ボールペンに何を求めるか、というのは意外と人それぞれだ。“書き味”とか“インク色”なんていうのは実は二義的で、「先端の方で握りやすいグリップ」とか「愛用の手帳のホルダーにぴったり収まる軸のサイズ」などが選択肢として大きかったりもする。
そんなボールペン選びの中で、「ノック音がうるさくないやつ」という選択肢も当然にありうるだろう。例えば図書館などで勉強する機会が多い人は、自分が押したノックの「カチッ」という大きさにビクッとしたことがあるんじゃないだろうか? あの音、静かな場所だとかなり響くし。また逆に、オンライン会議中にずっとカチャカチャとノックを弄ぶ同僚にイラッとしたことだって、あるかもしれない。その場合、自分はそうあるまいとして「ノックが静かなペンがいいな」と考える人もいるだろう。
つまり、“音”もボールペン選びのファクターになりうるのだ。“ノック音が静かなボールペン”というのも、もっとジャンルとして広がってもいいのではないか。
ノック音がかすかなサイレント・ボールペン
ぺんてるから2021年12月に発売された「Calme」(カルム)は、まさに静音性にこだわったボールペンシリーズである。
ノックの静音性をウリにしたボールペンは、現行品だとLAMY「noto(ノト)」や三菱鉛筆「ジェットストリームプライム」などがあるが、どれも千~数千円という価格帯。いわば静音性は、高級ボールペンならではの付加価値だったわけだ。(高級筆記具に多く採用されている回転繰り出し式は、当然のことながらさらに静音性が高い)
対して「Calme」は単色で税込165円と、完全に普及品のお値段。これはまず嬉しいポイントだろう。
ぺんてる
Calme(カルム)単色
0.5mm/0.7mm径
各150円(税別)
一般的なノック式ボールペンをゆっくりノックしてみると、まずノックノブを一番下まで押し込んだ時にカチッ、バネで少しノブが戻る時にカチッと、1アクションで計2回の音がするはず。
対して「カルム」は、まず一番下に押し込んだ時の音がほぼ無音・無衝撃。戻る時にわずかにクリック感があるが、こちらも非常に小さな音だ。ぺんてるは「従来比でノック音を66%低減」と謳っているが、体感上ではもっと静かにすら感じられる。
一般的なボールペンのノックをものすごくざっくりと説明すると、ノックノブから伸びたノック棒で押し下げられることで回転子が回り、外カムに引っかかってロック=ペン先が出る。もう一度ノック棒を押し下げるとロックが解除される=ペン先が引っ込む、という流れ。このとき、回転子とノック棒、回転子と外カムでそれぞれ噛み合う際に鳴るのが、いわゆる“ノック音”と呼ばれるものなのだ。
対して「カルム」はノック棒と外カムが一体化した摺動子(しゅうどうし)と呼ばれるパーツが回転子を内包して、上下から挟む構造になっている。そのため、押し込み時にノック棒と回転子/回転子と外カムの噛み合いに衝撃が発生しにくく、つまりノック音が静かになるという仕組み。
ノックを解除する際も、ノブに指をかけたままゆっくり戻せば、ほぼ無音。ノブから素早く指を離せば多少の衝撃音はあるが、気を遣ってノックする限り、極めて静かに書くことができるだろう。
改良型インクと革シボ調グリップで書き心地も良好
静音性に加えてもうひとつポイントとなっているのが、とても握りやすいグリップ。エラストマーにカメラのグリップをイメージした革シボ調の加工を施すことで、握ると指にしっとりと吸い付くような感触を与えてくれるのだ。しかもこの革シボグリップは、先端ほぼギリギリから前軸端まで続いているロング仕様なため、持ち癖に関係なく、どこを握っても気持ち良い。
搭載するリフィルは、低粘度油性インクの「ビクーニャ フィール」(ぺんてる)と共通となっている。ビクーニャは非常になめらかではあるが、ボテ汚れが多く、個人的にはかなり苦手なインク……と思っていたのだが、今回久しぶりに使用してみると「あれ? こんな書きやすかったっけ?」と驚いた。
ぺんてるによると、実は今回の「カルム」に合わせてビクーニャ フィールのチップを改良し、書きやすくバージョンアップしたとのこと。実際、多発していたはずのボテもほぼ発生しなくなり、適度なスルスル感で気持ち良く書けるようになったなー、という印象だ。
多色・多機能「カルム」も、もちろん静音性高し!
「カルム」は単色だけでなく、3色の多色タイプ、2色+シャープの多機能タイプも同時リリースとなっている。単色とは仕組みは違うが、当然ながらこちらも静音性の高さがポイントだ。
ぺんてる
カルム 多色タイプ/多機能タイプ
400円/500円(税別)
多色/多機能タイプは後軸内端に緩衝材が入っており、リリースされたノックノブがバネで戻る際のガチン! という突き当たりの衝撃を吸収するようになっている。こちらはトンボ鉛筆の多色ボールペン「リポーター」でも採用されていた機構で、目新しいというほどではないが、とはいえ明らかに他の多色よりも静かなのはありがたい。
リフィルは単色と同様、こちらも改良型のビクーニャ多色用リフィルになっている。穏やかにゆっくり書きもでき、勢いをつけた走り書きにも対応できる性能で、とても書きやすい。静音性だけでなく、革シボ調グリップの握りやすさ+改良型リフィルの書きやすさの好相性という点に限っても、充分に「買って良し」と言える出来ではないだろうか。
「きだてたく文房具レビュー」 バックナンバー
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