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2021/5/13 17:30

鉄道各社が発表した2021年度「新車両投入」計画を改めてまとめてみた

〜〜JR&大手私鉄各社の2021年「設備投資計画」から〜〜

 

年度替わりとなる春は、JRと大手私鉄複数各社から2021年度の「設備投資計画」、もしくは「事業計画」が発表される。同プランにはさまざまな分野の計画が盛り込まれるが、本サイトでは「新車両投入」というポイントにしぼり注目してみたい。

 

各社の計画を見ると、なかなか興味深い新車両導入の傾向がうかがえる。具体的にどのような車両が新造されるのか、また新車両の導入により既存の車両はどうなるのか、予測も含め考察していきたい。

 

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【新車投入計画①】まずJR東日本で気になる新車両は?

最初にお断りを。各社の「設備投資計画」だが、プレスリリースとして一般に発表された鉄道会社の計画のみに限定した。発表されたのはJR4社(JR西日本は『中期経営計画2022』の見直し)と大手私鉄6社(※本原稿では昨秋に「設備投資計画」を発表した会社もあわせて8社を紹介する)。各社の「設備投資計画」「事業計画」から新車両の導入計画のみを抜き出してみよう。

 

まずはJR東日本から。4月28日に「変革のスピードアップのための投資計画」と題された、2021年度設備投資計画が発表された。増備される車両数までは発表されていないが概要がうかがえる。

↑増備が進む横須賀線・総武快速線用のE235系1000番台。1994(平成6)年から走ってきたE217系の引退も目立つようになってきた

 

JR東日本では、まず2019年10月の台風19号で被災した、北陸新幹線用のE7系の増備を行うとしている。被災したE7系の代役は、上越新幹線の2階建て車両E4系によりまかなわれてきたが、被災した車両数分の増備が終了する。代役に使われてきたE4系は、この増備により上越新幹線からも姿を消すことになる。

 

さらに、横須賀・総武快速線用のE235系車両が増備される。この増備により「環境負荷低減を目指す」としている。

↑レール運搬用気動車のキヤE195系1000番台・1100番台。こちらは定尺レール運搬用の車両となる

 

さらに、事業用のレール輸送用新型気動車を導入するとしている。このレール輸送用新型気動車の形式名はキヤE195系で、定尺レール運搬用とロングレール運搬用がある。このキヤE195系は、元々JR東海が開発したキヤ97系で、この車両がJR東日本用に改良され導入が始まった。

 

JR東日本のレールの輸送は、これまで国鉄時代に造られた機関車が、レール輸送専用貨車を牽く形で行われてきた。機関車はみな国鉄時代に製造されたもので、老朽化が懸念されていた。

 

このレール輸送用新型気動車の導入とともに、砕石(さいせき)輸送用の新型電気式気動車GV-E197系と、E493系交直流電車も導入され、試運転が始まっている。これらの車両の本格的な運用が始まると、事業用車両として使われてきた電気機関車、ディーゼル機関車も、車両回送用および、客車牽引用の一部の機関車を除き、いよいよ引退となりそうだ。

 

【新車投入計画②】JR旅客他社の新車両導入の動向は?

JR東日本以外のJR各社からの設備投資計画等の発表は、JR西日本とJR北海道、JR貨物(詳細後述)のみとなっている。

 

JR西日本はやや前のものになるが、2020年10月30日の「JR西日本グループ中期経営計画2022」見直しの中で、車両増備に関して触れている。具体的には、山陽新幹線の利便性向上のため、N700S車両の16両×4編成増備を、また北陸新幹線敦賀開業(敦賀延伸は2023年度末の予定)に向けて、北陸新幹線用W7系を12両×11編成を増備するとしている。N700Sは現状、これまでJR東海の増備が中心で、東海道新幹線内での運行がメインとなってきたが、JR西日本所有の車両が増えることにより、山陽新幹線内での運行も行われることになる。

 

ちなみに、JR東海のN700SはJ編成。JR西日本のN700SはH編成と異なる。また、側面の車両形式の頭に付くJRマークがJR東海の車両はオレンジ色、JR西日本の車両はブルーとなっている。JR東海の車両の運行予定は発表されているが、JR西日本の車両の運行予定は、まだ発表されていないなどの違いがある。

↑N700Sの運行予定はJR東海からは発表されている。JR西日本のN700Sも運行を開始しているものの、運行ダイヤは未発表となっている

 

JR北海道からは、4月2日発表の「令和3年度事業計画」に車両計画が盛り込まれている。具体的にはH100形気動車と、261系(キハ261系)特急気動車の新製があげられている。ほかの車両関連では、789系特急電車や、201系気動車の重要機器の取り替えを行うとしている。投資金額も明らかにされており、136億円の予定だ。

 

観光列車に関しても触れている。キハ261系「はまなす編成」「ラベンダー編成」を活用した都市間輸送の販売強化や周遊企画。キハ40系「山紫水明」シリーズを用いた「花たび そうや」号、また昨年も行われた「THE ROYAL EXPRESS」の運行を行うとしている。観光客に人気のある観光列車を走らせて、何とか会社再生への道を探ろうという思いが見えてくる。

↑JR北海道の新型気動車H100形、愛称はDECMO(デクモ)だ。電気式気動車で、JR東日本のGV-E400系と基本設計は同じ

 

ここ数年、JR北海道ではH100形気動車の増備が著しい。国鉄時代に生まれたキハ40系や、キハ141形といった旧型車両は、徐々に減っている。今後はさらに環境に配慮した、また省エネルギー効果の高いH100形の導入が活発になっていきそうだ。

 

【新車投入計画③】東武鉄道では500系リバティの新造が目立つ

ここからは大手私鉄の車両増備の計画を見ていこう。首都圏の複数の大手私鉄から設備計画が発表されている。コロナ禍で、鉄道会社の収益も陰りがちだが、コロナ後の将来に向けての計画が打ち出されている。

 

まずは、首都圏最大の路線網をもつ東武鉄道から。4月30日に発表された「鉄道事業設備投資計画」では、東武スカイツリーライン・アーバンパークライン沿線の高架化計画をさらに進めていくことを中心に打ち出されている。

↑東武鉄道の500系リバティは、今年度6編成が新造される予定だ

 

一方で、車両計画で注目したいのは500系リバティの新造計画。2021年度にはさらに6編成を新造するとしている。すでにリバティは3両×11編成が利用されており、この新造が終了すると、51両の大所帯になる。

 

東武の既存の特急形電車といえば、100系スペーシア、特急「りょうもう」用の200型・250型が中心となっている。100系は54両、200型・250型も60両が在籍している。ほかに350型といった車両も残っていたが、こうした車両も徐々に減っていくことになるのだろうか。

 

ほかには、東武日光線の南栗橋駅以北で運行している20000系リニューアル編成を3編成(計12両)増備するとしている。

 

【新車投入計画④】小田急では新型5000形が増える一方で

続いては小田急電鉄を見てみよう。小田急といえば、この春に海老名駅に「ロマンスカーミュージアム」がオープンして大きな話題になっている。さて、どのような車両の新造があるのだろうか。

 

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↑小田急電鉄の新型通勤電車5000形。着々と増備が進められ、出会うことも多くなってきた

 

小田急電鉄といえば、ロマンスカーが注目されがちだが、4月28日に発表された「鉄道事業設備投資計画」によると、今年度の新造は5000形に限られる。昨年の春に登場した5000形。これまで小田急の通勤型電車といえば、正面が平面という姿の車両がすべてだったが、5000形はオフセット衝突対策を施し、やや正面下部に膨らみを持たせた形状となっている。今季の増備は4編成(40両)で、新たな〝小田急顔〟の新車に出会う機会も増えそうだ。

 

一方で、興味深いのは1000形2編成のリニューアルが発表されたこと。改装により車椅子スペース、車内LCD表示器、自動放送装置などを備える。1000形といえば、運用開始が1988(昭和63)年と、8000形(1983・昭和58年に登場)に次ぐ古豪だ。やや古めながらも、リニューアルし、まだまだ活かそうという方針のようだ。

 

【新車投入計画⑤】東京メトロでは17000系、18000系が増える

次は東京メトロの新型車両の導入計画。東京メトロでは3月25日に発表した「2021年度(第18期)事業計画」で、新型車両の導入に関して触れている。

 

まずは丸ノ内線。新しい2000系を1編成導入する。これにより、2000系は33編成となる。ほかの新型車両の導入は、次の路線の車両に集中して行われている。

 

特に有楽町線・副都心線への新型17000系の新造が目立つ。まずは10両×2編成導入の予定。こちらは今年の2月21日からすでに運用が始まっているが、この増備車両となる。さらに、8両の17000系12編成が導入の予定だ。これにより、17000系に8両と10両編成が混在して運用されることになりそうだ。

 

半蔵門線用の18000系は、すでに実車ができあがり試運転が開始されている。こちらは今年度10両×4編成が導入される予定だ。

↑今年の2月から走り始めた東京メトロ17000系。従来の10両編成に加えて今年度は8両編成という新規車両も登場の予定だ

 

有楽町線・副都心線用の7000系や、半蔵門線用の08系といった、長らく親しまれてきた正面形状をもった車両たちが、この新造により減っていくことになりそうだ。

 

【新車投入計画⑥】京王電鉄ではリクライニング付き新車が登場

京王電鉄では4月30日に「鉄道事業設備投資」を発表した。同社では現在、京王線(笹塚駅〜仙川駅間)の連続立体交差事業に力を注いでいる。

 

そんななか、今期の新造車両は少なめながらも、注目したい車両がある。5000系といえば、現在は「京王ライナー」などの有料座席指定列車に使われている車両。この5000系が1編成(10両)新造される。この新しい5000系の座席の仕組みが興味深い。

↑京王線を走る5000系に新顔が登場する。クロスシート使用時にリクライニングできる日本初の構造となる予定だ

 

5000系の座席といえば通常時はロングシート、有料座席指定列車として走る時にはクロスシートになる「ロング/クロスシート転換座席」、または「デュアルシート」とも呼ばれる構造の座席を備える。

 

新しく造られる5000系ではクロスシートにした時に、リクライニング機能が利用できるというのだ。これは日本初の仕組みとなる予定で、好評となれば他社でも同構造をもつ車両が現れそうだ。

 

この新5000系の新造は、今季の設備投資計画として発表されたが、実際に導入されるのは2022年下期となりそうだ。

 

ほかでは、京王線8000系2編成(計16両)で車両のリニューアルが行われる。改修にあわせて、車いす、ベビーカースペースが拡大される。こうした車いす、ベビーカースペースの拡大は、今後、京王電鉄の全車両に拡大されていく予定とされている。

 

【新車投入計画⑦】相鉄の新車21000系とは果たして?

念願の都心乗り入れを果たした相模鉄道。既存車両の塗装も濃紺のYOKOHAMA NAVYBLUE化が進み、新たなイメージ作りが進められている。

 

相模鉄道からは4月28日に「鉄道・バス設備投資計画」が発表された。この中で、21000系という新形式の車両が登場すると記されている。相鉄では近年、他社へ乗り入れ用の12000系と、20000系という新車両の増備が図られてきた。新型21000系と20000系ではどのような違いがあるのだろう。

 

↑新型21000系は、既存の20000系10両編成(写真)を8両編成化した車両となる

 

まず、12000系はJR東日本への乗り入れ用の車両として生まれた。一方の20000系は、相鉄・東急直通線用に導入が進められた。相鉄・東急直通線は2022年度末に開業する予定だ。開業後は相鉄線と東急線との相互直通運転が開始される。相鉄の電車が乗り入れるのは、東急目黒線、さらに都営三田線、東京メトロ南北線、埼玉高速鉄道線となる予定だ。東急目黒線など4路線では現在、電車が6両編成で走っているが、相鉄の乗り入れに合わせて車両を8両編成化、そのためのホームの延長工事などが行われている。

 

20000系は10両編成で登場したが、21000系は相鉄から発表されたイメージ図では、20000系と外観はほぼ同じで、東急線乗り入れ用に8両編成化された車両となる。そして8両×4編成が導入される予定だ。

 

【新車投入計画⑧】西武と京成も新造車両の増備が進む

首都圏の大手私鉄の中には、昨秋に設備投資計画を発表した会社もある。西武鉄道と京成電鉄である。西武鉄道は2020年9月24日に、京成電鉄は2020年11月10日にそれぞれ発表している。やや前のものながら、新型車両の計画を見ておこう。

 

西武鉄道では40000系を10両×2編成を増備する。40000系は有料座席指定制の「S-TRAIN」運行用で、座席の方向が変わるデュアルシートを装備していた。新造される40000系ではロングシートのみの車両となる。

↑全席ロングシートの40000系。同車両は40000系50番台と車両番号が既存の40000系と異なっている

 

一方、京成電鉄では「成田スカイアクセス」という愛称をもつ成田空港線用の3100形の8両×2編成を導入した、と記されている。同線ではこの増備により、鮮やかなオレンジ色ラインの3100形が徐々に目立つようになってきた。

↑増備が進む京成電鉄の3100形。成田スカイアクセス以外に、都営浅草線、京浜急行にも乗り入れている

 

【新車投入計画⑨】名鉄では正面の赤色が目立つ新車両が増える

関東圏を走る大手私鉄以外では、名古屋鉄道(以下「名鉄」と略)から3月25日に「設備投資計画」が発表されている。

↑名鉄の新型9500系。同タイプの2両編成車両が9100系となる。両車両とも、前面の赤色塗装が鮮やかだ

 

同計画では通勤型電車の増備が記されている。9500系を4両×3編成、さらに9100系を2両×2編成が新造される。

 

名鉄の通勤型電車といえば、鋼製車両のみの時代は赤一色の車両でかなり目立った。名鉄の赤色塗装は名鉄スカーレットとも呼ばれ親しまれてきた。ところが、ステンレス車両の新造車が増備されていくにしたがい、そうしたイメージも薄れつつあった。9100系、9500系は、前面が鮮やかな赤色塗装を施した車両で、名鉄の往年のイメージが復活したような印象が感じられる。

 

【新車投入計画⑩】JR貨物は桃太郎増備の一方で気になる情報が

最後はJR貨物が3月31日に発表した「2021年度事業計画」を見てみよう。この中には鉄道ファンにとっては、ちょっと気になることがあった。

 

JR貨物の「2021年度事業計画」の概要では、具体的な車両数までは触れていないものの、EF210-300形式機関車(愛称「ECO-POWER桃太郎」)、DD200形式機関車の車両新製が行われることが見て取れた。昨年暮れに発表された2021年3月時刻改正時に発表されたプレスリリースでは、具体的な増備数が記されている。

↑新鶴見機関区配置のEF210形式300番台。元は山陽本線での後押し用に造られた機関車だったが活用範囲が広がっている

 

この発表によるとEF210形式機関車が11両、DD200形式機関車が6両、HD300形式機関車が1両の新製の予定となっている。

 

すでに、新型EF210形式300番台は主に首都圏の運用をカバーする新鶴見機関区にも続々と配備が進められている。対して、この春にはEF65形式、EF64形式の活用の減少が目立った。国鉄時代に生まれた機関車もいよいよ淘汰が進んでいきそうだ。

↑日本海縦貫線を走るEF510形式交直流機関車。赤と銀色、青色の機関車が使われる。九州を走るEF510はどのような色になるのだろう

 

さて、気になったのは「事業計画」にあった次のような文言。「車両部門では、故障による輸送障害を未然に防止するため老朽車両の取替を計画的に進め、九州地区については取替後にEF510形式機関車を導入することから、九州用に仕様変更したEF510形式の走行試験を行う」としている。

 

EF510形式は交直両用電気機関車で、現在は日本海縦貫線の運用がメインとなっている。この車両がいよいよ、九州用に改造され、運行試験が行われるというのだ。九州地区では、山口県の幡生操車場〜福岡貨物ターミナル間はEH500形式機関車が使われている。

 

一方、輸送量の少ない路線では、旧来のEF81形式、ED76形式が使われてきた。両機関車とも半世紀前に登場した古参の機関車となる。JR貨物が生まれた後に増備されたEF81形式があるものの、かなりのベテラン揃いとなる。こうした機関車の後継車両の導入も検討され始めたということである。今すぐに入れ換えはないとはいえ、気になるところ。5年先あたりには九州の貨物用機関車の顔ぶれも大きく変わっているのかもしれない。