人の腸には500~1000種類の細菌が100兆個近くあると言われ、しかも腸内環境は人の健康やメンタル面にもさまざまな影響を及ぼしていることが指摘されています。そして最新の研究では、マラソン選手の腸内細菌に共通の細菌が見つかったということが発表されました。トップアスリートの秘密が、人の腸に隠されているのかもしれません。
米ハーバード大学の研究者たちが、ボストンマラソンに出場した選手のレース後の腸内にはある共通の細菌があることを見つけました。この研究では、2015年のボストンマラソンに出場したトップランナー15人と10人の一般人について、レース1週間前からレース後1週間まで毎日腸内細菌を採取して分析。すると、一般人10人よりもレースに出場したランナーではレース後に「ベイロネラ」と呼ばれる細菌群が増大していることが判明したのです。
ベイロネラは、筋肉を酷使したときに副産物として作られる乳酸を代謝する働きがあります。そのためレース中にマラソンランナーの体内で発生した乳酸を代謝しようと、ベイロネラの数も増えていたのかもしれません。
そこで研究者たちは、このベイロネラがアスリートのパフォーマンスにどんな影響を及ぼしているか調べるため、次に16匹のマウスを使って実験を行いました。マウスを2つのグループに分け、1つのグループにはマラソン選手から採取した ベイロネラを、もう1つには一般的なヨーグルトに含まれる乳酸菌を投与。5時間後にランニングマシンで走らせて疲労具合を観察しました。
正のループ
すると、乳酸菌を投与したマウスは16~17分ほどのランニングで脱落したのに、ベイロネラを与えたマウスは19分近く走り続けることできたのです。腸内細菌の種類を変えるだけで運動能力が13%も上がったということは、マラソン選手の運動能力アップにこのベイロネラが有効に働いているサインと言えそうです。
人間が生み出した副産物が細菌にとって有益であり、それが巡り巡って人間自身に戻ってくる。このような人間と細菌の共生に専門家たちは興奮しています。スポーツだけでなく、ヘルスケアにも影響を与えそうな今回の研究。今後も腸内細菌は私たちをビックリさせてくれそうです。