ボルボのミドルセダン、「S60」が8年ぶりにフルモデルチェンジ。3代目へと進化しました。2018年に稼働したボルボ最新のアメリカ工場で生産されるこのモデル、果たしてドイツ勢が主流となる日本のプレミアムセダン市場において有力なオルタナティブとなり得るのでしょうか? ここでは、その実力を明らかにしていきましょう。
【関連記事】
ボルボ、日本国内唯一のセダン「S60」が3代目に。一番ヤバかったのはPHEVモデル
【今回紹介するクルマ】
ボルボ/S60
※試乗車:T5インスクリプション 614万円
価格:489~779万円
【フォトギャラリー(GetNavi webサイトにてご覧になれます)】
新世代骨格の採用で、外観は格段にスタイリッシュに
ステーションワゴンの「V60」をセダン化、という手法自体は先代と変わらない新型S60ですが、とりわけ先代オーナーにとって衝撃的なのはスタイリングの激変ぶりではないでしょうか。現行V60と同じく、プレミアムSUVの「XC90」から採用が始まったボルボの新世代骨格、「SPA(スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャー)」を採用する新型の佇まいは、エンジンを横置きにするクルマのそれとは思えないほどスマートに仕上げられています。
実際、ボディは先代比で全長が125mm、ホイールベースは100mm拡大された2870mmとなる一方、全高は45mm低いというプロポーション。ミドルセダンとしては長めな4760mmの全長とあいまって、見ため上の押し出しの強さや上質感はこのクラスの主流、「メルセデス・ベンツCクラス」や「BMW3シリーズ」、「アウディA4」あたりと比較して勝るとも劣りません。その一方、全幅が先代より15mmナローな1850mmにとどめられている点は、日本の交通事情を考えると嬉しいポイントといえるかもしれません。
最新モデルに相応しい新しさと洗練度が嬉しいインテリア
スマート、という表現は室内回りの仕立てにもぴったり当てはまります。インターフェイス、デザインは先述したSPA世代のボルボに共通するもので、新型S60のそれも基本的な仕立てはV60と同じ。インパネ中央にレイアウトされた多機能ディスプレイはスマホに通じる操作感で、デザイン性だけでなく実際の使い勝手も上々。外から入る光の加減によってはタッチパネル操作に付きものの指紋跡が目立つ点が玉にキズですが、新しいクルマに乗っている、という新鮮味はライバルに対しても十二分といえる出来映えです。
もちろん、セダンとしてのユーティリティも満足できる水準にあります。堅牢そうでもある大ぶりなシートは、ゆったりとした座り心地に加え安全性や多機能ぶりもハイレベル。エンジンを横置きにしたミドル級セダンだと思うと特別室内が広いわけではありませんが、前後席ともに空間上の不足はありません。実際、ホイールベースを延長した恩恵で後席の足下スペースは先代比で36mm前後に伸びていて、先述したドイツ勢と比較しても同等以上の空間が確保されています。
安全・運転支援システムの高い充実度はまさにボルボ!
また、近年脚光を浴びている安全装備、運転支援システムについては長年安全性を売りにしてきたボルボらしい充実ぶり。代表的なところを挙げておくと、衝突回避・被害軽減フルオートブレーキの「シティセーフティ」にはV60と同じく「対向車対応機能」を搭載。これは対向車との衝突が避けられないと判断された際、衝突速度を最大マイナス10km/hまで低下させて乗員へのダメージを低減するもの。また、新世代ボルボで定番となっている対向車衝突回避支援機能(オンカミング・レーン・ミティゲーション)や右折時対向車検知機能(インターセクション・サポート)も採用。嬉しいのは、こうした最先端の安全デバイスが、全グレードで標準装備となっていることでしょう。
走りは上質なスポーティセダンとしてハイレベルな出来映えに!
電動化を見据えた取り組みの一環として、ディーゼルエンジンのラインナップを持たない最初のボルボとなった新型S60ですが、日本仕様に用意されたパワーユニットは3タイプ。ガソリンエンジンは「T4」と「T5」の2種類で、いずれも構成は2ℓの4気筒ターボ。違いはアウトプットにあって後者はパワーが64PS、トルクは50Nm強化されます。そして頂点に位置付けられるのが「T6ツインエンジン」と名付けられたプラグイン・ハイブリッド。エンジンは4気筒の2ℓターボ+スーパーチャージャーで、これに後輪を駆動する電気モーターを組み合わせて名前通りの“ツインエンジン”としているのが特長となります。なお、駆動方式はこのT6が4WDで純ガソリン仕様はFFのみ。組み合わせるトランスミッションは、いずれも8速ATとなります。なお、発売時にはT6よりさらに高性能な「T8ポールスター・エンジニアード」も用意されていたのですが、30台限定の特別仕様車ということで発売したその日に完売してしまったそうです。
今回は、そんな日本仕様のS60で中堅となるT5エンジン搭載車に試乗したのですが、走りはミドル級プレミアムセダンとして満足できる出来映えでした。ボルボの2ℓガソリンターボは、デビュー当初から吹け上がりに代表される質感の点で定評がありましたが、それはこの新型S60との組み合わせでも健在。254PS/350Nmというパワー&トルクの額面通り、1660kgの車重に対する絶対的な動力性能はスポーティセダンとしても通用するレベル。高効率を旨とする現代のガソリンターボとしては積極的に回す歓びが見出せることも美点のひとつで、この点はスマート、かつスポーティな仕立てでもある外観から抱かれるであろう期待値を裏切らないキャラクターといえるでしょう。
ですが、今回の試乗でそれ以上に印象的だったのはシャシーの出来映えでした。サスペンションはフロントがダブルウイッシュボーン、リアはボルボがインテグラル式と呼ぶマルチリンクですが、剛性感に富むボディとの組み合わせとあってハンドリングは実に正確。旧世代のボルボは、スポーティな仕様でもフィードバックに関してはやや大味な感が否めない仕立てが大半でしたが、新型S60は路面からの入力、ステアリング操作に対する反応にズレが出ないので、積極的に走らせる場面では良質なスポーティセダンらしさが愉しめます。また、SPA骨格世代のボルボとして上質感に磨きがかかっていることも好印象でした。導入当初は、特に操舵感が正確な反面、雑味をともなっていたのに対し新型S60ではもはやプレミアムセダンとして不満のない洗練度を獲得。ソリッドではあってもフラット感に富んだ乗り心地と相まって、少し贅沢な日常の伴侶として選んでも高い満足度が得られることは間違いないでしょう。
となれば結論は明らか。いまや日本のプレミアムセダン市場はドイツ勢の独壇場になっていますが、この新型S60が有力なオルタナティブとなり得ることは間違いありません。とりあえず、明らかに既存のライバルとは一線を画する内外装のデザインに惚れ込んで衝動買いしても、決して後悔することはないはずです。
SPEC【T5インスクリプション】●全長×全幅×全高:4760×1850×1435㎜●車両重量:1660㎏●パワーユニット:1968㏄直列4気筒DOHC+ターボ●最高出力:254PS/5500rpm●最大トルク:350Nm/1500-4800rpm●JC08モード燃費:12.9㎞/ℓ
撮影:菊池貴之
【フォトギャラリー(GetNavi webサイトにてご覧になれます)】