文房具
2020/6/18 17:30

都知事選目前! 選挙投票用紙「ユポ」の知られざる正体を突き止めに製造現場へ行ってみた

選挙権がある人なら、誰しも一度は触ったことがあるでしょう、選挙時の投票用紙。他の紙では味わえない、ツルツルとした触り心地と独特の書き味が印象的ですよね。今回はそんな不思議な投票用紙の秘密を、メーカーの製造工場を取材しながら紐解いていきます。

 

選挙に不可欠! あの投票用紙のすごいポイント

選挙時に、投票所の机に必ず置かれている「投票用紙」。投票用“紙”といっても実のところ、使われているのは「ユポ」と呼ばれる合成紙です。選挙時に重宝されている理由は、ユポ独自のふたつの特性にありました。

 

1. 鉛筆で色濃く書ける!

投票用紙にユポが使われている理由のひとつが、筆記適性が高いこと。特殊な表面加工のおかげで、油性ボールペンやマジックなどはもちろん、鉛筆を使った場合でも軽い筆圧でしっかり書き込めます。

 

2. 折り曲げてもすぐ開く!

↑用紙を折り曲げて投票しても箱の中で自然に開いてくれるので、開票作業もスムーズに行えます。折り目もつきにくく耐久性も高いので、破れてしまう心配がないのもメリットのひとつ
↑用紙を折り曲げて投票しても箱の中で自然に開いてくれるので、開票作業もスムーズに行えます。折り目もつきにくく耐久性も高いので、破れてしまう心配がないのもメリットのひとつ

 

特殊技術によって「高い筆記適性」と「折り曲げても自然に開く特性」を持つユポは、投票用紙だけではなく、選挙用のポスターにも使用されています。

 

その理由は、ユポの耐水性と耐候性(気候の変化への耐性)にあり。一般的な紙と異なり、合成紙のユポは原材料に木材パルプを使用していません。水濡れにも強いので選挙ポスターに雨水がかかってしまった場合でも、破れや形状変化が起こりづらい特性を持っています。長期間貼られているにもかかわらず候補者の顔やメッセージをしっかり読み取れるのは、ユポが持つ特性のおかげだったのです。

 

このように“紙みたいだけど、紙じゃない”、不思議なユポ。いったい、どのように作られているのでしょうか? 知られざる製造工程とともに、その秘密を詳しく見ていきましょう。

 

「ユポ」の正体とはいったい?

一般的な紙は木材パルプを原料として作られていますが、ユポの主原料は「ポリプロピレン樹脂」。このポリプロピレン樹脂に無機充填剤や少量の添加剤を加え、フィルム成形したものがユポの素となります。

 

紙とは大違い! ユポはミルフィーユ構造だった!

ユポは、ベースとなる基層を両表面の紙状層で覆っている多層構造になっています。ユポは厚みにかかわらず、メモ帳のような薄いものから厚みのある製品まで同じミルフィーユのような構造で作られています。

 

紙のように白い……のは視覚のマジックだった!

ミルフィーユ状になったユポは、真ん中の基層にのみ縦横の両方向に延伸がかけられ、上下の表層は横方向にのみ延伸加工が施されます。この延伸によって生じる「ミクロボイド(微細空孔)」こそが、ユポの“白さ”の理由。表面に目には見えない多数の空孔があることによって光の乱反射が起こり、白く映っているのです。

↑乱反射によるユポ紙の白色度が上がるのは、ホッキョクグマの毛やビールの泡が白く見える原理と同じ。黒い皮膚と透明の毛を持つホッキョクグマは、太陽光と反射光が毛内部の空洞を乱反射することで毛自体が白く見えています
↑乱反射によるユポ紙の白色度が上がるのは、ホッキョクグマの毛やビールの泡が白く見える原理と同じ。黒い皮膚と透明の毛を持つホッキョクグマは、太陽光と反射光が毛内部の空洞を乱反射することで毛自体が白く見えています

 

ユポが延伸によってミクロボイド(微細空孔)を生じさせているのは、白く見せるためだけではありません。層内に空孔ができることによって、インクによる印刷や筆記性も格段にアップ。ポリプロピレン樹脂が原材料でありながら、まるで紙のような特性を付与されるのです。

 

このように、細やかな工夫と独自技術によって特異的な機能を叶えているユポ。いったいどんな場所でどのように作られているのでしょうか?

 

工場へ製造現場を見学しに行ってみた

不思議なユポの秘密を探るべく、やってきたのは茨城県神栖市。ユポが製造されている工場は、霞ヶ浦と北浦の水資源をもつ鹿島臨海工業地帯にあります。

↑鹿島臨海工業地帯。東京から80km圏内・成田空港からは約30kmに位置し、昭和30年代後半から国家プロジェクトとして開発が進みました。現在では世界最大級の掘込式人工港「鹿島港」を中心に、企業数150社余、従業員数2万2000人余りに及ぶ、日本有数の工業集積を有するコンビナートです
↑鹿島臨海工業地帯。東京から80km圏内・成田空港からは約30kmに位置し、昭和30年代後半から国家プロジェクトとして開発が進みました。現在では世界最大級の掘込式人工港「鹿島港」を中心に、企業数150社余、従業員数2万2000人余りに及ぶ、日本有数の工業集積を有するコンビナートです(画像はGoogle Earth)

 

↑三菱ケミカルグループから主原料を調達しているため、三菱ケミカルが工場を構える鹿島コンビナート内に隣接して工場が作られたのだそう
↑三菱ケミカルグループから主原料を調達しているため、三菱ケミカルが工場を構える鹿島コンビナート内に隣接して工場が作られたのだそう

 

ほとんどの工程が撮影不可……門外不出の技術が凝縮!

↑筆者が行ってみました! 写真は、2020年1月に竣工した新開発研究棟。新製品開発に注力する目的で造られました
↑筆者が行ってみました! 写真は、2020年1月に竣工した新開発研究棟。新製品開発に注力する目的で造られました

 

ユポ製造の秘密を探るべく工場を訪れた取材班ですが、なんと工場内は原則撮影禁止! 門外不出のマル秘技術が集結した場所なので、仕方ありません。とはいえ、秘密にされると余計に知りたくなるもの……。ユポができるまでの独自技術は、イラストも使って解説していきたいと思います。

 

1.ペレットを作る

まず、主原料のポリプロピレンをペレット状に造粒。造粒機から大量のペレットが送り出されます。この時点で、製紙工場とは大きな違いを発見。製紙工場では木材から繊維を取り出しパルプを作る際に水を必要とします。一方、ユポの製造工程では水はほとんど必要としません。場内を取材した際も、水を見かける機会はありませんでした。

 

2.引き伸ばしてフィルムにする←ここが凄い!

3つの押出機を使って、ペレットを表層・基層・表層の三層構造に。この状態ではまだプラスティック板のような状態ですが、ここから基層は縦横両方向、表層は横方向にのみ延伸して、薄いフィルム状にしていきます。押し出されたプラ板が、みるみる大きく引き伸ばされる様子は圧巻!

 

3.巨大なロールに巻き取る←唯一撮影が許された!

3層のミルフィーユ構造になったフィルムを、見上げるばかりの巨大なロールに巻き取っていきます。思った以上に速いスピードでどんどん巻き取られていく様子に驚きです! 規定の長さまで巻けたら次のローラーと交代し、クレーンで運ばれていきます。ちなみに、巻き立てのロールは高温なので触らないよう要注意!

 

↑巻き取りが完了し、前後で入れ替えが行われるロール
↑巻き取りが完了し、運ばれていく前の特大ロール

 

4.小割サイズにして出荷する

ロールは十分に冷やした後、納入先が希望する形やサイズにあわせて加工して完成。ロールのまま出荷する場合や、「平判」にカットする場合などさまざまです。製品は機械と人の両方でWチェック。加工場では、従業員が真剣な眼差しでピッキングや包装作業にあたっていました。カット時に出た端や余りは、再度ユポの材料としてリサイクルされます。

 

暇で工員が草刈りをし続け草がなくなったほど売れなかったらしい

製造工程をつぶさに見せていただいた上で、工場長の朝比奈弦一さんにインタビュー。工場設立時の秘話やユポ原料の秘密についてうかがいました。まず、ユポを作るうえでもっとも意識していることは?

 

「私たちがもっとも重視しているのは、高品質な『ユポクオリティ』を守ることです。使ってくださっているお客さまに満足してもらえるよう、最新鋭の異物検知機を昨秋導入して人間の目では見られないような細かな汚れや異物も感知できる体制を整えました。また、海外のお客さまとの取引も増加するなかで、どんなに離れていてもクライアントの意見はしっかりキャッチするように心がけています。プラスティックボトルへのラベルを中心に、アメリカ・中国・中東などでも幅広いお客さまに使われているんですよ」

 

品質の高さによって幅広いシーンで活用されているユポですが、ときに厳しい状況に陥ったことも……。会社として大きな打撃を受けた1971と1986年のオイルショックについて、工場長はにこやかに当時を振り返ってくれました。

 

「2度のオイルショックによって、その後の数年は仕事が全然なかったんです。あまりに暇を持て余してしまって、従業員たちで草抜きをやりすぎまして、その周辺から草がなくなってしまったという逸話もあります。でも、常に順風満帆でなかったからこそ、今こうしてユポを使ってもらっていることに喜びを感じられます。最近では工場勤務として新卒社員も採用しています。地元の高校を卒業した優秀な若い世代が入社してくれるのは、本当に嬉しいことですね」

↑鹿島工場の工場長・朝比奈弦一さん。ドイツの販売法人での社長経験もある、ユポマスター
↑鹿島工場の工場長・朝比奈弦一さん。ドイツの販売法人での社長経験もある、ユポマスター

 

そんな従業員の愛情とプライドによって作られた高品質なユポには、どんな特性があるのでしょうか? 実験によって、冒頭でお伝えした投票用紙の特性も合わせて詳しくみていきましょう。

 

完成したユポの特性とは? いろいろ実験して検証してみた

「工場見学を終え、ますますユポについて知りたくなった!」ということで、実際にユポを使って検証開始。燃やしたり破ったりしながら、ユポと一般紙の違いを確認していきます。

 

Q. 濡らすとどうなる?

↑通常の紙は水に濡れると、当然ビチャビチャになり使用不可に……。乾くとバリバリになったり反り返ってしまい、元のしなやかな状態には戻りませんよね。一方、ユポ紙は水分を弾くので形状に変化はありません
↑通常の紙は水に濡れると、当然ビチャビチャになり使用不可に……。乾くとバリバリになったり反り返ってしまい、元のしなやかな状態には戻りませんよね。一方、ユポは水分を弾くので形状に変化はありません

 

Q. くしゃくしゃに丸めるとどうなる?

↑くしゃくしゃに握り潰して丸めてみたところ、ユポ紙(右)の方は自然に開いてきます。少し跡はついていますが、広げればある程度再利用できそうなレベル。一方普通の紙は丸めたことで強度が落ちてしまいました
↑くしゃくしゃに握り潰して丸めてみたところ、ユポ(右)の方は自然に開いてきます。少し跡はついていますが、広げればある程度再利用できそうなレベル。一方普通の紙は丸めたことで強度が落ちてしまいました

 

Q. ちぎるとどうなる?

↑ユポ紙を破ろうとしたところ、端部がほんの少し伸びる程度でなかなか破れません。強度や耐久性が高いユポだからこその結果です。紙はもちろん、あっさりとビリビリに
↑ユポ紙を破ろうとしたところ、端部がほんの少し伸びる程度でなかなか破れません。強度や耐久性が高いユポだからこその結果です。紙はもちろん、あっさりとビリビリに

 

↑どうしても破りたい筆者、ハサミで切れ目を入れてみます。一度切れ目が入ると、軽い力でもスーッと引裂可能。中には薄いフィルムのような基層があり、ミルフィーユ構造になっているのが分かりますね
↑どうしても破りたい筆者、ハサミで切れ目を入れてみます。一度切れ目が入ると、軽い力でもスーッと引裂可能。中には薄いフィルムのような基層があり、ミルフィーユ構造になっているのが分かりますね

 

Q. 燃やすとどうなる?

↑燃えカスの灰がポロポロと生じる紙
↑燃えカスの灰がポロポロと生じる紙

 

↑一方、ユポ紙は縮まっていくような燃え方。火はつきますが、どんどんと燃え広がる様子はありません。ちなみに「プラスティックを燃やす=ダイオキシン発生」というイメージがありますが、ユポは炭素と水素からできたポリプロピレン樹脂が主原料なので、ダイオキシンが発生しないのもメリットです
↑一方、ユポ紙は縮まっていくような燃え方。火はつきますが、どんどんと燃え広がる様子はありません。ちなみに「プラスティックを燃やす=ダイオキシン発生」というイメージがありますが、ユポは炭素と水素からできたポリプロピレン樹脂が主原料なので、ダイオキシンが発生しないのもメリットです

 

耐水性・耐久性・印刷適性・筆記適性など、さまざまな特性を持っているユポ。実は、投票用紙や選挙ポスター以外にも数多くのシーンで活用されています。バリエーション豊かなユポの種類をチェックしてみましょう。

 

こんなにあるの!? ユポ・ファミリーいろいろ

耐久性と耐水性に優れ、書きやすさも抜群のユポ。合成樹脂ならではの加工の自由度によって、選挙用紙に使われているタイプのほかにも、使用されるシーンに合わせたさまざまなタイプが存在します。多種多様な特性を持った“ユポ・ファミリー”とは?

 

●透けるユポ

「ユポトレース」「ユポ電飾用紙」など、半透明の透けるユポ。大手ファストフードチェーンのレジ上にある電飾メニューにも使われています。鮮やかな色艶や質感を表現できるので、飲食店やショップとの相性抜群です。

 

●透けないユポ

「コンシールユポ」など、遮光性を追求した不透明度100%の透けないユポ。反対側の絵柄が透けない特性を活かして、電車やタクシーの窓用両面ステッカーに使われています。

 

●鏡のようなユポ

片面をアルミ蒸着によって金属調光沢に加工した「メタリックユポ」。まるで鏡のようですがオフセット印刷が可能で、ポスターやカレンダーなど見た目重視のアイテムに活用されます。

 

●和紙のようなユポ

ユポに不織布を貼り合わせることで、和紙調に仕上げた「ハイティアーユポ」。デザイン性が高いのでポスターや商品のラベル、包装紙に使われています。上品なデザインと優れた耐久性を両立したオシャレなユポです。

 

●破れるユポ

あえて破れやすく作られた「易破壊ユポ」。貼付後にきれいに剥がせないので、開封防止シールとして使われています。

 

●剥がれるユポ

青いシールとは逆の仕組みで、きれいに剥がせる「易剥離ユポ」。一度剥がすと表層のみが剥がれて裏面の粘着層が残るので、封緘や改ざん防止効果あり! クーポンラベルやごみ収集シールに活用されています。

 

いろいろなところで活躍するユポの勇姿を見よ!

さまざまな特性を持つユポ・ファミリーは、さまざまなシーンで活躍中。きっとあなたの身近にもユポを使った製品があるはずですよ!

 

●トリアージタグ

↑多数の傷病者を重度別に識別するため、大きな事故や災害が生じたときに使用されるトリアージ・タッグ。鉛筆でも書きやすく、水濡れや衝撃があっても強度が変化しないユポが活用されています。近年の防災意識の高まりを受けて、訓練用製品もあわせて展開されています
↑多数の傷病者を重度別に識別するため、大きな事故や災害が生じたときに使用されるトリアージ・タッグ。鉛筆でも書きやすく、水濡れや衝撃があっても強度が変化しないユポが活用されています。近年の防災意識の高まりを受けて、訓練用製品もあわせて展開されています

 

●登山マップやハザードマップなど

↑丈夫で長持ちというユポの特性を活かして、防災グッズや地図にも使用されています。雨水や衝撃にも耐えられるので、“もしものとき”にも安心して使用可能。ハザードマップのほか、防災おくすり手帳や災害時の簡単レシピカードにも活用されています
↑丈夫で長持ちというユポの特性を活かして、防災グッズや地図にも使用されています。雨水や衝撃にも耐えられるので、“もしものとき”にも安心して使用可能。ハザードマップのほか、防災おくすり手帳や災害時の簡単レシピカードにも活用されています

 

●ボトルのラベル

↑シャンプーや洗剤ボトルのラベルとしても、耐久性と耐水性に優れたユポは大活躍! 消費者の剥がしやすさに特化した「アクアユポ(右)」は通常のユポと同様に水濡れや衝撃に強く、給湿や浸水によるラベル破れやシワの心配もありません。容器成型と同時にラベルリングを行う「インモールドラベル(左)」は、ラベルを剥がさずにボトルごとリサイクルできるのが大きな魅力です
↑シャンプーや洗剤ボトルのラベルとしても、耐久性と耐水性に優れたユポは大活躍! 消費者の剥がしやすさに特化した「アクアユポ(右)」は通常のユポと同様に水濡れや衝撃に強く、給湿や浸水によるラベル破れやシワの心配もありません。容器成形と同時にラベルリングを行う「インモールドラベル(左)」は、ラベルを剥がさずにボトルごとリサイクルできるのが大きな魅力です

 

使いやすさだけではなく、環境や社会への配慮もされている「ユポ」。家庭や医療現場で重宝されている理由にも納得です。

 

地球環境に果たすユポの役割は?

2019年に50周年を迎えたユポ。最後に、さきほど話をうかがった朝比奈工場長に、今後の目標や理想について聞いてみると―――。

 

「“100年企業”を目指すなかで、循環型・持続可能な社会の実現に向けて、ユポがどのように貢献できるのかを日々模索しています。森林資源や水資源保護を目的に研究開発されたユポだからこそ、今後はこれまで以上に、環境や社会のために挑戦し続けたいんです。サトウキビなどの植物から作られた原料を配合しCO2削減効果のある『ユポグリーン』をはじめ、将来に向けたリサイクルや、減量化の検討も行っています。今後もチャレンジの気持ちを持って、進化を続けていきたいです」

 

7月には、すでに注目が集まっている東京都知事選も予定されています。投票用紙に隠されたユポの独自技術と、そこに秘められた作り手の思いまで知っておくと、新しい気持ちで選挙と向き合えそうですね!

 

取材・文/山本杏奈、撮影/我妻慶一