「仕事をしながらでもクルマで好きな場所を巡りたい」「テントを組み立てることなく手軽にキャンプを楽しみたい」――少なからぬ人が抱いたことのあるであろうそんな願い、「車中泊設備のあるクルマを買う余裕なんてないし……」と諦めていないだろうか。
今回紹介する、Carstayの「バンシェア」サービスなら、手軽にその夢を叶えることができる。正式ローンチ前ではあるが、一足先に同社オリジナルバンコン(キャンピングカーのようにバンを改造したもの)を借りて、仕事をしつつ旅を楽しんできたので、その使い勝手などについてレポートしたい。
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目指すは『ゆるキャン△』の聖地!
これまでアウトドアシーズンといえば夏が定番だったが、2018年1~3月に放映されたアニメ『ゆるキャン△』(原作:あfろ)は、その考えを覆した。
作品内で言及されているように、寒い時期であれば空気は澄んでいるし、飛び回る虫もいない。南関東であれば、晴れている日も多く、キャンプ日和が続く。何気ない焚き火の暖かさが身にしみるのもまたいい。
作品の世界観を好きになったこともあり、『ゆるキャン△』の聖地を何箇所か訪れたいと思ったが、あいにく自家用車を持っていない。夜行日帰りでは強行軍が過ぎるので、一泊二日で行きたいところだが、夫婦二人で駐車場付きホテルを取るとなるとレンタカー代とあわせて結構な金額になってしまう。
そこで、バンシェアを使って、移動のほかに車中泊もできる(しかも、テーブル、電源など仕事環境も備えている)キャンピングカーを借りることにしたのだ。
会員登録すれば車中泊スポットの予約もできる
ここで簡単にバンシェアについて紹介しておこう。
バンシェアは、キャンピングカーやバンコンでのバンライフに興味はあるが、さまざまな理由で所有できない人と、バンコンを持っているが、使っていない時間がもったいない、維持費節約のために誰かに貸したい、という両者のマッチングによるシェアリングサービスだ。
そのため2種類の登録ユーザーがバンシェアには存在する。1つは自分のクルマをシェアする「ホルダー」、もう1つはシェアしてもらう「ドライバー」。ドライバーは、登録されたバンコンのなかから好みのクルマを検索し、乗りたい時間や場所がマッチすれば予約できる。1泊から借りられるので、気負うことなくはじめられる。
Carstayでは、バンコンのシェアサービスだけでなく、提携している日本全国の車中泊スポットの予約サービスも行っている。
車中泊はキャンプと同じ。トイレやシャワーといった設備のあるバンコンもあるが、ない場合も多い。つまり、宿泊地でのトイレやシャワーを確保しておかないといけないのだ。
その点、Carstayで予約できる車中泊スポットは、それらの設備の有無をアイコンで確認できるのが便利。仕事するのに必要なWi-FiスポットやAC電源をオプションで貸し出してくれるところもある。
今回、車中泊スポットとして利用した「鉄道ゲストハウス 鐡ノ家(てつのや)」では、Wi-Fiスポットを無料で提供してくれていた。水道の利用も無料だったので、万が一、キッチン用の水がなくなってしまったらどうしよう、という不安も解消できた。
もちろん、オートキャンプ場という選択肢もあったが、クルマからトイレや水場までの距離、AC電源の有無などでは、車中泊スポットとして登録されているところに分があるのではないだろうか。
ちなみに、AC電源についてだが、バンコンには車内にAC電源のコンセントを備えているものがある。当然、車載のサブバッテリーから電力を供給するのだが、走行距離が短かった、などの理由で、充分に蓄電されないこともある。そのようなときに、車中泊スポットにあるAC電源が役に立つ。屋外にある家庭用コンセントから電力を供給できるからだ。これなら、一晩中ヒーターをつけていたり、パソコン作業をしていたりしても、サブバッテリーの容量を食うことがない。気兼ねなく使い続けられるのだ。
ただ、今回借りたバンコンはサブバッテリーを2基搭載した「ツインサブバッテリー」タイプ。冷蔵庫を稼働させていても、電力が尽きることはなかった。
聖地巡りしながら原稿書き!
わたしの主な仕事は執筆業務。取材さえ終わっていれば、どこででも仕事ができる職業だ。普段は自宅に引きこもっていることが多く、出不精のため、どんなに行き詰まってもリフレッシュできない。出かければいいのだろうが、出かける支度をするのが億劫だ。
しかし、バンコンで移動しているのであれば話は別だ。そもそも外に出かける格好をしているので面倒臭さがない。クルマを運転し、落ち着けるところでパソコンを開いて執筆。飽きたら深呼吸するため車外に出たり、運転席に戻って移動したりするのが簡単に行える。
今回借りたバンコンには、運転席と助手席の後ろに向かい合わせで座れるシートと、それに挟まれる形でテーブルが備え付けられていた。テーブルは、食事をとるのにも、作業用パソコンを広げるのにもちょうどいいサイズ感。
撮影のためにパソコンを奥側に追いやってしまったが、その前までは2人で向かい合って作業をしており、最大4人がそれぞれのノートパソコンを開いて作業することも可能かもしれないと感じる広さだ。
肝心の聖地巡りだが、まずは主要な登場人物である志摩リンと各務原なでしこが出会った本栖湖公衆トイレへ。
ついで、浩庵キャンプ場へ。受付を済ませ、本栖湖畔まで降りてみる。
それなりに賑わっていたが、パーキングエリアや道の駅ほどではない。何より、自然のなかで調理できる醍醐味を味わえる。
調理の支度を終え、ガスバーナーをつけようとした瞬間、雨が降ってきた。しかも土砂降りだった。
こんなときには、バンコンで良かった、と心から思う。調理の続きを車内で行えるからだ。
バタバタという雨音を聞きながらホットサンドを作り、食べ終わったら少し休んで、しかかりの仕事を行う。「飽きてきたなぁ」と思う頃には退去時間が迫っていたので、テーブルの上を片付けて移動。どんなに気をつけていても、カーブの多い山道を走るときには遠心力が働いて、ものが落ちてしまう可能性があるため、片付けは重要だ。
一旦、車中泊スポット「鉄道ゲストハウス 鐡ノ家」へ行き、チェックインを済ませてから、『ゆるキャン△』第5話の舞台となったほったらかし温泉へ。営業終了時間ギリギリまで粘ってから、作品中の場面より遥かに低い場所からではあったが甲府盆地の夜景も楽しみ、車中泊スポットに戻ったところで1日を終えた。
“4つ目の場所”としての車内空間
カフェで仕事をすることが当たり前になって久しく、サードプレイスという言葉も最近ではあまり耳にしなくなった。わたし自身、何でも揃っている自宅で仕事をするより、少し不自由でもカフェなど適度な緊張感のある場所のほうが、集中して作業できる。
今回は、“4つ目の場所”としてバンコンという車内空間を選んでみたわけだが、運転する、休憩する、仕事する、外に出る、仕事する、運転するという変則的な行動により、短くても予想以上に集中できる、と感じられた。
「疲れたら、寝てもいいんだよ」という家のような誘惑がありつつ、窓のシェードを開けたままでは外部の人の目が気になる、という適度な緊張感や、すべてが揃っているわけではないカフェのような不自由さもある。
開放感と密室感、その両方を兼ね備えているからか、作業に充てられる時間は短くても、オンオフの切り替えが早くでき、高効率化につながったのではないか、と思う。作業時間が短かったのは、全行程を自身で運転したためでもあるので、同乗者に運転をお願いすれば、後部座席で移動時間中も仕事をできたのかもしれない。
Carstayでは、2020年1月24日にはじまるテレビドラマ『絶メシロード』が“車中泊の旅”をテーマにすることから、協力体制を敷いているという。車中泊のリアルがどのようなものか、主人公の体験からうかがい知れるだろうと期待している。
金額のことについても触れておこう。肝心のバンシェアサービスが記事執筆時点ではまだ正式ローンチしていないが(年内開始予定とのこと)、今回借りたバンコンは一泊2万9800円で、貸し出し名称はズバリ「動くオフィスVAN」。なお、購入すれば、750万円はくだらないという。サラリーで生活していればいざしらず、フリーランスで仕事をするわたしには手の出る金額ではない(笑)。とはいえ、レンタル代であれば、数カ月に一度、「あのアニメの聖地を巡りたい!」という欲求がむくむくと湧いてきたときに出せない金額というわけでもない。
もちろん、仕事とは関係なく、小学生以上の子どもを持つ家庭でもバンシェアでの旅は有効だろう。移動中にはしゃいでも誰にも迷惑がかからないし、電車の乗り換えで疲れないし、ホテル代もいらない。予定変更などの融通も利く。
ただ、バンシェア利用時に気をつけたいのは、クルマが予想以上に大きいこと。セダンタイプやバンタイプのクルマを普段から運転しているのであれば気後れすることもないだろうが、コンパクトカーしか運転したことがないのであれば、面食らってしまうかもしれない(実際には車高が高く、周りがよく見渡せるため、あまり運転に支障はないのだが)。
正式にサービスが始まったら、またバンコンを借りて旅をしたい。今度は二泊三日くらいで、ぜひとも日本海を見てみたいものだ。