商業施設やオフィスビル、映画館。私たちは日々、非常口を示す誘導灯を当たり前のように目にしている。しかし、その灯りがどのような役割を担い、どれほど厳密な基準のもとで成り立っているかを意識することはほとんどないだろう。誘導灯は、災害時に人を正しく導くために欠かせないものであり、故障が許されない装置だ。そしていま、その誘導灯が人知れず進化を遂げている。非常口の灯りが支えてきた安全の歴史と、その進化を紐解いていく。

そもそも、誘導灯とは何か
誘導灯は、防災照明の一種である。防災照明には大きく分けて2つの種類があり、ひとつは室内や通路の明るさを確保するための「非常用照明器具」、もうひとつが避難口の位置や避難経路の方向を示す「誘導灯」だ。停電や火災といった非常時に、どこへ向かえばよいのかを瞬時に示す役割を担うのが誘導灯である。
誘導灯の設置や性能は、消防法によって細かく定められている。商業施設や地下街のような公共の施設に加え、オフィスビルや工場、マンションといった限られた人が出入りする施設も、誘導灯の設置が義務付けられている。非常時には土地勘のある人だけが避難するとは限らず、誰もが迷わず行動できることが求められるからだ。
誘導灯には種類がある。避難口の直上に設置され「ここが出口である」ことを示すものと、通路や曲がり角などに設置され、出口の方向を示すものだ。表示面の色も意味を持つ。緑色の背景のものは避難口そのものを表し、白い背景に緑のピクトグラムが描かれたものは、避難口の方向を示す。視認性と理解のしやすさを最優先にした結果、この配色と表現が定着している。

また誘導灯は、設置場所や用途に応じて大きさが区分されている。表示面のサイズが異なれば、有効に視認できる距離も変わるからだ。スペースの広さや設置間隔に応じて、必要な誘導灯のサイズが定められている。

普段は意識されることのない誘導灯だが、なくては困る存在だ。現在、国内に設置されている誘導灯の数は、約1800万台にも及んでいる。
誘導灯が歩んできた「当たり前」の安全の歴史
誘導灯は、最初から現在の形だったわけではない。大規模火災を契機に制度が整備され、その都度「人を確実に避難口へ導く」ための改良が積み重ねられてきた。いま私たちが見慣れている緑色の表示も、最適解を追求した結果として定着したものだ。
誘導灯が本格的に普及するきっかけとなったのは、1960年代の大規模火災だ。避難誘導の重要性が社会課題として認識され、誘導灯の設置基準が定められた。そして同時期に、誘導灯の表示色が緑色へと統一されていく。非常時の混乱のなかでも、誰が見ても「避難口の目印だ」と直感できることが重視されたのである。
その後も誘導灯は、法令とともに更新され続けた。1970年代には大きさの区分が設けられ、建物規模や設置場所に応じた適切なサイズが決められた。1980年代には表示がピクトグラム化され、言語に依存しない情報伝達が可能になっていく。さらに1990年代には、表示面が正方形の誘導灯が認可された。現在の設置基準につながる改定が行われたのは1999年で、私たちが見慣れたあのランプが出来上がった。

誘導灯の進化の歴史は、「非常時下の人を迷わせないこと」を追い求めてきた軌跡だ。その誘導灯はいま、さらなる進化を遂げようとしている。
実は大変だった、誘導灯の「点検」が変わる
誘導灯の新たな進化、それは点検の省力化である。非常時に確実に点灯するという役割を背負う以上、誘導灯は設置して終わりではない。むしろ運用が始まってから先、長い年月にわたって、当たり前に機能し続けることが求められる機器なのだ。
誘導灯の点検は、消防法にもとづき定期的に実施される。外観や表示面の状態の確認に加え、非常時点灯に切り替えて、しっかり明かりがともるかを確かめる機能点検も必要だ。
特に負担が大きいのが、その機能点検だ。従来は、内蔵バッテリーによる非常点灯に切り替えたうえで、20分間点灯し続けるかどうかを確認する必要があった。つまり、20分も待たなければいけなかった。その面倒な点検は、原則として消防設備士や消防設備点検資格者といった有資格者が担うが、年々その数は減り、高齢化も進んでいる。全国に約1800万台もある誘導灯の確実性を担保し続けるには、深刻な人手不足だ。
こうした背景のなかで、2025年10月の点検要領改正により、新たに「周期始動方式自動点検」という仕組みが認められた。これは誘導灯が定期的に自ら非常点灯し、点検を自動で行う方式だ。その点検状況は小さなランプで表示され、その点灯を確認するだけで機能点検が完了する。20分の待ち時間はゼロになった。

映画の上映時には点検をスキップする新機能も
新たな点検方法の認可に伴い、それに対応した機種も発売されている。パナソニックが発売した「みるだけバッテリーチェック」機能付き誘導灯は、この点検方式に対応したうえで、実際の使われ方を想定した機能を搭載している。

それが、映画館や劇場といった施設に向けた「点検スキップ」の機能である。誘導灯の点検は、バッテリーで一定時間点灯させる必要がある都合上、消灯状態で行うことは不可能だ。だが映画館や劇場では、暗さそのものが演出の一部であり、上映中に誘導灯が点灯すれば没入感を損ねてしまう。
そこで同製品は、施設側が発する消灯信号を受けることで、自動点検の動作をスキップできるようにした。自動点検を導入しても、現場側が無理なく運用できるよう配慮された仕組みだ。なお、自動点検のスキップが続いたことにより、一定期間点検が行われていない場合は、LEDランプの点滅により通知する仕組みになっている。
誘導灯の進化は、これまでは外見を洗練させるものが中心であった。しかし最新の製品は、点検の省人化という形で、誘導灯が叶える安全性を下支えするものとなっている。
どこにでもある誘導灯。普段、それを凝視することはないが、その進化に目をやってみるのも興味深いものだろう。