文房具
筆記用具
2022/7/4 20:15

インク不要、鉛筆削り不要で16km筆記! 話題の「メタシル」は従来のメタルポイントペンと何が違うのか?

「メタルポイントペン」という筆記具をご存知だろうか? 知っていたら、文房具マニアとしてはなかなかのモノである。

 

これは鉛やスズ、銀などを芯にした金属製のペンのことで、だいたい16世紀頃まで使われていたもの。銀製のものは特に“シルバーポイントペン”と呼ばれていたり、“金属尖筆”“メタルチップ”なんて呼び名もあるが、まぁだいたい同じものと思ってもらっていい。

 

↑インクも何もなしの金属芯で筆記できるのが、メタルポイントペン

 

ちなみに黒鉛が発見されたのが1564年。そこから現代の鉛筆に近いものが作られるまでは、世界的に広く使われていたわけだ。

 

例えばルネサンス期の芸術家、レオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロ、レンブラントなんかもメタルポイントペンによるデッサンを数多く残している。というか、ダ・ヴィンチの没年が1519年なので、そもそも彼は鉛筆の存在を知らないままに亡くなっているのだが。

 

実はこの超レガシーなメタルポイントペンがちょっと進化して、令和の世に復活したのだ。それを紹介したいと思ったので、こういう文房具蘊蓄(うんちく)から切り込んでみた次第である。

 

5世紀ぶりに進化した最新メタルポイントペン

鉛や銀を紙にこすりつけただけで、どうして字が書けるのか? というと、紙に金属の微粒子が残って筆跡になる、というシンプルな話。さらにそれが酸化することで濃く残るわけだ。

 

なのだが、もちろん黒鉛の方がくっきりと濃く、さらに滑りも良くてなめらかで書きやすい。そりゃ鉛筆の登場によって、あっさり姿を消してしまうのもやむなしだろう。

サンスター文具
メタルペンシル metacil(メタシル)
900円(税別)

 

↑軸色は全6色。筆記色はすべて同じ(黒)なので、見た目の好みで選びたい

 

しかし、この6月にサンスター文具から発売された「メタシル」は、まさに現代版メタルポイントペンとして作られたもの。もちろん八角形の軸から芯まで完全フルメタルだ。先端の金属芯は「削ることなく約16kmもの長さを筆記できる」というのが謳い文句となっている。

 

↑鉛筆と同じ感覚で、芯先を紙に擦りつけて書くことができる

 

で、実際に書いてみるとこんな感じ。メーカー公称として「2Hの鉛筆に近い」とされているが、なるほど確かにそんな感じだろうか。体感としては2Hより若干薄いかなー、ぐらい。

 

さすがに薄いとは思うが、とはいえ読めないほどではないので、筆記具として使えないとは思わない。なによりも、従来のメタルポイントペンと比較すると、あきらかに筆跡がくっきり。実はこれが“メタルポイントとして進化している”という部分なのだ。

 

↑上からメタシル・メタルポイントペン・鉛筆H・2H・3Hで筆記。濃さ的には2Hから3Hの中間くらいだろうか

 

先にも述べた通り、メタルポイントペンの芯は鉛やスズなどの合金。対して「メタシル」の芯は、特殊合金に黒鉛を配合したものとなっている。書くと、金属と黒鉛の粒子が紙に残るわけで、従来よりくっきり黒い筆跡になるのも当たり前。

 

書き味は、ややガリッとした引っかかりがあるものの、金属オンリーの従来メタルポイントペンよりはなめらかに書けるように感じた。これはやはり黒鉛(固体潤滑剤としても使われるほどすべりやすい)を配合しているからだろう。

 

↑メタルポイントペンは芯先が丸いわりに引っかかりがあり、直線を書くにもややガタガタしがち。芯に黒鉛を配合したメタシルのほうがなめらかだ

 

また、黒鉛配合による効果としてもうひとつ、消しゴムで筆跡が消せる、というのもある。メタルポイントペンの筆跡は、一度紙に定着すると非常に消しにくいものだが、「メタシル」は普通の鉛筆に近く、こすって消せるようになっている。

 

また、上から塗装してもにじみにくい、というのも鉛筆と同じなので、水彩画の下書き用としても違和感なく使えそうだ。

 

↑鉛筆とメタシルは、消しゴムで筆跡を消すことが可能

 

↑芯はネジで軸にはめ込まれている。摩耗した芯が交換できるのか? と思ったが、現状では替え芯の別売りはないようだ

 

とはいえ、ここまで鉛筆に近い性能ならば「むしろ鉛筆でいいじゃん」という意見があるのも理解できる。というか、ごもっとも。いやらしい話、コスパも圧倒的に鉛筆(1本で50km書ける)の方が上だ。

 

ただ、“ルネサンス期の画家も使っていたメタルポイントペンを今の技術で作るとこうなる”というような話としては充分に面白いし、そこにロマンを感じることもあるだろう。実用品として捉えるよりは、「文房具好きが興味本位で使ってみると楽しい筆記具」ぐらいの評価がしっくりきそうな印象である。