おもしろローカル線の旅56 〜〜熊本電気鉄道(熊本県)〜〜
熊本市内と郊外の合志市(こうしし)を結ぶ熊本電気鉄道。熊本の電車らしくくまモンがラッピングされた「くまモン電車」が走る。
「くまでん」もしくは「熊本電鉄」の名で親しまれる熊本電気鉄道だが、乗ってみると、興味深いことが多い。使われる電車は東京を走った地下鉄の車両ばかり。第二の職場で頑張っている。まるで東京の地下鉄の博物館という趣さえも……。なかなか楽しい「くまでん」の旅に、さあ出発進行!
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【くまでんの秘密①】地元で今も親しまれる「菊池電車」の名称
初めに熊本電気鉄道の概要を見ておきたい。
路線と距離 | 熊本電気鉄道・菊池線/上熊本駅〜御代志駅(みよしえき)10.8km、藤崎線/北熊本駅〜藤崎宮前駅2.3km *全線単線・直流600V電化 |
開業 | 1911(明治44)年10月1日、菊池軌道により池田駅(現・上熊本駅)〜千反畑(現・藤崎宮前駅)が開業。1913(大正2)年8月27日、池田駅〜隈府駅(後の菊池駅・現在は廃駅)間が全通 |
駅数 | 菊池線16駅、藤崎線3駅(ともに起終点駅を含む) |
路線が誕生した当時の会社名が菊池軌道株式会社だった。熊本電鉄の元となった菊池軌道は菊池市を目指し、熊本市内から路面電車の路線を開業させた。1942(昭和17)年に地方鉄道法に準拠した鉄道に変更され、会社名も菊池電気鉄道に変更。さらに1948(昭和23)年に熊本電気鉄道と名を改めた。
1986(昭和61)年2月16日に御代志駅〜菊池駅間が廃止され、終点は合志市内の御代志駅までの路線となっているが、路線名は菊池線と「菊池」の名が残る。
菊池市は、熊本平野の北部に位置する都市。おいしい米で知られる菊池米の産地であり、日本名湯百選にも選ばれた菊池温泉がある。
熊本市民、そして沿線の人たちは、熊本電鉄のことを今も「菊池電車」と呼ぶ。菊池まで走っていないにも関わらず、路線名に菊池の名が残るように、菊池へ向かって走った電車への強い郷愁があるのかも知れない。
【くまでんの秘密②】今は藤崎宮前駅〜北熊本駅間が“本線扱い”に
熊本電鉄の路線名でちょっと不思議に感じるのは、菊池線の名だけではない。菊池線は上熊本駅〜御代志駅の路線を指す。一方、菊池線の途中駅・北熊本駅〜藤崎宮前駅間は藤崎線と呼ぶ。今はほとんどの列車が、藤崎宮前駅と御代志駅の間を行き来している。上熊本駅と御代志駅を直接に結んでいる電車はない。
列車の本数は、藤崎宮前駅〜御代志駅間が日曜日をのぞき、朝夕が15分おき、日中が30分おきに運転される。藤崎宮前駅発の最終電車は日曜日をのぞき23時0分発となる。
一方の菊池線の北熊本駅〜上熊本駅間の列車はすべて、北熊本駅〜上熊本駅間を往復する。列車の本数は時間帯の例外なく30分おきに走る。こちらの路線の上熊本駅発の最終電車は平日21時50分発と早めだ。
路線名から推測すると、藤崎線は分岐する北熊本駅からの支線扱いなのだが、実際には本線扱いとなっている。利用者も圧倒的に多い。上熊本駅〜北熊本駅間は藤崎線を比べると利用者が少なく、こちらが支線となっている。利用客の大半が地元の人たちということもあり、路線名を変えずとも、さしたる問題が起きないということなのだろう。
【くまでんの秘密③】路面電車の面影が残る黒髪町駅までの区間
鉄道好きが注目する熊本電鉄の代表的なスポットといえば、藤崎宮前駅〜黒髪町駅間にある“併用軌道区間”。長さ150mほどの区間が道路上を走る“併用軌道区間”となっている。
民家をぎりぎりかすめるように電車が道路上を走っている。この道、市道(坪井4丁目第15号線)で最小幅が5.1m、最大でも12.3mと細い。併用軌道区間の南側には「立田口赤鳥居」という古くから鳥居があり、この鳥居が道標がわりになっていたとされる。この付近で参勤行列の警固も行われた。現在は市道になっているものの、大名の参勤交代に使われた古い道のようだ。
同区間には熊本電鉄で最も厳しい半径100mという急カーブもある。商店の赤い郵便ポストの目の前を、長い電車が速度を抑えつつ通り過ぎる光景は何とも不思議に感じる。
この併用軌道区間だが、元は菊池軌道が路面電車を走らせたことが起源になる。路線は上熊本駅から藤崎宮前駅を通って、北熊本駅方面へ延びていた。この区間のみ、路面電車当時の路線が残ったわけである。
ちなみに、現在の上熊本駅と北熊本駅間を走る菊池線の路線とは異なる。
上熊本駅から現在の県道31号線・1号線を通って、藤崎宮前駅へ。さらに黒髪町駅まで、今も残る併用軌道区間を通り、路線は国道3号方面へ。道路上を走る路面電車そのものだった。その後に、上熊本駅〜藤崎宮前駅間は、1953(昭和28)年に水害で不通になったことを契機に、用地を熊本市交通局に譲渡。熊本市電坪井線となり、1970(昭和45)年まで路面電車が走っていた。
残る併用軌道区間には、そうした路面電車当時の名残だったわけである。
この併用軌道区間、最近、相次いでトラブルが起きた。2017年2月に走行中の電車が脱線した。復旧させた2年後の2019年1月9日に、再び同区間で脱線が起きている。いずれもスピードが遅かったために、人的被害はなかった。原因は軌間が拡大したことよるとされる。
木の枕木は、使用していくうちにレールを止める、犬釘などの保持力が減退するとされる。保持力が減退するとレール幅が広がってしまうことがある。2回の脱線事故を教訓に熊本電鉄では、事故区間を中心にコンクリート(PC)まくらぎ化工事を進めている。
【くまでんの秘密④】現役車両はすべて東京を走った地下鉄電車
さて熊本電鉄の車両について触れておこう。現在、使われている車両は次の3形式だ。すべての現役車両が東京の元地下鉄車両というのも興味深い。
◆01形(元東京メトロ01系)
01形は東京メトロ銀座線を走った01系だ。01系は銀座線の主力電車として2017年3月まで30年以上にわたり走り続けた。そして2015年に熊本電鉄に2編成、計4両が譲渡された。
熊本電鉄を走るにあたって、改良が施されている。まず先頭車のみ2両の編成に。さらに銀座線はサードレールから電気を受ける方式なので、屋根上にパンタグラフを2基、装着した。ほか銀座線用の1435mm幅の台車を、熊本電鉄用の1067mm幅の台車に履き替えている。
現在2編成が走る。01形35編成が黄色車体のくまモンラッピング車。36編成が銀色車体のくまモンラッピング車として走っている。
◆03形(元東京メトロ03系)
03形は東京メトロ日比谷線を走り続けた03系だ。1988年に導入され、日比谷線を約30年に渡り走り続けてきた。後進の13000系が導入されたことで、徐々に減り、2019年度末には日比谷線から姿を消すことになる。
熊本電鉄では同03系を2両×3編成を導入の予定で、すでに2019年4月4日から最初の編成が走り始めている。01形と同じように、パンタグラフを2基搭載。2両で運転するため、前後2両とも先頭車という編成だ。
◆6000形(元都営地下鉄6000形)
熊本電鉄の主力車両として活躍するのは元都営三田線の6000形。東京都交通局により1968(昭和43)年に導入され、1999年まで三田線を走り続けた。
熊本電鉄へは2001年までに2両×5編成の計10両が譲渡された。以降、熊本電鉄の主力車両として活躍している。
【くまでんの秘密⑤】引退した電車も“青ガエル”など個性派揃い
現役3形式が活躍する熊本電鉄だが、かつての名車両たちも北熊本駅に隣接する車庫で保存されている。ホーム上や車庫周囲から止まる車両を見ることができるので、熊本電鉄を訪れた時は、北熊本駅で下車することをお勧めしたい。保存された車両をここで見ておこう。
◆5000形(元東急5000系・初代)
2016年2月14日に惜しまれつつ引退した5000形。元は東急の初代5000系だ。青ガエルの愛称で親しまれた車両で、日本の電車の近代化に貢献した名車両とされる。東京・渋谷のハチ公前に保存されている車両と同じだ。
5000系は東急で運用終了したのち、各地の地方鉄道に引き取られた。熊本電鉄には4両が譲渡され、前後に両運転台を付け、1両で走れるように改造。長年にわたり、上熊本駅〜北熊本駅間を走り続けた。引退後も5101A号車は動態保存され、北熊本車庫内で行われる運転体験などのイベントに使われている。
◆モハ71形(元国鉄モハ90形・初代)
1928(昭和3)年製造と、誕生して90年以上という古参電車。広島県内を走るJR可部線を開業させた広浜鉄道が導入、国鉄に引き継がれてモハ90形(初代)となった。
可部線の電車は広島への原爆投下による被害を受けたが、同車両は幸いなことに下関の幡生(はたぶ)工場に入っていたため、被災を免れた運の良い車両でもある。1954(昭和29)年に熊本電鉄に引き取られ長年、走り続けたが、現在は北熊本車庫で保存されている。
◆200形(元南海電気鉄道22000系)
元南海電気鉄道の高野線を走った22000系。高野線ではズームカーの愛称で親しまれた。
1998年に2両1編成が譲渡され、熊本電鉄にやってきた。塗り色はライトブルーとブルー、間に白い細い線入りのオレンジの帯を巻く。ちなみにこのカラーは熊本電鉄の伝統色だ。他の車両が検査されている時などに予備車として使われたが、2019年7月30日に引退。北熊本車庫に動態保存されている。5000形と同じように運転体験といったイベントに利用されている。
【くまでんの秘密⑥】熊本市内の微妙な位置にある藤崎宮前駅
ここからは熊本電鉄の沿線の様子を見ていきたい。まずは乗車する時のワンポイントアドバイスから。
熊本電鉄は無人駅が多い。電車には車内精算機が運転席後ろに用意され、全国の主要ICカードの利用が可能だ。わくわく1dayパスも藤崎宮前駅などで700円、900円、2000円の3種類販売している。
熊本電鉄の全区間を乗車するためには2000円券が必要になる。乗車する日にバスや市電の乗車を頻繁に行う時は2000円券の購買がお得。それ以外の場合は、700円券、あるいは900券を購入、区間外の運賃のみ支払う方が良いかも知れない。ちなみに藤崎宮前駅〜御代志駅間の運賃は片道380円だ。
さて、御代志駅行き電車の出発駅・藤崎宮前駅へ向かう。熊本市電の最寄り、通町筋(とおりちょうすじ)の電停から、やや歩く必要がある。ここが私鉄路線のターミナル駅なのかと思える“微妙な”位置にあることを実感してしまう。
通町筋電停からは上通(かみとおり)というアーケードを歩く。熊本の代表的な繁華街で、歩行者も多い。いろいろな店が並び、歩くと楽しい通りだ。上通に連なる並木坂を抜けると10分ほどで藤崎宮前駅へ到着した。
改札を出ると行き止まり式の線路上に6000形が停車していた。くまモンラッピングの電車だ。ホームは2つあり、右側の1番線が乗車ホームとなる。電車はすべてが2両編成、ワンマン運転のため、運転士は前側に移動、ほどなく出発時間が近づく。乗車した日は土曜日の朝ということもあり、下り列車は空いていた。
ほどなく発車となる。6000形は静かに走り出した。そして熊本電鉄名物の“併設軌道区間”に差しかかる。
専用軌道の区間を通り最徐行。電車はゆっくりとカーブを描き併用区間に入る。進行左手に民家の軒先が連なり、右手にせまい市道が通る。車高の高い電車からは、市道を走るクルマを見下ろすイメージだ。
並走する市道はあまり広くない。にも関わらず、一方通行にはなっていない。クルマ同士がすれ違う時には、電車が走行するエリアまで入ることもある。運転士は最大限に注意を払いつつの運転を余儀なくされる。熊本電鉄の電車はみな、正面の下側に付く排障器が大きく頑丈にできているが、この区間があるからこそ、必要不可欠ということが良く分かる。
さて、ゆっくり併用軌道区間を通り過ぎて専用軌道の区間へ。スピードを上げる間も無く次の駅、黒髪町駅が近づく。
【くまでんの秘密⑦】最初の駅はレトロ感が半端ない黒髪町駅
藤崎宮前駅から乗車3分ほどで次の黒髪町駅へ到着した。ホーム一つの小さな駅。駅舎は下の写真のとおりだ。レトロ感が半端ない。それでも前に訪れた時の駅名標は、きれいな番号入りのものに変更されていた。
熊本電鉄は鉄道部門の赤字が長年にわたり続いている。他のバス、不動産業などにより成り立っている会社だ。この駅舎もその苦労がしのばれる。
黒髪町駅という名を見て、ちょっと気になる方もいるのではないかと思う。調べると単純に、熊本市内に黒髪町という町名があるため、この駅名になったのであって、深い理由は見つからなかった。駅構内に、髪が気になる人に恩恵がある黒髪神社などがあれば受けるのでは、と勝手に思ってしまう。
ちなみに熊本県のお隣、佐賀県武雄市には黒髪神社があり、五穀豊穰、交通安全のほか、諸願成就の神様とされる。諸願成就とあるので、髪の悩みにご利益もあるとされている。
【くまでんの秘密⑧】北熊本駅は車庫など見どころいっぱい
始発駅の藤崎宮前駅から2つめ、北熊本駅へ到着した。同駅は熊本電鉄の拠点となる駅で鉄道本部や運転士の詰め所などの施設が同駅内にある。
駅舎も熊本電鉄の駅の中では最もしっかりした造りとなっている。駅は太平洋戦争後の1949(昭和24)年に造られた。軌道線から鉄道線に変更するにあたり路線を西側に移動させ、同地に移っている。
ホームは2面、線路は3線あり、駅舎側から1番線が藤崎宮前方面、2番線が御代志方面、3番線が上熊本方面行きの電車が発車する。北熊本駅は上熊本駅へ向かう列車の乗換駅で、ほとんどの列車が、乗換しやすい時刻に設定されている。同駅で接続しない列車は、駅の時刻表にも記述されているのですぐ分かる。
上熊本方面への列車が出発する3番線に並ぶように北熊本車庫がある。そこには前述したような現役車両と、貴重な保存された車両が停まっている様子が見える。例年、10月末の土曜日には、ふれあい祭りを開催、車庫内が公開される。さらに一般向けの運転体験も定期的に開かれている。
ホームや駅周辺からも十分に車庫内は見えるが、車両により近づいて見たい時には、こうした公開日に訪れてみてはいかがだろう。
北熊本駅の駅舎は国道3号側にある。西側には出口がない。西側には坪井遊水公園がある。駅の北側にある踏切を経由しなければいけないが、この公園内には、熊本電鉄の線路沿いに遊歩道が設けられている。駅や車庫、そして菊池線の線路を見ながらの歩くのも楽しい。やや線路から離れる箇所があるものの、菊池線の2つ先の打越駅まで歩くことができる。
【くまでんの秘密⑨】緑を見ながら北熊本駅〜上熊本駅間を乗車
北熊本駅から上熊本駅方面に乗換えることにしよう。
北熊本駅から上熊本駅までは5駅ほどだ。全線、熊本市内を通っているものの、緑が濃く爽やかな区間でもある。まずは北熊本駅を出発すると、右手に坪井遊水公園が見える。公園周囲の突堤が遊歩道になっている。
次の駅が坪井川公園駅だ。このお隣の駅、打越駅の間で坪井川を渡る。この川沿いには坪井川緑地がある。坪井遊水公園や坪井川緑地は、坪井川が氾濫することを避けるための遊水池として活かされている。
打越駅〜池田駅間には短いトンネルがある。池田駅のホームからは、このトンネルがすぐ近くに見え、トンネルを出てくる電車を撮影するのに向いている。またトンネルの上から俯瞰した池田駅も絵になる。ちなみに5、6月ごろ、暮れたトンネル入口付近でホタルを目にすることもできる。
池田駅の先は、韓々坂駅(かんかんざかえき)。そして終点、上熊本駅へ。熊本電鉄の上熊本駅のホームのすぐ目の前にJR鹿児島本線の上熊本駅がある。こちらは2015年に線路が高架化され、それに合わせて新しい建物になっている。さらに南隣には熊本市電の上熊本駅が。こちらの駅舎は、大正初期に建てられた国鉄の上熊本駅の二代目駅舎を移築している。洋風駅舎としての評価が高かったこともあり立派だ。
さて、熊本電鉄の上熊本駅。ホームは1面、線路1本の小さな駅だ。ここが熊本電鉄菊池線の起点駅でもあり、駅のナンバーも「KD 01」となっている。駅は実にシンプルな造りだ。
歴史をたどると輝かしい時代もあった。現在、JR線と菊池線の間には、貨物列車用の留置線があった。さらに当時の国鉄鹿児島本線を結ぶ連絡線があった。
すでに引退してしまったが、熊本電鉄の5000形も、この連絡線を通って、熊本電鉄へ運ばれた。残念ながら1985(昭和60)年に、こうした連絡線や、引込線は撤去されたが、当時の様子をぜひとも見たかったものだ。
【くまでんの秘密⑩】国道整備のために東に引っ越した黒石駅
北熊本駅へ戻って、御代志駅までの旅を続けよう。駅を発車すると、亀井駅までは、やや登り坂となっている。路線に平行して、坪井川が流れている。亀井駅を過ぎるころには、坪井川は眼下を流れるようになり、路線が河岸段丘の上を走っていることに気が付く。
各駅間はほぼ均等で、車内の路線図には、駅間の所要時間が記載されている。見ると藤崎宮前駅から、3分、3分、3分、2分、2分、2分……といった具合。御代志駅まで、どの駅間も1〜3分といった所要時間になっている。駅間の距離は長くとも1.2km。ほとんどが隣の駅まで数100mと短い。最短は400mだ。
熊本電鉄は古くは路面電車が起源ということもあり駅間が短い。沿線に住む人たちには便利な公共機関ということができるだろう。
途中、黒石駅へ降りてみた。このあたりまで来ると住宅もまばらになってきて、駅付近にも緑が目立つようになった。
ちなみにこの黒石駅は2001(平成13)年に移動した新たな駅だ。平行して走る国道387号の拡幅工事を行ったためで、ほぼ道に沿って敷かれていた線路は、最大で140mほど東へ移動した。駅周辺に空き地が目立つが、こうした移動により生まれたものだった。同区間の踏切数が減り、また手前には三ツ石駅(みついしえき)が新しく設けられた。九州自動車道を走る高速バスのバス停も、三ツ石駅から徒歩10分ほどの距離にある。
線路の移動により国道387号の渋滞も、当時は緩和につながったようだが、電車から平行して走る国道を見ると、相変わらずクルマが数珠繋ぎ状態に。数年前に訪れたこともあるが、よりクルマの渋滞が悪化しているように感じた。
【くまでんの秘密⑪】終着駅ながら寂しい雰囲気の御代志駅
黒石駅を過ぎると、電車は国道387号に平行して走る。渋滞しがちな国道に比べて電車は快適に走る。黒石駅の次の駅は熊本高専前駅だ。駅名どおりに、近くに熊本高等専門学校があり、乗車した日は、ここで下車する学生が多かった。
駅前にはグラウンドや農場が広がる。車内からは牧場が遠くに見え、一瞬、北海道の路線を乗車しているように錯覚してしまうほどだ。
御代志駅が近づくにつれ、大規模な公共施設が多くなる。そして終点の御代志駅に到着した。北熊本駅から片道ちょうど20分。国道387号沿いに1面1線のホームがある。
御代志駅の前にはバスのロータリーがあるものの、終着駅という趣は乏しい。国道を隔てた地域には、地元・合志市の住宅街が広がっているが、反対側は緑に包まれている。菊池線はこの先、13.5kmの路線が菊池駅までつながっていたが、御代志駅は、今もやはり菊池線の途中駅という印象が強い。
御代志駅まで乗車している人は少なかった。途中で降りてしまう人が多かった。駅前にバス停があるのだが、ここからバスに乗ろうという人も少ない。
その理由は同駅前の走るバスの多くが熊本駅前と菊池温泉を結ぶバスだからだ。解説は不要かも知れないが、菊池へ行く時はバスが便利。さらに菊池から熊本方面へ行く時もバスが便利というわけだ。さらにバスは15〜30分おきに運転されている。所要約1時間30分で、熊本駅前から菊池まで行くことができる。
こうした現状を見ると、電車を利用する人は少ないのも頷けてしまう。さらにバスを運行しているのは熊本電鉄バスで、バス路線の名も菊池線だ。
熊本電鉄に乗車する人は、駅周辺に住む人たち主体で、しかも熊本駅を目指す人よりも、藤崎宮前駅から通町筋といった市街や、上熊本方面へ向かう人が多いようだ。利用率が上がらず、鉄道部門が長年にわたり赤字が続いていることにも納得してしまう。
【くまでんの秘密⑫】評価が高いLRT計画もなかなか進まず
熊本電鉄のホームページを開くと、「LRT化計画」が提案されている。LRTとはライトレールトランジット(Light rail transit)のこと。軽量軌道上を軽量化した鉄道車両を走らせる交通機関で、日本でも路面電車のライトレール化、さらに従来の鉄道路線を利用、一部の路線を変更して利用する例が見られる(富山ライトレールなど)。
国土交通省九州運輸局と熊本県が2004年に策定したプランでは、熊本電鉄のLRT化を提案、さらに熊本市交通局(熊本市電)の水道町電停付近まで路線に延ばして乗り入れ。また御代志駅より先の大池まで延長し、より利便性を高める案が盛り込まれた。しかし、当時の事業費で100億円という費用がかかり、事業目処は立たなかった。熊本電鉄独自では、とても成就不可能なプランであり、行政の支援が不可欠とし、さらに同社は鉄道線の廃止まで持ち出している。その後、市電との乗り入れ案やLRT化は凍結されたままとなっている。
長年にわたり赤字が続く慢性的な問題。熊本電鉄では運行時間を早朝と深夜帯まで拡大させるなど自助努力を進めているものの、沿線人口の減少、利用者の減少などに直面している。鉄道事業のみならず、バス事業も難しい局面に立たされているとされる。
苦境にあえぐ熊本電鉄は今後どうなるのだろうか。存続のためには行政の支援を欠くことができないだろう。鉄道好きとしては何とか頑張って欲しいと願うしかない。ローカル線の旅を楽しませていただいたものの、地方の鉄道が直面する難しい問題を見てしまったように感じた。
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