「ほどよい努力」とは何か
怠れば道を得られず、またあまり張りつめて努力しても、決して道は得られない。だから、人はその努力についても、よくその程度を考えなければならない。『パーリ仏典 増支部』
(『精選 ブッダのことば』から引用)
「弾琴のたとえ」という有名なエピソードがあります。きびしい修行を重ねても「悟り」を得られない弟子に、ブッダがアドバイスをしました。琴をうまく演奏するためには、琴糸を強く張りすぎても緩すぎてもダメで、ほど良くないと美しい音は出ない。怠けることなく、たゆまぬ努力を続けることが、成長するためのコツです。
『パーリ仏典』とは、ブッダ生前のことばが含まれている経典のうち、パーリ語で書かれた原始仏教経典の総称です。日本では、漢訳された『大蔵経』として伝わっています。おなじ「ブッダの教え」を記録したものですが、大意は同じでありながら、訳語ごとに解釈がすこし異なります。
最後に「捨てる」ものとは
「この筏(いかだ)は、私を安らかにこちらの岸へ渡してくれた。大変役に立った筏である。だから、この筏を捨てることなく、肩に担いで、行く先へ持って行こう」『蛇喩経』
(『精選 ブッダのことば』から引用)
『蛇喩経』とは、『パーリ仏典』に収録されている「蛇のたとえ話」です。蛇をつかまえるとき、胴体や尻尾をつかむと暴れてうまくいかない。首根っこをつかまえるのが正しい。つまり、本質をつかむためのコツを説いたものです。その話のあとに、ブッダは「筏の喩え」を語っています。
川を渡るためには筏(いかだ)が必要です。しかし、川を渡り終えたあとに、役目を終えたものを肩にかついで持ち歩くのは愚かなこと。重荷になるからです。ブッダは弟子たちに、ブッダ自身の「教え」ですら執着してはならないと説きました。何もかも捨てたとき、あなたには何が残りますか? 考えてみてください。
「ブッダのことば」は、弟子によって語り継がれたのち、さまざまな言語に翻訳されました。経典の数だけ、解釈の違いがあります。経典を読むことは、視覚や聴覚をとおして「ブッダが伝えたかったこと」を心で感じることです。お試しください。
【書籍紹介】
精選 ブッダのことば
著者:大森義成
発行:学研プラス
初期仏典を中心に、ブッダが残したことばを現代語訳で収載。ことばごとに、現役の僧侶による法話を載せ、ブッダの言わんとしていることを分かりやすく説き示す。現代の日本人に必要な“本当の幸せ”を指し示す、ブッダ珠玉の語録集である。