10月15日に正式デビューする新型「レヴォーグ」。その目玉は何と言っても最新版「アイサイト」搭載でしょう。すでに始まっている先行予約では、半数以上が「アイサイトX」をオプションとして装備していると伝えられており、新世代アイサイトに対するユーザーの期待値はとても高いことが窺えます。その新世代アイサイトのプリクラッシュブレーキを先行体験する機会がありました。今回はその体験レポートをお届けしたいと思います。
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プリクラッシュブレーキに追加された2つの機能
スバルは2030年に死亡事故をゼロにするとの目標を立てています。そのために、まず事故につながらないための技術としてアイサイトを実装。そのアイサイトも今回で4世代目に突入しています。新世代アイサイトでは、オプションで機能を大幅に拡充する「アイサイトX」を用意したことに注目が集まっていますが、実はそのベースとなるアイサイトの進化も目を見張るものがあります。それがプリクラッシュブレーキに追加された新機能です。
プリクラッシュブレーキといえば大半が正面にある障害物への衝突を回避・軽減する機能を指します。しかし、新世代アイサイトでは“前側方プリクラッシュブレーキ”と“前側方警戒アシスト”の搭載により、出会い頭の衝突に対するプリクラッシュブレーキを搭載したのです。この実現は2つの新たな技術によってもたらされています。
一つはアイサイトの視野角拡大で、二つめは左右側方の障害物を捉える77GHzミリ波レーダーの追加です。この二重のサポートで側方より迫ってくるクルマを早期に捉えて警告。さらに、衝突の可能性が高まっているのに進行を続けると自動的にブレーキを作動させます。これによって交差する車両との衝突回避/軽減を行うのです。
体験では新世代アイサイトを搭載した2台の新型レヴォーグを使って行われました。無線で合図を送るともう一台の新型レヴォーグが見通しの悪い交差点へ接近。自車がそろそろと交差点へと進入すると、近づいた新型レヴォーグを検知して警報音でそれを報知したのです。通常ならここで停止して事なきを得ますが、体験ではわざと進行を継続。すると今度は交差点から出る前に、強制的にブレーキがかかって衝突を回避したのです。
このデモはこれだけにはとどまりませんでした。右折時に横断歩道を渡っている歩行者に対してもプリクラッシュブレーキを動作させたのです。交差点で右折をしようとして待っていたとき、交差するクルマが停止して行かせてくれることがあります。譲られた方としては、その感謝に応えようと急いで右折しようとしますよね。しかし、その先には同じように車が止まってくれたことで横断しようとしていた歩行者がいる可能性もあります。もし、この歩行者に気付かなければそれこそ大変な事態に陥ります。新しいアイサイトではこうしたシーンでも歩行者を認識して衝突を回避・軽減してくれるのです。
新機能“前側方プリクラッシュブレーキ”と“前側方警戒アシスト”
ただ、すべてのシーンで対応できるわけではありません。認識できるのはあくまでセンサーが人として認識した場合のみ。歩行者の場合は身長が1m未満の子供や腰の曲がった老人などは認識しにくいようで、もっと言えば傘を差していたりすると形状認識がどうしても難しくなってしまうそうです。システムに100%頼りっきりになるのではなく、これはあくまでドライバーのミスをサポートしてくれるシステムなのです。
この体験を終え、一連のシステムの開発に関わった方にお話を聞くこともできました。それによると、このプリクラッシュブレーキを実現するにあたっては従来のシステムでは対応できなかったというのです。それが従来の負圧式のブレーキブースターではなく「電動ブレーキブースター」を採用したことです。
シャシー設計部の佐藤 司さんは「今までのブレーキでは反応速度や制動力で限界があった。新世代アイサイトでは、交差点での出会い頭の事故や歩行者との衝突を避けることを目標としており、従来の負圧を利用したブースターでは満足できる性能が発揮できない。コストは上がるけれどもこの実現のために敢えて採用した」と、採用に至った経緯を明かしてくれました。
実はガソリン車でプリクラッシュブレーキを動作させる際は、ESC(横滑り防止装置)を使って制動力を発生させています。直線路では時間的にもわずかに余裕があって対応できますが、交差点では制動に必要な距離が短いことから素早い対応が欠かせません。しかし、負圧を発生しない電動車では電動ブレーキブースターが採用されていますが、ガソリン車などでは一部高級車で採用されるのみでした。とはいえ、センシングで認知できても事故につながらないようにしなければ意味がなくなります。新世代アイサイトではこの搭載がコストアップにつながっても、あえてこの採用を決めたというわけです。