おもしろ飛行機の旅 〜〜JAL 新型機A350-900〜〜
日本を代表する航空会社・日本航空株式会社(以下「JAL」)が、画期的な新型機をこの秋にデビューさせる。
新型機の名は「エアバスA350-900」。どのような飛行機なのだろう。最新技術を多数利用して生み出される新型機A350-900の“秘密”に迫った。
【新型機の秘密①】JAL初のエアバス機&ロールスロイスエンジン
筆者は常々、本サイトでは鉄道関連のルポ記事を中心に書かせていただいているが、鉄道以外にも乗り物全般が大好きという人間である。とはいえ、飛行機に関しては機種を多少は知っている程度の知識しかない。そこで今回は、乗り鉄ならぬ“乗り飛行機”流の素朴な興味と視点にこだわり新型機を追った。
羽田空港のA滑走路に面したJAL M2ビル。大きな格納庫の中に新型機がいた。始めて見た感想は「意外にスリムだな」ということ。だが、この格納庫自体、天井の高さが41mもあるのだから、大型機がすっぽり入っていても、小さめに見えてしまうのは当然なのかも知れない。
新型機の機種名はエアバスA350-900(以下「A350」と略)。エアバス社、最新鋭の飛行機である。
A350はJALとしては初めての購入になるエアバス社製の飛行機。さらにロールスロイス社のエンジン機を保有するのもはじめてとなる。
JALの使用航空機数は合計で231機。うち子会社のJ-AIRなどが運行するボンバルディア、エンブラエルといった小型機を除き、ほとんどがボーイング社製の機体を使用している。
【新型機の秘密②】なぜエアバス機の導入となったのだろう?
さて、なぜ始めてエアバス社の航空機を導入することになったのだろう? 登壇した赤坂祐二社長は「すべてタイミングの問題」と語る。
JALでは現在、主力機としてボーイング777を40機ほど使用している。ボーイング777が運用開始されたのは1995年のこと。世界中で1500機近い機体が製造され、使われ続けてきた。
航空機の寿命はほぼ20年から25年くらいとされている。
こうした寿命を考えると、次の機種の選定が急がれていた。A350の座席数は369席。この席数の旅客機の中では大型機にあたる。現在、旅客機を造るメーカーは小型機を除くとボーイング社とエアバス社の2社しかない。寡占化が進んでいるわけだ。
ボーイング社では新しい機種といえば787。この787の大半は200人〜300人の座席数を持つ中型機にあたる。ボーイング社の大型機で新機種といえば、777の進化タイプしかない。対してエアバス社のA350は、初飛行が2013年と登場も最近、設計思想、取り入れられている技術も新しい。
こうした2大航空機メーカーの現状を見ると、エアバス社のA350となったことも理解できるのである。
A350の導入計画は5年前から進められていたという。近々の問題では2019年3月にボーイングの最新小型機737MAXが墜落して、システムの不具合の可能性が指摘された。結果、ボーイング社の新型機への評価を下げることになっている。
こうしたトラブルと、JALの新型機導入は機種の大きさも異なり(737MAXは小型機)、無関係とはいえ、新型機のエアバス社へのシフトは、素人目に見れば非常に賢明だったようにも写る。
【新型機の秘密③】25%の燃費性能の向上&CO2削減に
エアバス社はフランスとオランダに本社を置く航空宇宙機器開発メーカーだ。設立が1970年と航空機を製造する企業としては新しい。そのため先進的な設計思想、新しい技術を積極的に導入した機体設計を得意にしている。
A350もこうしたエアバス社の思想が見て取れる。たとえば機体の53%に炭素繊維複合材が使われる。炭素繊維複合材とはカーボンカーボン複合材料とも呼ばれる。例えば、モータースポーツのF1などフォーミュラマシンにはカーボン製のボディが使われている。非常に強く、軽く、その強度で事故がたとえ起きてもレーサーの身体を安全に守ることができる。
炭素繊維複合材の多用による機体の軽量化に加えて、ほかさまざまな工夫を取り入れることにより、同じクラスの機体と比較すると燃費性能は25%減、さらにCO2も25%削減されているとエアバス社は公表している。
エンジン音も従来機に比べると静寂性を高められている。乗っていても快適性が実感できるとされる。いわば環境にやさしい飛行機と言うことができるだろう。25%減、いわば4分の1ほど燃費性が高まるのだから、もちろんコストカットに結びつく。
【新型機の秘密④】年に何億円のコスト削減につながるのだろう?
25%の燃費性能の向上は、結果としてどのぐらいに燃料の削減につながるのだろう。この数字を聞いて驚いた。
赤坂社長は「1機で年間2億円のコスト削減につながります」と言うのである。当初予定の10機が導入されれば、20億円の削減になる。さらに最大56機という導入予定を実現すれば112億円という莫大な燃料費の削減になる。
A350、1機のお値段は約355億円だそうである。それを数10機購入することは航空会社にとってビックプロジェクトといえるだろう。そのためコスト削減という利点をより生かしたいという気持ちもよく伝わってきた。
【新型機の秘密⑤】室内は天井が高〜い!収納スペースがビッグ!
A350の室内に入ってみた。同1号機はファーストクラス12席、クラスJが94席、普通席263席が、それぞれ前方から順に備えている。外見から見たコンパクトさに比べ室内に入ると、通路部分の天井が予想以上に高く感じた。まさにA350の特徴であるワイドボディが生かされている。
そして窓側の列の上にある大型収納スペースが予想以上に大きい。下の写真を見ていただくとわかるように大型のキャスター付きバックを複数個、タテに入れることができる。
国内線でもインバウンドの利用者が増えて、バックの大型化が目立つ。荷物を預ける時間がなく、機内に持ち込まざるを得ない人も目立つ。そんな時に、従来の飛行機だと、収納スペースに納まらず、座席から離れた位置に置かざるをえないということも良く見かけた。そうした時にも、A320ならば十分なスペースが確保されていて、安心だ。
キャスター付きとはいえバックはかなりの重量になる。写真のようにいくつも入れたら、さぞや開け閉めが大変なのでは?
【新型機の秘密⑥】収納スペースの開け閉めにもひと工夫ほどこす
飛行機の出発時、機内では収納スペースを締めるのにひと苦労しているCAの姿を良く見かける。多くの荷物が入った収納スペースの動きは重く、さらに高い位置に備え付けられているので、ぴったり締めるという作業はかなり大変そうだ。
JALではA350導入にあたり、エアバス社に、この収納スペースの可動に関してサポートシステムを付けてもらえるように要望を出した。エアバス社のその大切さを理解し、力をそれほど入れずに開け閉めできるように、従来のA350にはなかったサポートシステムを工夫し、新たに取り付けた。
今回の公開では室内でJALのCA(キャビンアテンダント)が取材撮影のサポートをしていた。複数人に尋ねたところ、従来機にくらべて、大型収納スペースの開け閉めが非常にラクになっていると答えてくれた。
あるCAさんは、締める時、途中から「ズ・ズ・ズ〜と上がっていく感じ」と表現してくれた。今後、A350に乗ったらCAさんにお任せせずに、「ズ・ズ・ズ〜」を体験したい。
【新型機の秘密⑦】ややっ!普通席も横幅が心持ち広いぞ
A350機の室内にある各クラスの座席に座ってみた。ファーストクラスは大型のシェル、柔らかなクッションでソファのような座り心地と同機の解説書にある。隣の席とは間仕切りとなるセンターディバインダーも設けられ、プライバシーが保たれる。
「ひとつ上のくつろぎを」がクラスJのシート。足下のシートピッチが約97cmと広く、さらに足をサポートするレッグレストも備えている。二種類の生地を組み合わせたシートカバーで、「室内空間にアクセントを与えるとともに、視覚的な広がりを創り出します」と同機の解説書にある。
3種類のシートのうち、後方にある普通席。座席は黒とグレーの生地で落ち着く。A350の普通席の特徴は、頭部をサポートするヘッドレストの可動域が上下に大きいこと。さらに、普通席にもUSBポートやAC電源が用意されている。
そしてうれしいのは、従来の飛行機の標準的な座席幅(左右のアームレスト間)にくらべて広いことだろう。長さは約44cm。これは普通の座席に比べて1.5cm広いのだという。
実際に座ってみた。普通席の場合、隣りあう人との距離感が気になるところだが、適度なすき間が保てるのがうれしい。
【新型機の秘密⑧】A350の操作はサイドスティックで行う!
今回の公開時にはA350のコクピットにも入ることができた。
コクピットに入ったところ気付いたのは操縦桿がどこにあるの、ということだった 飛行機を操縦する時に使うハンドルのような形の、専門的には操舵輪がないのだ。
心配はご無用。A350では操縦はコクピット内の席の左前にあるサイドスティックが操縦桿となっている(副操縦士の場合は右前)。通常の飛行機とは異なるのだ。この構造の場合、座席の前にはノートや、パソコンなどを置ける構造となっている。操舵輪がないだけ、足下も快適かも知れない。
たとえとしてやや異なるかも知れないが、飛行機の操縦桿は鉄道車両ではマスコンハンドルのようなもの(飛行機の方がより三次元的に動かす必要があるが)。鉄道もマスコンハンドルの構造は左にあったり、中央にあったり、さらに古い車両は構造が異なる。そうした構造の違いがあっても、運転士は使い分けしている。
こうした操縦桿の構造の違いは、それこそ操縦するパイロットの慣れと経験でカバーできるということなのだろう。
【新型機の秘密⑨】サイズに合わせ空港のスポットの調整が必要に
JALにとって初のエアバス機、ロールスロイスエンジンということで営業上、また整備をする上での問題点はないのだろうか。
JALの整備工場では、自社が所有している機体の整備のみに行っているわけではない。他社の機体の整備も請け負っているので、エアバス社の機体の整備も経験済みとのことだった。そのため、初のエアバス社の新型機を導入することに関して不安はないと言い切る。
むしろ、主力機のボーイング777と入れ換えていく上で、サイズの違いなどに合わせて空港の施設を調整する必要があるぐらいだとされる。
サイズを比較すると両主翼の左右幅、翼幅で4m、全長で3mほどA350のほうがひとまわり大きい。そのために利用空港での、駐機場、旅客乗降用エプロン用の駐機地点など「スポット」の調整は必要になるとされる。
いずれにしても整備や地上設備の問題では、エアバス社の機体に変更しても、そうした調整の範囲で済むようだ。
【新型機の秘密⑩】2号機、3号機のカラーもすでに決定済み
1号機が6月11日にフランスのトゥルーズ工場でJALに引き渡され、今回の報道陣へのお披露目となった。
今後、テスト飛行などが続けられた後に、9月1日に、東京羽田空港と福岡空港を結ぶ福岡線に就航の予定だ。さらに2号機、3号機も順次、JALへと受け渡される。次の2号機、3号機の車体に入る色も決定されている。
こうしたA350は国内線のボーイング777と入れ換えられ使われていく予定となっている。国際線に使われるボーイング777は導入された時期が国内線にくらべて新しいため、まずは国内線を変更が優先になる。
思い切った新型機の導入。まずはA350の快適な乗り心地を味わいたいものだ。
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