ブランド創業初期から進化し続けるシェルジャケット
1998年に誕生した「ALPHA SV JACKET(アルファ SV ジャケット)」も、これまで存在していたアパレルに満足していなかった社員がクライマーの視点で4年近い歳月をかけて作り上げました。当時のジッパーは外に出ていると水がしみ込むためフラップをかぶせるのが常識でしたが、デザイナーがテントの中で寝ていたときに雨が降ってきて水が漏れてくることに着目しました。ウレタンをコーティングすることで防水できるのではと思いつき、テストをしてみると非常に防水性が高かった。そこでYKKにこの技術を持ち込み止水ジッパーの共同開発に成功したのです。
「歴史を紐解くと、この「WATER TIGHT(ウォータータイト)」のトレードマークを取ったのは、発売から少し後になります。YKKからはこのジッパーの新しい技法の特許を取ったらどうかと話もあったそうですが、アウトドア業界でこういったものが広く使われることで、より業界の発展に貢献したいとの思いで特許を取らず、多くのブランドがこの止水ジッパーを採用しました。
1997年アメリカ・ソルトレイクシティで行われた『アウトドアリテイラーショー』という見本市では、アルファ SV ジャケットを5日間発表する予定でした。しかし、イベント初日の約3時間で2000着のオーダーが入り、ゴア社と契約していた生産数に達してしまったため、残りのイベント4日間何をするか非常に困ったというような逸話があるほど、アウトドア業界の関係者に衝撃を与えたプロダクトとなっています」(林氏)
今回のラウンドテーブルでは25年前に販売され、現在も着用されているというアーカイブのアルファ SV ジャケットも用意されていました。何度かのリペアも施されていますが、いま見ても遜色のないデザイン、そして機能も損なっていません。愛着のある一着を長く着ることができるのも、アークテリクスが「耐久性こそサステナビリティにつながる道である」という信念を体現しています。
また、2023年11月に発売された最新のアルファ SV ジャケットでは、100%リサイクル素材を採用。これまでは使用していくにつれて折り返し部分の剥がれ、圧着テープの粘着力が落ちることで劣化が起きることがありました。最新作では、その劣化を遅らせるために、圧着テープをミシンで縫い付けた後に熱加工することでステッチの針孔に接着剤が浸み込んで圧着強度が高められています。
伝説のデザイナーが語るアークテリクスのデザイン哲学
今回は特別に、バックパックの「Arro(アロー)」をデザインしたアークテリクスを象徴するデザイナー、ダン・ジョンソン氏のインタビュー動画も公開されました。
ダン氏はアークテリクスの創業当時からブランドと関わりのあるデザイナーで、彼が作った一番有名なプロダクトがアロー バックパック。初めて登場してから25周年を迎えますが、当時のデザインの過程を語ってくれました。1996年当時、オフィシャル社員ではなかったダン氏ですが、創業者の一人、ジェレミーから1本の電話が入りました。
「『アウトドアの今までの常識をひっくり返すような、誰も見たことのないようなものを作ってほしい』というインプットをもらい、『どれくらいかかるか』と言われて、6週間かかるかもしれないといった話をしました」(ダン氏)
そこでダン氏は紙とペンを用意し、話を聞いた2時間後にはスケッチを書いてサンプルを作り始めました。それに基づいて、ほぼそのイメージを具現化しました。
また、アロー バックパックのデザイン決定までの経緯に、ビームスのバイヤーである廣沢 慶氏の名前も出てきました。日本代理店が入る前から当時のビームスは、アークテリクスと交流があり、廣沢氏から「ジッパーの色に差し色を入れるべき」とのアドバイスがあったとのこと。「日本からのアドバイスも取り入れて作ったカバンなんだ」とダン氏は語っています。
そして、デザインについてダン氏はこのような哲学を語っていました。「デザインを作成するとき、純粋に効率性を考えると、同じようなものしか作れなくなってくる。デザイナーに必要な感覚というのはどれだけ美しいものを作りたいか。どれだけ見た目の美しさを追求して作ってきたかというのが、このアロー バックパックには表れている。妥協せずに作り込んだデザインだから、今も全世界で発売されているモデルになっているのではないか」(ダン氏)
今回はアークテリクスの誕生から、キープロダクトの開発秘話、そして伝説のデザイナーの貴重なインタビューを聞くことができました。アウトドアブランドの雄として業界をリードするブランドならではの奥深い話から、キープロダクトの魅力がさらに高まりました。
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