3月27日のVIPデーを皮切りに、4月9日までの約2週間にわたって開催された「バンコク国際モーターショー」。レポートの前編ではBMWとメルセデスベンツ、そしてアウディと、主に海外ブランド車を中心に紹介したが、これら憧れのブランドに対し、タイ国内で圧倒的人気を誇るのが日本車だ。後編では主に日本車を中心にレポートをお届けしよう。
東南アジアで存在感を発揮するいすゞ
前述のとおり、タイでの日本車人気は高く、ブランド別のシェアは日本車合計で約9割にも達し、世界各国からの激しい攻勢にも関わらずその状況はなかなか揺るぎそうにない。そのなかで特に注目すべきがいすゞの存在だ。
もちろん、全体で1位を獲得しているのはトヨタなのだが、なんと2位にいすゞが食い込んでいるのだ。日本ではトラック中心の展開しか行っていない同社だが、タイを含む東南アジアではSUVやピックアップを展開して高い人気を獲得している。
そのいすゞがイチ押しとしているのがSUV「MU-X」だ。特に新型車というわけではないが、一昨年暮れより新開発の1.9リットルターボディーゼルエンジン「1.9L DDIブルーパワー」を核とした新訴求をスタート。低燃費とハイパフォーマンスを両立させたことへの評価は極めて高い。タイ国内で行われた「YEAR 2016 OF CAR」では「MOST HI-TECHディーゼルエンジン賞」を受賞したほどだ。今年はLEDガイドライトを備えた3Dフロントグリルを新たに装備し、よりファッショナブルになって登場した。
新型車で注目を浴びた日本メーカーはホンダ。このショーでは、昨年、日本の販売ラインナップから消えたホンダ「CR-V」が新型となって登場した。このモデルは、昨年10月に北米デビューを果たしたモデルだが、右ハンドル仕様はここが初めて。このまま日本で展開されるかは不明だが、エンジンは2.4リットルのガソリン自然吸気と1.6リットルのディーゼルターボを設定。全長4571mm×全幅1855mmのボディに3列のシート仕様となっている。もちろん、タイ国内だけではなくアセアン地域を中心に国外にも輸出される予定だという。
ホンダはもう1つ注目車種を投入した。それは「シビックハッチバック」だ。シビックは日本でも復活販売が予定されているが、セダン系への関心が高いタイでの注目度は抜群。会場ではブースの入口の目立つ場所にシビックハッチバックを置き、フロアには直に触れられるよう複数台を展示した。価格は116万9000バーツ(日本円換算:約375万円)。CR-Vもシビックハッチバックも、タイ国内では特別に安い1.99%ローン金利が適用される。
展示で気合いが入っていたのはトヨタ。ブースは最大級の面積となる1998平方メートルにも及び、ここにはタイ国内で販売されるほとんどの車種を出展した。が、何故か「アルファード」だけは未出展。実はトヨタは昨年、このショーでの販売実績に限ればホンダにトップの座を譲り渡しており、より拡販できる車種を全面に展開する作戦を採ったものと思われる。
トヨタがタイ国内で最も台数を稼いでいるのは「ヴィオス」。日本では以前「ベルタ」として販売していたクルマに該当する車種で、タイのモータリゼーション化を進めた立役者でもある。最も安いグレードなら60万9000バーツ(日本円換算:約198万円)で買えるが、最近はホンダの「シティ」(日本名:グレイス)にその地位を脅かされつつある。そのため、このショー直前に大胆なマイナーチェンジを実施して臨んだというわけだ。
日本でもお馴染みの「シエンタ」はタイでも人気がうなぎ登り。タイでは都市部でこそ核家族化が進むが、基本は農業国なのでまだまだ大家族で過ごす家庭は多い。コンパクトなサイズで7人が乗れ、斬新なデザインのシエンタはそうした需要層にジャストフィットしたのだ。1年を通して気温が高い地域でもあるため、日本とは異なって全グレードにツインエアコンを装備。当たり前だがヒーター機能は非搭載だ。手頃な価格(上位グレード「V」で86万5000バーツ)を実現しているのも人気の要因となっている。
一方で、同じ多人数乗車が可能な「アルファード」、「ヴェルファイア」は100%日本からの輸入に頼る。そのため、高額な関税が課せられ、もっとも安い2.5リットルモデルで367万8000バーツ(日本円換算:約1200万円)にもなる。アルファード/ヴェルファイアが富裕層のステータスを誇示するためのクルマとなっているのも頷ける話だ。
タイ国内シェアでトヨタ、いすゞ、ホンダに続くのが三菱だ。日本では様々な問題が噴出して元気がないが、タイではピックアップ系を中心に人気は高い。特にSUVの「パジェロ」やピックアップの「トライトン」などで絶大な人気を獲得している。
今年特に注目を集めたのが同社が100周年記念として作製したレプリカ「三菱A型」だ。同社資料によれば、三菱「A型」は、日本初の量産乗用車として1917年(大正6年)から試作。1921年まで計22台が製作された。オリジナルは2765cc4気筒/35psエンジンを搭載して7人が乗車できたが、レプリカはボディサイズを大幅にスケールダウンした1人乗り用として製作。エンジンもコルト「1000」などに搭載されたKE43型(977cc4気筒/55ps)を搭載していた。
多様なブランドの出展も見所の1つ
そのほか、日産、マツダ、フォード、スズキ、シボレー(2016年タイ国内シェア順)なども出展。日産はメインをピックアップトラック「ナヴァラ」の最新モデルを発表する一方で、コンパクトカーである「ノート」をタイでも発売すると発表。56万8000バーツ(日本円換算:約185万円)というタイでは驚異的な価格を実現した。また、EV化への試みの一環として、バイオエタノールから発電した電気で走行する新しい燃料電池システム「e-Bio Fuel-Cell」を搭載した多目的商用バン「日産e-NV200」を出展した。
マツダは新型「MX-5(ロードスター)RF」、改良型「CX-3」を発表。CX-3はタイ自動車ジャーナリスト協会(略称TAJA)が主催する「タイランド・カー・オブ・ザ・イヤー2016」を受賞したこともあわせて発表された。Gベクタリング技術やSKYACTIV技術、i-ACTIVSENSE安全パッケージを搭載しながら、価格を83万5000バーツ(日本円換算:270万円)からラインナップしていることが高く評価されたという。
フォードもピックアップ系に強いメーカーの1つ。2015年にマイナーチェンジを受けたミドルサイズのピックアップ「レンジャー」は今もなお根強い人気がある。ダブルキャブ型ファミリーカーとしても機能し、ワイルドなルックスを持つのはこのボディタイプのみとなる。
スズキは日本では旧型となった「SWIFT」の上級グレード「RX-Ⅱ」を発表。パドルシフトやLEDイルミのほか、16インチアルミをガングレーメタリック塗装とするなど、スポーツ性を強調した。
シボレーは2015年にエコカーの生産を撤退したものの、「コロラド」「トレイルブレイザー」などピックアップ系では根強い人気。会場で目を引いたのは真っ赤な「コルベット」だ。タイ国内での販売は未定だが、ブース中央に置かれたその姿は抜群の存在感だった。
そして、バンコク国際モーターショーでは日本では出展されないブランドが目白押しなのも見所の1つだ。「ロールスロイス」や「マセラティ」「アストンマーチン」など高級ブランドのほか、「マクラーレン」「ランボルギーニ」といった高級スポーツカーも名を連ねる。
また、日本の「スバル」、イギリスの「ランドローバー」「ジャガー」、スエーデンの「ボルボ」、ドイツの「ポルシェ」、韓国の「ヒュンダイ」「KIA」「サンヨン」、インドの「タタ」なども出展していた。
このようにバンコク国際モーターショーでは、東京モーターショーでは見られないブランドや車両が見られるのが最大の魅力だ。毎年開催されているうえに、コンパクトな会場は1日あれば十分見て回れる。次の開催の詳細は決まっていないが、3月下旬から10日間ほど開催される予定となっているので、クルマ好きでなくても次はぜひ出掛けてみることをオススメする。このモーターショーに合わせて観光に訪れれば、今までとは違ったバンコクが過ごせるはずだ。