ギョーカイ“猛者”が走って、試して、書き尽くす! 「ランニングシューズ戦線異状なし」
2023「adidas」新緑の陣③「アディゼロ SL」の巻(後編)
日本で開発が始まり、2005年に登場するや、瞬く間にグローバルブランドとなったアディゼロ。トップアスリートから、記録に挑む市民ランナーまで、幅広いラインナップを取り揃えるアディダスの人気シリーズである。
そのアディゼロシリーズに、唯一欠けていたピースと言われる“デイリートレーナー”が、今回紹介する「アディゼロ SL」。厚底カーボンでゴリゴリに走るエリートから、“普段のトレーニングでもレースでも履ける一足”を探すビギナー層まで、幅広く使えるシューズとして評価が上がっているという。
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いよいよ、アディゼロ SLを試走!
ということで、アディゼロ SLを実際に履いてみることに。まずは、シューズに足を入れた感覚およびウォーキングのインプレ。そして、「運動不足解消」が目的で走る、1㎞を約7分(=キロ7分)の、の~んびりペース。続いて、脂肪を燃焼させる「痩せラン」に適した、1kmを約6分(=キロ6分)のゆっくりペース。
最後は、距離ではなく、走る爽快感重視の、1㎞約4分30秒~5分で走る(キロ4.5~5分)「スカッと走」。いずれも、“たまには、走ってみようかな~”と思った際に、あなたの志向にジャストフィットする、目安のペースをいろいろ用意した。
【まず、履いてみた!(走る前の足入れ感&ウォーキング)】
人気ブランドであるアディダスの最新シューズだけに、足入れの期待は大。さっそく「アディゼロ SL」に足を入れる。ガチのレースシューズのような、細めの平ひもをキッチリ結んで立つと、ミッドソールのフォーム材「ライトストライク EVA」が体重を受け止め、やんわりと沈み込む。
多くのショップでは、実際のオンロードでの試走はままならない。そこでシューズメーカー各社は、足入れに並々ならぬ力を注いでいる。さすがはアディダス。“これで走って大丈夫なのか?”と心配になるくらい快適な履き心地。
踵に重心を掛け、ゆっくり歩く。ほ~、EVAとは思えぬ軟らかさ。今度は、前足部に重心を移動させる。さらにソフト。「ライトストライク プロ」が受け止めてくれる。ということで、気持ちよく一歩を踏み出せば、次の一歩、また次の一歩と快適なウォーキングがいつの間にかスタートしているはずだ。
【運動不足解消ジョグ(1㎞を7分で走るペース)】
1㎞を7分かけて、ゆっくりジョグ。運動不足解消にはウォーキングが手軽だが、負荷がチト軽すぎる。足腰の筋肉への刺激と、お腹周りを内と外からスッキリ引き締めるなら、断然ジョギングをチョイスしたい。何より、ウォークの約半分の時間で、同等の効果を得られる。ランニングは“タイパ”なアクティビティなのだ。“たまには走るか”のペースでこの状態。
で、アディゼロ SL。歩いた時には快適なクッション感を感じたが、ひとたび走り始めると、フワフワなクッション性よりも、安定性や反発性を感じるようになる。それにしても、アディゼロ SLは、よく進む。アディゼロ SLのロッカー形状(爪先からかかとにかけて揺りかごのように反った形状)は比較的に浅いにもかかわらず、よく進むのだ。
理由は、やはり前足部に内蔵されている「ライトストライク プロ」だろう。ライトストライク プロは、軽量にして高反発、しかもクッション性も高い最新のフォーム材。アディゼロのトップモデルである、カーボンプレート入りの厚底シューズにも使われている。ライトストライク プロの反発性こそが、キロ7分という低速ながら、まるでバネのようにカラダを前に進ませているとしか考えられない。
【痩せラン(1㎞を6分で走るペース)】
少しスピードUP。“体重計の値が減るのが、思いのほか嬉しくて、またまた走ってしまう”。そんなペースが、約6分で1㎞進む「痩せラン」。走った後に体重を測って一喜一憂するのは、実はその大半が水分量だったりするが、サウナと異なり、ランは汗だけでなく、確実に体脂肪をエネルギーにして減らしてくれる。継続こそ、チカラなり。燃やしたい放題の皮下脂肪の下に眠る6パックを掘り起こすには、腹筋を鍛えるよりも、断然ランニングの方が効率は良い。
ウォークからランに変わったとたんに変化したアディゼロ SLのミッドソールだが、キロ7分から6分のスピードアップでは、(良い意味で)変化しない。キロ7分と同じく快適に、カラダが軽くなったかのように前へと進めてくれる。
【スカッと走(1㎞を4.5~5分で走るペース)】
ランニングは余分な体脂肪を燃やし、心肺への酸素供給システムをメンテし、筋肉や関節を刺激して強靭な構造に換える。“運動は最良のクスリ”と言われるゆえんだ。しかもランニングは、メンタルにも効く。
次の一歩が踏み出す行為自体が、ポジティブなマインドに切り替える。しかもペースを上げて追い込めば、それまで抱えていた諸所の課題も、いったんオフ。汗とともに毛穴にたまった老廃物を洗い流し、肺一杯に新鮮な空気を取り込めば、脳のリセットも完了だ。
そんなペースが、キロ4分半~5分ほどの「スカッと走」。短時間のガチランでリフレッシュするのも、ランの楽しみ方のひとつ。そこで、アディゼロ SL。ペースを上げたが、驚くことにシューズのパフォーマンスに変化はない。
少々の加速では、この安定感は揺るぎない。なるほど、エリートランナーと呼ばれる実業団レベルの選手が、練習用に履く理由がここにある。となると、このままランを止めるの、ももったいない。せっかくなので、激坂の下りに1㎞4分以下のペースで突っ込んでみる。
高速で脚が回り、前足部に体重を載せて駆け降りるが、厚底ゆえにグラつくかとも思ったが、全くの安定した走り。踏み面がそこまで広くないのに、不安感もない。やはり、前足部に内蔵されているライトストライク プロのクッション性が効いている。
もう少し厚みを減らしても、十分にパフォーマンスが得られるとも思ったが、厚底+カーボンプレート入りのレースシューズとの併用も想定して開発されたとか。敢えてこの厚みにしたという話は、なるほど納得である。
正直、ここまで敷居が低いアディゼロの登場には驚かざるを得ない。今までのアディゼロには、“走りの優等生” のためのシューズという印象があった。しかしSLの登場によって、筆者のアディゼロへの印象は大きく変化した。
ゆっくり走っても、速く走っても、アディゼロ SLは、それぞれのスピードに追従してくれる。クセが無く、シンプルな造りも好感が持てる。“明日も履こう”、そんな風に素直に思えるシューズだ。アディゼロ SL、今後のモデルチェンジを経ても、必ずチェックしたい逸品に出会えた。
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