ギョーカイ“猛者”が走って、試して、書き尽くす! ランニングシューズ戦線異状なし
2023「On」春の陣⑤「クラウドモンスター」の巻(後編)
On(オン)独自のミッドソール機能「クラウドテック」をメガ盛りにした「クラウドモンスター(Cloudmonster)」。本連載の前編では、オン・ジャパンの前原靖子さんに、「クラウドモンスター」のテクノロジーやターゲット、記録的なセールスとなった漆黒モデルの話などを、根掘り葉掘り伺った。
後編では、実際に、履いて、走って、そのインプレをお届けする。なお、この連載では、全てのランニングシューズを、次の4つのシーンを想定してインプレを行っている。まずは、シューズに足を入れた感覚およびウォーキングのインプレ。そして、「運動不足解消」が目的で走る、1㎞を約7分(=キロ7分)の、の~んびりペース。
続いて、脂肪を燃焼させる「痩せラン」に適した、1kmを約6分(=キロ6分)のゆっくりペース。最後は、距離ではなく、走る爽快感重視の、1㎞約4分30秒~5分で走る(キロ4.5~5分)「スカッとラン」だ。いずれも、“たまには、走ってみようかな~”と思った際に目安になるペースだ。
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クラウドモンスターの試走インプレ、スタート!
【まず、履いてみた!(走る前の足入れ感&ウォーキング)】
“雲の上の走り”とOn自らが表現するように、クラウドモンスターに足を入れて立ち上がると、“ふわっ”である。ここ数年、各社のランニングシューズ開発が“心地よい足入れ感”にフォーカスする理由のひとつは、まさにOnのクラウドテックの“穴”の存在だろう。各社がOnの“ふわっ”をベンチマークする理由は、履けばなるほど納得できる。
“ふわっ”のもうひとつの理由が、クラウドモンスターのミッドソール素材。Onが「ヘリオン」と呼ぶ独自フォームだ。ヘリオンは、2019年からOnのパフォーマンスランニング分野で使用されるようになった新素材である。Onは独自素材としか公表していないが、取材で得た情報から考えられるのは、欧米のシューズメーカーがレーシングモデルなどに採用しているエラストマー系素材だろう。
エラストマー系素材の特徴は、軽量でクッション性が高く、耐久性や温度変化にも強い点だ。クラウドモンスターのミッドソールも、軽く、クッション性に富む。ヘリオンの原料の混合比は、採用されるシューズごとに異なるらしいが、クラウドモンスターのそれは、筆者好みの“少し硬め”。もちろん、クッション性を損なわない程度の微妙な味付けだ。
スタスタと歩ける快適さ。なるほど、タウンユースに履きたい気持がよく分かる。クラウドテックの穴も効いている。ランニングだけでなくシューズのカラーのトレンドは、ここ数年、黒や白といったモノトーン系が大勢を占めており、漆黒のクラウドモンスターが売れない理由などない。
【運動不足解消ジョグ(1㎞を7分で走るペース)】
マラソン大会でのタイム更新を、人生中盤の生きがいにする人も、走り始めの動機の多くは、運動不足の解消や腹回りのぜい肉対策だ。歩くよりも短時間、初期投資はシューズだけ、しかも得られるエビデンス(=運動不足解消)を外さないのが、ランニング。そんな風に合理的に物事を捉える大人が、いつしかランニングという沼にハマる(筆者もその一人)。
そこで、クラウドモンスターである。15~30分程度の軽いジョギングなら、極論を言えばシューズを選ばずしても走ることは可能だ。しかし、ランニングというアクティビティの最大の課題は、“継続”という一言に尽きる。走ることそのものが“快”という境地に至るには、しばらく走り続ける必要がある。
シューズやウェアを楽しむ理由は、まさに継続のため。人気のシューズを試して、最新化学の恩恵を体感できるなら、クラウドモンスターというチョイスは、賢い選択のひとつだ。ほどよいクッションがありながら、ロッカー構造が勝手にカラダを前に運んでくれる。ミッドソールのクラウドテックのクッション性と反発性は、低速での走行でも活きている。
モンスターだけに見た目はイカツイが、ドロップ(踵から爪先にかけてのシューズ内の高低差)は6㎜とマイルド。このドロップであれば、ロッカーによって脛の筋肉を傷めるリスクも抑えることができよう。足の筋肉が“走る”ことを受け入れてない、まだ走り始めの頃は、クラウドモンスターのようなバランスの良いシューズを選びたい。
【痩せラン(1㎞を6分で走るペース)】
“たまには走ってみよう”から、週末の朝や夕方の嗜みとして継続化するなら、さらに大きなモチベーションが必要になる。そこで、走って痩せる=痩せラン。体型という見た目、血液検査の結果、消費カロリー増による食べたいものの選択肢の増大と、俄然モチベーションを、かつ長期で高めることが可能だ。
しかもランニングは、脂肪が良く燃える自転車やスイムといった有酸素運動の中でも、時短で、効果を得やすいアクティビティだ。さらに、追い込まない程度のペースで、長時間行うほどに、そのメリットを高められる。必要なのは、長く快適に走れるランニングシューズのみ。だからこそ、長く履きたい一足を厳選したい。
クラウドモンスターの着地時のクッション性と反発性は、痩せランのペース(1㎞を6分)になると、性質が変化する。先述の1㎞を7分のペースで走る「運動不足解消ジョグ」よりも、反応性が高まる。“板バネ”であるスピードボードの反発性が出てくるためだ。低速なのに、ここまで性質が変わるのは、ちょっとした驚きである。
試しに別日、起伏に富んだコースを走ってみたが、坂道の上りではぐんぐん進む。ソールの幅が広く、踏み面が広いので、下りでも安定する。クルマで例えると、高級SUVに乗っている感じだ。(意地悪だが)砂利道に突入してみたが、クラウドテックの穴に小石が入ることもなかった。
【スカッと走(1㎞を4.5~5分で走るペース)】
これまた撮影とは別の日、ハーフマラソン(21㎞強)にクラウドモンスターを実戦投入。名だたる大学の陸上競技の選手たちも走る、東京・立川の自衛隊基地の滑走路がスタートの市民マラソン大会で試してみた。1㎞を5分ほどで走ったが、クラウドモンスターは安定感も良く、難なくレースでもパフォーマンスを発揮してくれる。フルマラソン投入でも、もちろん違和感なく走れるシューズであると改めて実感した。
多くのランナーがレースに出る最大の理由は、優勝を目指すのではなく、モチベーションの維持である。自分ひとりで21㎞走ったら、そもそも鈍足ペースか、途中で道草を喰いたくなる。ましてや最後にペースを上げて、スカッとゴールを切るなんて、レースでなければ奮い立たない。
クラウドモンスターで感じたのは、脚が守られている感覚だ。レースの中盤から後半に差し掛かっても、脚はまだ残っている。それでいてスピードを上げても追従してくれる。ロッカー構造も、そこまで大きくないので、無理やり走らされる感じもしない。分厚い見た目よりながら、いたってフツーに真面目なシューズなのだ(もちろん良い意味でだ!)。
そこで感じたのは、前回紹介した「クラウドサーファー」でOnが実戦投入を決めた新たなミッドソールシステム=クラウドテック フェーズの存在である。クラウドテックフェーズの乗り味とクッション性は、コンセプト的にもクラウドモンスターとの相性抜群。安定性に優れ、汎用性が高いクラウドモンスターに搭載されれば、超低速から、さらなる高速まで、マルチでイケる化け物に進化できる。
走りながらの予感だが、クラウドテック フェーズは、早ければ来年2024年SSシーズンのクラウドモンスターに搭載されているような気がしてならないのだ。Onの前原さんからは何のコメントを得られていない、あくまで筆者の勝手な推測なのだが……。
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撮影/中田 悟
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