便性・利得性の高いサービスの実現が目的。具体的には、三井住友カード会員の決済データとソフトバンクが持つ統計データを組み合わせて購買行動の詳細な分析、三井住友カード会員向けに健康・医療のサポートを提供するヘルスケアポータルの新設などを行なっていくらしい。

とはいえ、三井住友カードユーザーとPayPayユーザーが特に気になるのは、ポイント還元などのサービスがどう変わるかじゃろうな。これに関する最大の朗報は、PayPayポイントとVポイントの相互交換が検討されていること。また、PayPay残高から三井住友銀行口座への出金がOliveアプリで簡単かつ手数料無料でできるようになるのも見逃せないニュースじゃ。

さらに、PayPayは今夏以降、決済にPayPayカード以外のクレカを利用する際、手数料負担を求めるとアナウンスしているが、今回の業務提携で、三井住友カードが発行するクレカ(提携カード含む)も引き続き手数料無料になる。
北平 うーん、お話を聞く限り、PayPayも使う三井住友カードユーザーへの優遇策が多いような。私みたいなPayPayカードユーザーに対して、三井住友カードの特典が新たに付くことはないんでしょうか?
師範 残念ながらそうした発表は聞かれないが、これを機会に、三井住友カードやOlive口座の開設を検討するのもよかろう。特にOliveのフレキシブルペイは、クレジットカード、デビットカード、ポイント払いの3つの決済方法に対応しているが、そこに新たにPayPay残高による支払い方法が追加。これにより、Visa加盟店での買い物にPayPay残高が使えるようになる。
北平 おお、実質的にVisa加盟店でもPayPayが使えるようになるのは、PayPayのヘビーユーザーにはうれしいポイントですね。
師範 ただし、PayPayでの支払いに三井住友カードでのカード払いを利用するのはやや不利。この場合、PayPayポイントは付かず、貯まるのは三井住友カードの還元率0.5%の決済ポイント(Vポイント)のみじゃ。一方、PayPayカードで決済すれば毎月の支払い状況に応じて最大2%ぶん(基本付与率0.5〜1%、条件達成特典0.5%、ゴールドカード特典0.5%)のポイントが貯まる。現状は、PayPayのヘビーユーザーはこのままPayPayカードを紐づけて使う、コンビニやマクドナルドなど最大7%ポイント還元の対象店舗では、三井住友カードの「スマホのタッチ決済」と使い分けるのがよい。特に、セブン-イレブンの場合は、セブン-イレブンアプリの会員コード提示やVポイントの利用設定などを行うことで最大10%のポイント還元が受けられる。
北平 確かにコンビニでの買い物が多ければ、三井住友カードを持つ価値は十分ありますね。
師範 さらに、先の「7%ポイント還元」は「Vポイントアッププログラム」の各種条件をクリアすることで、最大20%まで還元率がアップする。「アプリに月1回ログインで+1%アップ」や「Oliveの選べる特典で『Vポイントアッププログラム+1%』を選択」という条件は簡単にクリアできるし、SBI証券口座の保有や外貨預金、生命保険などのサービスへの加入という条件も、例えば「NISAをSBI証券で始めたい」と考えている人ならまったく問題ない。還元率20%実現はかなり高難度じゃが、ある程度の還元率アップは無理なく実現できるため、「Vポイントアッププログラム」はしっかりチェックしたほうがよいぞ。
今回の提携で三井住友の戦略は新たな局面に!?
師範 ここ数年三井住友グループは、独自の経済圏拡大に向けて、三菱UFJグループと熾烈な戦いを続けてきた。それがコンビニや飲食チェーンを舞台にした最大20%の「ポイント還元」競争であり、直近の「Olive」対「エムット」の戦いだった。そんななか、最近、三井住友側の動きが静かだと思っていたら発表されたのが「PayPayとの業務提携」。これは三井住友の戦略が新たな局面に入ったということじゃ。ワシははじめ「ここでPayPayと組む必要があるのか?」とも思ったが、よくよく考えるとPayPayの利用者は7000万人、Oliveは500万アカウント。その2つを相互利用して顧客を増やしたいという意図はよくわかる。
北平 三井住友にはPayPayを引き入れたい理由がしっかりあるんですね。
師範 一方のPayPayじゃが、こちらは6月に、三井住友との統合とは別方向の新サービスをスタートした。
北平 それってどんなサービスなんですか?
師範 決済手段を問わずPayPayポイントが貯まる「PayPayポイントアップ店」が実店舗でも導入されたんじゃ。対象の店舗で買い物する際、PayPayアプリのバーコードを提示すると、PayPayだけでなく現金払いやSuica払いでもPayPayポイントが貯まるようになる。

ちなみにここで貯まるのは提示ポイントで、PayPay決済の場合はさらに決済ポイントも貯まる。すでにドラッグストアチェーンの「薬王堂」で同サービスを実施。これまでPayPayはPayPay残高払いとPayPayカードによる支払いに対してのみポイントを付与し、ユーザーの囲い込みを図ってきたが、新サービス開始は、そうした方針に変更があったことを示しているのではないかな。
「エムット」で攻勢をかける三菱UFJカードには「グローバルポイント」が“アキレス腱”に
北平 さっき話がちょっと出た、三菱UFJグループの最新状況はどんな感じなんですか?
師範 三菱UFJグループに関しては、三井住友グループと同様に「最大20%ポイント還元」を打ち出してきたのが驚きじゃったな。特に最大5.5%ポイント還元(その後、最大7%に還元率アップ)を受けられるポイントアップ加盟店に「オーケー」や「オオゼキ」などのスーパーが含まれていたのが、インフレ下で大きな注目を集めた。これに続き、三菱UFJは6月から新たな総合金融サービス「エムット」をスタート。同サービスでは三菱UFJカードとQR決済サービス「COIN+」のほか、Visaプリペイドカードアプリや貯めたポイントをVisaのタッチ決済で使えるモバイル決済アプリを統合。さらに三菱UFJ eスマート証券やウェルスナビ、三菱UFJ信託銀行の相続サービスなどと連携してユーザーの資産運用や相続までサポートするらしい。だがワシから見ると、エムットの狙いというか、利用者にとって何がプラスになるのかが見えにくい。
北平 確かにテレビでも「エムット」のCMがよく流れていますが、具体的なサービス内容には触れられていませんね。
師範 もうひとつ、ワシが弱点だと思っとるのは三菱UFJカードの「グローバルポイント」プログラム。1か月のカード利用額1000円ごとに1ポイントが付与され、1ポイント=5円相当で使えるが、この「1ポイント=5円」のレートが利用者からすると何ともわかりにくい。「1000円ごとに1ポイント付与/1ポイント=5円」は銀行系カードに共通の付与単位で、JCBの「Oki Dokiポイント」も同じ仕様。ワシはこれを「200円ごとに1ポイント/1ポイント=1円」に改変したほうがよいと常々考えとる。実際、三井住友カードは「Vポイント」の前身のポイントプログラム「ワールドプレゼント」の付与単位を、2022年に「1000円ごとに1ポイント/1ポイント5円」から「200円ごとに1ポイント/1ポイント=1円」に変更した。三菱UFJは今後ポイントプログラムを「エムットポイント」に変更する予定じゃが、ここでポイントの付与単位もぜひ改変してほしいものじゃ。
北平 じゃあ、いまの三菱UFJのグローバルポイントは使いづらいんですか?
師範 いや、決してそんなことはない。「エムット」スタートと同時に登場したモバイル決済アプリ「グローバルポイント Wallet」にポイントをチャージすれば、Visaのタッチ決済に対応する店で手軽に使える(Apple PayやGoogle Payの設定が必要)し、Apple Pay経由でならQUICPay+加盟店での支払いにも使える。ワシとしては、そこまで利用者の使い勝手を考えるなら、ポイントのレートもわかりやすく「1ポイント=1円」にしてほしかった。また、そういう“古い慣習”を変えていくことが、メガバンクがまず意識すべき課題だとワシは考えとる。
楽天カードといち早く業務提携を結んだみずほFGだが、その後目立った動きは見られず
北平 メガバンクというと、みずほ銀行はどんな状況ですか?
師範 みずほ銀行(みずほフィナンシャルグループ)は昨年11月に楽天カードと資本業務提携を結び、12月には「みずほ楽天カード」を発行した。

同カードはみずほ銀行普通預金口座の利用者が作れるカードで、楽天カードの特典に加え、ATM手数料や他行宛て振込手数料が無料になるなどの特典が受けられる。ちなみに、これから同カードを新規申し込みすると、カード利用額に応じて付与される楽天ポイントと同じポイント数の「みずほポイント」がダブルでもらえる特典も付くぞ。「みずほポイント」進呈の対象となる利用期間は同カードの契約完了・口座振替設定完了した月の月初より最長1年間で、みずほポイントの進呈上限は1万ポイント。みずほ銀行からの引き落としで楽天カードを使っているユーザーはこのカードに乗り換えを検討すべきじゃろう。
北平 ふむふむ。業務提携で三井住友とPayPayの一歩先を行っていたとは知りませんでした。みずほと楽天の業務提携で始まる新サービスはほかに何かありますか?
師範 それが、いまだに目立った動きは出てきとらん。一応、業務提携に際しては「資産形成・資産運用分野における新しいリテール事業モデル構築」が謳われていたが、具体的な発表はまだなし。これまで、ポイント経済圏の発展はまさに楽天が牽引してきたわけじゃが、みずほはそのアドバンテージを生かしきれていないように見えるな。
北平 そうすると、現在のポイント経済圏の勢力図の中心にいるのは……。
師範 「三井住友&PayPay」ということになるかの。ここからやや出遅れて「みずほ&楽天カード」と「三菱UFJ」が続く。さらに、そこに割って入りそうなのが住信SBIネット銀行を統合したNTTドコモ。NTTドコモはこれまで通信キャリアの中で唯一銀行を持っていなかったが、預金総額が約10兆円の大型ネット銀行である住信SBIネット銀行を子会社化して、一躍「ポイント経済圏の台風の目」と目されてきた。いずれにしろ今後、ポイント経済圏の覇権争いはますます激化するはず。その動向には目が離せないな。
●価格は、特に言及のないものはすべて税込価格。情報はすべて本稿執筆時のものです。
構成/佐伯尚子 文/平島憲一郎