銀座線の警笛は“トロンボーン笛”と呼ばれる。低音の警笛が地下の線路に響くレトロな音色も銀座線ならでは魅力だ。そんな伝統ある警笛の音を楽しみつつ乗る地下鉄開通90周年イベント「銀座線タイムスリップ」の旅。師走の日曜日、レトロな銀座線の1000系特別仕様車を利用した臨時イベント列車が運行された。予備灯の点灯を中心にお届けした前回に引き続き、今回は、銀座線の幻の駅に迫ってみよう。
【前回の記事はコチラ】
地下鉄の車内照明が真っ暗に? 懐かしき日々に思いを馳せる「銀座線タイムスリップ」の旅
2年のみで消えてしまった萬世橋駅
今回のイベント列車でクローズアップされた2つの幻の駅。それが「萬世橋駅」と「神宮前駅(現・表参道駅)」だ。2駅の旧ホームは銀座線90周年のイベントにあわせライトアップされ(同企画は12月18日に終了)、イベント列車は参加者が確認できるように旧ホームの区間を徐行しつつ走った。
まずは萬世橋駅。同駅は東京地下鐡道が1930年(昭和5年)1月1日に開業させた駅。この駅があった期間はわずかに23か月間のみ、という短命な駅だった。イベント列車は上野駅から2つ目の末広町を11時53分に通過。旧萬世橋駅が近づいたことがアナウンスされる。
ホーム通過! “うーん、見えた”かな。ほんの一瞬のことで車内からの確認が難しい旧萬世橋駅だった。
なぜ萬世橋駅は短命だったのだろう
浅草駅〜上野駅間が1927年(昭和2年)12月30日に開業。のちに、新橋駅へ向けて地下鉄の路線が延ばされていった。まずは1930年(昭和5年)1月1日に上野駅〜萬世橋駅間に線路が開業した。この萬世橋駅の先には神田川が流れる。不慣れな川の下を通る地下鉄工事ということで、作業が慎重に進められた。先の神田駅までの工事終了はまだ先になる、ということで萬世橋まで先行して開業したのだった。
翌1931年(昭和6年)11月21日に萬世橋駅〜神田駅間が延長される。開業したその日に萬世橋駅は廃止されてしまった。旧萬世橋駅があった地点の線路は勾配に加え、カーブ区間で駅に向いていないということも、廃止された原因とされている。
筆者は短命だった萬世橋駅のことが気にかかり、後日、旧駅付近へ訪れてみた。やや寄り道になるが触れておこう。
旧駅は萬世橋というより秋葉原駅すぐそばにあった
銀座線の末広駅から500m、神田駅から500mの両駅の中間地点に旧萬世橋駅があった。そこは現在、JR秋葉原駅の西側を通る中央通りの地下部分。大型電器店が立つ一角だ。改めて銀座線が秋葉原駅すぐそばの地下を南北に走っていたことを知った。地下を通りながら、秋葉原駅そばに駅が造られなかった。萬世橋駅がいまもあったらすごく便利だったろうに、と思った。
東京にはまだ幻の駅がある
さて新橋駅にも実は幻の駅が残されている。今回は、その旧新橋駅ホームに電車は乗り入れなかったが、以前に一部公開され、また人気テレビ番組でも紹介されたのでご存知の方が多いかも知れない。
新橋駅は東京地下鐡道の駅が1934年(昭和9年)に誕生した。その後に、東京高速鐵道の駅が1939年(昭和14年)に造られた。当初、東京高速鐵道の駅は東京地下鐵道の駅とは別に設けられた。
現在の駅は東京地下鐵道が設けた新橋駅で、この駅ホームの上に東京高速鐵道の旧ホームがある。開業後、2社間の直通運転が始まったこともあり、東京高速鐵道の旧駅はわずか8か月という短命の駅となった。いまもその跡は残り、銀座線電車の留置線として旧駅の線路が生かされている。
神宮前駅の旧駅ホームでは表示やタイル壁がしっかり見えた!
12時過ぎ、イベント列車は溜池山王駅〜赤坂見附駅間へ。この駅間では予備灯が3度にわたり点灯する。
そして12時15分過ぎに表参道の駅に入り、いよいよ幻の駅、神宮前駅だ。車内では「表参道駅の遺構」とアナウンスされ、旧ホームにさしかかる。目をこらすと、ライトアップされた旧ホームの壁はピンク色のタイル貼り、千代田線の乗り換え案内と出口という文字がしっかりと見えた。
表参道駅の歴史に触れておこう。まずは1938年(昭和13年)に東京高速鐡道が青山六丁目という駅を開業させた。当時から明治神宮への参拝客が多かったからだろうか。翌年には神宮前駅と変更された。その後、1972年(昭和47年)に千代田線の駅が開業した時に、駅名が現在の表参道駅となった。ちなみに神宮前という駅名は、この年に開業した千代田線の明治神宮前駅に引き継がれている。
さらに1978(昭和53)年には半蔵門線が開業、ホームの位置が青山一丁目側にずらされた。旧ホームが表参道駅と名乗った期間は短かった。34年にわたり神宮前駅だったわけで、当時を知る人には神宮前という駅名の方がなじみ深いかも知れない。
大きく変わる渋谷駅周辺
旧神宮前駅を過ぎて、まもなく渋谷駅へ。イベント列車は、同駅での乗り降りは無く、引き込み線へ入る。東急百貨店東横店の下に設けられた渋谷駅。ホームの先、道玄坂方面に引込線があり、ここで運転士と車掌が入れ替わり、浅草方面へ折り返す。
銀座線渋谷駅の開業は1938年(昭和13年)のこと。上野駅〜浅草駅間が開業してから10年以上あとのことだった。なお、渋谷駅のシンボルでもある東急百貨店(創業時は東横百貨店)は東館が1934年(昭和9年)の開業で、誕生は銀座線よりも古い。現在、東急百貨店の西館3階に銀座線の改札口が設けられる。
現在、渋谷駅は再開発が絶え間なく進む。駅上にあるデパートの老舗でもある東急百貨店東横店。その建物から黄色い銀座線の電車が出てきて陸橋を渡る姿は、渋谷のシンボルでもあった。新駅が誕生する2021年には、表参道駅側にホームがずれる予定で、渋谷を象徴する風景も大きく変わりそうだ。
銀座線90周年のイベント列車で変わる東京の地下鉄の姿をいくつか見てきたが、大きく変わりつつある渋谷駅を車内から目にしつつ上野駅へ戻る。
クイズ大会や記念撮影タイムなどファン感涙のイベントも
帰りの車内では、駅の発車メロディをテーマにしたクイズ大会が開かれた。銀座線の発車メロディはオリジナルの楽曲が多く、どこの駅か分かりにくかったが、二者択一、さらに銀座線のイベント列車だったこともあり、正解も多かったよう。クイズ正解者には東京メトロのオリジナルグッズがプレゼントされた。
レトロ制服に身をつつんだ乗務員との記念撮影タイムも用意され、特製の額縁を持ちつつ記念撮影に興じる人も多く見られた。
90周年を迎えた銀座線に乗って
さてイベント列車は、13時過ぎに上野駅に到着した。実は上野駅ホームは12月にリニューアルが完了したばかり。「駅自体が美術館」という発想を元に生まれ変わった。柱は美術館の列柱のイメージ、ホーム内のウインドウは銀座線の歴史を振り返る展示スペースとなっている。
改札口には、90年前の木製回転式改札のレプリカが。こうしたリニューアルは上野駅以外にも行われ、浅草駅、上野広小路駅、神田駅のリニューアルも12月で終了している。
開業以来90周年、今日まで徐々に姿を変えつつある銀座線の沿線。イベント列車のような特別な列車に乗らなくとも、上野駅などのレトロな装いの駅で、地下鉄の歴史を触れることができる。年末年始、レトロな銀座線にのんびり乗りつつ、きれいになった駅に降りてみる。そんな地下鉄の旅に出てみてはいかがだろうか。
取材協力:東京メトロ/2017年12月17日開催“地下鉄開通90周年記念イベント「TOKYO METRO 90 Days FES!」スペシャル企画『銀座線タイムスリップ』”