乗り物
鉄道
2020/3/1 19:00

「ひのとり」誕生で注目集まる「近鉄特急」その車両の魅力に迫る

〜〜2020年3月14日「ひのとり」デビュー&ダイヤ改正ミニ情報〜〜

 

大阪〜奈良間や近畿・東海の主要都市の間、さらに大阪・京都・名古屋〜伊勢志摩、吉野などの観光地を結ぶ近畿日本鉄道の特急列車。3月14日(土)には待望の新型名阪特急「ひのとり」がデビューする。

 

この新特急の誕生で注目を集める「近鉄特急」。今回は「ひのとり」の紹介とともに、バリエーションを誇る特急車両を網羅し、「近鉄特急」の魅力に、じっくりと迫りたい。

↑メタリックレッドの車体にゴールドのラインが光る80000系「ひのとり」。間もなく名阪特急としてデビューする 撮影協力:近畿日本鉄道株式会社

 

 

【近鉄特急に迫る①】時代の最先端を歩んできた「近鉄特急」

翼を大きく広げて飛翔する「ひのとり」に重ね合わせ命名された新型名阪特急。ヘッドライトといい、大きな前面のガラス窓といい、豪華な座席といい、鮮烈な印象を醸し出す。

 

近畿日本鉄道(以下「近鉄」と略)の特急列車は「近鉄特急」の名で古くから親しまれてきた。近畿・東海の方にとっておなじみの特急である。とはいえほかの地域の方にとって、あまり良く知らないというのが現実ではないだろうか。

 

そこで今回は、鉄道好き観点から「近鉄特急」全般を見直していきたい。

 

「近鉄特急」とは近鉄が走らせる有料特急列車の総称のこと。近鉄は私鉄日本一の路線の長さを誇るだけに、走る特急列車の本数、そして走る区間も多い(下記地図を参照)。

↑近鉄特急が走る路線。「名阪特急」以外は通称で、現在はこの呼び方をあまり使わないが紹介する上で分かりやすいのでここでは用いた

 

歴史は古い。大阪と名古屋を結ぶ「名阪特急」は、終戦まもない1947年10月から運行を始めている。戦後初の特急列車の復活だった。当時、「座って行ける旅」という画期的な新聞見出しが告知され、話題となった。昨今、鉄道各社が競って導入し始めた「ホームライナー特急」の考え方を半世紀以上も前に、取り入れていたわけである。

 

特急専用車両の開発にも力を注いできた。1958(昭和33)年、名古屋線軌間拡幅に先立って生まれたのが10000系で、「ビスタカー」という愛称が付けられた。2階建て車両を採用した初の特急車両だった。10000系は試作車の意味合いが強かったが、その後の10100系「2代目ビスタカー」に技術が受け継がれ、丸みを帯びた正面の姿、中間車に2階建て車両が組み込まれ、名阪特急の看板車両として長年活躍した。

 

「ビスタカー」は2階建てという当時、最先端を行く画期的な構造をしていた。その後も、登場する車両は時代を先取りするような特急が多い。もちろんこの春に登場する「ひのとり」もそうした近鉄のDNAを受け継いでいる。

↑30000系ビスタEXの中間車2両は2階建てだ。近鉄は1950年代に早くも2階建て車両を導入していた

 

 

【近鉄特急に迫る②】近鉄の看板列車といえば「名阪特急」

近鉄が戦後、日本で初めて座席定員制有料特急走らせたのが「名阪特急」だった。名阪特急は現在、大阪府、奈良県、三重県、愛知県の1府3県を走り、大阪難波駅〜近鉄名古屋駅間を結ぶ。

 

この名阪特急には2タイプの列車がある。

 

まず大阪市内の主要3駅を停車し、途中、大和八木駅(※一部停車)と津駅に停まり近鉄名古屋駅に到着する列車で、より速達性が高い列車だ。一方、途中の大和八木駅、名張駅、津駅、白子駅、近鉄四日市駅、桑名駅など、停車駅を多くした列車も走っている。

 

停車駅が少ない列車は大阪難波、近鉄名古屋の両駅を毎時0分に発車する(土・休日の16〜18時は、大阪難波駅発20分発、近鉄名古屋駅発25分発も同タイプ)。対して途中駅に多く停まる列車は大阪難波駅、近鉄名古屋駅を毎時30分に発車する。

 

こうした発車時刻の分かりやすさも名阪特急の魅力となっている。

↑名阪特急21000系。愛称はアーバンライナーplus(プラス)。6両もしくは8両で走る。うち1両はデラックス車両となっている

 

↑21020系は21000系の進化型で愛称はアーバンライナーnext(ネクスト)。6両×2編成が在籍。デラックス車両1両を連結する

 

速達性を高めた列車には、デラックス車両を組み込んだアーバンライナー(plusとnextの2種類がある)が主に使われてきた。現在、毎時30分発の列車にはアーバンライナーの他、汎用車両が使われている。3月14日以降、「ひのとり」の導入により、名阪特急のほとんどが「ひのとり」&「アーバンライナー」になる予定だ。

 

大阪〜名古屋間は所要時間のみで比べると東海道新幹線ならば50分前後、近鉄特急が2時間〜2時間30分と太刀打ちできない。特急料金込みの運賃は新幹線の新大阪駅〜名古屋駅間が6350円(通常期)に対して、近鉄特急が近鉄名古屋駅〜大阪難波駅間が4340円(「ひのとり」以外の利用料金)となる。

 

「近鉄特急」を使う利点は料金の安さ、快適さに加えて、大阪の繁華街にある駅に発着する、その利便性も大きい。

 

 

【近鉄特急の迫る③】そのほかの「近鉄特急」車両いろいろ

「近鉄特急」に使われる車両は、実にバラエティに富む。私鉄では最も車両の種類が多いのが近鉄特急で、そこが鉄道好きにとって、たまらない魅力となっている。そこでここでは近鉄特急を網羅してみた。「近鉄特急ミニ図鑑」として見ていただければ幸いである。

 

名阪特急や観光特急などを専門に走る車両以外は、汎用特急に分類されている。一部の車両をのぞき、2〜4両編成で、利用者の増減に合わせてフレキシブルに対応できるところが近鉄特急の長所となっている。

 

さらにここ数年の間に、「近鉄特急」は塗装を大きく変更し、また車内および外装のリニューアル化を進めてきた。

↑唯一の旧塗装車両となった12200系と、塗色変更された12400系。12200系については車歴が古いこともあり「ひのとり」導入の後は徐々に引退となりそうだ

 

↑さまざまな路線で活躍する22000系ACE(エーシーイー)と22600系Ace(エース)。23000系伊勢志摩ライナーは車体の色が赤と黄色の2タイプがあり、大阪・京都・名古屋と伊勢志摩をメインに結ぶ。30000系ビスタEXは2階建て車両を連結している

【近鉄特急に迫る④】南大阪線・吉野線を走る特急車両は?

近鉄の路線は標準軌(1435mm)の路線が多い。これまで紹介してきた特急用の車両もすべてが標準軌用だ。一方、JRの在来線と同じ1067mmという路線がある。それが大阪阿部野橋駅〜吉野駅間を走る南大阪線、吉野線だ。線路の幅が異なるため、南大阪線、吉野線専用の車両が走る。

 

「近鉄特急」の中では特異な存在と言って良いだろう。標準軌の路線を走る同タイプの車両のほかに、専用の特急車両も走っている。こちらも見ておこう。

↑26000系さくらライナー。吉野の桜をイメージしたロゴが車体に描かれる。4両のうち、1両はデラックス車両となっている

 

↑さくらライナー以外の南大阪線、吉野線の特急に使われる車両。同路線でもACE(エーシーイー)、Ace(エース)という愛称を持つ車両が活躍する

 

 

【近鉄特急に迫る⑤】イメージを大きく変えた特急「しまかぜ」

ここまで近鉄特急として走る主な特急車両を紹介してきた。しかし、まだ紹介していない車両がある。それは50000系「しまかぜ」と、16200系「青の交響曲(シンフォニー)」だ。いずれも“観光特急”という位置づけだ。

 

中でも50000系「しまかぜ」は、近鉄特急を大きく変えた車両と言って良いだろう。「しまかぜ」はカフェ車両とグループ席車両をのぞき、客席すべてがプレミアムシートという豪華な車両となった。座席には本革を使用している。展望が楽しめるハイデッカー車両と、一般的な構造の平床車両の他に、グループ向けのサロン席や、和・洋の個室を用意。また2階建てのカフェ車両も連結している。

 

2013年に大阪難波駅〜賢島駅間と、近鉄名古屋駅〜賢島駅間の運転を開始。さらに2014年からは京都〜賢島駅間の運行も始められた。運転開始以来、観光シーズンには予約が取れないほどの人気の観光特急となっている。

↑50000系「しまかぜ」。6両編成で両先頭車両はハイデッカー構造のプレミアム車両。大阪便の場合は3号車がカフェ車両、4号車がグループ席車両(サロン席・個室)と贅沢な編成になっている

 

「しまかぜ」と同じく観光特急として走るのが「青の交響曲(シンフォニー)」だ。こちらは南大阪線・吉野線を走る特急で、車内でスイーツや、軽食、ドリンク・アルコール類が楽しめる。大阪阿部野橋駅〜吉野駅間が1時間16分とほどほどの乗車時間、料金も運賃プラス大人730円(特急料金520円+特別車両料金210円)と手軽さが魅力となっている。吉野名物の桜・紅葉のシーズンともなるとこちらも予約が取り辛くなる。

↑16200系観光特急「青の交響曲(シンフォニー)」。3両編成で1・3号車は座席車両、2号車が高級ホテルをイメージしたラウンジ車両となっている

 

【近鉄特急に迫る⑥】新型ひのとりのデビューは3月14日!

さてここからは、新型名阪特急80000系「ひのとり」を紹介していこう。ここでは、注目したいポイントを写真とともに確認していきたい。

 

車両編成は6両もしくは8両編成で、両先頭の2両がプレミアム車両、中間車がレギュラー車両となっている。製造は近鉄グループの近畿車輌(株)。すでに3編成が搬入され、デビューの3月14日を迎えることになる。最終的には6両編成×8本と、8両編成×3本の総計72両の導入が予定されている。

↑先頭車両を横から見る。ハイデッカー構造で窓も高い位置にあることが分かる。運転席の後ろには「ひのとり」のロゴマークが描かれる

 

↑乗務員室と客室はガラスで仕切られる。視界良好でプレミアム車両の先頭席からは広いガラス窓からの展望車窓を楽しむことができる

 

 

【近鉄特急に迫る⑦】ひのとり最大の魅力バックシェル付きシート

さて、注目を浴びる80000系「ひのとり」だが、魅力のポイントはどこにあるのだろう。筆者は全座席がバックシェル付きであることが最大の魅力だと思う。プレミアム車両だけでなく、レギュラー車両すべての座席にバックシェルが付いているのだ。

 

通常の座席だと、後ろに座る人に気兼ねしつつ倒すことが多い。後ろの人に「倒していいですか?」と聞くのがマナーなのでは、とまで言う人すらいる。バックシェルがあることで、そこまでの気遣いが不要になることがうれしい。

 

既存の鉄道車両の座席で、バックシェルがついている車両といえば、東北・北陸新幹線を走るE5系やE7系・W7系に1両のみ連結されている「グランクラス」シートのみだ(ほかJR東日本の新型特急などに導入予定あり)。

 

ちなみに「ひのとり」のプレミアム車両の座席は本革製。2列+1列のシートで、座席の前後の間隔(シートピッチ)は1,300mmと広い。このサイズはグランクラスと同じで、まさに鉄道車両としては最高水準の快適さが得られるわけだ。

↑2列+1列の座席が並ぶプレミアム車両。座席は本革シート、電源コンセント、読書灯、シートヒータ、カップホルダーや折り畳み式テーブルを設置

 

↑通常の状態のプレミアムシート。左の肘掛けにはスイッチ類、背中にバックシェルが付くことがわかる

 

↑電動リクライニングを最大限に倒した状態。後ろに気兼ねせず倒せることがうれしい。伸縮式の電動レッグレストが足元をサポートする

 

 

【近鉄特急に迫る⑧】さて気になる「ひのとり」乗車の料金は?

前述したようにプレミアム車両だけでなしに、レギュラー車両にもバックシェルが付いている。特急用の車両といえども、普通車両でバックシェル付きは、国内初のことになる。レギュラーシートのシートピッチも1.160mmと広々している。

 

さらに全車に空気清浄機を設置、紫外線、赤外線をカットする大形窓が採用された。まさに「近鉄特急」らしい、時代の先端を走る画期的な車両となりそうだ。

 

こうした画期的な車両ということもあり、利用料もかなり上がるのでは、と心配されている方も多いのではなかろうか。利用料を確認しておこう。

↑レギュラー車両には2列+2列の座席が並ぶ。全座席に電源コンセント、収納テーブルと背面テーブルが利用できる

 

↑レギュラーシートを横から見る。このようにバックシェル付き。高さを調整できるフットレストも用意されている

 

前述したように大阪難波駅〜近鉄名古屋駅の料金は運賃が2410円+特急料金1930円で計4310円となる。東海道新幹線に比べると2000円ほど安い。では「ひのとり」のプラス料金はいくらになったのだろう。

 

プレミアム車両の場合は+900円(大阪難波駅〜大和八木駅間は300円)、レギュラー車両利用の場合は+200円(大阪難波駅〜大和八木駅間は100円)が必要となる。レギュラー車両とプレミアム車両の差はわずかに700円。これは利用する時に悩まされることになりそうだ。

 

筆者ならば、たとえ“見栄っ張り”と言われようと迷わず、+700円の“ちょっと贅沢”を選びたい。

 

【近鉄特急に迫る⑨】ダイヤ改正後のひのとり運行予定は?

3月14日(土曜日)ダイヤ改正後の「ひのとり」の運行予定を見ておこう。

 

◇名阪特急

【平日】
大阪難波発→近鉄名古屋行8時発、10時発、13時発、14時発、16時発、20時発
近鉄名古屋発→大阪難波行7時発、11時発、13時発、17時発、19時発、20時発
【土・休日】
大阪難波発→近鉄名古屋行8時発、9時発、11時発、15時発、16時20分発、19時発
近鉄名古屋発→大阪難波行8時20分発、12時発、14時発、16時25分発、18時発、19時発

 

◇大阪難波・近鉄奈良間の特急

【平日】
大阪難波発→近鉄奈良行22時20分発
近鉄奈良発→大阪難波行6時30分発
【土・休日】
大阪難波発→近鉄奈良行20時35分発 
近鉄奈良発→大阪難波行8時13分発

 

当初は大阪難波駅〜近鉄名古屋駅間を1日6本ずつ運行する。1年後の2021年3月までには、大阪難波駅、近鉄名古屋駅の両駅発、毎時0分の列車すべて(他の発車時間の追加運行もあり)が「ひのとり」となる予定だ。

↑プレミアム車両の入口横にはコーヒーサーバーなどを備えたカフェスポットを用意する。コインロッカーも設けられる

 

↑2号車と5号車に用意されるベンチスペース。息抜きに最適だ。その前にはコインロッカーも。交通系ICカードなどでの利用が可能だ

 

↑4号車に設けられた多目的トイレ。ベビーベッドやベビーチェア、オストメイト対応の設備などが用意されている

 

ダイヤ改正とともに名阪特急で最速の鶴橋駅〜近鉄名古屋駅間を1時間59分で走る列車を1本から5本に増やされる予定だ。利便性もより高まるわけだ。

 

 

【近鉄特急に迫る⑩】近鉄独自の列車がこの春に消え、そして

3月14日のダイヤ改正で鉄道ファンとして、特急の話題ではないのだが、少し気になることがある。

 

近鉄には「鮮魚列車」という近鉄独自の列車が運行されてきた。行商のための専用列車で、早朝に三重県の宇治山田駅から大阪上本町駅の間を走る。1963年から半世紀以上にわたり、伊勢志摩で魚を仕入れた行商の人たちを乗せて走り続けてきた。使われるのは鮮魚列車用の専用車(2680系)で近鉄マルーンと呼ばれる車体色、前面に白い帯が入る。この鮮魚列車の運行がダイヤ改正とともに終了することが発表された。

 

その代わり3月16日(月)から平日朝、松阪駅発の大阪上本町駅行き6両編成(名張から10両編成)の列車の最後部に鮮魚運搬専用の車両(同車両1両のみは一般利用者は乗車不可)が連結される。この車両は魚のラッピング車両「伊勢志摩お魚図鑑」にするとのことだ。鮮魚列車に代わり、現代風に「伊勢志摩お魚図鑑」という名物車両が新たに出現することになりそうだ。

 

近鉄は「新型名阪特急ひのとり」や「伊勢志摩お魚図鑑」のように画期的かつ、ユニークな列車や車両を数多く登場させる鉄道会社である。鉄道好きとしては、本当に目を離せない興味深い会社だと思う。

↑長年、走り続けた鮮魚列車も3月13日(金)で運行終了となる。代わって「伊勢志摩お魚図鑑」という鮮魚運搬専用の車両が登場の予定だ

 

【フォトギャラリー(画像をタップすると閲覧できます)】