乗り物
鉄道
2020/10/10 18:30

信州松本を走る「上高地線」‐‐巡って見つけた10の再発見

【上高地線で再発見⑧】新島々駅前にある古い駅舎は?

渕東駅からさらに段丘を下りる形で終点の新島々駅へ向かう。梓川がより近づいていき、左右の山々も徐々に迫ってくる。広がっていた松本盆地の平野部も、そろそろ終わりに近づいてきたことに気付かされる。

↑河岸段丘を1段おりつつ新島々駅へ向かう電車。先には小嵩沢山(こたけざわやま)や無名峰などの標高2000mを越える山々が望めた

 

左右の山々が取り囲むように終点の新島々駅がある。とはいえ付近にはまだ平坦な地があり、駅前には広々したバスの発着所がある。ここから上高地、白骨温泉、乗鞍高原、高山方面への路線バスが出ている。ちなみに上高地へはマイカーに乗っての入山はできないので注意。路線バスの利用が必須となる。

 

さて筑摩鉄道が開業させたのは島々駅までだったのだが、その島々駅はどうなったのだろう。実は開業当時には新島々駅という駅はなかった。1966(昭和41)年に赤松集落にあった赤松駅が、現在の新島々駅に改称されたのである。

↑新島々駅の駅舎。新島々バスターミナルとあるように、バスの発着所スペースの方が鉄道の駅よりもむしろ大きく利用者で賑わう

 

終点だった島々駅の今は後述するとして、赤松駅から新島々駅に駅名を変更された時に、バスターミナルの機能が移され、整備されている。

 

その後の1983(昭和58)年9月。長野を襲った台風10号により、土砂が新島々駅〜島々駅間の路線に流れ込み不通となってしまった。1985(昭和60)年1月1日に、新島々駅〜島々駅間は正式に廃止となった。すでに新島々駅にバスターミナル機能が移っていたので、島々駅まで無理に復旧して電車を走らせる必要もなかったということだったのだろう。

↑新島々駅の駅前には旧島々駅の駅舎が移築されている。以前は観光施設だったが現在は未使用。歴史案内があったらと残念に感じられた

 

【上高地線で再発見⑨】草むらの中に旧鉄橋が埋もれていた!

新島々駅の先は廃線となっている。その跡はどうなっているのか、興味にそそられ歩いてみた。まずは新島々駅の構内から、駅の先、100mほどは線路が残されている。そしてホーム1面2線の線路が先で合流している。今でもすぐに島々駅へ向かって線路が復活しそうな線路配置である。

 

ただホームの100m先からは線路が外され、途切れていた。新島々駅のある付近には国道158号の両側に赤松集落がある。古い地図を元に歩くと、旧路線は赤松集落の裏手を抜けて、すぐに国道158号と合流するようになっていた。

↑新島々駅から集落の裏手を通り、まもなくして国道に合流する。そのポイントから新島々駅側を見る。路線跡は砂利道となっていた

 

国道158号沿いに合流するように走っていた旧路線。国道よりも1段、高い位置を路線が設けられていた。赤松の集落内は砂利道として旧路線が使われていたが、国道に合流後、しばらくすると旧路線は草木に埋もれるようになった。とても路線上は歩けないので、国道の歩道を歩く。国道沿いには一軒の土産物屋さんがあり、店の上を走っていたらしき名残がうかがえる。

 

さらに旧島々駅を目指す。歩くと左手に路線がほぼ並行していたが、草木が繁り、良く見えない。しかし、1か所、廃線ということが分かる箇所があった。雨が降ると川が流れる階段状の窪地があり、そこに古い鉄橋が架かっていた。

↑国道158号を廃線沿いに歩くと、途中に発見した旧鉄橋。窪地をまたぐように鉄橋が架かる。錆びついていたが鉄橋跡だと分かった

 

【上高地線で再発見⑩】旧島々駅はこの辺だと思うのだが……

何もなかったら廃線跡も無駄歩きになりそうだったが、錆びついた鉄橋を発見。少しは鉄道の形跡を確認することができた。

 

さらに歩き、島々駅があった付近へ到着する。前渕(まえぶち)という集落に上高地線の終点、島々駅があった。梓川のほとりにある小さな集落で、山々に囲まれ、新島々駅付近に比べると平坦な土地が乏しい。古い地図を見ると今の国道158号上に駅があったようだ。旧駅前付近は、広々した空き地となっていた。

↑旧島々駅前付近は広い空き地となっていた。左下は1970年代の地図で、旧島々駅は現在の国道(写真右)になったことが分かる

 

前渕集落の中に小道が通るが、地図を見るとこちらが旧国道のようだ。少し歩くと、数軒の家々があり、食堂や旅館だったたたずまいがある。旧旅館の建物にかかる案内地図には、島々駅があった当時のまま残されていた。ちなみに集落名は前渕でここでは「ぶち」と読む。前述したように、上高地線の駅名の渕東は「えんどう」と読む。同じ旧波田町内の地名なのだが、日本語の複雑さを改めて感じた。

 

新島々駅〜島々駅間は1.3km、山あいのウォーキングコースとしてはちょうど良い距離だった。

 

最後に上高地線のイベント情報を一つ。車内でバイオリンの生演奏が楽しめるイベントが不定期ながら開かれている。次回は10月18日(日曜)で、演奏が楽しめる列車は松本駅10時10分発、新島々駅発10時53分、松本駅11時30分発の電車内。編成の1両目でプロの音楽家・牛山孝介さんの演奏が楽しめる。特別料金や予約は不要だ。無料でプロの音楽家の演奏が楽しめる。運良く乗り合わせた筆者としてはとても得した気持ちになった。

 

車窓から信州の山々を眺めながら生演奏を楽しむ。この路線ならではのロケーションの良さと、バイオリンの調べがぴったり合うことに気付かされた。

↑演奏を行う牛山孝介さん。牛山さんは松本市在住で、松本モーツァルト・オーケストラのコンサートマスターを務める 2018年7月15日撮影

 

  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4