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2021/12/25 6:00

鉄道ゆく年くる年…運転再開、引退、DMV導入ほか2021年(下半期)の出来事をふり返る

【2021年の話題⑧】下半期に登場した新車は少なかったものの

今年の下半期は、引退する車両が多かったのに対して、新たにデビューする車両が少なかった。完全な新造車両は東京メトロ半蔵門線の18000系のみだった。

 

◆東京メトロ 半蔵門線18000系

↑東武線内を走る東京メトロ18000系。薄いパープルのラインが、青空のもと映える

 

東京メトロ18000系は、自社内の半蔵門線のほか、東急田園都市線、東武伊勢崎線などへ乗り入れている。これらの路線で、今年の8月7日から営業運転が始められた。アルミニウム合金製の車体で、半蔵門線のラインカラーである、パープル(紫色)の濃淡の帯が車体に入る。車内のつり革もパープルと凝っている。最新の車両らしく、ドア上などにセキュリティカメラを設置している。なかなかスタイリッシュなデザインで、今年の秋にグッドデザイン賞に輝いた。筆者も、このデザインが好きで、デビュー当時に〝追っかけ〟をしてしまったほどである。

 

増備が進むに従い旧型車両が引退していく。半蔵門線では8000系がすでに40年近く走り続けており、18000系の増備にあわせて、置き換えが進みそうだ。平面的な正面デザインで、貫通扉に窓のない旧営団地下鉄特有のデザイン車両が、今後は徐々に減っていくことになりそうだ。

 

改造されて姿を大きく変えた車両も見ておこう。

 

◆東武鉄道 12系客車・展望デッキ付き車両に改造

↑展望デッキが新設された12系客車。写真は青色塗装の客車で、ほかにレトロな濃い茶色塗装の展望デッキ付き客車も走っている

 

東武鉄道の鬼怒川線を走る「SL大樹」。12系客車が展望デッキ付きに改造され、11月から列車に連結され走り始めている。SL列車なのに、煙の香りなどが楽しめないという声に応えたもので、こげ茶色と青色の2両が導入された。秋の行楽シーズンは早くも、各列車とも満席になるなど、「SL大樹」の新しい楽しみ方が増えたと話題になった。

 

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ユニークな改造車両が和歌山県内で走り始めたので、こちらについても触れておこう。

 

◆南海電気鉄道 加太線「めでたいでんしゃ かしら」

和歌山県内を走る南海電気鉄道(以下「南海」と略)の加太線(かだせん)。和歌山市街と、海に近く新鮮な魚が楽しめる加太を結ぶ。走る電車は「めでたいでんしゃ」と名付けられ、カラフルな外装、座席には魚のイラスト、魚の形のつり革が使われるなど、楽しい車両となっている。「めでたいでんしゃ」はこれまで「さち」「かい」「なな」と3編成が走っていたが、4編成目として9月18日から走り始めたのが「かしら」。黒をベースにした渋い車体カラーで、車内は船のなかのようなデザインが各所に施されている。

 

◆和歌山電鐵 たま電車ミュージアム号

和歌山駅と貴志駅間を走る和歌山電鐵。いちご電車、おもちゃ電車など楽しい電車が走っている。12月4日から走り始めたのが、「たま電車ミュージアム号」だ。デザインは水戸岡鋭治氏。和歌山電鐵のユニークな電車はみな水戸岡氏がデザインしたものだが、この電車も水戸岡ワールド全開といった造りだ。和歌山電鐵といえば、終点・貴志駅のたま駅長がよく知られていたが、いまは次世代にその〝役目〟が引き継がれている。

 

新しい電車は「いまだかつてないネコ電車」だそうだ。初代たまがニタマ、よんたまや、ファンの子どもたちに囲まれて住んでいる家、という想定で、ネコ好きにはたまらない車内となっている。

 

【2021年の話題⑨】年末にいよいよ走り始めたDMV車両

今年の暮れ、新たな鉄道システムが動き出した。ちょうど本原稿がアップされる予定の12月25日から、四国でいよいよDMV(デュアル・モード・ビークル)が走り始めるのだ。世界でも初の実用DMVの運用となる。走るのは四国の東南部の鉄道会社、阿佐海岸鉄道の路線だ。

 

DMVは、バスに鉄輪を付けた構造で、保線用の軌陸車のように車輪が現れ、線路の上は気動車のように走る。車輪を格納すれば、小型バスとして道路上を走ることができる。2019(令和元)年に車両は導入され、慎重に準備が進められてきたが、2年かけて、ようやくのお披露目となった。

↑2019(令和元)年10月に報道公開されたDMV車両(DMV93形気動車)。車体の下、前後に鉄輪が格納されている(左上)

 

走るのは阿佐海岸鉄道の阿佐東線で、路線は徳島県の阿波海南駅と高知県の甲浦駅(かんのうらえき)の間を結ぶ。両駅には、DMV乗り入れ用の〝信号場〟が設けられた。DMV列車は、同路線区間では鉄道車両として、ほか阿波海南駅と阿波海南文化村(町立海南病院)間、甲浦駅と道の駅宍喰温泉(リビエラ宍喰)間はバスとして走る。土日祝日は、甲浦から室戸岬(海の駅とろむまで運行)へ一往復が走る。

 

DMVのメリットはいろいろある。車両として小型バスを利用することで、導入および、メンテナンスにかかる費用がかなり割安となる。道路上ではバスなので、こまめに動かすことができ、沿線に住む人にとって便利になる。地方鉄道にとっては、画期的な生き残り策となりそうだ。

 

今回、阿佐海岸鉄道がDMV化されて、鉄道路線が残されたことには、ほかの理由もあった。この沿岸では将来、南海トラフ地震の影響を受ける可能性があるとされる。海沿いの地域で道路は国道55号しかない。津波などが起こり、もし国道が寸断されたら、という心配があった。やや高い場所を走る鉄道線を残したかったという実情があったのである。

 

新たな鉄道システムとして導入されたDMV。新たな鉄道ということで当初は観光客も訪れそうだ。果たしてどのような成果が生みだされていくのか、長期にわたり存続が可能かどうか、注目を集めそうだ。

 

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