「組織のイヌ」であることに疲れた人、違和感がある人へ。「組織のネコ」という存在を知っていますか? これは令和時代のサラリーマンに贈る、もっと自分に忠実に、ゴキゲンに働くためのヒント集。楽天創業期からのメンバーにして、同社唯一の兼業自由・勤怠自由な正社員となった仲山進也氏に学ぶ「組織のネコ」トレーニング、略して「ネコトレ」!
目次
ネコトレVol.23「ネコとセカンドキャリア」

セカンドキャリアで明暗
吾輩はイヌである。
名はポチ川アキ男、32歳。趣味は推し活。犬山電機11年目の中堅にして、未だ営業チームの副主任どまり。会社の指示には忠実に従っているので、もっと正当に評価されたいと思ってはいるものの、出世のレールは先輩社員の行列で大渋滞中……。

社内ベンチャーへ留学中のオレ。営業部とは勝手が違って戸惑うことばかりだ。やることなすこと無計画に思えるし、指示も曖昧な上、マニュアルなんてほとんどない。そんなカオスな環境で、なぜか楽しそうに働いている中途新人がいた。定年を迎えて今月から会社に再雇用された、元庶務課係長の吠崎さんだ。デビュー初日から総務で培った豊富な経験をフルに発揮して、嬉々としてマニュアルを作成したり、オペレーションの仕組みを整備したりしている。以前、スタートアップ企業で副業として総務まわりのアドバイザーをしている話を聞いてはいたが、まさかここまでとは。しかも、どう見ても楽しそうだ。少し前までは、窓際族として退屈そうに働いていたのに……。
月1回、所属元の営業部に顔を出すことになっているオレは、ハチ村課長に捕まった。課長はオレの社内留学にはまるで興味がないようで、自身のゴルフの話をひとしきり語った後、突然、OB社員の話題を始めた。
「そういえばさ、元営業部長のブル川さん、定年退職後に開業したカフェが全然ダメで、とうとう店閉めたって聞いたぞ。定年したら悠々自適にやるって言ってたのになぁ」
部長まで昇り詰めた人が、定年後に失敗……?
オレが思い描いているセカンドキャリアと違うんですけど……。定年まで会社に尽くして、ガマンしつつもレールから外れることなく進んでいれば、その先には悠々自適な人生が待っているはずじゃないの?!
かたや吠崎さんは、窓際族で係長止まりだったのに、再雇用後、社内ベンチャーで楽しそうに働いている。
このままマジメに会社に尽くしたとして、本当に幸せなセカンドキャリアは待っているのだろうか? もしかして、現役時代に窓際族を経験することが実は「成功の秘訣」なの……か?!
頭の中がモヤモヤでいっぱいになったオレは、気づけばいつものニャンザップへ向かっていた。

大企業で培った経験があれば楽勝?
ポチ川「こんばんは……」
ニャカ山トレーナー(以下、ニャカ山T)「おや、ポチ川さん。今夜はまたずいぶんと考え込んでいるようですね」
ポチ川「ニャカ山さん、なんだか、何かがおかしいんです!」
ニャカ山T「何がですか?」
ポチ川「万年係長だった吠崎さんが、再雇用で今月から社内ベンチャーに入ってきて、楽しそうに活躍しているんです。それに対して、定年した元営業部長が、事業に失敗してカフェをつぶしたという話を聞いたんです」
ニャカ山T「それは対照的なお二人ですね」
ポチ川「犬山電機ほどの事業規模で、部長に昇り詰めるまでの経験を積んだというのに、カフェ程度の小さなビジネスがうまくできない意味がわからないのですが! 僕は、何か小さなビジネスのオーナーとして悠々自適なセカンドキャリアを送る気マンマンなのですが、大丈夫ですよね?!」
ニャカ山T「……。ポチ川さんは、ご自身で何かをゼロから立ち上げたご経験はありますか?」
ポチ川「いえ、ないですけど。それが何か?」
ニャカ山T「では、なぜ小さなビジネスをうまく立ち上げられるとお考えなのですか?」
ポチ川「それは当然ですよ。僕は犬山電機で10年以上、大きな金額の売り上げをつくってきました。それに比べたら、月に数百万円くらいを売り上げるのなんて、むずかしいことではありませんよ。会社で言われた雑多なこともきちんとこなしてきましたし、小さなカフェ程度の事業ならマニュアル通りにやるだけでしょう? そんなの、僕だってできますよ。だからなぜ部長まで行った人が失敗したのか、意味がわからないのです」
ニャカ山T 「……なるほど、ここにきてなかなかの凝り具合ですね。では、今回のネコトレのテーマは『分業されすぎのワナ』にしてみましょうか」
「分業マインド」から「一気通貫マインド」へ
ポチ川「分業されすぎのワナ?」
ニャカ山T「ポチ川さんがカフェを開業するとしたら、何をしますか?」
ポチ川「そうですね。おしゃれな隠れ家カフェで、こだわりのコーヒーを出しますよね。あとは、SNSで映えるパフェ的なものとか? それをインフルエンサーに広告してもらえば、行列まちがいなしでしょう?!」
ニャカ山T「以前、インフルエンサーに頼った企画で、コミュニティ立ち上げに失敗していませんでしたか?」
ポチ川「いや、あれは家電のコミュニティなので、商品の単価も高いですし、購入頻度も低いからですよ。カフェみたいに低単価で、リピート頻度が高いものならうまくいくはずです。半額クーポンも発行しますし、ポイントも10倍とかにすれば他のカフェと差別化できますよね。つまり、今、営業として『こういう施策があったらもっと売れるのに』と思うことをすべて実現するわけですよ。売れないわけがありません!」
ニャカ山T「……。多くの組織人は、組織が大きくなり業務が細分化されるにつれて、自分の担当する『部分』にしか意識が向かなくなり、自分の仕事が『全体』の中で誰にどんな価値を提供するためのものなのかを見失います」
ポチ川「与えられた役割として『部分』をこなすことの何が悪いのですか?」
ニャカ山T「営業の仕事とは、何ですか?」
ポチ川「そんなの、売り上げを伸ばすことに決まってますよね」
ニャカ山T「それは、誰にどんな価値を提供するための仕事ですか?」
ポチ川「え、それは……、会社に”目標達成”という価値を提供するためです」
ニャカ山T「やはりお客さんが見えていないようですね」
ポチ川「お客さん? 取引先の販売店のことですか?」
ニャカ山T「今のままだとポチ川さんのセカンドキャリアは、カフェを閉めた元部長さんに近いかもしれませんね」
ポチ川「それは困ります! 何をしたらよいですか?!」
ニャカ山T「小さくてよいので一人で全部やってみる経験をして、一気通貫マインドを持てるようになるとよいですね。自分で価値をつくり、自分でお客さんに提供し、自分でフィードバックをもらう経験です」
ポチ川「一気通貫マインド? でも一人で全部やるといっても、犬山電機は大きな組織なので役割分担されていますし、そもそも自分で商品をつくるなんてエンジニアじゃないから無理ですよね」
ニャカ山T「自分でつくるのは”価値”です。お客さんが便利・安心・楽しさを感じられるような何か。それに、役割分担って、今の新規事業の部署ではそんなに明確でもないのでは?」
ポチ川「たしかにカオスですし、吠崎さんは指示されてないのにマニュアルをつくったりしてますけど……。でも、あれは組織の管理体制が未熟というか、メンバーがいい加減なだけですよ!」
ニャカ山T「もう一度、確認しますが、ポチ川さんは元部長さんと吠崎さんのセカンドキャリア、どちらがお望みなのでしたっけ?」
ポチ川「いやいやいや、とにかく元部長みたいになるのはイヤです! そうならないために、具体的に今からやったほうがよいことはありますか?」
ニャカ山T「では、今回のネコトレは【自分の名前に”株式会社”をつける】にしましょう」
ブランド人になろう
ポチ川「自分の名前に、株式会社?」
ニャカ山T「ポチ川さんなら、ポチ川アキ男株式会社ですね」
ポチ川「それが何か?(ポカーン)」
ニャカ山T「自分が株式会社なら、職場の上司や同僚、営業先の担当者などはすべてお客さん、またはお客さんになる可能性のある人です。『ポチ川アキ男株式会社』がよい仕事をすれば、リピート注文がくるでしょうし、マズい仕事をすれば離れていきます。その職場に居続けるか、それともほかへ移って事業をするかは、自分で決められます。問い合わせを受けたとしても「今、担当者は不在です」とは言えません。自分がすべての担当なので。目の前にいる相手にどんな価値を提供できるかは、すべて自分次第。それが”自分株式会社”であり、またそれを突き詰めれば唯一無二の”ブランド人”になることができるのです」
ポチ川「すべて自分でいろいろ考えなきゃいけないなんて、なんだかめんどくさそうですね……。そもそも僕は犬山電機の社員であって、自分の名前で会社を立ち上げるなんて想像しにくいです」
ニャカ山T「では、もしポチ川さんの推しの方がセカンドキャリアで事業を立ち上げて、そのマネジメントを『ポチ川アキ男株式会社』で引き受けることになったとしたら、どうしますか?」
ポチ川「そうですね! まずは自社の理念を定めましょう。『今日も一日、推しの笑顔のために』ですかね。行動規範もあるとよいでしょう。推しの願いを叶えるために、
1. できない理由を言うな。できる方法を考えよ
2. プロフェッショナルとして自己成長し続けよ
3.「仮説→試行→検証」ループを高速で回せ
4. 推しの期待を1ミリでも上回れ
5. 推しの命は有限資源。早くうまくやれる方法を考え抜け
というところでしょうか。このあたりは、やりながら見直しをしてもよさそうですけど。
あと大事なのは、売り上げはただ伸びればよいというわけではないことですね。「推しの笑顔によって元気になれる人」が彼女の事業の「よいお客さん」になりますから、不適切な人々に買ってもらってはいけません。そこのスクリーニングはなかなかむずかしそうなので、ニャカ山さん、ブレストのための時間をいただいてよいでしょうか。まずは1泊2日の合宿くらいからスタートしたいと思うので、空きスケジュールを教えてください。もしそこでよい仕事をしてもらえれば、わが『ポチ川アキ男株式会社』への入社を検討してもよいと思っていますよ」
ニャカ山T「あいにく最近、スケジュールが埋まってしまっていまして……。次の用事もあるので今日はこれで失礼します。またお越しくださいね」
今日のネコトレ
Vol.23【自分の名前に”株式会社”をつける】
・分業マインドから脱却し、価値創造から顧客への提供まで一貫して担う経験をする
・一気通貫マインドで、すべての関係者に独自の価値を提供するブランド人を目指す
・主体的に動いてフィードバックを得る経験を積み、すこやかなセカンドキャリアの礎を築くVol.00から読む
Vol.22「ネコとイノベーション」<< Vol.23 >> 最終回「イヌとネコのウェルビーイング」
仲山進也
仲山考材株式会社 代表取締役、楽天グループ株式会社 楽天大学学長。
北海道生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。創業期の楽天に入社後、楽天市場出店者の学び合いの場「楽天大学」を設立。人にフォーカスした本質的・普遍的な商売のフレームワークを伝えつつ、出店者コミュニティの醸成を手がける。「仕事を遊ぼう」がモットー。
【緊急告知】本連載が待望の書籍化!
11月27日(木)発売・ただ今絶賛予約受付中

『組織で自分らしく成果を上げる25のトレーニング ネコトレ』
1760円(ワン・パブリッシング刊)
2022年10月にスタートした本連載がついに書籍化! 最新話まで含めた全25話の“ネコトレ”のほか、書籍では新たにポチ川の後日談、さらにはニャカ山トレーナーに著者である仲山進也氏がインタビューした特別原稿などを加筆し、読み応えたっぷり。こじらせイヌだったポチ川の成長ストーリーはどんな形で終結するのか!? ぜひ手にとってお楽しみください。
令和の組織で耳にするこんなキーワードが気になったら…必読です
ワークライフバランス(ノー残業デー)
ダイバーシティ(女性管理職比率)
正解のない時代
賞味期限切れのルール(昭和100年型組織)
過度な分業化による分断(組織の無能化)
世代間ギャップ
働く意義(評価基準・報酬)
1 on 1
リスキリング(研修)
心理的安全性
越境学習(レンタル移籍・社内留学)
副業解禁
就職・転職・出戻り(アルムナイ)採用
コミュニティ運営
人材育成(メンタリング)
セカンドキャリア
イノベーション
ウェルビーイング…etc.
取材/つるたちかこ イラスト/PAPAO

