世界No.1タイヤメーカーのブリヂストンから、今年9月、最新の技術を投入したスタッドレス「BLIZZAK VRX3(ブリザック ヴイアールエックススリー)」が4年ぶりに発売されることが、本日7月15日に発表されました。同社によればこのVRX3を“新次元のプレミアムブリザック”としており、その実力の一端を先駆けて体験して参りました。
氷上性能の大幅向上、ライフ性能、効き持ちの向上を実現
「ブリザック」は1988年に誕生し、変化するユーザーの声を反映しながら今やダントツの氷上性能を発揮。それが北海道や北東北5都市では20年連続装着率No.1 という実績につながり、ほぼ2台に1台がブリザックを装着するまでになりました。中でも見逃せないのが業務で使うタクシー業界で7割もの車両に装着されていることです。これはまさにブリザックに対する高い信頼性がもたらした結果と言えるでしょう。
そうした実績を踏まえ、さらなる「氷上性能の大幅向上、ライフ性能、効き持ちの向上を実現した」(ブリヂストン)のがVRX3なのです。
VRX3の商品コンセプトは、氷上性能の大幅な向上と、ライフ性能、効き持ちの向上を実現した「新次元のプレミアムブリザック」です。ブリヂストンによれば、近年の暖冬化傾向により降雪量は年々減少傾向にあり、積雪はないものの、凍結路面に遭遇するシーンが特に増えていると言います。VRX3は特にそういったシーンでの“効きの良さ”を高めることを最大のテーマとして登場したのです。
また、VRX3はスタッドレスとしての効果を長持ちさせることにもトライしています。一般的にスタッドレスタイヤは柔らかいコンパウンドを使用しているため、寿命は短くなるのが常識。ユーザーも長持ちして欲しいという思いはありながら、この効果を維持するために我慢してきた部分でもあります。そこで、ユーザーの切実な思いに応えようと、VRX3の開発にあたってはこの相反する部分にも敢えてトライしたというわけです。
滑りの原因を毛細管現象で除去する発泡素材を採用
そもそもタイヤはどうして氷の上で滑るのでしょうか? その原因は氷の表面に発生する「水の膜」にあります。この膜がタイヤと氷の間にすき間を生み出し、これが原因となって滑るのです。スタッドレスタイヤでは氷が溶け出す温度で発生する現象であり、仮に氷が溶け出さない北極圏のような厳寒地ではこうした状況は発生しません。むしろ、氷の上でもタイヤはしっかりとグリップします。日本の降雪/積雪地は全般に氷が溶ける気温であることが多い事に加え、降雪量も多い。その意味では世界でも特殊な環境にあるんだそうです。
さて、そうした日本の環境に向けて誕生したVRX3ですが、氷上での効果を発揮するためにまず実施しているのは水の除去(除水)です。水を可能な限り取り除くことで、滑りの要因を低減。次に路面にしっかりと接地させて摩擦・ひっかきを働かせることでグリップ力を高めます。ただ、これらは従来製品でも実施してきたことでもあります。今回はその性能を進化させるために新たな素材として、新タイプの発泡ゴム「フレキシブル発泡ゴム」を採用。これが除水性能と接地性の向上に大きく寄与したと言います。
発泡ゴム進化の秘密はその形状にありました。従来は球状の発泡と水路の発泡で水の膜を除水していましたが、VRX3ではその断面形状を楕円形に変更しているのです。これが毛細管現象をさらに際立たせることにつながり、吸水力の大幅アップに成功。接地面積をミクロ単位で拡大させ、グリップ力の向上をもたらしたというわけです。
スタッドレスタイヤの柔らかさを長期間にわたって維持する新素材を配合
また、この新発泡ゴム「フレキシブル発泡ゴム」には、ゴム部分に従来使っていたオイルよりも分子量が高い新素材を配合しています。これも見逃せないポイントです。
実はスタッドレスタイヤのグリップ力確保に柔らかさはとても重要で、これはオイルなどを配合して対応するのが一般的です。しかし、オイルは時間と共に抜けてしまい、それによりゴムは徐々に硬化していってしまいます。ブリザックではここに気泡を含ませることで柔らかさを維持してきましたが、それでもオイル抜けは発生します。そこで、VRX3では新素材ステイブルポリマーの配合で対応することにしたのです。これはオイルと違って経年による抜けが発生しにくく、柔らかさを長期間にわたって維持できるという特徴を持ちます。これによって氷上での“効き”を長期間にわたって確保したのです。
それだけではありません。トレッドパタンの変更により、確かな除水と高剛性化を進めているのです。L字ブロック・端止めサイプを採用することで、除水した水を再び侵入することを抑制し、これがパタン全体として接地性アップにつながってグリップ力向上に貢献しました。さらにサイプ角度を見直してパタン剛性をコントロールすると共に、リブの配置やブロック形状の均等化によって接地圧を均一化することでタイヤと路面の滑りをさらに抑えることにも成功したそうです。
横方向への滑りで旧モデルとの違いを実感! 発進やブレーキングでも効果
では、これらを装備したVRX3の実力はどうなのか。体験したのは横浜市にある新横浜スケートセンターです。試乗車は現行プリウス2台。前モデルであるVRX2と比較しながらの体験となりました。スケートセンター内ということもあり、速度域は最高で15km/hまでで、メニューは主に直線での発進とブレーキング時のグリップ力と、コーナーでの横方向への滑りの体験。実際に走行してその違いを感じ取ることにしました。
最初はVRX2からスタートです。アクセルを控えめに踏むと、スケートセンターでの氷上は管理が行き届いているせいでしょうか、予想していたよりもしっかりと発進していきます。最初のコーナーではゆっくりと切りはじめ、最後に円を描く周回へと移ります。周回ではおよそ10~15km/h程度で走りましたが、VRX2でも結構粘ってくれます。ただ、15km/hに近づくあたりから外へと脹らみ出し、何回か周回するうちにスピンアウトも体験してしまいました。
VRX3ではどうでしょう。ここは予想以上の違いを感じました。VRX2では外へ膨らみ出した速度域でもVRX3はしっかりと踏ん張ってくれるのです。さすがに15km/hを超えると完全にアウトでしたが、それまでの速度域ではVRX3の方が明らかに周回がスムーズに行えたのです。つまり、これは横方向のグリップ力が向上していることの証しなのだと思います。ステアリングの操舵感もVRX3の方がしっかりとした印象で、それがコーナリングでの安心感を与えてくれたのでしょう。
次に直線路での発進とブレーキングで、速度は15km/h。所定位置からフルブレーキングし、目印位置からどの程度で停止できるかを試しました。結果はVRX2でも十分なグリップ力を感じることができ、不安な印象はほとんどありません。次に試乗したVRX3と比較した印象では、いくらかVRX3の方がしっかりとした感じで止まってくれるかな? という程度の違いでした。ただ、いざという時に、このわずかな差が命取りになる可能性はあります。少しでもグリップ力が高い方が良いことはより大きな安心感につながるのです。
ウインタードライブでの安心感と楽しさをアップするブリザック「VRX3」
今回の試乗で感じたのは、本来ならわずかな差でしかないスタッドレスタイヤのスペックの中で得た氷上での確かな進化です。ステアリングを切ったときのしっかり感は次元の違いすら感じます。ブリザックVRX3は、氷上性能の大幅な向上と、ライフ性能のさらなる進化を遂げることで効き持ちの向上を実現しました。節約志向の人でもウインタードライブでの安心感と楽しさを十分感じ取れる新次元のスタッドレスタイヤと言えるでしょう。
ブリザックVRX3の発売は2021年9月1日を予定。ラインナップは111サイズを用意し、タイヤの速度記号はすべて「Qレンジ(最高速度160km/h)」となっています。
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