ローカル線の旅〈緊急特集〉 〜〜不通区間それぞれの現実〜〜
激甚災害に指定された台風19号を含め、今年も複数の自然災害が列島を襲い大きなつめ跡を残した。そして多くの鉄道路線が傷ついた。この夏まで全国の不通区間は合わせて272.9kmだった。ところが、この秋に列島を襲った自然災害による被害は甚大で、不通区間は19路線601.1kmと倍増してしまった(11月8日現在)。
幹線が、いち早く復旧されたのに対して、残された不通区間は大半がローカル線で、作業にあたる人材確保や復旧費用の捻出に苦悩する鉄道会社も多い。傷ついた全国のローカル線。ここで全国の不通区間を再確認するとともに、復旧の進み具合と、この先どうなるのか見込みを含め前後編の2回にわたって見ていきたい。
【後編はコチラ】
災害により寸断された「ローカル線」−−不通となっている19路線の現状をチェックする【後編】
【はじめに】災害の規模が大きすぎて報道が追いつかない現状
筆者は週末ごとに各地のローカル線をのんびりと乗り歩くことを楽しみにしている。そこで出てきた企画が本サイトの「おもしろローカル線の旅」だ。これまで50以上の路線を乗り歩き、そこで見つけた多くの発見を紹介してきた。
この企画で紹介してきた複数のローカル線が、この秋の台風や大雨で傷ついた。痛ましく、心が切り裂かれる思いだ。不通となってしまった、路線の復活に少しでもお役に立てることができたならば、と本原稿をまとめた。
この秋の自然災害はあまりに規模が大きく、東日本の広範囲に被害が及んだ。人的被害が大きく、報道もそちらの方に注目せざるを得なかったように感じた。さまざまな施設、道路の被害も甚大だったが、鉄道路線への影響も大きかった。北陸新幹線の車両水没に注目が集まったが、ほか各地方の暮らしに欠かせないローカル線も多くが傷つき、多くの不通区間が生まれた。
不通となった区間では、橋りょうへの被害、盛土、路盤の流出、法面(のりめん)の崩落など、被害状況が明らかになるにつれ、深刻さが目立った。
不通区間の情報は、地方紙やそれぞれの地方局のテレビ報道などで個々に取り上げられたものの、全国に向けての報道では少ないように感じた。その理由として、あまりに不通区間の数が多かったことと、また災害自体の被害が深刻だったがゆえに、鉄道の状況は後回しにされているようにも感じた。
ここでは、この秋の災害により不通となった区間に加えて、過去の災害で不通になり、いまも復旧していない線区も含めて、全国の不通区間の現状と、今後について見ていきたい。
まずはこの秋の被害が大きかった東北地方、関東・甲信越の鉄道路線から見ていきたい。
①【東北の不通区間1】復旧したばかりの三陸鉄道リアス線が
台風19号の被害で、最も痛手を被ったのが、三陸鉄道リアス線と言って良いだろう。2019年3月23日に北リアス線と、旧JR山田線、南リアス線を結びつけた「リアス線」が開通したばかりだった。復旧してから半年あまりで、また不通となってしまったのである。被害の概要を見ておこう。
◆三陸鉄道リアス線:台風19号(10月12日)の被害
不通区間 | 釜石駅〜宮古駅間55.4km、田老駅〜久慈駅間58.3km |
被害状況 | 土砂でトンネルが塞がれる、線路への土砂流入、盛り土の流失など両区間で77か所におよぶ被害 |
復旧見込み | 田老駅〜田野畑駅間は11月中に再開の見通し。ほか全線は2019年度内に復旧を目指す方針 |
旧山田線の宮古駅〜釜石駅間は、東日本大震災で不通となり、当初、廃止という案も検討された。しかし、地元の強い要望により、JR東日本が復旧工事が行い、そして第三セクター経営の三陸鉄道に移管され列車の運行が始まった。
三陸海岸の復興のシンボルとして全線開業が地元の人たちにより祝われた。また、ラグビーワールドカップの釜石会場で開催されるなど、盛り上げ機運が高まっていただけに、残念でしかたない。三陸鉄道では一部地区を11月中に復旧させ、2019年度内に全線の復旧を目指す方針としている。春の観光シーズンには間に合いそうで、地元としてもひと安心というところだろう。
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②【東北の不通区間2】リアス線につながるJR八戸線にも被害が
久慈駅で三陸鉄道に接続するJR八戸線。こちらも海岸に沿って走る区間で主に台風19号の被害を受けた。
◆JR東日本 八戸線:台風19号(10月12日)の被害
不通区間 | 階上駅(はしかみえき)〜久慈駅間37.4km |
被害状況 | 11か所で盛土流出、12カ所で法面(のりめん)崩壊 |
復旧見込み | 2か月程度 |
同線の不通により美しい海景色が楽しめると人気だった観光列車「TOHOKU EMOTION」も11月30日まで運休。12月以降の運行は決まり次第、と発表されている。
③【東北の不通区間3】阿武隈急行線の宮城側区間に甚大な被害が
東北本線の福島駅と槻木駅(つきのきえき)間の54.9kmを走る阿武隈急行・阿武隈急行線。ほぼ阿武隈川に沿って走る路線で、車窓から望む阿武隈川の流れが美しい。途中、台風19号による被害が深刻だった丸森町を通る。
◆阿武隈急行 阿武隈急行線:台風19号(10月12日)の被害
不通区間 | 富野駅(とみのえき)〜槻木駅間32.8km |
被害状況 | 48か所で土砂崩れ、路盤流出、あぶくま駅ホームの損壊など |
復旧見込み | 未定 |
現在、福島県側の富野駅と、東北本線との接続駅・槻木駅間が不通となっている。ちょうど富野駅〜丸森駅は県境にあたる険しい山間部を路線が通っている。通常ならば車窓から阿武隈川の渓谷が楽しめる区間なのだが、阿武隈川が山間を縫って流れる地区だけに、影響も大きかった。
現在、利用者の多い丸森駅〜槻木駅間は代行バスが運行されている。ところが、県境の丸森駅〜富野駅間は代行バスもなく、移動手段がない状況になっている。
阿武隈急行は東日本大震災でも被災。全線復旧までに2カ月ほど期間がかかっている。阿武隈急行からはまだ復旧の見通しが発表されていない。甚大な被害を被った地域だけに、それぞれの自治体も、まずは河川や道路の改修など生活再建に向けての課題を優先に、とならざるを得ないという状況のようだ。
④【東北の不通区間4】磐越東線の復旧は11月中旬の見込み
福島県の郡山市や福島市は「中通り」と呼ばれる。一方、太平洋側のいわき市は「浜通り」と呼ばれる。この2つの地区を結んで走るのがJR磐越東線(ばんえつとうせん)だ。太平洋へ流れ込む、夏井川に沿って路線が走っている。この夏井川、台風19号とその後の大雨による氾濫が各所で起り、磐越東線もその影響を受けた。11月中旬には全線が復旧される予定とされる。
◆JR東日本 磐越東線:台風19号(10月12日)・豪雨(10月25日)の被害
不通区間 | 小野新町駅〜いわき駅間40.1km |
被害状況 | 橋りょう盛土流出など |
復旧見込み | 11月中旬 |
⑤【東北の不通区間5】10年かけて再建を目指すJR只見線
ここからは過去の災害により不通となっている東北地方の路線の現状を見ていこう。まずは只見線から。只見線は2011年に起きた「平成23年7月新潟・福島豪雨」により甚大な被害を受けた。現在の不通区間は下記の通りだ。
◆JR東日本 只見線:平成23年7月新潟・福島豪雨の被害
不通区間 | 会津川口駅〜只見駅間27.6km |
被害状況 | 複数の橋りょうが破損、路盤流出など |
復旧見込み | 2021年度中 |
すでに8年前のことになった「平成23年7月新潟・福島豪雨」。阿賀野川の上流部にあたる、只見川の氾濫により、複数の橋りょうなどが崩落、路盤も流出した。一時は廃線すら危ぶまれた。地元・福島県が路線などの施設を整備・管理し、JR東日本が列車の運行を行う「上下分離方式」による復旧に合意、2021年度中の復旧に向けて工事が進められている。
被害の規模が大きい時にはこれほどまでに復旧に時間がかかるという典型的な例になっている。また赤字ローカル線となると、鉄道会社(JR東日本という優良会社であっても)の自助努力では復旧は難しいということを只見線の例は示している。
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⑥【東北の不通区間6】2019年度中にようやく全通予定の常磐線
東北地方の不通区間の紹介で最後となったが、常磐線にもまだ列車が走らない区間が残っている。常磐線は、ご存知のように東日本大震災により被災、津波によって大きな被害を受けるとともに、路線が、福島第一原子力発電所近くの避難指示区域内を走ることから、長期間にわたって不通が続いていた。
◆JR東日本 常磐線:東日本大震災(2011年3月11日)の被害
不通区間 | 富岡駅〜浪江駅間20.8km |
被害状況 | 路線が避難指示区域を走るため長期間不通に |
復旧見込み | 2019年度末 |
現在、福島第一原子力発電所に最も近かった富岡駅〜浪江駅間のみが不通となっている。この区間も帰宅困難区域の一部で駅周辺などが特定復興再生拠点となり、避難指示が解除される。それに合わせて路線の復旧が進められた。復旧後は東京〜仙台間を結ぶ常磐線経由の特急列車の運行も行われる予定だ。帰宅困難地域に含まれていたこの沿線も、来春からは新しい時代の到来が期待できそうだ。
⑦【関東の不通区間1】箱根登山鉄道の不通で観光へ大きな影響も
ここからは関東地方の不通区間を見ていこう。まずは復旧の目処が立っていない路線から。
神奈川県の小田原駅と箱根町の強羅駅の間を走る箱根登山鉄道。小田急ロマンスカーが乗り入れる小田原駅〜箱根湯本駅間と、急勾配が続く箱根湯本駅〜強羅駅間に分けられ、走る電車や運行スタイルも異なる。不通となっているのは箱根湯本駅〜強羅駅間のいわば“山岳区間”だ。
◆箱根登山鉄道 鉄道線:台風19号(10月12日)の被害
不通区間 | 箱根湯本駅〜強羅駅間8.9km |
被害状況 | 少なくとも20か所で橋脚の流失など |
復旧見込み | 未定 |
箱根登山鉄道が走る箱根町。台風19号が上陸した10月12日の夜までの24時間の降水量が942.5mmを記録した(気象庁の10月12日、1日の降水量の記録では922.5mm)。これまでの最多降水量は高知県魚梁瀬で記録された851.5mm(2011年7月19日)で、この記録を大幅に更新してしまったのである。ちなみに箱根町の10月1か月の平均降水量が334.3mm。1か月に降る量の3倍にも及ぶ雨が1日で降ったのだから唖然とさせられる。
険しい箱根の山間部を走る箱根登山鉄道は深刻な打撃を受けた。20か所におよぶ橋脚などが流された。これら橋の復旧、流出した法面(のりめん)の補強などの工事が必要となり、少なくとも年内の復旧は難しいとされる。
同路線、実は長期間、不通となったのは、これがはじめてではない。1923(大正12)年9月1日に発生した関東大震災でも大きな被害を受けた。全線が復旧したのは翌年の12月28日と1年以上の月日がかかっている。この時は名所となっている早川橋梁が比較的、軽微な損傷だったことが幸いし、1年ちょっとで復旧となった。日本を代表する登山鉄道だけに、何とか復活して欲しい。
ちなみに箱根湯本駅までの小田急ロマンスカーは平常通りに動いている。また登山鉄道とほぼ平行に通る国道1号を走る路線バスも、平常ダイヤに加え、臨時バスも運行されている。とはいえ、週末の国道1号は混みがちに。渋滞は避けられず、鉄道不通の影響が今後も続くと思われる。
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⑧【関東の不通区間2】9月10月と痛手を受けた房総の小湊鐵道
この秋、たびたびの災害に襲われたのが千葉県の房総半島だった。まずは9月9日に、台風15号が襲来、その後に台風19号、さらに10月25日に「千葉県豪雨」の被害を受けた。
房総半島の五井駅と上総中野駅(かずさなかのえき)を結ぶ小湊鐵道もこうした災害の影響を受けた。まずは台風15号の被害を受け、9月21日に運転再開を果たした。10月12日の台風19号の被害は比較的、軽微だったため16日に運行再開している。ところが10月25日の千葉県豪雨により、深刻な被害を受けてしまった。何しろ、千葉県豪雨では平年の10月1カ月分の雨量がわずか半日で降ったのだから大変だった。
◆小湊鐵道 小湊鉄道線:千葉県豪雨(10月25日)の被害
不通区間 | 上総牛久駅〜上総中野駅間22.7km |
被害状況 | 路盤流失など |
復旧見込み | 未定 |
度重なる千葉県内の台風と豪雨災害。小湊鐵道は養老川にほぼ沿って路線が敷かれている。路線が通る市原市を流れる養老川、さらに小湊鐵道の上総三又駅近くを流れる新堀川も氾濫に見舞われた。
小湊鉄道線で不通となっている上総牛久駅〜上総中野駅間は、小湊鐵道の路線内でも利用者が少なく、列車の本数が減る区間だ。終点の上総中野駅では、大原駅〜上総中野駅間を結ぶ「いすみ鉄道」と接続している。長期にわたる不通は、小湊鐵道だけでなしに、いすみ鉄道の営業にも関わってくる。房総半島を縦断する貴重な路線の復活を祈りたい。
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⑨【関東の不通区間3】群馬県内を走る吾妻線も深刻な状況に
沿線に草津温泉、四万温泉(しまおんせん)、川原湯温泉など温泉地が点在するJR吾妻線(あがつません)。こちらも台風19号の影響を受けて一部区間が不通となっている。
◆JR東日本 吾妻線:台風19号(10月12日)の被害
不通区間 | 長野原草津口駅〜大前駅間13.3km |
被害状況 | 少なくとも5か所で土砂流入や線路脇壁倒壊など |
復旧見込み | 未定 |
長野原草津口駅までは上野駅発の特急「草津」が走っている。その先、万座・鹿沢口駅までは、列車が1〜2時間おきに走っているものの、万座・鹿沢口駅〜大前駅間の1駅区間は日に4往復と、超閑散区間となっていた。
ローカル線の中でも列車の本数が少ない閑散区間だけに、この先が、心配されるところだ。
⑩【関東の不通区間4】水郡線は橋桁流出で復旧まで1年がかりに
水戸駅と郡山駅を結ぶ水郡線(すいぐんせん)。 “奥久慈清流ライン”の愛称が付くように、久慈川の中上流域を走る。不通となっている西金駅(さいがねえき)と常陸大子駅(ひたちだいごえき)間は特に久慈川の流れが車窓から良く見えた。途中で5つの鉄橋で久慈川を渡る。この区間にある第六久慈川橋りょうの橋桁が流出。不通となってしまった。
◆JR東日本 水郡線:台風19号(10月12日)の被害
不通区間 | 西金駅〜常陸大子駅間11.5km |
被害状況 | 第六久慈川橋梁の橋桁流出など |
復旧見込み | 未定 |
不通区間の間には袋田の滝で知られる袋田駅もある。橋桁が流出してしまったために、復旧には1年単位の時間が必要と発表されている。
後編では引き続き、関東・甲信越の不通区間と、2015年以降に起きた大規模災害により引き起こされた鉄道の不通区間についても見ていきたい。
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