〜〜2021年 鉄道のさまざまな話題を追う その2〜〜
2021年もあとわずか。今年の鉄道をめぐる話題を、前回に引き続きとりあげていきたい。今年は引退していく車両が目立った。その中には時代を飾った〝名物車両〟も含まれていた。大きく時代が変わる節目の年だったのかも知れない。
下半期を中心に起こった出来事を振り返ってみよう。
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【2021年の話題⑥】災害で傷ついた路線の多くが運転再開に
まずは災害で傷ついた路線の運転再開の話題から。この話題のみ上半期も含めて見ていこう。
◆JR東日本水郡線 3月27日・袋田駅〜常陸大子駅間の運転再開
茨城県の水戸駅と福島県の安積永盛駅(あさかながもりえき)を結ぶ水郡線(すいぐんせん)。2019(令和元)年10月12日から13日にかけて、列島を襲った台風19号によって、第六久慈川橋梁などの橋が流出し、長期にわたり不通となっていた。袋田駅〜常陸大子駅(ひたちだいごえき)間の復旧工事が完了したことにより、今年の3月27日に全線の運転再開を果たした。
◆上田電鉄別所線 3月28日・上田駅〜城下駅間の運転再開
長野県の上田駅と別所温泉駅の間を結ぶ上田電鉄別所線。水郡線と同じく2019(令和元)年の台風19号により、千曲川に架かる鉄橋と、築堤が流されてしまう。その後に城下駅〜別所温泉駅間の運転は再開されたものの、千曲川に架かる鉄橋の復旧に手間取った。約1年半の工事の末、この春に工事が完了、3月28日に全線の運転再開となった。
別所線も水郡線も2019(令和元)年の台風19号に苦しめられたが、その後に同台風は「令和元年東日本台風」と名前が付けられている。複数の路線の不通以外にも、北陸新幹線の長野新幹線車両センターが水没、停車していたE7系・W7系といった新幹線車両が水に浸かり廃車になるなど、東日本の鉄道インフラに大きな被害をもたらした台風でもあった。
◆叡山電鉄鞍馬線 9月18日・市原駅〜鞍馬駅間の運転再開
京都市内、宝ケ池駅と鞍馬駅の間を結ぶ叡山電鉄の鞍馬線。市内から鞍馬へ向かう観光路線として人気がある。この路線が2020(令和2)年7月8日の「令和2年7月豪雨」で運休となった。約1年にわたる復旧工事の末、今年の9月18日に市原駅〜鞍馬駅間の運転が再開した。名物〝もみじのトンネル〟が楽しめる秋の行楽シーズンに、ぎりぎり間に合う形となった。
◆小湊鐵道 10月18日・光風台駅〜上総牛久駅間の運転再開
千葉県の五井駅と上総中野駅を結ぶ小湊鐵道が走る房総半島の内陸部は、養老川が蛇行し、複雑な地形が連なる。そのためか小湊鐵道は災害の影響を受けやすい。2019(令和元)年以来、毎年、運休と運転再開を繰り返している。今年は7月3日の豪雨で一部区間が運休となっていた。10月18日に光風台駅〜上総牛久駅間の運転再開を果たした。
再開がちょうど秋の行楽シーズンに重なったこともあり、新たに導入したキハ40系とキハ200系が連結して3両で走り始めたり、観光客に人気の里山トロッコ列車が、初めて五井駅発になったこともあって活況を見せている。
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◆JR九州日南線 12月11日・青島駅〜志布志駅間の運転再開
宮崎県の南宮崎駅と鹿児島県の志布志駅の間を走る日南線。今年の9月16日に太平洋に面した小内海駅(こうちうみえき)の構内に土砂が流入し、青島駅〜志布志駅間が運休となっていた。復旧までに3か月ほど期間がかかり、12月11日に全線の運転再開が完了している。
九州では肥薩線など自然災害の影響で長期間、運休になったままの路線がある。毎年のように、自然災害で鉄道路線が寸断される日本列島。来年こそは穏やかな一年になることを祈りたい。
【2021年の話題⑦】下半期に消えていった車両
例年、春のダイヤ改正に合わせて引退となる車両が多いが、今年は下半期にも引退した車両が多かった。このような年は、あまりないように思われる。時代が求めている車両が、変わりつつあることを示すかのようだ。
◆京阪電気鉄道5000系
京阪電気鉄道の5000系が登場したのは1970(昭和45)年の暮れのことだった。7両×7編成+1両(事故車両の代替車両)が製造された。特長は5扉ということ。ラッシュ時の運行は5扉を利用、それ以外の時間帯には2扉を使わず、3扉のみ開閉するという珍しい造りの電車だった。日中、閉められた扉部分に、折り畳まれていたシートが下ってきて、座ることが可能になった。
ラッシュ時の乗降をより効率化するための策だったのだが、乗車位置が他の車両と異なること。また、今後導入が進むホームドアのドア位置が合わないことなど、問題が生じていた。すでに今年の1月29日からは3扉のみを使っての運行となったことで、中の2扉が不要となってしまった。半世紀にわたり活躍したものの9月4日で運用が終了した。
◆JR東日本485系 ジパング
国鉄からJRになって団体向け列車用に多くの「ジョイフルトレイン」が生み出された。とくにJR東日本では、余剰となっていた交直両用電車485系を改造して、多種類のジョイフルトレインが用意された。
「ジパング」もジョイフルトレインの一列車で、いわてデスティネーションキャンペーンに合わせて2012(平成24)年に誕生した。盛岡県内を観光列車「ジパング平泉」として9年にわたり走り続けていたが、今年の10月10日に運転された団体専用列車「ありがとうジパング」を最後に引退となった。
485系はすでにオリジナル車両が消滅している。団体旅行の人気も下火となり、ジョイフルトレイン自体が急速に姿を消しつつある。「ジパング」が引退して、485系を改造したジョイフルトレインも、今や「華」と「リゾートやまどり」のみとなった。あと何年走り続けるのか微妙な状況になりつつある。
◆JR東日本 E4系
今年の下半期、もっとも注目を集めた引退車両は何といってもE4系であろう。E4系は1997(平成9)年の暮れに運用を開始した。総2階建ての新幹線電車で、同じ2階建てのE1系が好評だったことから、その後継車両として登場した。8両編成だが、2編成が連なる16両で走る列車は、世界の高速列車の中で最大の乗客を運ぶ列車として注目を浴びた。定員数を増やすため、自由席は横に3席+3席が並ぶ構造で、現在のように密を避ける時代となると、ややきつく感じた造りとなっていた。
登場当時は増える輸送量をさばく上で役立ったE4系だったが、最高時速240kmと、高速化する新幹線の中ではスピードの遅さが弱みとなっていた。2012(平成24)年には東北新幹線の定期運用から退き、上越新幹線の運用のみとなった。
上越新幹線にも新たにE7系の投入が始まり、2020年度中の引退が予告されていたが、2019(令和元)年の台風19号により、長野新幹線車両センターに停車していたE7系・W7系の多くが水没し、廃車となったために車両が足りなくなってしまう。そのためE4系の延命措置がとられて、予定よりも引退が遅れていた。そんなE4系も10月17日の「サンキューMaxとき」が最後の運行となった。2階から見る眺めが今後は楽しめなくなる。一抹の寂しさを覚える鉄道ファンも多いのではないだろうか。
◆札幌市交通局M100形
札幌市内を走る札幌市電。2015(平成27)年12月20日に、それまで終着の停留所だった西4丁目とすすきのが結ばれ、路線が延伸されるとともに、周回できるループ路線となり便利になっている。このループ化により利用者数も増え、以前より路線が活気づいたように感じる。
そんな札幌市電で長年親しまれてきた名物車両がこの秋に消えていった。M100形という電車で、1961(昭和36)年に誕生。レトロな深緑(ダークグリーン)とデザートイエローと呼ぶ2色の塗り分けで走った。
この電車が珍しいのは、付随車を連結して走った時期があったこと。定員を増やして効率良く乗客を運ぼうという試みだった。「親子電車」と名付けられ親しまれたが、付随車のトレーラーは1971(昭和46)年とかなり前に廃車となり、その後は1両のみでの運行となっていた。
引退する前日、運悪く乗用車との衝突事故が起き、ラストとなる走行が危ぶまれたが、緊急に修理が行われ、最後となった10月31日は午後のみ走った。別れを惜しむ人たちが沿線に集まり、賑わいを見せたのだった。
◆新京成電鉄 8000形
千葉県内を走る新京成電鉄。ほとんどの車両がピンクベースの塗装となり、より洗練されたイメージに代わりつつある。ひと時代前の新京成電鉄の主力車両である8000形は、正面中央に支柱がある独特の風貌とカラーで、どことなくユーモラスさがただよう見た目から「くぬぎ山の狸」と呼ばれ親しまれてきた。1978(昭和53)年から1985(昭和60)年にかけて6両×9編成が製造された。すでに製造から35年以上の時が過ぎ、最古参となっていた。
ここ数年、少しずつ車両が減っていき、最後に残ったリバイバルカラーの8512編成も11月1日をもって運用から離脱し、姿を消したのだった。
◆近畿日本鉄道 12200系
近畿日本鉄道(以下「近鉄」と略)の特急車両はバラエティに富み、各路線で多くの特急列車が走っている。その中でも166両と最多の車両数を誇ったのが12200系で、1969(昭和44)年から7年にわたり製造された。ニックネームは「新スナックカー」で、誕生当時にスナックコーナーを設けていたことからこの名が付いた。近年になってリニューアルされ塗装変更された車両が増えるなか、旧来の車体カラーのまま走り続けたことから、逆に鉄道ファンの間で人気となっていた。
そんな車両も生まれて半世紀、徐々に車両数も減っていき、2月12日に定期運用から離脱。11月20日にはラストランツアーが行われ、この日で引退となった。ちなみに、近鉄では12200系を改造した4両編成の観光特急「あをによし」を2022(令和4)年4月29日にデビューさせ、大阪、奈良、京都の3都市を結ぶ予定とされる。なんとも近鉄らしい車両の活かし方である。
◆JR四国 キロ47形 伊予灘ものがたり
愛媛県の松山駅〜伊予大洲駅間、または松山駅〜八幡浜駅間を走る観光列車「伊予灘ものがたり」。2014(平成26)年夏にキハ47形を改造した観光列車で、7年にわたり運転されてきた。JR四国では初の本格的な観光列車で、その後に複数の観光列車が生まれたが、この列車の成功が大きかったと言えるだろう。
改造元の車両が国鉄形キハ47形ということもあり、老朽化の問題もあって12月27日で運行が終了する予定。すでにキハ185系を改造した新「伊予灘ものがたり」が2022(令和4)年春に登場することがJR四国から発表されている。
◆東京都交通局 浅草線5300形
東京の都心を南北に貫く都営地下鉄浅草線。2018(平成30)年6月に新型5500形が導入され、徐々に増備されていった。新車両5500形は導入からまだ3年と日が浅いが、すでに計画していた27編成すべてが導入され、瞬く間に旧車両5300形が減ってきていた。12月22日の運用を見ても5300形は5320編成1本が残るのみとなっている。
5300形は2021年いっぱいで消えると言われている。最後の編成の走りを見られるのも、あとわずかとなった。
【2021年の話題⑧】下半期に登場した新車は少なかったものの
今年の下半期は、引退する車両が多かったのに対して、新たにデビューする車両が少なかった。完全な新造車両は東京メトロ半蔵門線の18000系のみだった。
◆東京メトロ 半蔵門線18000系
東京メトロ18000系は、自社内の半蔵門線のほか、東急田園都市線、東武伊勢崎線などへ乗り入れている。これらの路線で、今年の8月7日から営業運転が始められた。アルミニウム合金製の車体で、半蔵門線のラインカラーである、パープル(紫色)の濃淡の帯が車体に入る。車内のつり革もパープルと凝っている。最新の車両らしく、ドア上などにセキュリティカメラを設置している。なかなかスタイリッシュなデザインで、今年の秋にグッドデザイン賞に輝いた。筆者も、このデザインが好きで、デビュー当時に〝追っかけ〟をしてしまったほどである。
増備が進むに従い旧型車両が引退していく。半蔵門線では8000系がすでに40年近く走り続けており、18000系の増備にあわせて、置き換えが進みそうだ。平面的な正面デザインで、貫通扉に窓のない旧営団地下鉄特有のデザイン車両が、今後は徐々に減っていくことになりそうだ。
改造されて姿を大きく変えた車両も見ておこう。
◆東武鉄道 12系客車・展望デッキ付き車両に改造
東武鉄道の鬼怒川線を走る「SL大樹」。12系客車が展望デッキ付きに改造され、11月から列車に連結され走り始めている。SL列車なのに、煙の香りなどが楽しめないという声に応えたもので、こげ茶色と青色の2両が導入された。秋の行楽シーズンは早くも、各列車とも満席になるなど、「SL大樹」の新しい楽しみ方が増えたと話題になった。
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ユニークな改造車両が和歌山県内で走り始めたので、こちらについても触れておこう。
◆南海電気鉄道 加太線「めでたいでんしゃ かしら」
和歌山県内を走る南海電気鉄道(以下「南海」と略)の加太線(かだせん)。和歌山市街と、海に近く新鮮な魚が楽しめる加太を結ぶ。走る電車は「めでたいでんしゃ」と名付けられ、カラフルな外装、座席には魚のイラスト、魚の形のつり革が使われるなど、楽しい車両となっている。「めでたいでんしゃ」はこれまで「さち」「かい」「なな」と3編成が走っていたが、4編成目として9月18日から走り始めたのが「かしら」。黒をベースにした渋い車体カラーで、車内は船のなかのようなデザインが各所に施されている。
◆和歌山電鐵 たま電車ミュージアム号
和歌山駅と貴志駅間を走る和歌山電鐵。いちご電車、おもちゃ電車など楽しい電車が走っている。12月4日から走り始めたのが、「たま電車ミュージアム号」だ。デザインは水戸岡鋭治氏。和歌山電鐵のユニークな電車はみな水戸岡氏がデザインしたものだが、この電車も水戸岡ワールド全開といった造りだ。和歌山電鐵といえば、終点・貴志駅のたま駅長がよく知られていたが、いまは次世代にその〝役目〟が引き継がれている。
新しい電車は「いまだかつてないネコ電車」だそうだ。初代たまがニタマ、よんたまや、ファンの子どもたちに囲まれて住んでいる家、という想定で、ネコ好きにはたまらない車内となっている。
【2021年の話題⑨】年末にいよいよ走り始めたDMV車両
今年の暮れ、新たな鉄道システムが動き出した。ちょうど本原稿がアップされる予定の12月25日から、四国でいよいよDMV(デュアル・モード・ビークル)が走り始めるのだ。世界でも初の実用DMVの運用となる。走るのは四国の東南部の鉄道会社、阿佐海岸鉄道の路線だ。
DMVは、バスに鉄輪を付けた構造で、保線用の軌陸車のように車輪が現れ、線路の上は気動車のように走る。車輪を格納すれば、小型バスとして道路上を走ることができる。2019(令和元)年に車両は導入され、慎重に準備が進められてきたが、2年かけて、ようやくのお披露目となった。
走るのは阿佐海岸鉄道の阿佐東線で、路線は徳島県の阿波海南駅と高知県の甲浦駅(かんのうらえき)の間を結ぶ。両駅には、DMV乗り入れ用の〝信号場〟が設けられた。DMV列車は、同路線区間では鉄道車両として、ほか阿波海南駅と阿波海南文化村(町立海南病院)間、甲浦駅と道の駅宍喰温泉(リビエラ宍喰)間はバスとして走る。土日祝日は、甲浦から室戸岬(海の駅とろむまで運行)へ一往復が走る。
DMVのメリットはいろいろある。車両として小型バスを利用することで、導入および、メンテナンスにかかる費用がかなり割安となる。道路上ではバスなので、こまめに動かすことができ、沿線に住む人にとって便利になる。地方鉄道にとっては、画期的な生き残り策となりそうだ。
今回、阿佐海岸鉄道がDMV化されて、鉄道路線が残されたことには、ほかの理由もあった。この沿岸では将来、南海トラフ地震の影響を受ける可能性があるとされる。海沿いの地域で道路は国道55号しかない。津波などが起こり、もし国道が寸断されたら、という心配があった。やや高い場所を走る鉄道線を残したかったという実情があったのである。
新たな鉄道システムとして導入されたDMV。新たな鉄道ということで当初は観光客も訪れそうだ。果たしてどのような成果が生みだされていくのか、長期にわたり存続が可能かどうか、注目を集めそうだ。
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最後は鉄道絡みの深刻な問題に触れておきたい。
世界一安全といわれる日本の社会と鉄道。この安全な鉄道神話を揺るがすような事件が相次いで起きた。まずは8月6日に小田急線の車内で起きた刺傷事件、触発されるように10月31日に京王線刺傷事件が起こった。
事件後に、JRおよび私鉄各社などでは、こうした事件が起きた時への対応を検討し、訓練が行われている。車内にカメラを設置したり、ドアの非常コックの表示方法の変更などの対応が急がれている。とはいえ、起きた時に、その場に居合わせた個人の対応が、非常に難しく感じた。
11月末に行われた鉄道技術展では、早くもAIを使った不審者発見技術などを売り込む企業ブースもあった。また、問題となったドアの開け閉めに関して対応する技術も見られた。この問題は、今後、鉄道関連企業だけでなく、もし起こった時にどう対応すれば良いのか、社会へ問いかける結果になったように思う。
次週は2022年に予測される鉄道ニュースをお届けしたい。