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2016/9/15 5:00

なぜスバルは乗る人を熱狂させるのか? その秘密が社内研修にあった

先日、スバルのクルマ作りのユニークさを象徴するような取材会が行われた。スバル研究実験センターで開催された、開発・研究者のドライビングスキルを向上させることを目的とした「SUBARUドライビングアカデミー(通称SDA)」である。テストドライバーならこうした研修があって当たり前だが、開発者や研究者のドライブスキルを上げるというのはあまり聞いたことがない。

 

GetNavi webではアカデミーの模様を取材。そこには、「スバリスト」を虜にするスバルの走りのルーツのひとつがあった。

 

そもそもスバルとはどんなメーカー?

スバルはスバリストと呼ばれる熱狂的なファンを持つ、自動車メーカーとして世間的に認知されている。そのルーツは航空機を製作する中島飛行機であり、1946年にはラビットと呼ばれるスクーターを製作していたこともある。

 

1958年に富士重工業としてスバル 360をリリースすると、高い経済性とコンパクトなパッケージング、「テントウムシ」と呼ばれる個性的なフォルムで一躍脚光を浴びた。その後、時代の変化とともに普通乗用車で悪路を走れる4WD機構に磨きをかけ、いまでは“水平対向エンジンと4WDといえばスバル”と称されるほど。唯一無二の存在感こそがスバルの真骨頂であり、熱狂的なファンたちとともに、世界の自動車ファンからから支持されている。

 

世界のスバルへと進化を遂げた「開発者の情熱」を見た!

今回訪れたスバル研究実験センターは、企業秘密が詰まったシークレットポイントであり、広大な敷地内には実験棟や試験路が設けられ、関係者以外は立入禁止となっている。そして、そこで開催された「SUBARUドライビングアカデミー」は、一般ユーザーのドライビングレッスンではなく、開発・設計に携わる20名の精鋭社員に向けた運転技術向上カリキュラムだ。

 

一般的な自動車メーカーはテストドライバーによって試験走行が繰り返され、各開発セクションにレポートが上がり、そのレポートによって変更、再設計が行われる。しかし、スバルは「テストドライバーよりも開発・設計に関わる人間が自分の手で試験運転をすれば、その良し悪しがダイレクトに分かるはず」と考えた。しかし、運転技術が未熟では良し悪しどころか、性能を引き出すことすらできない。

 

「ドライバーの評価能力以上のクルマは作れない」という社訓をもとに、ドライビングスキルを向上させるために始めたトレーニングが、このSUBARUドライビングアカデミーなのだ。開発・設計者が自分で作って、自分で試すことで、細かなニュアンスや欠点をダイレクトに反映する――一見、遠回りのように見えるが、これが最も近くて確実なアプローチなのだろう。

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プロドライバーも顔負けの超絶テクニック!

取材会では、高速周回路走行、ジムカーナ、ウエット旋回路、急制動など、通常トレーニングの一部を体験。高速周回路では200㎞/hのスピードで壁のように立ちはだかるバンクに飛び込んだのだが、瞬間的に貧血を起こしたような感覚に陥り、高速域での挙動変化をテストするドライバーの大変さを身を持って味わった。また、急制動やウエット路面でのテストも過酷なもので、数回程度なら楽しさ満点だが、一日中このテストを繰り返せと言われれば三半規管が崩壊しそうなほどハードな内容である。

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実際に助手席に乗せてもらいレクチャーを受けたのだが、グリップ感の変化やサスペンションの追随性など、細かな部分までチェックするスキルの高さは、テストドライバーと何ら変わることはなかった。今回、取材のための同乗して頂いた2名のドライバーは、アイサイトの開発者とエンジン開発者。話を伺うと「走りながら改良点を探り出し、テストで気になったことを実験室に戻って調整することも少なくないんです」という。また「幅広いセクションから集められた20名のスタッフが気になる部分を互いに話し合うことで、意外な場所から解決策が飛び出ることも多く、以前に比べて各セクションとの関係性が深まることで開発に対するレスポンスや領域が広がりました」と笑う。

 

もちろん、同社では精密機器を使って精緻な車両試験も行っているが、実際に「人が乗って楽しい」という感覚は人にしか分からない。開発・設計者が自らステアリングを握り、五感をフルに生かしてクルマを作り上げる「情熱と努力」は、新型インプレッサやBRZを見ても分かるように見事に具現化されている。机上での理想ではなく、汗を流し時間をかけて試すことの大切さは、これからも数多くのスバリストたちを生みだすに違いない。SUBARUドライビングアカデミーはドライビングスキルだけでなく、開発・設計者の人間力を向上させる重要なカリキュラムなのだ。