【くまでんの秘密⑤】引退した電車も“青ガエル”など個性派揃い
現役3形式が活躍する熊本電鉄だが、かつての名車両たちも北熊本駅に隣接する車庫で保存されている。ホーム上や車庫周囲から止まる車両を見ることができるので、熊本電鉄を訪れた時は、北熊本駅で下車することをお勧めしたい。保存された車両をここで見ておこう。
◆5000形(元東急5000系・初代)
2016年2月14日に惜しまれつつ引退した5000形。元は東急の初代5000系だ。青ガエルの愛称で親しまれた車両で、日本の電車の近代化に貢献した名車両とされる。東京・渋谷のハチ公前に保存されている車両と同じだ。
5000系は東急で運用終了したのち、各地の地方鉄道に引き取られた。熊本電鉄には4両が譲渡され、前後に両運転台を付け、1両で走れるように改造。長年にわたり、上熊本駅〜北熊本駅間を走り続けた。引退後も5101A号車は動態保存され、北熊本車庫内で行われる運転体験などのイベントに使われている。
◆モハ71形(元国鉄モハ90形・初代)
1928(昭和3)年製造と、誕生して90年以上という古参電車。広島県内を走るJR可部線を開業させた広浜鉄道が導入、国鉄に引き継がれてモハ90形(初代)となった。
可部線の電車は広島への原爆投下による被害を受けたが、同車両は幸いなことに下関の幡生(はたぶ)工場に入っていたため、被災を免れた運の良い車両でもある。1954(昭和29)年に熊本電鉄に引き取られ長年、走り続けたが、現在は北熊本車庫で保存されている。
◆200形(元南海電気鉄道22000系)
元南海電気鉄道の高野線を走った22000系。高野線ではズームカーの愛称で親しまれた。
1998年に2両1編成が譲渡され、熊本電鉄にやってきた。塗り色はライトブルーとブルー、間に白い細い線入りのオレンジの帯を巻く。ちなみにこのカラーは熊本電鉄の伝統色だ。他の車両が検査されている時などに予備車として使われたが、2019年7月30日に引退。北熊本車庫に動態保存されている。5000形と同じように運転体験といったイベントに利用されている。
【くまでんの秘密⑥】熊本市内の微妙な位置にある藤崎宮前駅
ここからは熊本電鉄の沿線の様子を見ていきたい。まずは乗車する時のワンポイントアドバイスから。
熊本電鉄は無人駅が多い。電車には車内精算機が運転席後ろに用意され、全国の主要ICカードの利用が可能だ。わくわく1dayパスも藤崎宮前駅などで700円、900円、2000円の3種類販売している。
熊本電鉄の全区間を乗車するためには2000円券が必要になる。乗車する日にバスや市電の乗車を頻繁に行う時は2000円券の購買がお得。それ以外の場合は、700円券、あるいは900券を購入、区間外の運賃のみ支払う方が良いかも知れない。ちなみに藤崎宮前駅〜御代志駅間の運賃は片道380円だ。
さて、御代志駅行き電車の出発駅・藤崎宮前駅へ向かう。熊本市電の最寄り、通町筋(とおりちょうすじ)の電停から、やや歩く必要がある。ここが私鉄路線のターミナル駅なのかと思える“微妙な”位置にあることを実感してしまう。
通町筋電停からは上通(かみとおり)というアーケードを歩く。熊本の代表的な繁華街で、歩行者も多い。いろいろな店が並び、歩くと楽しい通りだ。上通に連なる並木坂を抜けると10分ほどで藤崎宮前駅へ到着した。
改札を出ると行き止まり式の線路上に6000形が停車していた。くまモンラッピングの電車だ。ホームは2つあり、右側の1番線が乗車ホームとなる。電車はすべてが2両編成、ワンマン運転のため、運転士は前側に移動、ほどなく出発時間が近づく。乗車した日は土曜日の朝ということもあり、下り列車は空いていた。
ほどなく発車となる。6000形は静かに走り出した。そして熊本電鉄名物の“併設軌道区間”に差しかかる。
専用軌道の区間を通り最徐行。電車はゆっくりとカーブを描き併用区間に入る。進行左手に民家の軒先が連なり、右手にせまい市道が通る。車高の高い電車からは、市道を走るクルマを見下ろすイメージだ。
並走する市道はあまり広くない。にも関わらず、一方通行にはなっていない。クルマ同士がすれ違う時には、電車が走行するエリアまで入ることもある。運転士は最大限に注意を払いつつの運転を余儀なくされる。熊本電鉄の電車はみな、正面の下側に付く排障器が大きく頑丈にできているが、この区間があるからこそ、必要不可欠ということが良く分かる。
さて、ゆっくり併用軌道区間を通り過ぎて専用軌道の区間へ。スピードを上げる間も無く次の駅、黒髪町駅が近づく。