実のところ、20年ほど前は「ボールペンなんて、書ければなんでもいい」ぐらいの認識が一般的だった。書き味がどうの、なめらかさがどうの、というのはかなり最近の話といえる。
この意識を大きく変えたのが、2006年発売の三菱鉛筆「ジェットストリーム」。低粘度油性のスルスルとしたなめらかさは、従来の “書ければなんでも” レベルのボールペンとは別次元の書き味だった。これが大ヒットしたことにより、以降、国産ボールペン市場は筆記具メーカーが性能を激しく競い合う激戦場となった……というのがボールペン近代史のお話。
キーポイントは超たっぷりのゲルインク!
実際、インクのなめらかさや筆記のブレなさ、重心バランスなど、ペンの性能には様々な争点がある。そんな中で、もうちょいプリミティブというか、ちょっと悪い言い方をすれば “単純な分かりやすさ” を武器に登場してきたのが、サンスター文具の大容量ゲルペン「TANK」だ。
サンスター文具
TANK(タンク)
0.5mm径・全6色
各150円(税別)
その武器というのが、軸にこれでもかと詰まった大量のインク。つまりシンプルに「すげぇいっぱい書ける」ということである。
なるほど、これは分かりやすいセールスポイントだ。特にサンスター文具は、中高生に認知度の高いメーカーである。低価格(150円+税)で筆記距離が従来比5倍というというコスパの高さは、まさにコスト意識の高い中高生にピタッとはまるのではないか。
構造としては、若干太めの透明軸がリフィル無しでそのままインクタンクになっているため、それだけたっぷりとインクが入る。表現としてはむしろ、巨大なインクリフィルを直接握って書ける、みたいなところが近いかもしれない。
サンスター文具はかつて、シャー芯ケースにシャープペンシル機能をつけた「シンドバット」(芯が40本入るシャープ)なる製品を出していた実績もある。「TANK」は間違いなくその直系の子孫と言えそうだ。
ちなみに筆記距離(インク切れまでに書ける直線の長さ)はメーカー公称値で約2000m。一般的なゲルインクボールペンがだいたい300~500mといったあたりなので、筆記距離5倍というのはなんの誇張もない。破格の性能と言っていいだろう。さすがにそれを試すほどの気力はないが、ひとまず30分ほど書き続けても、インクは毛ほども減った気がしなかった、とだけは言っておく。
インク容量だけじゃない、サラッサラの爽快筆記感
ここまでの説明だと、「TANK」は単にインクたっぷりなだけのペンだと思われるかも知れない。いや、実際そういう面が売りではある。ただ、ニードルチップから大量のインクがダクダクと出る書き味が、実はメチャクチャ筆者好みである! ということも伝えておきたい。
同じ0.5mm径のゲルボールペンで書き比べてみても、インクフローの良さはすさまじい。実際、どちらかというと「Vコーン」などの水性ボールペンに近いレベルを感じたほどだ。そのフローを活かした筆記感はとにかくサラッサラで、とても官能的。これも水性好きの人にはたまらないものがありそう。ちなみにインクは速乾を謳っているが、これに関しては、ここ数年のゲルインクの平均値かな……といったところ。驚くほど速乾でもないが、でもたっぷりインクが出ても困らないぐらいにはちゃんと乾く、という印象だ。
発色に関しては、昨今のトレンド通り、黒がしっかりとマットブラック寄りに仕上がっているのも好みだ。他の色も全体的にクッキリ感が強く、ノートの色分け筆記にも確実に能力を発揮できそう。特にレッドとピンク(マゼンタみ強め)は、普通に筆記色として使えるんじゃないかというほどのクッキリさである。
トータルで見ても筆記性能は優秀で、かつ高コスパ。もちろん、低価格化のためにグリップなど色々削っている部分はあるんだけど、そのあたりを差し引いても、この書き味のために買う価値ありのペンだと思う。単にインクたっぷりなだけのペンと侮らず、とにかく一度は試してもらいたい。ハマる可能性あるから。