相鉄バスと群馬大学による自動運転 実証実験に密着 〜〜I・TOP横浜 路線バス自動運転プロジェクト〜〜
世界各国でクルマの自動運転化への試みが本格化しつつある。日々、自動運転化を目指すテストが行われ、一部の技術はすでに市販車両にまで応用される時代になりつつある。
9月14日、日本初の大型バスを利用した自動運転の実証実験が横浜市でスタートした。一般利用者の乗車も可能という今回の実証実験、どのように自動運転が行われているのか。現地を訪れ、実際の車両に乗ってみた。実験で注目を集めたポイントをここで見ていこう。
【注目その①】大型バスに利用者を乗せて900mの間を往復
今回の実証実験はどのように行われたのか、まず概要は次のとおりだ。
実証実験の名称 | I・TOP横浜 路線バス自動運転プロジェクト |
実証実験の期間 | 2019年9月14日〜10月14日の金曜日〜月曜日 |
運行時間 | 10時台〜16時台 日に16往復(他に通常バスも走行) |
走行コース | よこはま動物園正門〜里山ガーデン正面入口間(約900m) |
運賃 | 無料(里山ガーデンフェスタ実行委員会より受託、貸切営業として運行) |
横浜市旭区にある「よこはま動物園ズーラシア」。ファミリーに人気の動物園の正門前にあるバスロータリーと、動物園の北側にある里山ガーデンを結ぶ区間で自動運転バスのシャトル運行が開始された。この期間、里山ガーデンでは「里山ガーデンフェスタ2019秋」が開催されている。
国内初となる営業運転での大型バスを利用した自動運転の実証実験。技術の検証とレベルアップ、さらに、一般利用者が乗車可能ということもあり、自動運転の体験機会を利用者へ提供するという意味を持つ。
自動運転システムとはどのようなものを指すのか、ここで確認しておこう。
自動運転システムとは、自動車の車両制御システムの一種で、運転に必要な「認知・判断・操作」を自動で実施可能な機能を持つシステムの総称のこと。自動で実施可能な機能には「一部」〜「全部」とレベルの差がある。米国自動車技術会(SAE)が基準を設け、それぞれが持つ機能によりレベル分けされている。
レベル1は「運転支援」のレベルで「システムが前後(アクセルやブレーキ)、左右(ハンドル操作)のいずれかの車両制御にかかる監視・対応を行う」。
このレベル1は、すでに一部の自家用車にも取り入られた機能だ。機能のレベルが向上するとごとに数字はあがり、最高レベル5まで5段階のレベルに分けられる。レベル5となると「領域は限定されず、システムがすべての運転を実施する」となる。完全自動運転という領域だ。
今回、横浜市で行われている実証実験は、レベル2の「部分運転自動化」というレベル。「システムが前後(アクセルやブレーキ)、左右(ハンドル操作)の両方の車両制御にかかる監視・対応を行う」という実験が行われる。
将来は、レベル4の「高度運転自動化」レベルを目指して実証実験が行われている。「高度運転自動化」とは「限定領域内で、システムがすべての運転を実施する」ということだ。
技術的な言葉が並ぶと、機械に弱い筆者はうーんと唸ってしまうわけであるが、要約すれば、レベル2とは、「走る」、「曲がる」、「止まる」バスの基本的な動きは自動運転機能が行い、イレギュラーな事象が生じた時などには運転席に座る運転士が、手動に変更して運転を行うというレベルだ。
一方、レベル4は、すべてがバスまかせというレベルまで高度化した自動運転システムを指す。
【注目その②】使われるのは日野のブルーリボン・ハイブリッド
今回、相鉄バスの実証実験に使われた車両は、日野自動車の「ブルーリボン・ハイブリッド」。日本の路線バスを走る大型バスとして、最もポピュラーな1台と言って良いだろう。発進時はモーターのみの駆動で走るEV走行が可能となり、燃費向上に結びついている。
ボディに「Hybrid」の文字と、天井部に箱形のハイブリッド用バッテリーと電動式パッケージクーラーが載せられていることが外観の特徴となっている。
通常走る同形車の客席は26席だが、今回は自動運転用のシステムを搭載するために、最前部の1席は取り外され25人定員となっているのが車内の変更点。また運転席の状態を映すモニタが車内に2か所に設置され、自動運転の様子を見ることができる。
【注目その③】自動運転のため取り付けられた装置とは?
自動運転のために既存の大型バスにどのような装置が取り付けられたのだろう。下の写真を見ていただきたい。正面の写真には○印を4つ付けたが、この部分が通常のバスとは違う装置が後付けされている。一つずつ見ていこう。
①全方位カメラ
このカメラによって、信号機の色などをチェックする(今回の実証実験のルートでは信号機がないため、使用していない)。
②LIDAR
天井部の前方と後方に設置されている。「LIDAR」という専門用語だが、要はレーザーセンサ(Laser Imaging Detection and Rangingの略)で、この装置により、走る道の情報をあらかじめ読み取り、走行コースのマッピングに活かし、また自動運転する時には自車がいる位置を確認する。
③GNSS
天井部に2つのGNSSなる装置の受信機が付いている。こちらも専門用語で分かり難いが、一般車両に多く搭載されるナビ(Global Navigation Satellite Systemの略)の受信装置だ。この装置でバスが今どこを走っているのか、位置を確認している。
④レーザーセンサ
正面中央のガラス窓下に1つ設置され、前方の車や前面にある障害物を感知する。
こうした①〜④の装置によって取り込まれた情報によって自動運転が行われている。
システムを開発し、今回の実証実験に関わるのが群馬大学 次世代モビリティ社会実装研究センター。同センターの副センター長でもある、小木津武樹(おぎつたけき)准教授は4つの装置に関しての現状を次のように話す。
レーザーセンサから得た情報が自動運転を行う際に、最も有効とした上で、「全方位カメラは、雨や雪、そして悪天候など環境に左右されがち。信頼性という面で課題があります」。またナビは「今回のコースのように並木道では課題が出るのでは、と心配しましたが、こちらは今のところ有効なようです」と話している。
自動運転はこれからの技術であり、1か月の実証実験により得られた多くの情報を、今後、技術力を高めていくために役立てようというわけである。
【注目その④】8月初旬から運転手が群馬大で教習を開始
相鉄バスは今回の実証実験を行うにあたり、どのように対応したのだろうか。
まずは実験用の車両の提供を行った。さらに実験に携わる人材を社内から募集した。当初は手を上げる人材がいるかどうか、心配したそうだが、多くの者が手をあげた。
結果、12人の運転士が選ばれ、8月上旬から群馬大へ出向いて、教習を受講、実際にテスト走行を体験した。そして運転方法、操作方法を学んだ。
将来を考えて、こうした自動運転の機能を少しでも知っておきたい、慣れておきたいという運転士の人たちが多かったということなのだろう。
群馬大との共同作業で、運転士の研修期間中にも、自動運転の技術が徐々に向上する様子が見て取れたとか。さらに今回の自動運転では、ハンドルに触れずに、とはいえ、ハンドルを常に手でサポートする状態に置いておかなければいけないことから、両腕をサポートする肘あてを取り付けた。
こうした現場の声というのは、これからの自動運転を進める上で大きく役立っているように感じられた。
【注目その⑤】自動運転開始!まず走る様子を外からチェック
今回の実証実験は、実際に一般の利用者を乗せて走るが、今回は、その前に報道陣を対象に試乗運行が行われた。
筆者は2便に乗車するとあって、まずは1便が走る様子を、正門前のロータリーで見学した。発車時間に合わせ報道陣を乗せて出発する。バス停からすでに自動運転が始まっていたそうだ。通常の手動運転を行うバスのようにスムーズに出発していった。
元の車両がハイブリッドとあって、発進音も静かだ。ロータリーを回って、交差点ではいったん停車し、左右を確認。左折して道路へ出る。スピードは遅めながら、普通のバスと変わりない。
さて、里山ガーデンに向けて発車したバス。30分ほどで戻ってきた。戻るバスは道路から動物園正門前のロータリーへ入るところで見守った。
通常の路線バスも多く行き来しているが、他のバスの走りよりは遅い。遠くに見えてもなかなか近づいてこない。時速20kmだから当然といえば当然か。後続車両がしびれをきらしたのか、追い越しをする光景が見受けられた。
【注目その⑥】自動運転中、運転士はハンドルのサポートに徹する
さ〜て、自動運転のバスの乗車の順番がやってきました。どのような感じなのだろう。正門前のバス停を出発した。スムーズに道路へ出る自動運転のバス。
運転席に近づくと、“あぁ、なるほど”といった印象。運転手が、ハンドルを触れずに、何かがあった時にそなえて、サポートしている。付かず離れずそのものの印象だ。この姿勢のキープは大変そうで、前述した肘あてがないと辛いだろうなと感じた。
道路に出る時は、「左右の安全を確認してください」という運転士向けにシステムからのアナウンスが行われる。こうしたアナウンスは各所で流されていた。運転士は安全が確認できたら、左足下にある青いペダルを踏み、確認したことをシステムに伝えている。
ゆっくりゆっくりと折り返しの里山ガーデンを目指す。この間、並木道が続く。折り返しの里山ガーデンでは、この自動運転を行っていたバスへ関心を持つ人の姿が目立った。多くの人が話していたのは、
「すごい!自動運転のバスだって」。
「このバス、運転士さんが乗っていないのかな」。
自動運転にはその技術によりレベルの差があり、運転士が不在の完全自動運転化は、まだ先のことになりそうである。一般の人たちには自動運転の現状があまり認識されていないことが感じられた。こうした自動運転の啓蒙が今後も必要になるのだろうと感じられた。
【注目その⑦】自動運転が解除となり手動運転になる時とは?
自動運転はあらかじめ、マッピングされたルートを読み込み、それにあわせて自動運転が行われる。通常、走り始める指示を出し、走り始めたら、バスが止まるまで、何もなければ、ハンドル・アクセル操作は自動で行われる。
とはいえ、道路上ではイレギュラーなことも起きる。このバスでは前述したようにブレーキペダルに付いた小さな青ペダルを踏むか、またハンドルを操作、さらに運転席の左上のモニタ内のボタンを押せば、手動運転に切り替えられる。
どのような時に手動に切り替えるのだろう。まずはルート上に路肩駐車する車両があった場合、これは手動に切り替えハンドル操作をして、追い抜くことが必要になる。
また後続車が追い越しをかけた場合、前方を歩行者が渡った場合、自転車を追い抜く場合など、こうした場合は、手動に切り替えてバスの操作を行う。
【注目その⑧】出発式ののち一般利用者を乗せて走り出す
自動運転の実証実験が始まった9月14日。報道陣を乗せた試乗会が催された後に、出発式が開かれた。横浜市の林琢己経済局長、相鉄バスの菅谷雅夫社長、群馬大の小木津武樹准教授、と今回のプロジェクトに関わる事業者の挨拶が続いた。また里山ガーデンを運営する横浜市緑の協会、上原啓史理事長が来賓として紹介された。(敬称略/下記のテープカット写真・右から順番に)
事業者によるテープカットののち、まずは地元の保育園の園児および家族20名を乗せて、里山ガーデンへ向けて自動運転バスが走っていった。
その後は、通常のバスと、自動運転バスが交互に里山ガーデンとの間を結ぶシャトル便として走り始めた。こうして式典は無事に終了。1か月後の10月14日までこの実証実験は行われる。
【注目その⑨】自動運転への関心度は予想以上に高かった
式典が終了し、予定通りシャトル便として走り始めた自動運転バス。今回のプロジェクトは、この自動運転をより一般の人たちにも認知してもらい、将来、本格的な自動運転バスを導入するための一歩という意味合いも大きい。
一般の人たちはプロジェクトをどのように見ていたのだろうか。
ちょうどよこはま動物園のロータリーには「路線バス自動運転プロジェクトアンケート」というボードが用意されていた。下記はボードを設置した後、30分ほどの答えの数値である。
①自動運転バスにご興味はありましたか? | Yes:26 No:0 |
②以前に自動運転バスにご乗車されたことはありますか? | Yes:4 No:22 |
③乗車前に不安がありましたか? | 不安があった:3 特に意識しなかった:11 不安ではなかった:10 |
④乗車後に感じたお気持ちに一番近いものはどれですか? | 不安があった:0 特に意識しなかった:10 不安ではなかった:16 |
⑤お住いはどちらですか? | 横浜市内:20 横浜市外:6 |
このようなアンケートに答えた方々は、やはり自動運転に関心がある人が多いと見えて圧倒的に“興味あり”という答えだった。乗車前に不安を感じた人も、乗ってみたら、不安は解消されたと答えている。
ごく一部の声ではあるものの、今後の時代を見据えて、一般の人たちの多くが、自動運転の技術向上は欠かせないと考えていることがうかがえる。
【注目その⑩】レベル4へ向けて今後の課題を見ていく
最後に今回のプロジェクトを見つつ、今後の課題を確認しておきたい。今回の実証実験では、通常の公道とは異なり、通行車両が少なめで信号も途中に無いシンプルなルートである。
イレギュラーなことが起りうる一般道とはちょっと条件が異なるように感じた。また時速20kmと、いわばスポーツサイクル並みのスピードと遅い。
今後は、言わずもがなだが、まずスピードを高めることが必要になるだろう。さすがに20kmは遅く感じた。また次の段階として、信号がある道、一般車両と混じり、スムーズに走る実験が必要となるだろう。
さらにバス停での停車や、乗客の乗降の問題、運賃の支払いなど、路線バスの自動運転化には多くの問題が横たわる。
鉄道の世界では、新都市交通(自動案内軌条旅客輸送システム)という形で、すでに自動運転の技術が実用化されている。実用化されているものの、つい最近にもトラブルがあり、自動運転は果たして大丈夫なの、という声もあがっている。
乗り物の形態は異なるものの、自動運転が一般人に、より理解され、受け入れられる素地を社会的にも形成されていく必要が、まずあるのかも知れない。
今回の実証実験で関わられた事業者の方々はもちろん、こうしたことはすでに理解していることが、話からもうかがえた。
日本国内の働き手不足、高齢化は待ったなしの状況となっている。こうした社会背景を見ると、自動運転の技術は将来、確実に必要になるであろう。自動運転の技術を導入しくことにより、進歩していく過程では、例えば運転士が急に具合が悪くなった時など、システムが運転のフォロー役になるといった使い方ができるかも知れない。こうしたことが路線バスの安全性を高めることにもつながり、また効率的な運転を図ることに結びつけることもできよう。
将来的には運転士が乗車せず、数台を遠隔操作する「レベル4」という段階の自動運転バスが、一部に導入される時代が来るのかも知れない。先に紹介した群馬大学の小木津准教授は2020年に早くもレベル4の自動運転を目指すと語っている。
そのためには、より技術の精度を高め、さらに自動運転用のセンサを道路側に埋設するなど、社会インフラの整備も必要となっていく。加えて自動運転に関しての法律の整備が必要となってくるのであろう。
私たちも徐々に広がり、浸透しつつある、そうした自動運転への理解を、深めていくことが大切な時代へと近づいているのかも知れない。
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